硝子の魚(glass catfish syndrome)

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続16. 間男

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 剥いだばかりのシーツを、洗濯機の中に放る。少し迷ってから、電源を入れて液体洗剤を垂らした。
 朝食つきのセックス、またはセックスつきの朝食の余韻が、まだ胃と下腹部のあたりに残っていた。満足の溜め息が無意識に零れる。廊下の奥からは水音が聞こえていた。安達が洗い物をしているのだ。
 朝食とセックスが同時に終わると、身体がべたべたする、と呟いて、安達は食器を積んだトレーを抱え台所に行った。皿を洗う前にまず自分自身を洗えばよい話なのだが、シャワーを浴びている間に片づけられてしまうことを危惧したらしい。俺が全部やりますから、樋川さんはゆっくりしていてください、と念まで押されてしまった。
 ゆっくり、と言われたので、リビングに行って水槽を覗いた。魚たちは相変わらず、彼らの営みを彼らの流儀で続けていた。ネオンテトラの奔放な輝き、水の形に揺れるグラスキャットの髭。魚を眺めていると、安達の様子が見たくなった。条件反射のようなものだ。
 安達は流しの傍で皿を拭いていた。身につけているのはガウンとスリッパだけのようだった。こちらには気づいていないのか、振り向くことはなかった。それで自分は暫くの間、白い脚とほんの少し赤らんだ踵を黙って見ていた。やがて安達は最後の皿を拭き終え、布巾を干そうとしてこちらを向いた。
「わっ」
 こちらが驚くほど見事に、彼は驚いた。目を見開いて、半歩後退りする。それから布巾を流しの脇に置いて、何度か瞬きした。
「どうかしましたか」
 別にどうもしなかった。ただ彼の様子を見たくなっただけだ。しかしそれは今や正解とはいえなかった。自分は無言で彼に近寄った。安達は、今度は後退りせずにこちらを見上げた。セックスが終わったばかりだからか、まるで警戒心がない。何か取りに来たのだと思っているのだろう。彼に向かって手を伸ばしても、その手へ視線をやろうとすらしない。
「それ、新しく買ったのか」
 相手のガウンの襟元を指先で摘み、至近距離で問う。彼は少し考えるような目をしたのち、肯いた。
「はい、先日通販で」
「いい買い物をしたな」
 安達はにっこりした。
「……樋川さんも、欲しいですか」
 無邪気なものだった。あまりに無邪気すぎて、頭の奥が重くなった。そうだな、と殆ど何も考えずに呟くと、彼は小さく首を傾げた。
「お茶でも淹れましょうか」
 安達は棚の方へ向き直った。指の間から、ガウンがするりと抜ける。彼は急須と茶葉の缶を手に取った。この前いいお茶の葉を貰ったので持ってきたんです、緑茶は健康にいいそうですよ、抗癌抗菌その他諸々。そんなことを、急須やカップをすすぎながら沈黙を挟み挟み、楽しげに語る。自分は彼の背後に回った。
「昔観たAVに、新妻が夫の同僚に犯されるものがあった」
 安達の手の動きが止まる。数秒おいて、え、と微かな声がした。振り返ろうとしたその身体を後ろから抱くと、がたんと音を立てて急須がシンクを転がる。
「夫の留守中に同僚がやってきて、新妻が台所で茶の準備をしているところを、同僚が後ろから襲うんだ――こんなふうに」
 耳に囁き、ガウンの胸に片手を差し入れる。ついさっき暴いたばかりの素肌は、蜜が残っているのか僅かな粘り気でもって掌を吸いつかせた。
「な、なに、やめ……」
「そう、初めのうちはやめてくださいと言って身体を固くしていた。今のお前みたいに」
