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72「繭子、最後のインタビュー 10」
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2017年、3月。
-- それで結局繭子が選んだ方法が、土下座だったの?
M「選んだんじゃなくて気が付いたらそうなってたんだ。こっちは泣きまくってるから膝が震えて立っていられなくて、お願いします!って何度も言ってるうちに額がゴリゴリと地面を擦って」
-- 壮絶!
R「俺らまた呆気に取られて。ぽかーん」
М「(笑)」
-- 思ってた反応と全然違うぞ、と。
R「思ってたっつってもその時どういう話し合いになるのか考えてなかったのが正直な話でよ。『バンド入れて下さい』『それは分かったけどお前どこまでちゃんと考えてるんだ』『一緒に世界へ行きます』『よーし分かった、その代わりビシバシやるからなー』『キャー、嬉しー』って、そんな事普通考えないだろ」
-- いや、言い方はあれですけど、考えましょうよ(笑)。
R「えー!?」
-- えーじゃなくって。
M「だから、私は絶対断られるって思ってるしそこからどうひっくり返すかっていうのを考えてたんだよ。でも皆は普通にもう一度『お願いします』ってひとこと言えば前向きな話合いに移行出来てたって言うの。もう信じらんなくって(笑)」
-- そりゃそうだよね!
M「もうさー…」
R「けど、さっきの話じゃねえけどよ、そこは繭子には申し訳ねえけど、やっぱり今思えば話合いなんかよりもずっと気持ちは伝わったよな」
M「本当ですかぁ? 初めて聞きますよ?」
R「ホントホント。それはやっぱ、感情表現という意味合いで言えば俺なんかは特にそうだよな。ああ、こいつはやっぱり俺達に似てるって思ったし、こいつが音楽で食ってくなら絶対ニューミュージックなんかやらせねえって思った。デスメタルだよ繭子は」
M「(お腹を抱えて大笑いする)」
-- それはでも、ちょっと面白い意見ですね。
R「そうか?」
-- なかなか第三者的意見で『こいつデスメタルだな』は出ないですよ。
M「あー、でも嬉しいかもしれない。私以前、前に、殿岡さんにパンクやねって言われてもピンと来なかったですけど、今竜二さんにデスメタルな女だって言われるとちょっと嬉しいもん。別に殿岡さん批判じゃないですよこれは」
R「抉るなあ~」
M「違うってば!(笑)」
-- あはは!でも分かる気がする。パンクとメタルというジャンルの違いじゃなくてさ、きっと竜二さんが自分達に似てるって思った部分が、彼女の中にあったデスメタル的何かなんでしょうね。それはきっと音楽の話じゃなくて、お互いに共通した人間的な要素なんだと思います。
R「良いフォローだ!」
M「ありがとう!」
-- キワドイもんなー!ビックリしたー!(笑)。
M「でも嫌なんだよ、殿岡さんをタブーにするのは。喧嘩にはなったけど、私はあの人嫌いじゃないしね」
R「(嬉しそうに頷く)」
M「なんならもう一度会って喧嘩したい」
R「あはは!」
M「ウソ。…誤解を解きたい」
-- そうだよね。
R「ちゃんと伝わってるから気にすんな。前もちょっと言ったけどよ、あの後飲みに行った時もお前の事褒めてたから。ああいう奴は今パンクの世界にいなくなった。お前らが羨ましいよって」
M「はい」
-- 惜しい人を亡くしましたね。
R「面白いおっさんだったよ。喧嘩クソ弱いのに昔っからまー気が強いのなんの。そこも含めてパンクだったよな。パフォーマンスも、テメエのスタイルを貫く格好良さがあった」
M「伸ばし放題のギターの弦振り回すのはやめてほしかったですけどね(笑)」
R「ヒゲな(笑)。昔翔太郎があれで目の端切って大暴れしたもんな」
M「聞きました。危ないですよね、実際」
-- (笑)、少しお話が逸れてしまいましたが、繭子の土下座と懇願を目の前にして、皆さんは何か声を掛けたりはされなかったんですか?
R「あー(頭の後ろを掻く)」
M「(それを見つめる、笑顔)」
-- (待つ)
R「そういう時黙って見てられる筈のない織江がよ、固まって動かないんだ。それぐらい繭子の勢いが凄かったんだけど。だから不謹慎かもしれねえけど、もうちょっと見ていたいぐらいの熱っぽさがあって、魅力っていうのとは違うんだろうけど、見とれちまったのはあるんだ」
M「ええ(笑)」
-- 繭子の土下座にですか?
R「土下座もそうだし、こう、湧き出るエネルギーみたいな」
-- ああ、なるほど。姿形はどうあれ、一人の人間の本気をバンドとは違ったスタイルで見ているわけですもんね。
R「そうそうそう、若干18歳の女の子に気圧される大人4人(笑)」
M「(笑)」
R「あの時何て言ってたか自分で覚えてるか?」
-- 繭子は絶対覚えてるよね?
