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第九話

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 入り口を交換した岩でふたをして、俺たちは町に帰った。 まだここに住むのは危険と判断したからだ。 

 その日から町と森を移動しながら壁の強化と拡張を進める。
   
「かなり広くなったんじゃない」

 アンナがいうとおり、壁を拡張したおかげで、一週間もすると家が数軒たてられる広さになっていた。

「ああ、ただまだ壁の厚みがあった方がいいな。 今のところモンスターは入ってきてないが、外側にかなりのヒビが入ってる」

 壁に作った階段に登り、外を確認すると外側にヒビが見える。

「私たちがいない間にぶつかったりしてるんでしょうか......」

 クリュエが不安そうに話した。
 
「ああ、ここで生活するにはもう少し強度が必要だ」

「水もね。 魔法の水じゃ飲むのに適さないし......」

「井戸の後がありますけど、中は水があるようです。 取引《トレード》の中の魔法スクロールに浄化の魔法があったのできれいにできると思います」

 そうクリュエは家の横にある井戸をゆびさした。

「一応試しとくか」

 アンナが井戸の水を汲み出している間に、俺は取引《トレード》で浄化の魔法【クリアライト】を交換してクリュエが覚える。

「では覚えます」
  
 クリュエが地面に開いた巻物の文字を前に目を閉じる。 すると文字が光り消えていった。

「覚えました」

「いつみても不思議だな」

「そうですね。 消えた文字が頭のなかに浮かぶんです。 では早速使って見ます」

 アンナが一通りきれいにした井戸の前にたつと、クリュエは両手をだし、呪文を唱える。

 ーー不浄のものを、その光の御名において、清めるべしーー 

「クリアライト」

 すると井戸の周りの汚れがみるみる消え、水面が透き通るように見える。  滑車を使い桶で水を汲むと、その水はきれいになっていた。

「どういう原理だ? 魔力で不純物を消滅させてんのか...... おお、飲めるな!」

「ええ、これなら飲料にできるわ」

 俺たちはそのまま作業を続けた。

 夕方になり日が暮れ始め帰ろうとした頃。

 ドオン!!

 大きな音がして見に行くと、壁に衝撃がはしる。

「なんだ!? モンスターか!!」

 俺は壁につくった階段で上からみる。 壁の周りに何体かの猪並みの大きな黄色いイモムシが体当たりしている。

「なに!? どうしたの!」

「壁にでかいイモムシがぶつかってきてやがる!」

「それはクロウラーだわ! 固い皮をもつモンスターよ!」

「じゃあ私の魔法で......」

「いや、クリュエは今日ずっと作業してつかれている。 俺がやるよ」

(一日に魔力値5000はつかえるようになった。 今日はまだ2000しか使ってない。 温存した残りで倒す!)

「取引《トレード》!」

 赤い液体の入った球体のガラスを何個も交換して、壁の外のクロウラーに投げつける。

 ドカン!! ドカン!! ドカン!!!

 ガラスが割れると、クロウラーが吹き飛んだ。 次々とその球を投げつける。 全てのクロウラーが宙をまい、ついには動かなくなった。

「ふぅ、やった」

「音がしなくなったけど倒したの?」

 隠れていたアンナとクリュエがやってきた。

「ああ、全部吹っ飛ばした」

「すごいですね! クロウラーもかなり強いモンスターのはず」

 クリュエが驚いている。

「赤爆球を使ってみた」

「あれね。 元々空気にふれると発火する魔力のある火炎草の液をガラスにいれたっていう」

「そう、どうやら取引《トレード》は新しくつくったものも、登録されるらしい。 まあ混ぜてつくるより必要魔力値が高いけど」

「なら、新しいものをドンドンつくれば、いくらでも交換できるってことですね」

 クリュエは手を合わせていった。

「ああ、いくつか試作品はある。 まあ今日のところは壊された壁を内側から補強して、町まで帰ろう」

 それから俺たちは町に戻り休んだ。

 
「よしやるか!」

 次の日も朝から壁の拡張からすすめる。

「これどうするの? けっこうな値段で取引してるから、町にもっていって売る?」

 そうアンナが昨日倒したクロウラーをみている。

「いや、取引《トレード》の材料につかうよ。 あまりモンスターを持ち込むと、怪しまれる」

 この入り口を岩で偽装していた。 モンスターもそうだが、人に知られると盗賊やら犯罪者に乗っ取られ危険だと思ったからだ。

「確かに、たった三人で倒せる数じゃないわね」

 アンナは転がってるクロウラーをみていった。

「でも、三人だったら、この大きさは広すぎるのでは? モンスターも空を飛ぶものしか、この厚さの壁をこえられると思えないですけど」

 クリュエは首をかしげている。

「うむ、そこだ。 このままだと国どころか一家だしな。 だがむやみに人を呼ぶわけにはいかないし...... 何か考えはないかアンナ、クリュエ」

「私は知り合いもいないので......」

 クリュエはそう気まずそうに答える。

「そうね...... 仕事のないものなんかはいくらでもいるけど、ひどい目に遭ったり、困窮してると、人は心がねじれてしまっていたりするわ。 まずは信頼できる人を集めるのがいいけど......」

「信頼か...... それは難しくないか? 俺はクズ以外、見た目だけで判断できないしな」

「クズは判断できるのね」

「まあな。 俺と同種だからな」

「そんなことで胸を張らない」

 アンナはあきれる。

「まあ、その人間の素性や事情、素行を知るのも時間がかかる。 難しいだろ」

「私に考えがあるから、とりあえず町へ行きましょう」

 俺とクリュエはよくわからないまま、アンナについていくことにした。

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