「ん……」
「だが、胸を弄られているうちに、だんだん雌の顔になっていく」
 既にしっかりと勃起した乳首を指先で扱いてやりながら、自分は彼の髪に鼻を突っ込んで匂いを嗅いだ。仕事のあとだろうがセックスのあとだろうが、この男からはいつも何らかの芳香がする。今は彼の部屋のシャンプーとリンスの匂いだ。それが努力によるものなのか体質に由来するものなのかは不明だが、そういう一種の隙のなさのようなものが、自分は決して嫌いではなかった。綺麗な恋人からいい匂いがするというのは素晴らしいことだし、そんな恋人に決してよい香りとはいえない自分の精液の匂いを染み込ませるのは非常にロマン溢れる行為だといえる。
 そんなことを考えながら胸をまさぐっていると、ぎゅっと手首を掴まれた。その指先には、何か苛立ちのようなものが滲んでいた。そこでやっと、自分は話の途中だったことを思い出した。
「――で、表情は完全に堕ちているのに、口では嫌がり続けるんだ」
 安達の呼吸は細く速くなっていた。それに合わせ薄い胸も僅かに波打つ。自分は彼のガウンの前をくつろげ、胸の上に五本の指を広げると、往復させるように何度も左右へ滑らせた。乳首の上を指が通過するたびに、既に赤く腫れ上がった乳頭が繰り返し嬲られる。
「ほら、嫌がらないのか?」
 清楚といってよいほど白く平らな胸の地平に、不釣り合いに赤く膨れた乳首。かつて見たアダルトビデオよりも遥かにいやらしい身体をした男は、綺麗な顔によく合う澄んだ声で、信じられないほどいやらしく鳴いた。
「……ち……乳首、だめ……」
「まともな新妻はこんなとき、『乳首』なんて単語は口にしない」
 安達は喉の奥で小さく喘いだ。そしてそのまま腕の中でじっとしていた。どうやらまともな新妻に相応しい台詞を考えているらしい。やがて彼は、おっぱい、と震える声で呟いた。自分はわざとらしく溜め息をついた。
「そんないやらしい言葉を自主的に吐く新妻はいないだろう。いいか、よく考えてみろ、夫以外の男に犯されそうになっているんだぞ」
「……夫以外」
 安達は首を捻ってこちらを見た。彼の言葉と眼差しには、何か驚いているような響きがあった。何処に驚く必要があるのかわからなかったが、とりあえず自分は肯いてみせた。
「可澄からしてみれば、俺以外の男ということになる」
 彼は何度か瞬きした。そのたびに上睫が微かに光った。
「まあいい、それでだ。口では嫌がりながらも、自分から相手の股間に尻を擦りつけ始める――」
「――始めません」
「うん?」
「…………擦りつけ始めません。そういうことは、夫にしかしないものです。違いますか」
 彼は正しかった。正義の権化のような正当性に満ちた正しさだった。これには自分も感嘆せざるをえなかった。
「確かに、可澄の言うとおりだ」
 言いながら頭を撫でてやる。すると安達は安心したように身体の力を抜いた。まるで甘えたがりの猫のようだ。自分は彼の髪に唇を寄せた。思わず口に入れてしまいたくなる匂いと柔らかさを堪能してから、両腕でがっちりと相手の身体を拘束した。
「……でも、そんな正論で引き下がるような男なら、初めから新妻を襲ったりしない、そうだろう?」
 彼は何か言おうとしたようだったが、ここで待ってやるほどお人よしではなかったので、相手が身体を強く打ちつけることがないよう注意しながら床へ押し倒した。安達はこうなることは予想していなかったのか、あるいはまともな新妻の反応をなぞろうとしたのか、真意はわからないがとにかく慌てた様子で身体を起こした。そして四つん這いになって逃げようとする。自分は無言で彼の足首を掴んだ。
「――穿いてないじゃないですか、奥さん」