M「もちろん」
R「俺も覚えてる」
M「え? 泣きながらグダグダ、結構喋ったと思うんですけど(笑)」
R「もちろん一言も間違えずに完璧にじゃねえよ。だけど不思議と忘れねえんだ。なんとなくそれを思うとよ、翔太郎が一度覚えた事を忘れないメカニズムも理解出来る気がすんだよな(笑)」
M「あはは。そんな所にまで私の言葉は影響を及ぼしますか」
R「及ぼしたねー」
M「(苦笑いして首を横に振る)」
R「(息を吸い込み)…だから」
M「ちょっと待って下さい。今、嫌な予感がしました、何か良い事言おうと思ってませんか!?」
-- 繭子(笑)。
R「思ってねえよ!」
M「本当ですか? 何言おうとしました?」
R「だからよ。私は…」
『私は自分の力で、自分の人生を生きたいです。いじめれていた毎日も、うまく行かない日常も全部、それでも、自分の人生として、私は背負っていたいです。嫌な記憶をここで捨て去るのも、嬉しかった皆さんとの思い出を、大事に抱えていく事も、全部、私が決めたいです。もう誰にも、邪魔されたくありません。皆さんが、大好きです。一緒に生きたいです。自分の人生を、皆さんと生きたいです。私の責任は、私にしか取れないと思います。だから何も、気にしないでください。皆さんは何も、背負わないで下さい。私は必ず、アキラさんに追いついてみせます。絶対に追い越してみせます。私の生きる場所は、あのドラムセットにしかありません。ここで、あの場所で、あなた達の後ろで、私は死にたいのです』
R「土下座したまま何度も頭を下げ、顔を上げては泣きながら叫ぶ。また頭を下げて、泣いて、叫んで。動けなかったなあ」
M「(両手で照れた顔を覆う)」
R「昔アキラが言ってたらしいんだ。俺と大成があの2人(善明と伊澄)に、正式な形でバンドに入れって誘った時、『ああ、これはいけるかもしれない』って、あいつ思ったんだって。俺はそれ後んなって聞いて半信半疑で笑ってたけどよ、そん時の繭子の言葉を聴いた時に、同じように思ったもんな。『ああ、これ行けるわ。こいつとなら本当に世界獲れるかもしれない』って」
M「うっそー(笑)」
R「本当に、うん。大成も翔太郎も同じように言ってた。繭子以外はあり得なかったって。俺もそう思う」
M「初耳ですけど、本当ですか? なんか、逆の意味で聞いた事がある気がするんですけど(笑)」
R「逆の意味?そんなウソは言わねえよ」
M「(頷く)」
R「俺達が誰かを選ぶとするならアキラ以外はあり得ねえ。だから俺達が今こうしていられんのは繭子がバンドを選んでくれたからだし、そんな事をやってのけるのは繭子以外にはあり得なかった」
M「私は選んだとも選ばれたとも思ってませんよ」
R「お前はそうだろうな(笑)」
M「ただ、優しいなあ、やっぱりって思ったのは…3人同時だったんですよね、あの時。私の手とか腕をつかんで立たせて、3人で、アキラさんのドラムセットに座らせてくれました」
R「ああ」
M「でもその時私は自分がどこに座っているのかよく分からなくて、何か皆さんの言葉を聞きたくて顔を覗き込んだりするんだけど、誰も私に目を合わしてくれなくて」
R「っは」
M「捉えられた宇宙人みたいな状態でしたよね」
R「あはは!」
M「力強く私を引っ張り上げて下さって、歩きながら首から上だけ動かして、頑張って皆さんを見ようとして。ドラムセットに座るまで3人の表情は分からなかったですけど、竜二さんが私の手にスティックを握らせてくれましたね。アキラさんのスティックでした」
R「そうだっけな」
M「手の中にある自分の物ではないスティックを見た時、ようやく涙が止まったんです。こいつを使ってやってくれ。はっきりとそう聞こえました。皆さんが楽器を担いでいつものポジションにスタンバって。その時見た3人の背中が、今も私の原動力なんですよ。私はもう二度と心を折られたリしない。ここで生きて行くんだって、そう思いました」
R「…何の曲やったっんだっけな」
M「ええ? だから『IMMORTAL WORK』ですよ」
R「…あぁー!そうなのか!? だからお前ベストの一発目にあれ推してたのか」
M「信じられない(笑)。忘れてたなら何でオッケー出したんですか?」
R「いや、別に良い曲だしよ。お前がそこまで推すなら、じゃあ、良いかーって」
M「もおー(笑)」
R「えー、覚えてないの俺だけかな?」
M「っはは、それは知りません。翔太郎さんが覚えていらっしゃる事だけは間違いないですけどね」
R「そっかー?言う程あいつ万能じゃないぞ?」
M「えー(笑)」
R「だってあいつ昔ポップコーンさあ…」
M「あははは!それ駄目!駄目です!」
R「何だよ(笑)。それよりどうすんだよこいつ、ガン泣きしたまま全然帰って来ねえじゃねえかよ」
M「放っておいてあげましょう。この人のこれはもう仕方ないです」
-- (何度も頭を下げてお二人から少し離れた)
R「俺さ、さっきお前が言ってた質問の答えは本気で思い出せないんだけど、改めて思うんだよ」
M「何をです?」
R「何つーか、あの時お前が叫んだ言葉や、表情や、声の張りとかさ、震えとかさ、そういう事ははっきりと覚えてんだ。…ボーカルだし」
M「関係ないです(笑)」
R「なー」
M「(爆笑)」
R「今、だからそうやってあん時の繭子を思い返してみてよ。さっきの繭子の質問の答えを考えてみると、もう何だろうな、意味分かんねえなーぐらいの感情になるんだよ」
M「あっは!意味ー?」
『翔太郎さんにこれだけは勝てない、大成さんにこれだけは勝てない。だけどこれだったら俺は誰にも負けない。そういう部分ってありますか』
R「あいつらに勝てないとか勝てるとかさ、そんなの一度だって考えた事ねえもん。きっと繭子にしてみれば、誰か他人と自分を比較して、自分の短所を直して長所を伸ばしてとか、そういう話を考えてたのかもしれねえけどよ。俺から見るあいつらはライバルじゃねえんだよな」
M「はい」
R「今思うとこの10年繭子もそうだと思うけど、絶対に、…うん、絶対にあいつらって途中で何かをやめたりしないだろ」
M「はい」
R「一度決めた事は絶対に最後までやるんだよ。そこの信頼に関しては誰にも負けないぐらい強いし、そういう奴ら相手に勝つだの負けるだのは無意味なんだよ。同じ場所へ向かってそれぞれの場所から全力で走っていくんだ。走ってる道は、もしかしたらそれぞれの人生って意味で言えば違うんだろうけど、最後には必ず同じ場所へ辿り着くと思ってる。それは繭子もそうだし。だから繭子の質問をどんだけ真剣に考えたって答えは出ねえし、うまく想像も出来ねえ。そういう意味じゃあ、俺には最初から、何んにも怖いもんなんてない」
M「…」
R「お前もそうだろ? 一人じゃねえもんな」
M「(堪えきれないという勢いで池脇に抱き着く)」
R「(驚いて抱きとめる)」
(慌てて駆け寄りカメラの電源を落とす)
(再開)
M「ちょっとー!(笑)」
R「今の止め方は駄目だ、完全に誤解を生む!あはは!スゲエ面白いけど多分駄目だ!」
-- すみません、ビックリして思わず(笑)。だけど繭子の衝動的な行為は誰にも誤解なんてされないと思います。繭子じゃなくたって、そこにいれば100人中100人抱き着いてたと思います。そのぐらい竜二さんが今、格好良かった。
M「まあね」
R「ならいいか」
M「(笑)」
-- でもそれだけじゃないですけどね。質問の答えとして完璧すぎました。
R「何が」
M「私が10年前に聞いた時に答えて下さった言葉と、ほぼ同じ内容でした」
R「へー」
M「へー(笑)」
-- 本当に覚えてないんですよね?
