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勉強
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城の一階にある図書室への道のりを一人歩いて行く。城へ来て何週間か経ち、どうにか一人で城内を回ることができるようになった。
今日は城の中にある図書室で勉強をする。という名目で私がこの世界へ来てしまった手がかりがないか探しにきたのだ。
「⋯⋯ここだ」
中を覗いてみると、早朝だからか人はまばらなようだった。アンティーク調の本棚がたくさん並び、その豪華さにいつ来てもため息が出そうになる。部屋に入ってすぐある貸し出しカウンターへ向かうと見慣れた赤毛の少女が佇んでいる。
「あ!リオ様!おはようございます!」
「メイル!おはよう!」
ぴこぴこと揺れる赤いおさげが可愛らしい彼女はこの図書室の司書さんだ。ザインさんと一緒にここへ勉強をしに来た時、メイルは必ずカウンターに佇んでいて、私を見かけると挨拶をしに来てくれたのだ。それに彼女とは歳が近いこともあってすぐに仲良くなった。
「今日もお勉強をするんですか?」
「うん、ちょっと色々調べたいことがあってね」
「それってもしかして記憶に関することですか?ザインさんたちはリオ様の負担になるから記憶に関してはお医者様に任せた方が良いと言ってましたけど…」
「だからザインさんには内緒ね。私とメイルだけの秘密にしてくれる?」
内緒、というように口元に指を当ててみせると、メイルは困ったように笑ってうなづいてくれた。
「さて、探しますか」
城にある本はどれも難しいタイトルの本ばかりだ。簡単魔術!とかすぐにできる呪い!みたいな怪しいタイトルの本は何冊かあるけれど、どれも信憑性に欠ける。第一、こんな本で異世界へ行けてしまうのなら、きっともっと多くの人間が異世界へトリップして大騒ぎになっているだろう。
「うーん⋯⋯ないなあ」
「よいしょっと⋯⋯」
高く積み上げられた本を持ちながらよろよろと歩くメイルが視界に入る。
「大丈夫?手伝うよ」
「い、いえ!そんな!リオ様に手伝ってもらうわけにはいきません!」
半ば強引にメイルの持つ本を数冊奪い取って持つ。分厚い本が多いからかずっしりとした重さが腕にかかる。これを何冊も積み上げて彼女は運んでいたのか⋯⋯。よく今まで倒れなかったと感心をしてしまう。
「ありがとうございます⋯⋯」
「うん?いいんだよお礼なんて」
本たちを元あった場所へ返していく。そして、ある一冊で本を返す手が止まった。表紙が真っ白なのだ。タイトルもなにも書いていない。いかにもな怪しい本だ。
「なにこれ?」
「あ!なんでそれがその中に!?」
「これはなんなの?」
「これは⋯⋯」
言いにくそうにメイルは視線を逸らした。彼女の長所は素直なところ。そして短所は素直すぎて嘘がつけないところだ。彼女のあからさまなその態度はこの本にはなにかがありますと言っているようなものじゃないか。
「実は、この図書室には地下があって、限られた人しか入れない場所があるのです。その本はきっとそこに置いてあった本だと思います⋯⋯」
「私は入ってはいけないの?」
「ザイン様の許可があれば可能なんですが⋯⋯」
「⋯⋯そうなんだ」
どうしたらいいのか。ザインさんの許可を取りにいくべきなのだろうか。いや、きっと止められてしまうだろう。それにまたいらぬ心配をかけてしまうことになる。
「そこにはなにがあるの?」
「私も詳しくは知らないのですが、ここにある書物の何倍も古くからある本たちが地下にはあるそうです。この本がその例です」
そう言ってメイルは白い表紙の本を持ち上げた。
古い書物、それならもしかしたら有益な情報もあるかもしれない。
「司書であるメイルも入れないの?」
「はい⋯⋯。通常、司書が地下へ案内をするのですが、私は期間限定の司書なので地下への鍵を持っていないのです」
「期間限定?」
「本来の司書さんはキースさんという女性の方なのです。しかし、その方が去年ご病気で倒れてしまったので、治るまでの間私が司書としてこの図書館にいるのです」
「キースさんはどこにいるの?」
「キースさんはアイルさんの診療所に入院していらっしゃいます」
「アイルさんの⋯⋯」
「まさかリオ様、キースさんに会いに行かれるつもりじゃ⋯⋯」
メイルの問いに首を横に振る。するとメイルはあからさまにほっとしたような顔をして笑みをこぼした。私はその姿にザイルさんの面影を見たような気がして、彼女の顔を直視することができなかった。でも、キースさんに会えば何かわかるかもしれない。そう考えると私には会わないという選択肢はなかった。