 乱れたガウンの裾をめくって指摘する。すると安達は四つん這いのまま動かなくなった。見るからに薄そうな肩や肉のない太腿が、凍えた小鳥のように震えている。自分は彼の秘所に顔を近づけた。ほんの数分前まで肉棒を咥えていた部分は、まだ緩んで湿っている。
「まんこがザーメン臭いですよ。今朝も旦那さんに可愛がられていたわけですか」
 声がいやにがさがさした。もしかしたら、数分前の自分に嫉妬しているのかもしれない。馬鹿げた話だが、下半身は非常にはっきりと目の前の尻を犯したいと訴えていた。
「こんな綺麗な奥さんに朝から生ハメ中出しできるなんて、旦那さんは幸せ者ですね」
 安達は頭を振って片手で口を押えた。嫌がる素振りは見せるくせに、本気で逃げようとはしていない。穴の縁を指で擦ると、期待するように性器が揺れた。それは既に反応を始めている。男根に犯される悦びを知った身体は、可哀想で可愛い。
「でも、こんな旦那のザーメン臭いまんこのままで客をもてなそうなんて、失礼なんじゃありませんかね」
 さっき抱いたばかりの相手。それなのにどうして今すぐ犯したくて堪らないのだろう。働かなくなりつつある頭で、適当な言葉を無造作に連ねる。舌だけはよく動いた。
「今ここで吐き出してくださいよ、旦那さんのザーメン」
 小さな窄まりを両手の親指を添えて左右に抉じ開けると、いや、というか細い声がした。悪い返事だ。自分は尻を平手で打ち、穴に向かって唾を吐いた。
「だったら俺のザーメンで上書きするしかないですね。受精しないように祈っておいてくださいよ」
 自分は性器を取り出して、先端で尻の谷間を擦った。肉棒が穴を通過するたびに、あっあっ、と上擦った声が耳を甘く愛撫する。こうなるともうどちらが相手を悦ばせているのかわからない。二人の間にはただひたすら不透明な情欲の澱みがあるばかりだ。慣らす必要はもうなかったので、欲望のまま綻んだ蕾に亀頭を押しつけた、そのときだった。
「……だ、だす、……だします、から、いれるのはやめて……」
 いつもの彼なら喜んで犯されるルートを選ぶところだったが、今回は設定を重視したのか、普段であればこちらが頼んでも一蹴する羞恥プレイを選択した。好奇心が羞恥心に勝ったのかもしれない。安達は上体を起こすと、ガウンの裾をまくった。それから膝と両の掌を床につけ踵と尻を浮かせて前のめりになり、しゃがんでいるともうずくまっているともいえない姿勢を取った。ガウンに包まれた肩が、ぶるぶる震えている。
「ん……ん、ぁっ」
 既に柔らかく解れていた窄まりが小さく蠢き、白っぽいものが滲む。見つめていると、窄まりは白濁した液体をとろとろと垂れ流した。フローリングに一円玉ほどの卑猥な水溜りができる。情交の痕跡を排泄し終えると、安達は項垂れてはあはあと荒く呼吸した。
「これが旦那さんのザーメンですか」
 低い笑い声が空気を揺する。我ながら耳障りな声だった。安達は頭を垂れたまま、微かに肯いた。まだ僅かにひくついている穴の縁は、吐き出された精液の残りでぬらぬらと光っている。
「次は俺のを抜いてくださいよ。そうしたら、客の前で尻をまくってザーメン垂れたことは、旦那さんに内緒にしてあげますから」
 濡れた穴を指で弄ると、安達は腰をよじって嫌がった。膝立ちになって尻を守るようにこちらに向き直ると、めくれていたガウンを直して前を隠す。しかしそんなことをしても、彼のものが既に完勃ちしていることは隠せない。
「……だめ、できな、い」
 掠れた声で言って、じりじりと後ろに下がる。しかし彼の背後は突き当たりだった。無情な壁と欲情した男に挟まれて、綺麗な顔が薄い氷のように張り詰める。
「だったら、乳首を貸してくれるだけでいいですよ」