R「覚えてねえ。多分今言った事だって来年の今日は覚えてねえよ。でもきっと同じ質問されたらまた同じ事答えると思うぞ、俺馬鹿だから全然進歩しないし(笑)」
M「…」
-- …凄いですね。
R「声小っちゃ! …なんで今そこで泣くのか全然分かんねえ。なんか、俺だけ筋書きの知らないドラマを一緒に見てて、エンディング知ってる二人が先回りして泣いてるイメージ」
M「…全然ピンと来ない」
R「(爆笑)」
M「(耳を塞ぐ)」
-- (耳を塞ぐ)。
M「なかなか言えない事だと思いますよ」
-- 10年間何も変わらないでいられる事の凄さに気づかず、この先もきっと変わらないと思うなんて、普通は言えないよね。
M「ね」
R「馬鹿だからね」
M「違いますよ」
-- 本当に、翔太郎さんと大成さんを信用されているんですね。
R「それがなんだよ今更(笑)、あいつらなんてもう自分自身みてえなもんだよ」
-- それが凄いんです!
M「人を信用する事も、信用してるって言える事も、簡単なことではないと私は思いますけどね」
R「簡単だろ。一緒に生きてみればいい。それだけじゃねえか」
M「…信用できない人とは暮らせないじゃないですか」
R「そりゃ好きでもない奴とは暮らせねえさ。でも一緒に生きてみればそいつがどういう人間かはすぐに分かる」
M「結果その相手がとんでもない大悪党だったら?」
R「離れればいい」
M「その時間を無駄だったと後悔しませんか?」
R「そいつをクソだと思ったとしても後悔はしねえ。そいつをクソだと思えたテメエを褒めてやりたいね」
M「最初から信用出来る人と長く一緒にいられる時間が持てたかもしれないのに、勿体ない事したなって思いません?」
R「最初から信用できる奴なんてどこにいんだよ」
M「…確かに」
R「好きだと思える奴とテメエのやりたいように生きてるだけで良いんじゃねえかな」
-- なるほど。『信用はするもんじゃない、結果そこにあるもんだ』ですね。
R「へえ。誰が言ったんだ?」
-- 竜二さんです(笑)。
M「(爆笑)」
R「(珍しく少し慌てて)俺そんな事言ってた? まじで? なんで?」
M「(爆笑)」
R「格好わりーなあ」
-- そんなわけないじゃないですか!
R「言っちゃいけねえよなあ。そんな決め台詞みてえな手垢の付いた言葉をしたり顔で話すようになっちゃあ、俺もいよいよだ」
-- いやいやいやいや、そんな事言われちゃうと聞き出した事を後悔するじゃないですか。
R「(首を捻りながら)ダセえ」
-- 繭子、フォローして(笑)。
M「何だこのインタビュアー(笑)」
R「(ちょっと笑う)」
M「私みたいなのがフォロー出来る事じゃないけどさ。この人達の凄い所は思ってる事を漠然とじゃなくてちゃんと自分の言葉で他人に言える所だと思うの。でもそれは間違いなくトッキーが聞くから敢えて答えてるんだけど、きっと聞かれなくても最初から皆の中に思いとしてあってさ。言うか言わないかの違いだけで、答えはずっと皆の胸にあると思うんだよね」
-- うん、うん。
M「それは自分で考えて行動してきた事の結果だったり、裏付けのある自信だったりがあるから平然と言葉に出来るんだって、私は思ってるかな」
R「(誰の事を言っているんだろう、という顔)」
М「フォローになってる?」
-- 超なってる(笑)。そうなの、そこもだから、私達のジレンマというか弊害というかね。全てにおいて彼らが発した言葉っていうのは、間違いなく私が質問した事への回答だからさ、その声なり言葉なりを文字に起こした時に、彼ら本来の人間性と乖離しちゃう事ってあるんだよね。
М「…カイリ?」
-- かけ離れるんだよね。
М「あー、どうだろう(池脇を見る)」
-- ウソか本当か、本音か建て前かっていう部分を考える前にさ、『こういう事をサラっと言ってのけちゃう人なんだな』とか『めちゃくちゃお喋りな人なんだな』っていう余計な印象を読者に植え付ける事がこれまでもあって。
М「うんうん」
-- ものすごーく寡黙な人相手でもさ、粘り強く取材を続けて言葉を引っ張り出せば、本人の意図しない人格を形成する事だって出来るじゃない。人にもよるけど、そこを気にしすぎて物凄く素敵な言葉や考え方を掲載出来なくなるっていう悩みを抱えたりもするんだよ。
М「なんで? 悪さする意図がないなら、書けるでしょ」
-- 悩むよね。
M「なんでよ(笑)。印象操作って事?」
-- そう。特にこういう、一年はやり過ぎかもしれないけど(笑)、長期的な取材になると『インタビュー』とは別の部分でも人として深い部分を話していただける事ってあって。
М「雑談とか?」
-- 私の呼び方だけどね。うん、でもそういう会話の中にこそ重要な事って含まれてたりするけど、それって言ってしまえば『発信したい事』ではない場合もあるでしょ。そこは聞いてて私にも分かるから、記事にしたい、でも出来ない、すると余計なフィルターをかけてしまう、固定観念を植え付けてしまう、とか考えちゃうからね。
R「俺は別になんとも思わないけど」
-- いやだって、ご自身が発言された事に対して『ダセえ』って仰るじゃないですか。それなのに私が無邪気に書き起こす事は出来ませんし、繭子が言ったように、普段から当たり前のように思っている事でも私が聞く事で敢えて言葉にしてもらった大切な部分を、そういう誤解を与えるきっかけにするわけにはいきませんよ。
R「いやいや、そんな事気にする必要なんかねえよ。ダセえもんはダセえんだ。仕方ねえよ、それが俺なんだから」
-- いやいやいやいや!そんな訳にいきますか!
R「(爆笑)」
M「トッキーはだから、その時点でもうフィルターをかけようとしてるんだよ」
-- え?
