おこもり魔王の子守り人

曇天

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最終話

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 警備の兵士などはいない、俺たちは木の扉を破った。

「ここはどうなっているエセレニア!」

「最下層にはいらないようにレグナンドは禁じていた! おそらくそこにいる!」
  
「くそっ! 後ろからきている!」

 後方から兵士が近づいてくるのがわかる。

「俺とラクレイ、ユウナでここを死守するから、お前たちはいけ!」

 そうガルムたちが剣を構えた。

「すまん!」

 俺たちは中の螺旋状の階段を駆け降りる。 

 最下層にたどり着き扉を開けるとラグザックがたっていた。

「ラグザックさま......」

「違う......」

 エセレニアにアディエルエがそういうと、黒い杖を持つライザックが振り替える。 

「なっ!?」

 その首の辺りにもうひとつの顔があった。 それは俺の意識の中にいた男の顔だ。

「レグナンド......」
 
「全く使えない兵たちですね...... アンデッドにすると知恵がなくて困る」

「き、貴様!!」

 エセレニアは俺の制止を聞かずに突っ込むと、その剣でレグナンド
を斬りつけた。

「なっ......」 

 斬りつけたレグナンドから血はでず、斬られた箇所はすぐに傷がふさがっていく。 

「そんな攻撃など効きませんよ」

 レグナンドに杖で殴られ壁に叩きつけられた。

「ぐはっ!」 

「アディエルエ、頼む!」

「ん......」

 アディエルエがエセレニアに回復魔法をかけた。 俺は剣を構える。

「やはり死体か......」

「ええ、死なないのはいいですが...... 魔法を使うには肉体が必要なのですよ。 わざわざ誰かの肉体を奪うのは、精神的に弱らせたり、しないといけない。 私は非道は好みませんので......」

 そういってレグナンドは唇をなめ薄く笑うと、魔法を放ってくる。 俺は剣でそれを切り裂き、レグナンドに近づき手足を切り裂いた。 

「ほう、なかなかやりますね...... さすがかつての同胞......」

「一緒にするな! 俺たちの祖先はお前たちからわかれたんだろ!」

「ふふっ、何をおっしゃいます。 あなたたちのこともみてはいましたよ。 こっちの世界でも争いあい、支配をめぐる戦いに明け暮れてるじゃないですか、今もなおね」

「......それは......」

「別におかしなことではない。 我々生物にとって他者を支配すると言うのは本能、快楽なのですよ。 快楽は常に生物の目的、それ以外はただの無駄です。 それを否定するものはもちえない弱者のあわれな慟哭にすぎません」 

「それで全てを手に入れたいのか......」

「ええ、とてもシンプルな願い、理念や信念など所詮はただの言葉遊び、本当は他者より正しい、強い、賢い、偉いそういいたいだけ、そんなざれ言をのたまうより、よほど潔いと思いませんか?」

「......この世界に無駄なことなんてない......」

 アディエルエはそういった。

「無駄でしょう。 快楽を効率よく得るには支配が最善、それ以外は全て必要ないのだから」

「違う...... この世界に無駄なものなんかない。 私が生きてきた......全部、いいこともいやなことも全部で今の私になった。 ゲームで負けるのも駄菓子屋もおもちゃ屋もなくなっても意味がある...... 誰かのひとつになる」
 
「意味がわかりませんね...... まあ私には関係のないこと」

「だから、あなたは何もかもがつまらない...... 何も得られてないからずっと生きている。 もがいている」

「私がもがいているだと、何をいっている......」

 レグナンドは一瞬笑うのをやめた。 しかし、すぐ広角をあげ笑みを浮かべた。

「ああ、アディエルエさん、あなたのお父様もよくやってくれましたよ。 この世界をもとに戻す魔法の古文書を見つけてくれました。  ずっと疑問をもっていたのです。 そしてあろうことか魔王に懐柔され、真実にたどり着いた愚かにもね」

「それで、お前が世界をもとに戻したのか......」

「ええ、手に入れてから解読が必要でしたから、十年を要しましたがね。 もうよろしいですか、私たちの体を取り戻して、再び世界を支配したいのですよ」

 そういうととてつもない魔力をまとう。

「こ、これは!」

「大丈夫......」

 アディエルエはそばにきて両手で俺の手を握る。

「このまま...... 私を信じて、剣をふるって」

 俺はうなづくと、アディエルエとともに剣をふるう。

「ふっ、なんなんですか、そんなもので...... いや、なんです!?」

 俺たちが剣をふるうと、凄まじい魔力が剣からほとばしる。 そして部屋を魔力がうずまくと、空気がきしむような音が轟いた。

「なっ、なんだ!? この途方もない魔力! なああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ......」

 そして剣から放たれたとてつもない魔力はレグナンドの震える声すら消し去った。


「あの忌民たちは我々魔族の管轄下となります」

 セレンティナさんが俺のアパートでそういった。

「そうですか...... ですが」 

 俺はうつむくエセレニアをみていう。

「わかっています。 彼らの境遇は知っておりますので、そのようにケアをします」

「すまない......」

 エセレニアは頭を下げた。

「父様は忌民を、何とかしたかった...... でも探したのに、どこかにいってしまっていた......」

「王であったあなたの父か私たちを裏切ったと思ったから......」

 アディエルエにエセレニアはそういった。

「取りあえず忌民たちのリーダーにエセレニアさんをすえますので、彼らを導いてください」

「わかったわ。 本当にごめんなさい」 

 そういったエセレニアは、憑き物が落ちたような顔になっていた。

「では、私はこれで彼らの再興を手伝いに参ります」

 セレンティナさんはエセレニアをつれてでていった。

「ずいぶん、穏やかな顔になっていたな」

 俺がいうと、ヴァライアはうなづいた。

「ああ、アステリオンさまの話だと、ベネプレスがザイガルフォンさまに使った洗脳催眠のような魔法をかけられていたみたいだな」

「なるほど、そうやってレグナンドやベネプレスは、他者を自分の意のままに操っていたのか」

「多分、父様も......」

 アディエルエがそうつぶやいた。

「そうだアディエルエ、あの時レグナンドをふきとばしたのはなんだったんだ? どう考えても俺もお前も、あいつを越える魔力は持ってなかったはず......」

「バイザランディスは...... 魔力を蓄積して解放できる魔剣、私が記憶をみたときから、ずっと長い間魔力を貯めていた......」

「......そうか、宝物庫の魔剣に魔力を加えるために俺をそばに......」
 
 アディエルエは肯定も否定もしないで黙っている。

(宝物庫で知りえた事実をずっと背負ってたんだな...... いずれこうなることもあると考えて......)
   
 そう思うと一人で全てを背負っていたアディエルエの思いを感じる。 ヴァライアをみるとうなづいている。 

(だが、もう魔剣に魔力をためるために、俺はもう必要はないな...... これからは魔王としてやるべきことがあるはずだ)

「じゃあ、もう俺は......」

 そう俺が言おうとすると、アディエルエはこちらをみた。

「あ、あの......」

 アディエルエは何かを言おうとして口を閉ざし、少しして口を開いた。

「......ゲーム...... まだ勝ってない」

 そういってアディエルエはいそいそと俺の部屋のゲームの電源をいれた。 

「......またかよ」
 
 その横顔をみながら俺は思う。

(まあアディエルエはアディエルエだな......)

「フッ、アディエルエさまが必ずお前を倒す。 私との特訓にて強くなられた。 覚悟しておくがいい」

 ヴァライアが自信ありげにそういった。

 そして容赦なくアディエルエをこてんぱんにする。

 俺はいつもの非日常な日常が戻ってきたことを心地よく感じていた。

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