 ちくび、と安達は復唱した。自分も、そう、乳首、と繰り返した。まるで子供を相手にしているようだ。これでは新妻というより幼な妻だろう。眩暈がするような倒錯。それなのに、否、そのせいで、露出したままの性器に熱が溜まっていく。
 ちくびと呟いたまま動かなくなった男を抱き寄せて、閉じた唇を舌でなぞる。それから頬骨と瞼と額にキスをして、最後にもう一度唇を舐めた。安達は瞼を下ろして身体を小さくしていたが、しつこく唇を舐め回していると、根負けしたのか小さく口を開けた。こうなると口づけはすぐに濃厚になる。舌と舌が絡む水音、その合間に相手が零す甘い吐息さえ強欲に貪った。
 唇と唇が離れると、安達は顎を引いて額をこちらの首に押し当てた。甘える仕種は随分可愛らしいが、口づけのせいで尻が物足りなくなったのか、腰が落ち着きなく揺れている。
「この助平まんこは旦那さん専用なんでしょう。それならまんこの代わりにいやらしい勃起乳首で俺のチンポを擦ってもらえませんか。上手にできたら、旦那さんには全部内緒にしてあげましょう」
 これは一応提案という形を取っていた。しかし、選択肢を与える気はなかった。自分は喋りながら徐々に体重をかけて腕の中の相手を再び床へ押し倒した。彼が掻き合わせていたガウンの前を引き裂くように開き、あばらの上に馬乗りになる。
「ほら、ちゃんと握ってくださいよ」
 抵抗しかけた安達の手首を掴んで、自身の股間へ持っていった。彼の白く細い作り物じみた指を、自分の赤黒く膨れ上がった肉棒に絡ませるのは、いつだって楽しい作業だ。初めのうち、安達は嫌がって赤ん坊のように拳を解かなかったが、左の乳首に思い切り爪を立ててやるとすぐに陥落した。おずおずと性器に指を伸ばし、陰茎を掌で包む。
「乳首に擦りつけてください」
 逃げ場のない安達は、素直に手にした男根を乳首に擦りつけ始めた。先端から漏れた先走りが、腫れ上がった肉粒に塗り込まれていく。
「う……ん……うぁ、……っ」
 円を描くように乳輪の輪郭を辿ったあと、乳頭をこりこりと刺激する。先走りで滑りがよいためか、性器の動きの激しさに何度も乳首が弾かれて、そのたび安達は身を震わせて喘いだ。嫌々やらされていたはずなのに、いつしか彼は自慰に没頭していた。片方の乳首を肉棒で擦り、もう片方の乳首は自らの指で捏ね回している。白い肌は柔らかく淡く色づき、濡れた睫や汗の浮いた鎖骨が硝子の粉をふいたように光っていた。
 安達が乳首でオナニーする様子をひととおり眺めてから、自分は手を伸ばして彼の頬を撫でた。彼は夢の淵から急に引き上げられた人のように、目を大きく開いてこちらを見た。睫がゆっくりと上下する。
「くち……くちでしますか……」
 甘い誘い。自分は頭を抱えたくなるのを何とか堪えた。蜂蜜の壺に落ちた蠅は、こんな気分なのかもしれない。
「もう我慢できないので、やっぱりまんこを貸してもらってもいいですか」
 こちらとしては、だいぶ下手に出る形となった。しかし安達は設定を忘れてはいないようで、あそこはだめです、とあまり回らない舌ではっきりと拒絶した。
「旦那さんにはばれませんよ。奥さんだって、ぐしょぐしょのまんこに生チンポをぶち込まれたくて仕方ないんじゃないですか」
 すると安達は性器を握ったまま、困った顔をした。
「…………でも、そういうのは、いけないです。きもちよくしてあげますから、うえのおまんこでおちんぽしゃぶらせてください。……ね?」
「ね、って言われましてもね……」
 貞操観念があるのかないのかよくわからない新妻だ。
「じゃあ、さっきみたいにお尻で擦らせてください。それで妥協しましょう」
