おこもり魔王の子守り人

曇天

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第五十五話

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「そうですか...... ベネプレスは逃げましたか」

 セレンティナさんはそういってうなづいた。

 俺たちはザイガルフォンたちを捕縛して、アディエルエの城へと戻ってきて、セレンティナさんに起きた話をした。

「やはり、ザイガルフォンさまはベネプレスにそそのかされたと」

「私が調べた限りではそのようです」

 ヴァライアはそう答えた。

「アターチからの報告でもそう聞いています」

 どうやらザイガルフォンはベネプレスに催眠魔法をうけて洗脳されていたという。

「なら、黒幕はベネプレスか...... ザイガルフォンを操り、王にでもして何かしようとしたのか......」

「わかりません...... あの者の出自はよくわかりませんでしたが、かなりの魔力を持ち、深い魔法の知識を持っていたため、前魔王に仕えていました。 しかしアディエルエさまはベネプレスを避けていたため、重用されることはありませんでしたから」

 セレンティナさんも困惑してように話す。

「だから、ザイガルフォンに、なんでた...... アディエルエ」

「う、うん...... なんかいや」

 アディエルエはフィギュアの写真をとりながらいう。

「そうか、聞くんじゃなかった。 それでヴァライアはセレンティナさんに言われて二重スパイをしてたって訳か」

「そうだ。 魔王軍が私の村を襲ったといったことを最初は信じていたが、アディエルエさまにお仕えして、前魔王や周囲をみるに奴のいうことに疑問を持ち始めた。 それゆえ八魔将に取り立てていただいたときに、セレンティナさまに打ち明けたのだ」

「じゃあ、アディエルエは知らなかったのか」

「うん...... 知らなかった......」 

「す、すみませんアディエルエさま! 囮になどして! このヴァライアいかような罰も受ける所存!」

 ヴァライアの下げた頭をアディエルエは優しく撫でる。

「アディエルエさま......」

「ヴァライアは...... 私の家族...... 信じてた」

「う、うぁぁぁ!」

 ヴァライアはアディエルエに抱きつき泣き出した。 それをアディエルエは撫でている。 それをセレンティナさんは優しくみている。

(ふぅ、何とか終わったな...... だけど、ベネプレスは何者なんだ?)  

 俺はあの青白い顔を思い出すと、その得たいのしれなさから、背筋が寒くなるのをかんじた。


「くっ!!」

「甘い!!」

 俺は城の庭でヴァライアと稽古をしていた。

「うわぁ!!」

 剣を弾かれ吹き飛ばされた。

「どうした城の戦いのときはもっと覇気があったぞ」

「あのときは必死だったし、お前も本気じゃなかっただろ」

「そんなことはない。 本気でやらないと、怪しまれるからな」

「そうか、なら多少は強くなっているのか」

 俺が立ち上がると手をさしのべてきた。

「マモル...... あのとき、なぜ私がしようとしていたことを理解したんだ。 私を信じられるほどの関係もなかろう」

 少しためらいがちにヴァライアは聞いてきた。

「ああ、だが列車から落ちそうな俺を助けてくれたしな。 あのまま放り出したほうがアディエルエを狙いやすかったはず」

「なるほど...... あのとき、別の刺客が当てられてたようだったな」

「あとは闇魔法も使わなかったからかな」

「......それで私の意図に気づいたのか」

「ヴァライアもよく、あのとき瞬間、目を閉じられたな」

「お前がフラッシュラッシュを使えるのは知っていたからな。 アディエルエさまのヒーローの変身方法を叫んだときに目を閉じた」

「ああ、アディエルエはわかるだろうが、よかった。 それでそんな芝居をしたのはベネプレスを狙うためだったのか」

「ああ、アディエルエさまを囮に使うのは反対だったが、それぐらいしないと、狡猾な奴のすきをつけんとセレンティナさまに言われてな......  奴を排除すればアディエルエさまも安全になるからと腹をくくった」

 そういうと下を向く。
 
「お前も危険にさせた...... 最悪怪我をさせて奴の隙をつこうとしていたんだ。 すまなかった......」

「別に気にはしてない。 俺も自分が狙われる可能性を考えてなかったしな。 甘かった」

 城の壁にもたれてタブレットをみているアディエルエをみる。

「だけど、ベネプレスが気になるな......」

「......次は必ず仕留める」

 そう真剣な顔でヴァライアはいった。


「ふーん、そんなことがあったのか。 確かに【真魔】っていうヤバイ奴らがいるとは聞いていたな」

「うん、バルディオ師匠がたまに出掛けてたね。 でも僕たちには関係ないから気にもしてなかったよ」

 ガルムとラクレイは今もバルディオに稽古をつけてもらっていた。

「でも、そのベネプレスという人は逃げてるんだよね。 その人とても嫌な感じがするとびんちゃんがいってたよ」

 橘さんはそう思い出すようにいった。

「......ああ、とりあえず今のところは大丈夫らしいけど、みんなも一応身辺には気を付けてくれ...... それでガルム、ラクレイなんでわざわざこんなところにきたんだ」

 俺たちは隣国クワークロア王国にきて、その夜、町外れの森にきていた。

「まあ、なんだ...... 頼まれてな」

 ガルムがいいづらそうにしている。

「バルディオ師匠のお願い...... というか命令なんだ」

 ラクレイが落ち込んだようにそういう。

「バルディオが?」

「ああ、師匠はたまに、なにかを持ってこいとか、何かを倒してこいとか、そういうことを言うんだ」

「これは修行だからってね。 でもセレンティナさまの依頼などで、めんどくさいものを僕たちに押し付けてるんだよ」

 二人はうんざりするような顔をした。

「それで今回もか」

「ああ、悪いが付き合ってくれ、どうやらここにいる奴は俺たち二人じゃ倒せない」

「俺はもちろんかまわないが、ここに何がいるんだ」

「何かとてつもない強さのものらしいよ......」

 ラクレイが緊張した顔でそういった。

「でもここの森、モンスターが多くいる感じでもないけど」

 橘さんがいうように、ここの森は霧がひどいが、モンスターの魔力は感じず、特に洞窟や遺跡があるわけでもなさそうだ。

「ああ、俺たちがいくのはある館だ......」

「館...... そこに何がいるんだ」

「わからない...... でもバルディオ師匠のもとにメールが届いたんだ。 その時すごく嫌な顔をしたのは覚えてる。 そして思案して僕たちに気をつけて行ってこいといったんだ...... 今までそんなこと言ったことはないのに」

 ラクレイはそういって両手て斧を握りしめた。

(バルディオが嫌がる...... 戦闘なら率先していくタイプだけどな) 

 しばらく歩くとポツンと闇の深い霧のなか、館が見えてくる。 

「あれか...... でかいな、本当に一軒家なのか、マンションなみだぞ」

「とりあえず、魔法、物理、状態異常の耐性魔法と身体、魔力強化の魔法をかけておくね......」

 橘さんに魔法をかけてもらって、俺たちは慎重に館に近づくと、大きな扉のドアノッカーで叩く。

「......反応はないか。 うおっ!」

 その瞬間両開きの扉がゆっくりとかってにあいた。

「招いているのかよ......」

「行くしかないよね......」

 ガルムもラクレイも腰が引けている。

「とりあえず入ろう」

 俺たちは警戒しながら館にはいっていった。
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