M「もう思考がバイラル側なんだよ。格好良く見てもらおう、彼らの魅力を届けたいってそればっかり。それは悪い事じゃないけど逆を言えばありのままの彼らを何で見せちゃいけないんだって事にもならない?」
R「おー(笑)」
-- あああああ。
M「(池脇をチラリと見て)…出過ぎた真似を…」
-- あはは!いやいやいやいや、本当にその通りだよね。
M「もちろんトッキーが色々気にかけてくれてる事は十分知ってるから、トッキーのスタンス全部が駄目だなんて言ってるわけじゃないよ。その、さっき自分で言ってた掲載すべきがどうかの部分ですごく悩んでくれてる事とか、有難い事なんだよなって思ってるし。だけどその部分と、私達の発言によって私達がどう思われるかまでは、それは考えなくても良いと思うな」
R「…おおー(笑)」
M「っはは、何なんですか」
R「大人になったなー、お前なー」
M「にじゅーきゅー、なんで」
R「っかー(笑)」
M「竜二さんがタブーなんてねえってよく言ってるのはそこなんだろうって思う」
-- ああー、なるほどね。
M「話の内容によってはそりゃ気にしなきゃいけない部分ってあるんだろうけど、要は自分が話す言葉によって周りからどう思われようが何を言われようと、気にしないしどうでも良いっていう、そういう事ですよね?」
R「(頷く)」
M「この一年皆のインタビューを、全部じゃないけど見た時に確信したのはそこだよね」
-- ん、そこって?
M「普段全然喋らないこの人達がさ、聞かれた事にはびっくりするぐらい丁寧に答えてたでしょ?もう最初めっちゃ驚いたし」
-- ああ(笑)、懐かしい。そうだったね!
M「私自身はタブーなんてありまくりで生きて来たしさ、言いたくない事だらけだったけど、段々そういう皆を見てるうちに羨ましくなって来て」
-- 色々話せてる事が?
M「そう。そいでまたその方が格好良いなって思って。まあ、そう思えるようになったのはつい最近ですけども(笑)」
R「あはは!」
M「私、竜二さんが話してる内容はほんと、ここだけの話ほとんど全部、織江さんとかトッキーに頼んでビデオ見せてもらってたんですよ」
R「あー、そうなんだ。何で?」
M「竜二さんて普段あんま深い事言わないじゃないですか」
R「(爆笑)」
M「(耳を塞ぐ)」
-- (耳を塞ぐ)
R「え、それ逆を言えば翔太郎大成は普段からなんか偉そうな事言ってんのか?」
M「言わないです(笑)。でも輪をかけて言わないんです、竜二さんが」
R「へー」
M「竜二さんはこの一年で他の皆さんのお話ってチェックしてました?」
R「全然(笑)。ただなんつーの、話の内容は興味ねえけど、それぞれの言葉で昔話をしてるあいつらの側を通りすがりで見たりとか、そういう場面って今までなかったからそこはずっと新鮮だった」
M「あー、確かにそれもありますね。生で見るってなかなかないですもんね」
R「Billionとか他の雑誌取材で音楽以外の話ってまずしねえし。でも実際に本音が出るのってそこ以外の話だからな」
-- そうですよね。
R「実際、昔の話なんてどんな内容であれ、実は俺もその場にいたりするからな。懐かしいーって言いたくなるような場面でもよ、翔太郎や大成が改めて自分の言葉で喋ってんの聞いたりすると、なんかすっげー新鮮なんだよな」
M「確かに(笑)」
-- それはきっと去年後半の事を仰ってるんだと思いますが、その事に関して私としては翔太郎さんのおかげだとしみじみ思ってます。
R「ん?」
M「自分達のこれまでを記録保存して、一旦リセットして行こうかっていう申し出の事です」
-- そうです。
R「あー、なるほどな。そういう意味でな」
M「翔太郎さんからその話をされた時皆会議室にいて、一瞬重苦しい沈黙になりましたよね」
-- そうなんだ!?
R「全体会議(笑)」
-- ええ!?
R「そりゃーやっぱり、とんでもねえ事言うなって思ったよな」
M「そうですよね(笑)」
R「あいつがそれを言うって事はきっと本当に全部話すって事なんだろうなって。…繭子の事も、自分達の事も、アキラの事も、全部って事だろって。それってどうなの? 俺が自分で自分の事喋るのはアリだけど、お前らそれ他の人間に喋られてアリなのか?って」
-- 確かに。
M「でもその時点で私自身が、自分の学生の頃の話をしちゃってるわけなんですよ。だから私は私の事よりも皆の昔の事思い出して、普通に無理でしょって(笑)」
R「収録できないでしょって?」
M「ピー!(笑)」
R「まあな。だから大成がそん時言ってた言葉が俺の答えとほぼ一緒で」
M「はい、私もそうです」
-- 何と仰られたんですか?
R「(繭子を見る)」
M「(視線を受けて)『誰に言って聞かせたい話とか、自慢したい話があるわけじゃないけど。ただお前と違って最近忘れっぽいから、時枝さんに話す事でもう一度思い出してみるのは面白いかもな』って」
-- 大成さんがそんな事を…。
M「『なんだかんだ言ってずっと面白かったからなー、俺』って言われて私何も反論なかったです」
R「(頷く)」
M「そうだよ、面白かったよ、ずっと楽しかったんだって思って」
R「それ聞いた織江が嬉しそうでな。そういうの見ちゃうとついな、おお、良いね良いねってなるしな」
M「なりますね。しかもその時誠さんもいてさ、『私にも喋る権利あるー?』ってめっちゃ楽しそうな笑顔で。やべえっていう顔してる翔太郎さんが可笑しくて!」
R「あったな(笑)」
-- 目に浮かびます(笑)。
M「ただもちろん、本になる、本にしたいって言われた時は動揺したよ?」
-- それはね。ちょっと話の路線が違うものね。
M「うん、記録として残しておく為に昔の話をするのは精神衛生的に良い部分もあったし、私だけの話じゃないから色々聞けるのはちょっと楽しみでもあったし。ただそれを全然知らない第三者に読ませるって何でよって、それはちょっと今でも思ってる所あるしね(笑)」
R「まあそれが当たり前の反応だよな」
-- そうですよね。
M「そこも踏まえて振り返った時にさ。だから私はやっぱり、この話とかこの日とかじゃなくて、この一年で一杯これまでの皆の事を思い出したり、感謝したり、泣いたり、そうやって過ごした時間が幸せだったんだよねって思う」
R「(頷く)」
M「過去の出来事って自分の中では、通り過ぎた事として経験に変えちゃってる部分もあって、敢えて振り返ろうとしない場面もあったりするでしょ?」
-- はい。
M「だけどそこには大切な、忘れちゃいけないような思い出だって一杯あったわけだし。そういうのを改めて考えたし、何より自分だけじゃなくて竜二さんだったり、翔太郎さんや大成さんの口から当時の気持ちを聞けた事とか。…うん、幸せだったな」
R「いいねー」
M「あ、今綺麗にまとまってましたね。お疲れ様でした!」
R「した!(立ち上がる)」
-- 待って待って!そんな急に終わらないで!