 さも名案だといわんばかりに言ってみせると、安達は納得したのかこくりと肯いた。そこで自分は再び彼を四つん這いにさせた。邪魔なガウンは背中までまくり上げ、白い尻を余すところなく露出させる。手触りを確かめるように尻の肉をねっとりと揉んでから、自らの性器を割れ目に押しつける。そのまま何度か上下に滑らせると、安達は息を呑んで首を竦めた。白く滑らかな肌と浅黒くグロテスクな肉のコントラストは、何度見ても猥褻の一言に尽きる。
 何度か擦って義務を果たしてから、自分は肉棒の先で蕾をつついた。既に綻んでいたそれは、だらしなく亀頭を飲み込もうとする。安達は慌てて逃げようとしたが、そんなことを許すわけがなかった。両手で彼の腰をがっしりと拘束すると、入り口がすっかり解れているのをよいことにぐいと自らの腰を進めた。
「だめ、そこ、しないって……ひ、う、ああっ」
 朝食の際に犯されたばかりの穴には、まともな抵抗などできなかった。すぐに異物の侵入を受け入れ、快感を搾り取ろうとする。不穏な角度に持ち上がった性器は、難なく肉を掻き分けて奥へ進んでいった。
「あー、どんどん入っていきますね。男にだらしない淫乱まんこだ。膣の肉もとろとろになってチンポに吸いついてきますよ。精液を恵んでくれるなら誰でもいいみたいですね」
「や、だ、ぁん、んぅー、いや、やっ」
「乳首もクリもがちがちに勃起させておいて、嫌も何もないでしょう。次は立ちバックで嵌めて、寝取られまんこを旦那さん以外の男の形に変えてあげましょう」
 彼の体内から性器を引き抜く。安達は手の甲で口を押さえた。塞ぎきれない悲鳴が甘ったるく鼓膜に絡みつく。立てと命じても起き上がらなかったので、まだ震えている腕を掴んで強引に立たせた。シンク脇のスペースに上半身を預ける形で両腕をつかせる。それから尻を数回叩いて足を開かせて、もう一度後ろから挿入した。
「うぁあ……」
「ははっ、意外と締まりがいいですね。膣もチンポをしゃぶって放さないことですし、このまま射精しましょうか」
「……しゃせい、だめ……」
「奥さんが俺を上手に喜ばせてくれたら、外に出してあげてもいいですよ」
「……よろこ…………ど……やって……?」
「その助平まんこで間男チンポを扱きながら、いやらしい台詞で煽ってください」
 安達は卑猥な言葉を投げつけられることに快感を覚える種類の人間だったが、自らも卑猥な言葉を発することでその快感を倍増させることのできる種類の人間でもあった。いやらしい台詞、という言葉だけで軽くいったのか、彼は切なげな吐息を漏らした。筋金入りだ。
「おまんこ、じゅくじゅくしてかゆい……ぼっきおちんちんでかいて……」
「こうですか」
 安達の好きなところをカリで重点的に抉ってやると、彼はステンレスの台の上に突っ伏して痙攣した。汗でしっとりと湿ったうなじに襟足の毛が張りついているさまを、見るともなしに見る。
「っ、いい、きもちいい……おしおふいちゃう……」
「潮を吹く前に、旦那さんのチンポとどっちが気持ちいいか教えてくださいよ」
「……うー……おなじ……」
 自分は苦笑した。
「そういうときは、旦那さんのより気持ちいいって言うんですよ」
「…………でも……おなじだし……」
 確かに同じだ。正論である。自分は彼の片腕を後ろに回して掴むと、それを手綱代わりにして激しく腰を打ちつけた。いく、いっちゃう、と追い詰められたように訴える哀切な声。それを無視して、ひたすら柔らかな粘膜と自分好みに調教された肉の締まり具合を楽しんだ。
「あぅ、んっ、ひ、ぅうー、おちんちんすごい、したのおまんことけちゃう、あ、っく、うー……っ」
「下のおまんこ、ですか。それじゃあ上のおまんこはクンニしてあげましょう」
