ワイズマン・プライド

曇天

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迫る脅威

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 朝早く、閑静な住宅街の中の一軒家から、中年の男がスーツを着て出てきた。 そして車に乗り込もうとしたとき、一人のパーカーのフードを被る人物に呼び止められる。


「命《みこと》教授ですね......」


「そうだが......君は」


 その杖をついた青年とみられる人物は問いには答えず、


「先生は......死刑に反対されているとか......」


「......ああ、人が人の命を奪う権利などない。 誰にでも、例え自分の命でも勝手に扱っていいものではない、私はそう考えている」


 そう命と呼ばれた男は答えた。 


「......そうですか......わかりました。 ありがとうございます......」


 そう言うと青年は道を開けた。 不思議そうに眉をひそめて、命は車に乗り込むと車は走り出した。


「一体なんだったんだ......彼は......」


 少しほっとしたように、命はバックミラーに写る青年を見ながら車を走らせた。


 後ろから車が去っていくのを見ていた青年は、


「運命......命は勝手にできるものではない、か......だが、お前達は勝手にしている......」


 そう言うと青年は薄く笑みを浮かべる。 その影は青年より遥かに大きく見えた。



「......原発反対のデモのニュースでした。 続いて死刑制度の問題......」


 昼頃、俺はスマホの映像を流しながら、机で大学の課題をこなしていた。


「......タカナシ ノゾム......」


 一人しかいない部屋で誰かの呼ぶ声に驚き、俺は立ち上がって周囲を見回す。


「誰もいない当たり前だ......やはり疲れてるのか......」


 俺が椅子に座ろうとすると、


「......いいや、ちゃんといるぜ......」


「なっ!? 誰だ! 何処にいる」


 俺は確実に聞いた声に驚き、周囲を見回した。


「窓を見ろ」


「窓!? 外には何も......」


 ベランダの鏡に映る俺の後ろに、俺より大きな黒いローブを纏った骸骨が映っていた。


「なんだ!! 化物!」


「いきなり化物とは失礼だな。 お前コミュ力低すぎだな」


 骸骨は憤慨したようだった。


「どう見ても化物か、死神だろう! 俺の命でも取りに来たのか!」


「見た目で判断するとはな。 お前達、人間の価値で全てを決めるなよ。 そもそも俺が死神でも、お前のように何もない奴の魂なんて、取る価値があると思ってんのか?」


 痛いところをつかれて、少し冷静になった俺は、


「......だったら何者だ」
   

「天使だ。崇め称えろ人間」  


「断る」 


「天使は人間の味方、神の使いだぞ。 まだ信じてないのかよ」


「例えば、お前が天使だとして、何故人間の味方といえる。 お前が言ったんだろ。 人間の価値で全てを決めるなってな」


「......カッカッカッ、お前を選んで正解だったな」


 と骸骨はカタカタと歯を鳴らしながら笑うと、


「まあいい、俺は天使サマエルだ。 サマエル様でもいいぞ」


「ふざけてるのか......」


「全く会話のしがいがないぜ、まあいい、話はそれを見てからだ」 


 そう言うと、骸骨はスマホの画面を指差した。 そこにはテレビの討論番組が放送されている。


「......ということで、死刑も自殺も認めるべきではないと思っています」


 俺はその男性に見覚えがあった。


「この人は、うちの大学の命教授が......」


「その男の上を見てみろ」


 言われるまま見ると、確かに教授の頭上に数字がある。


「命 授一郎《みこと じゅいちろう》名前と数字のゼロが上下に動いているな、なんだこれは」


「よく見てろ......」


 サマエルに言われて、見ていると、教授が急に苦しみだし机に突っ伏した。


 現場の悲鳴と救急車! という声が聞こえたのち、画面が切り替わった。


「なんだ! お前がやったのか!」


「るせーな、いまそれを説明すんだろうが、お前の持ってるスマホにアプリがある」


 確かに見慣れないアプリが入っている。


「それは《ライフトレード》、寿命のやり取りができるアプリだ」


「寿命のやり取り......まさか......」 


「そうだ、誰か他の奴がそれと同じものを使って、教授を殺そうとした」


「殺そうとした......ということはまだ死んでないんたな」


「ああ、それを使えばな」


「先にいえ! どう使う! このカーソルの上でゼロを増やせるのか」

 
「待て......」
  

 サマエルは俺を止める。


「使用には条件がある......さっきも言ったが、トレードやり取りだ。 数字1で1日だ。 あの教授の寿命を増やせばお前の寿命が減るぞ。 それでいいのか、よく考えろ......」


 俺は無言でカーソルを押し100にして完了のボタンを押した。


「......100にしたぞこれでいいのか......」


「......ああ、それで100日は死なない」


「このアプリを使ってる奴がいるのか......お前と同じ」


 俺の問いにサマエルは、


「いいや、使ってるのは人間だ」


 サマエルは窓の外を見ながらそう言った。
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