M「あははは!」
-- もー!びっくりしたー、今。本気で終わったかと思った。
M「(両手をハサミにして)上手く、コレすれば」
-- 綺麗に終わるって? まーねー(笑)。
R「なら全然関係ない話していいか?」
-- お願いします!お願いします!
M「必死(笑)」
R「今でも具体的な事って何も聞いてないんだけど、ちょいちょいお前と自分を比較して器の小ささを嘆くわけ、あのー、あの人が」
M「?」
-- 名前伏せなきゃ駄目ですか?
R「いや(笑)」
M「URGAさんですか?」
R「おお」
M「私と比較してですか? ちょっと意味が分からないですね」
-- 繭子と皆さんの関係を傍から見た時に、とても真似が出来ない部分があるっていうお話は私も聞いた事があります。その事ですか?
R「多分、そうかな。具体的な『何』っていう部分は笑って首を振るだけだし分かんねえけど。前にお前あの人の家行って色々話したんだってな」
M「いつだろう」
R「年明けて、末ぐらいか?」
M「っはい、はい」
R「何話したんだよ」
M「え、言えませんよ」
R「何で」
M「ガールズトークなんで」
R「何だそれ」
M「URGAさんが話して良いっていう許可を出すまでは、言えません」
R「そういうもんなのか? いや、俺は別に何でも構わないけどな。ただよく分かんねえ所あるからよ、聞いて欲しいのか欲しくねえのか。考えたって俺は分かんねえから」
M「それらしい、聞いてよーみたいな、そういう雰囲気になるんですか?」
R「それも分かんねえ。突然繭子の名前が出て、お前みたいにはなかなかなれねえとかそういう事は言うかな」
M「えええー(腕組み)」
R「それが何なのかも俺は別になんだって良いけどよ、どういう話をしたのかが分かればすっきりすんのかなって」
M「うんうん(頷く)」
R「…いた?」
-- 私ですか!? さすがにその場にはいませんでした(笑)。それってあれですか、年明けの、会議室での皆さんとの会談での件を仰ってるんですか?
R「それもだから分かんねえって(笑)」
-- あはは。
M「そんな、何ていうか、哲学的な話とか難しい事は何も言ってませんよ。私の目から見た、この10年の皆さんの事とか。…うん、そういう話ですから。ただそれを受けてURGAさんが仰って下さった話の内容は、私は口が裂けても言いません」
R「お前(笑)」
-- 余計に謎を振りまくっていう暴挙。
M「あはは。でも、うん…うーん! こればっかりはね、言えないんです。ごめんなさい」
R「え、謝られるような話なのか?」
M「内容うんぬんもそうですけど、私が竜二さんに向かって首を縦に振らない事がもう苦しくて仕方ないです」
R「おいおいおい、そんな脅迫紛いの話はやめよーや!」
-- あははは! でもガールズトークなんだ?
M「ガールズトークって実際何?」
R「(爆笑)」
-- 恋愛トークじゃない?
M「ああ、じゃあ、そうかも」
-- 繭子はURGAさんの話を聞いてどう思ったの?
M「んー、まあ、仕方ないんじゃないかなって」
R「…」
M「…ちょっと待って!何喋らせようとしてんの!?」
R「(爆笑)」
-- (両手を上げて)ごめん、職業病の悪い癖が出た。今のは誘導尋問だった、心からごめんなさい。
R「(爆笑)」
あいつの笑い声ってドア閉まってても聞こえる気がすんの俺だけ?
ああ、俺も聞こえるわ、イラっとするよな。
なー。
何でそうやって聞こえるように言うの?
聞こえない所で言う方がダメ。
あははは。
彼らの声が耳に届いた時、正直に言えば少しだけ怖かった。
機械的なまでに流れ続ける無色透明な時の移り行く様が、目に見える形で押し寄せて来たような感覚だった。
終わりが来る事ははじめから分かっていたし、この時の為に随分前から心構えを固めてきた。
それでも尚少しだけ怖かったし、愛すべき彼らの声であるにもか関わらず、悲しかった。
今夜このスタジオで、全員が顔を揃える事はこれが最後かもしれないと、この日を振り返った時に涙を見せて語った伊藤織江の言葉を、あれから私は何度も思い出している。
芥川繭子という理由。
その言葉の意味を考える時、いつも決まってこの夜の彼らの笑顔が一緒に浮かんで来る。
愛すべき彼ら。
愛すべきドーンハンマー。
愛すべきデスラッシュミュージック。
愛すべき過酷な日々。
愛すべき、バイラル4スタジオ。
この夜の全てを、ここに書き記す。
-- それで結局繭子が選んだ方法が、土下座だったの?
M「選んだんじゃなくて気が付いたらそうなってたんだ。こっちは泣きまくってるから膝が震えて立っていられなくて、お願いします!って何度も言ってるうちに額がゴリゴリと地面を擦って」
-- 壮絶!
R「俺らまた呆気に取られて。ぽかーん」
М「(笑)」
-- 思ってた反応と全然違うぞ、と。
R「思ってたっつってもその時どういう話し合いになるのか考えてなかったのが正直な話でよ。『バンド入れて下さい』『それは分かったけどお前どこまでちゃんと考えてるんだ』『一緒に世界へ行きます』『よーし分かった、その代わりビシバシやるからなー』『キャー、嬉しー』って、そんな事普通考えないだろ」
-- いや、言い方はあれですけど、考えましょうよ(笑)。
R「えー!?」
-- えーじゃなくって。
M「だから、私は絶対断られるって思ってるしそこからどうひっくり返すかっていうのを考えてたんだよ。でも皆は普通にもう一度『お願いします』ってひとこと言えば前向きな話合いに移行出来てたって言うの。もう信じらんなくって(笑)」
-- そりゃそうだよね!