 返事は聞かず、薄い背中に覆い被さる。その勢いで、肉棒が根元まで彼の中に食い込んだ。奥まで異物に貫かれた衝撃で、安達は射精したようだった。身体をぎゅっと竦ませて小刻みに震えたあと、溺れかけた人のように苦しげに息をついている。肩口からその横顔に顔を寄せると、彼は素直にこちらを向いた。自分は彼の唇にキスをした。角度のせいであまり深い口づけにはならなかったが、互いの舌が触れ合うと、肉棒をずっぽり咥え込んだ彼の蕾がきゅうきゅう締まった。クリトリス並みに敏感な舌だ。
「ん、んん」
「またいっちゃいますか」
 最奥に収めたまま腰を回すように動かすと、吸われて赤みを帯びた彼の唇から、僅かに唾液が零れる。花の蜜のようなそれを舐め取って、精一杯優しい声を貝殻に似た耳に吹き込む。
「奥さんが俺のチンポをまんこに嵌めていったんだから、俺のチンポも奥さんのまんこの中でいっていいですよね」
 すると安達は開いていた唇を閉じて、考えるような目をした。暫くして、だめ、と冷たい回答を口にする。いいと言うまで嬲るか、嫌がるのを強引に種づけするか。自分も彼に倣い、どちらがよいのか暫く考えた。しかしそれは結局のところ、安達が好むのはどちらの方か、という問題だった。いい加減頭が回らなくなっていたので、本人に訊いてしまうことにした。
「可澄、どっちがいい」
 ひどく言葉の足りない質問だったが、安達にはすぐに伝わったらしい。彼は甘さも抑揚もない声で即答した。
「むりやり」
「わかった」
 自分は安達を腕の中に捕らえた。そのままステンレスの台の上に押しつけて固定し、下半身を激しく突き上げる。
「膣の襞が精液を欲しがって蠢いていますね。もうぐずぐずですよ。こんなにだらしない淫乱まんこを持っているくせに、貞淑ぶって旦那さんに操を立てようなんて、図々しいにも程がある。罰として中で出しますから、一滴残らずそのいやらしい好きものまんこで吸って受精してくださいね」
「だめ、やめて、おまんこ、ださないで、じゅせい、いや……ひ、ぐ、うあああっ」
 快感が頂点に達するその瞬間を狙って、堪えていたものを解放する。肉棒は遠慮することなくどくどくと射精した。それは頭の中身まで全て精液にして注ぎ込むような射精だった。精液を狭い肉の中に注ぎながら腰を揺すると、彼の細い身体はびくびくと跳ねたあと、ぐったりした。
「――いい子ですね」
 呟いて汗まみれのうなじに口づけすると、相変わらずよい匂いがした。
「……しない」
 不意に小さな声が聞こえた。自分は彼の口に耳を近づけた。
「どうした?」
 安達は台に突っ伏したまま、くぐもって掠れた声で、しかし明瞭に発音した。
「……俺は、ほかの人とは、しませんから」
 自分の顔がだらしなく緩むのがわかる。彼がこちらを見ていないのをよいことに、緩んだ表情のままで肯いた。
「そうだな、知ってる」



 シャワーを浴びたあと、安達は台所に飛び散った諸々の体液の後始末に取りかかり、仕上げに消毒用のアルコールを使ってあたりを全て拭いた。彼の説明はこうだった。
「食べ物を扱う場所ですから、衛生面には気をつけないといけません」
 あまり衛生面に拘らないセックスをする男は、そんなことを真面目な調子で言った。
 掃除と洗濯が終わった頃には、もう昼近かった。安達は少し疲れたのか、ソファでうとうとし始めた。その様子が可愛いと思ったので、自分は昼食の準備を放棄して彼の隣に座り、こちらにもたれるよう仕向けた。平和で穏やかな時間。何一つ不足も不自由もない、満ち足りた時間。
 そのとき、電話が鳴った。
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