都合のいいことに診療所の場所は以前アイルさんに地図をもらっていた。それを頼りに街に出ればきっと彼の診療所に行けるだろう。
真っ暗だった世界に一筋の光が見えた気がした。
今日は城の中にある図書室で勉強をする。という名目で私がこの世界へ来てしまった手がかりがないか探しにきたのだ。
「⋯⋯ここだ」
中を覗いてみると、早朝だからか人はまばらなようだった。アンティーク調の本棚がたくさん並び、その豪華さにいつ来てもため息が出そうになる。部屋に入ってすぐある貸し出しカウンターへ向かうと見慣れた赤毛の少女が佇んでいる。
「あ!リオ様!おはようございます!」
「メイル!おはよう!」
ぴこぴこと揺れる赤いおさげが可愛らしい彼女はこの図書室の司書さんだ。ザインさんと一緒にここへ勉強をしに来た時、メイルは必ずカウンターに佇んでいて、私を見かけると挨拶をしに来てくれたのだ。それに彼女とは歳が近いこともあってすぐに仲良くなった。
「今日もお勉強をするんですか?」
「うん、ちょっと色々調べたいことがあってね」
「それってもしかして記憶に関することですか?ザインさんたちはリオ様の負担になるから記憶に関してはお医者様に任せた方が良いと言ってましたけど…」
「だからザインさんには内緒ね。私とメイルだけの秘密にしてくれる?」
内緒、というように口元に指を当ててみせると、メイルは困ったように笑ってうなづいてくれた。
「さて、探しますか」
城にある本はどれも難しいタイトルの本ばかりだ。簡単魔術!とかすぐにできる呪い!みたいな怪しいタイトルの本は何冊かあるけれど、どれも信憑性に欠ける。第一、こんな本で異世界へ行けてしまうのなら、きっともっと多くの人間が異世界へトリップして大騒ぎになっているだろう。
「うーん⋯⋯ないなあ」
「よいしょっと⋯⋯」
高く積み上げられた本を持ちながらよろよろと歩くメイルが視界に入る。
「大丈夫?手伝うよ」
「い、いえ!そんな!リオ様に手伝ってもらうわけにはいきません!」
半ば強引にメイルの持つ本を数冊奪い取って持つ。分厚い本が多いからかずっしりとした重さが腕にかかる。これを何冊も積み上げて彼女は運んでいたのか⋯⋯。よく今まで倒れなかったと感心をしてしまう。
「ありがとうございます⋯⋯」
「うん?いいんだよお礼なんて」
本たちを元あった場所へ返していく。そして、ある一冊で本を返す手が止まった。表紙が真っ白なのだ。タイトルもなにも書いていない。いかにもな怪しい本だ。
「なにこれ?」
「あ!なんでそれがその中に!?」
「これはなんなの?」
「これは⋯⋯」
言いにくそうにメイルは視線を逸らした。彼女の長所は素直なところ。そして短所は素直すぎて嘘がつけないところだ。彼女のあからさまなその態度はこの本にはなにかがありますと言っているようなものじゃないか。
「実は、この図書室には地下があって、限られた人しか入れない場所があるのです。その本はきっとそこに置いてあった本だと思います⋯⋯」
「私は入ってはいけないの?」
「ザイン様の許可があれば可能なんですが⋯⋯」
「⋯⋯そうなんだ」
どうしたらいいのか。ザインさんの許可を取りにいくべきなのだろうか。いや、きっと止められてしまうだろう。それにまたいらぬ心配をかけてしまうことになる。
「そこにはなにがあるの?」
「私も詳しくは知らないのですが、ここにある書物の何倍も古くからある本たちが地下にはあるそうです。この本がその例です」
そう言ってメイルは白い表紙の本を持ち上げた。
古い書物、それならもしかしたら有益な情報もあるかもしれない。
「司書であるメイルも入れないの?」
「はい⋯⋯。通常、司書が地下へ案内をするのですが、私は期間限定の司書なので地下への鍵を持っていないのです」
「期間限定?」
「本来の司書さんはキースさんという女性の方なのです。しかし、その方が去年ご病気で倒れてしまったので、治るまでの間私が司書としてこの図書館にいるのです」
「キースさんはどこにいるの?」
「キースさんはアイルさんの診療所に入院していらっしゃいます」
「アイルさんの⋯⋯」
「まさかリオ様、キースさんに会いに行かれるつもりじゃ⋯⋯」
メイルの問いに首を横に振る。するとメイルはあからさまにほっとしたような顔をして笑みをこぼした。私はその姿にザイルさんの面影を見たような気がして、彼女の顔を直視することができなかった。でも、キースさんに会えば何かわかるかもしれない。そう考えると私には会わないという選択肢はなかった。
都合のいいことに診療所の場所は以前アイルさんに地図をもらっていた。それを頼りに街に出ればきっと彼の診療所に行けるだろう。
真っ暗だった世界に一筋の光が見えた気がした。
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