M「もうさー…」
R「けど、さっきの話じゃねえけどよ、そこは繭子には申し訳ねえけど、やっぱり今思えば話合いなんかよりもずっと気持ちは伝わったよな」
M「本当ですかぁ? 初めて聞きますよ?」
R「ホントホント。それはやっぱ、感情表現という意味合いで言えば俺なんかは特にそうだよな。ああ、こいつはやっぱり俺達に似てるって思ったし、こいつが音楽で食ってくなら絶対ニューミュージックなんかやらせねえって思った。デスメタルだよ繭子は」
M「(お腹を抱えて大笑いする)」
-- それはでも、ちょっと面白い意見ですね。
R「そうか?」
-- なかなか第三者的意見で『こいつデスメタルだな』は出ないですよ。
M「あー、でも嬉しいかもしれない。私以前、前に、殿岡さんにパンクやねって言われてもピンと来なかったですけど、今竜二さんにデスメタルな女だって言われるとちょっと嬉しいもん。別に殿岡さん批判じゃないですよこれは」
R「抉るなあ~」
M「違うってば!(笑)」
-- あはは!でも分かる気がする。パンクとメタルというジャンルの違いじゃなくてさ、きっと竜二さんが自分達に似てるって思った部分が、彼女の中にあったデスメタル的何かなんでしょうね。それはきっと音楽の話じゃなくて、お互いに共通した人間的な要素なんだと思います。
R「良いフォローだ!」
M「ありがとう!」
-- キワドイもんなー!ビックリしたー!(笑)。
M「でも嫌なんだよ、殿岡さんをタブーにするのは。喧嘩にはなったけど、私はあの人嫌いじゃないしね」
R「(嬉しそうに頷く)」
M「なんならもう一度会って喧嘩したい」
R「あはは!」
M「ウソ。…誤解を解きたい」
-- そうだよね。
R「ちゃんと伝わってるから気にすんな。前もちょっと言ったけどよ、あの後飲みに行った時もお前の事褒めてたから。ああいう奴は今パンクの世界にいなくなった。お前らが羨ましいよって」
M「はい」
-- 惜しい人を亡くしましたね。
R「面白いおっさんだったよ。喧嘩クソ弱いのに昔っからまー気が強いのなんの。そこも含めてパンクだったよな。パフォーマンスも、テメエのスタイルを貫く格好良さがあった」
M「伸ばし放題のギターの弦振り回すのはやめてほしかったですけどね(笑)」
R「ヒゲな(笑)。昔翔太郎があれで目の端切って大暴れしたもんな」
M「聞きました。危ないですよね、実際」
-- (笑)、少しお話が逸れてしまいましたが、繭子の土下座と懇願を目の前にして、皆さんは何か声を掛けたりはされなかったんですか?
R「あー(頭の後ろを掻く)」
M「(それを見つめる、笑顔)」
-- (待つ)
R「そういう時黙って見てられる筈のない織江がよ、固まって動かないんだ。それぐらい繭子の勢いが凄かったんだけど。だから不謹慎かもしれねえけど、もうちょっと見ていたいぐらいの熱っぽさがあって、魅力っていうのとは違うんだろうけど、見とれちまったのはあるんだ」
M「ええ(笑)」
-- 繭子の土下座にですか?
R「土下座もそうだし、こう、湧き出るエネルギーみたいな」
-- ああ、なるほど。姿形はどうあれ、一人の人間の本気をバンドとは違ったスタイルで見ているわけですもんね。
R「そうそうそう、若干18歳の女の子に気圧される大人4人(笑)」
M「(笑)」
R「あの時何て言ってたか自分で覚えてるか?」
-- 繭子は絶対覚えてるよね?
M「もちろん」
R「俺も覚えてる」
M「え? 泣きながらグダグダ、結構喋ったと思うんですけど(笑)」
R「もちろん一言も間違えずに完璧にじゃねえよ。だけど不思議と忘れねえんだ。なんとなくそれを思うとよ、翔太郎が一度覚えた事を忘れないメカニズムも理解出来る気がすんだよな(笑)」
M「あはは。そんな所にまで私の言葉は影響を及ぼしますか」
R「及ぼしたねー」
M「(苦笑いして首を横に振る)」
R「(息を吸い込み)…だから」
M「ちょっと待って下さい。今、嫌な予感がしました、何か良い事言おうと思ってませんか!?」
-- 繭子(笑)。
R「思ってねえよ!」
M「本当ですか? 何言おうとしました?」
R「だからよ。私は…」
『私は自分の力で、自分の人生を生きたいです。いじめれていた毎日も、うまく行かない日常も全部、それでも、自分の人生として、私は背負っていたいです。嫌な記憶をここで捨て去るのも、嬉しかった皆さんとの思い出を、大事に抱えていく事も、全部、私が決めたいです。もう誰にも、邪魔されたくありません。皆さんが、大好きです。一緒に生きたいです。自分の人生を、皆さんと生きたいです。私の責任は、私にしか取れないと思います。だから何も、気にしないでください。皆さんは何も、背負わないで下さい。私は必ず、アキラさんに追いついてみせます。絶対に追い越してみせます。私の生きる場所は、あのドラムセットにしかありません。ここで、あの場所で、あなた達の後ろで、私は死にたいのです』
R「土下座したまま何度も頭を下げ、顔を上げては泣きながら叫ぶ。また頭を下げて、泣いて、叫んで。動けなかったなあ」
M「(両手で照れた顔を覆う)」
R「昔アキラが言ってたらしいんだ。俺と大成があの2人(善明と伊澄)に、正式な形でバンドに入れって誘った時、『ああ、これはいけるかもしれない』って、あいつ思ったんだって。俺はそれ後んなって聞いて半信半疑で笑ってたけどよ、そん時の繭子の言葉を聴いた時に、同じように思ったもんな。『ああ、これ行けるわ。こいつとなら本当に世界獲れるかもしれない』って」
M「うっそー(笑)」
R「本当に、うん。大成も翔太郎も同じように言ってた。繭子以外はあり得なかったって。俺もそう思う」
M「初耳ですけど、本当ですか? なんか、逆の意味で聞いた事がある気がするんですけど(笑)」
R「逆の意味?そんなウソは言わねえよ」
M「(頷く)」
R「俺達が誰かを選ぶとするならアキラ以外はあり得ねえ。だから俺達が今こうしていられんのは繭子がバンドを選んでくれたからだし、そんな事をやってのけるのは繭子以外にはあり得なかった」
M「私は選んだとも選ばれたとも思ってませんよ」
R「お前はそうだろうな(笑)」
M「ただ、優しいなあ、やっぱりって思ったのは…3人同時だったんですよね、あの時。私の手とか腕をつかんで立たせて、3人で、アキラさんのドラムセットに座らせてくれました」
R「ああ」
M「でもその時私は自分がどこに座っているのかよく分からなくて、何か皆さんの言葉を聞きたくて顔を覗き込んだりするんだけど、誰も私に目を合わしてくれなくて」
R「っは」
M「捉えられた宇宙人みたいな状態でしたよね」
R「あはは!」
M「力強く私を引っ張り上げて下さって、歩きながら首から上だけ動かして、頑張って皆さんを見ようとして。ドラムセットに座るまで3人の表情は分からなかったですけど、竜二さんが私の手にスティックを握らせてくれましたね。アキラさんのスティックでした」
R「そうだっけな」
M「手の中にある自分の物ではないスティックを見た時、ようやく涙が止まったんです。こいつを使ってやってくれ。はっきりとそう聞こえました。皆さんが楽器を担いでいつものポジションにスタンバって。その時見た3人の背中が、今も私の原動力なんですよ。私はもう二度と心を折られたリしない。ここで生きて行くんだって、そう思いました」
R「…何の曲やったっんだっけな」
M「ええ? だから『IMMORTAL WORK』ですよ」
R「…あぁー!そうなのか!? だからお前ベストの一発目にあれ推してたのか」
M「信じられない(笑)。忘れてたなら何でオッケー出したんですか?」
R「いや、別に良い曲だしよ。お前がそこまで推すなら、じゃあ、良いかーって」
M「もおー(笑)」
R「えー、覚えてないの俺だけかな?」
M「っはは、それは知りません。翔太郎さんが覚えていらっしゃる事だけは間違いないですけどね」
R「そっかー?言う程あいつ万能じゃないぞ?」
M「えー(笑)」
R「だってあいつ昔ポップコーンさあ…」
M「あははは!それ駄目!駄目です!」
R「何だよ(笑)。それよりどうすんだよこいつ、ガン泣きしたまま全然帰って来ねえじゃねえかよ」
M「放っておいてあげましょう。この人のこれはもう仕方ないです」
-- (何度も頭を下げてお二人から少し離れた)
R「俺さ、さっきお前が言ってた質問の答えは本気で思い出せないんだけど、改めて思うんだよ」
M「何をです?」
R「何つーか、あの時お前が叫んだ言葉や、表情や、声の張りとかさ、震えとかさ、そういう事ははっきりと覚えてんだ。…ボーカルだし」
M「関係ないです(笑)」
R「なー」
M「(爆笑)」
R「今、だからそうやってあん時の繭子を思い返してみてよ。さっきの繭子の質問の答えを考えてみると、もう何だろうな、意味分かんねえなーぐらいの感情になるんだよ」
M「あっは!意味ー?」
『翔太郎さんにこれだけは勝てない、大成さんにこれだけは勝てない。だけどこれだったら俺は誰にも負けない。そういう部分ってありますか』
R「あいつらに勝てないとか勝てるとかさ、そんなの一度だって考えた事ねえもん。きっと繭子にしてみれば、誰か他人と自分を比較して、自分の短所を直して長所を伸ばしてとか、そういう話を考えてたのかもしれねえけどよ。俺から見るあいつらはライバルじゃねえんだよな」
M「はい」
R「今思うとこの10年繭子もそうだと思うけど、絶対に、…うん、絶対にあいつらって途中で何かをやめたりしないだろ」
M「はい」
R「一度決めた事は絶対に最後までやるんだよ。そこの信頼に関しては誰にも負けないぐらい強いし、そういう奴ら相手に勝つだの負けるだのは無意味なんだよ。同じ場所へ向かってそれぞれの場所から全力で走っていくんだ。走ってる道は、もしかしたらそれぞれの人生って意味で言えば違うんだろうけど、最後には必ず同じ場所へ辿り着くと思ってる。それは繭子もそうだし。だから繭子の質問をどんだけ真剣に考えたって答えは出ねえし、うまく想像も出来ねえ。そういう意味じゃあ、俺には最初から、何んにも怖いもんなんてない」
M「…」
R「お前もそうだろ? 一人じゃねえもんな」
M「(堪えきれないという勢いで池脇に抱き着く)」
R「(驚いて抱きとめる)」
(慌てて駆け寄りカメラの電源を落とす)
(再開)
M「ちょっとー!(笑)」
R「今の止め方は駄目だ、完全に誤解を生む!あはは!スゲエ面白いけど多分駄目だ!」
-- すみません、ビックリして思わず(笑)。だけど繭子の衝動的な行為は誰にも誤解なんてされないと思います。繭子じゃなくたって、そこにいれば100人中100人抱き着いてたと思います。そのぐらい竜二さんが今、格好良かった。
M「まあね」
R「ならいいか」
M「(笑)」
-- でもそれだけじゃないですけどね。質問の答えとして完璧すぎました。
R「何が」
M「私が10年前に聞いた時に答えて下さった言葉と、ほぼ同じ内容でした」
R「へー」
M「へー(笑)」
-- 本当に覚えてないんですよね?
R「覚えてねえ。多分今言った事だって来年の今日は覚えてねえよ。でもきっと同じ質問されたらまた同じ事答えると思うぞ、俺馬鹿だから全然進歩しないし(笑)」
M「…」
-- …凄いですね。
R「声小っちゃ! …なんで今そこで泣くのか全然分かんねえ。なんか、俺だけ筋書きの知らないドラマを一緒に見てて、エンディング知ってる二人が先回りして泣いてるイメージ」
M「…全然ピンと来ない」
R「(爆笑)」
M「(耳を塞ぐ)」
-- (耳を塞ぐ)。
M「なかなか言えない事だと思いますよ」
-- 10年間何も変わらないでいられる事の凄さに気づかず、この先もきっと変わらないと思うなんて、普通は言えないよね。
M「ね」
R「馬鹿だからね」
M「違いますよ」
-- 本当に、翔太郎さんと大成さんを信用されているんですね。
R「それがなんだよ今更(笑)、あいつらなんてもう自分自身みてえなもんだよ」
-- それが凄いんです!
M「人を信用する事も、信用してるって言える事も、簡単なことではないと私は思いますけどね」
R「簡単だろ。一緒に生きてみればいい。それだけじゃねえか」
M「…信用できない人とは暮らせないじゃないですか」
R「そりゃ好きでもない奴とは暮らせねえさ。でも一緒に生きてみればそいつがどういう人間かはすぐに分かる」
M「結果その相手がとんでもない大悪党だったら?」
R「離れればいい」
M「その時間を無駄だったと後悔しませんか?」
R「そいつをクソだと思ったとしても後悔はしねえ。そいつをクソだと思えたテメエを褒めてやりたいね」
M「最初から信用出来る人と長く一緒にいられる時間が持てたかもしれないのに、勿体ない事したなって思いません?」
R「最初から信用できる奴なんてどこにいんだよ」
M「…確かに」
R「好きだと思える奴とテメエのやりたいように生きてるだけで良いんじゃねえかな」
-- なるほど。『信用はするもんじゃない、結果そこにあるもんだ』ですね。
R「へえ。誰が言ったんだ?」
-- 竜二さんです(笑)。
M「(爆笑)」
R「(珍しく少し慌てて)俺そんな事言ってた? まじで? なんで?」
M「(爆笑)」
R「格好わりーなあ」
-- そんなわけないじゃないですか!
R「言っちゃいけねえよなあ。そんな決め台詞みてえな手垢の付いた言葉をしたり顔で話すようになっちゃあ、俺もいよいよだ」
-- いやいやいやいや、そんな事言われちゃうと聞き出した事を後悔するじゃないですか。
R「(首を捻りながら)ダセえ」
-- 繭子、フォローして(笑)。
M「何だこのインタビュアー(笑)」
R「(ちょっと笑う)」
M「私みたいなのがフォロー出来る事じゃないけどさ。この人達の凄い所は思ってる事を漠然とじゃなくてちゃんと自分の言葉で他人に言える所だと思うの。でもそれは間違いなくトッキーが聞くから敢えて答えてるんだけど、きっと聞かれなくても最初から皆の中に思いとしてあってさ。言うか言わないかの違いだけで、答えはずっと皆の胸にあると思うんだよね」
-- うん、うん。
M「それは自分で考えて行動してきた事の結果だったり、裏付けのある自信だったりがあるから平然と言葉に出来るんだって、私は思ってるかな」
R「(誰の事を言っているんだろう、という顔)」
М「フォローになってる?」
-- 超なってる(笑)。そうなの、そこもだから、私達のジレンマというか弊害というかね。全てにおいて彼らが発した言葉っていうのは、間違いなく私が質問した事への回答だからさ、その声なり言葉なりを文字に起こした時に、彼ら本来の人間性と乖離しちゃう事ってあるんだよね。
М「…カイリ?」
-- かけ離れるんだよね。
М「あー、どうだろう(池脇を見る)」
-- ウソか本当か、本音か建て前かっていう部分を考える前にさ、『こういう事をサラっと言ってのけちゃう人なんだな』とか『めちゃくちゃお喋りな人なんだな』っていう余計な印象を読者に植え付ける事がこれまでもあって。
М「うんうん」
-- ものすごーく寡黙な人相手でもさ、粘り強く取材を続けて言葉を引っ張り出せば、本人の意図しない人格を形成する事だって出来るじゃない。人にもよるけど、そこを気にしすぎて物凄く素敵な言葉や考え方を掲載出来なくなるっていう悩みを抱えたりもするんだよ。
М「なんで? 悪さする意図がないなら、書けるでしょ」
-- 悩むよね。
M「なんでよ(笑)。印象操作って事?」
-- そう。特にこういう、一年はやり過ぎかもしれないけど(笑)、長期的な取材になると『インタビュー』とは別の部分でも人として深い部分を話していただける事ってあって。
М「雑談とか?」
-- 私の呼び方だけどね。うん、でもそういう会話の中にこそ重要な事って含まれてたりするけど、それって言ってしまえば『発信したい事』ではない場合もあるでしょ。そこは聞いてて私にも分かるから、記事にしたい、でも出来ない、すると余計なフィルターをかけてしまう、固定観念を植え付けてしまう、とか考えちゃうからね。
R「俺は別になんとも思わないけど」
-- いやだって、ご自身が発言された事に対して『ダセえ』って仰るじゃないですか。それなのに私が無邪気に書き起こす事は出来ませんし、繭子が言ったように、普段から当たり前のように思っている事でも私が聞く事で敢えて言葉にしてもらった大切な部分を、そういう誤解を与えるきっかけにするわけにはいきませんよ。
R「いやいや、そんな事気にする必要なんかねえよ。ダセえもんはダセえんだ。仕方ねえよ、それが俺なんだから」
-- いやいやいやいや!そんな訳にいきますか!
R「(爆笑)」
M「トッキーはだから、その時点でもうフィルターをかけようとしてるんだよ」
-- え?
M「もう思考がバイラル側なんだよ。格好良く見てもらおう、彼らの魅力を届けたいってそればっかり。それは悪い事じゃないけど逆を言えばありのままの彼らを何で見せちゃいけないんだって事にもならない?」
R「おー(笑)」
-- あああああ。
M「(池脇をチラリと見て)…出過ぎた真似を…」
-- あはは!いやいやいやいや、本当にその通りだよね。
M「もちろんトッキーが色々気にかけてくれてる事は十分知ってるから、トッキーのスタンス全部が駄目だなんて言ってるわけじゃないよ。その、さっき自分で言ってた掲載すべきがどうかの部分ですごく悩んでくれてる事とか、有難い事なんだよなって思ってるし。だけどその部分と、私達の発言によって私達がどう思われるかまでは、それは考えなくても良いと思うな」
R「…おおー(笑)」
M「っはは、何なんですか」
R「大人になったなー、お前なー」
M「にじゅーきゅー、なんで」
R「っかー(笑)」
M「竜二さんがタブーなんてねえってよく言ってるのはそこなんだろうって思う」
-- ああー、なるほどね。
M「話の内容によってはそりゃ気にしなきゃいけない部分ってあるんだろうけど、要は自分が話す言葉によって周りからどう思われようが何を言われようと、気にしないしどうでも良いっていう、そういう事ですよね?」
R「(頷く)」
M「この一年皆のインタビューを、全部じゃないけど見た時に確信したのはそこだよね」
-- ん、そこって?
M「普段全然喋らないこの人達がさ、聞かれた事にはびっくりするぐらい丁寧に答えてたでしょ?もう最初めっちゃ驚いたし」
-- ああ(笑)、懐かしい。そうだったね!
M「私自身はタブーなんてありまくりで生きて来たしさ、言いたくない事だらけだったけど、段々そういう皆を見てるうちに羨ましくなって来て」
-- 色々話せてる事が?
M「そう。そいでまたその方が格好良いなって思って。まあ、そう思えるようになったのはつい最近ですけども(笑)」
R「あはは!」
M「私、竜二さんが話してる内容はほんと、ここだけの話ほとんど全部、織江さんとかトッキーに頼んでビデオ見せてもらってたんですよ」
R「あー、そうなんだ。何で?」
M「竜二さんて普段あんま深い事言わないじゃないですか」
R「(爆笑)」
M「(耳を塞ぐ)」
-- (耳を塞ぐ)
R「え、それ逆を言えば翔太郎大成は普段からなんか偉そうな事言ってんのか?」
M「言わないです(笑)。でも輪をかけて言わないんです、竜二さんが」
R「へー」
M「竜二さんはこの一年で他の皆さんのお話ってチェックしてました?」
R「全然(笑)。ただなんつーの、話の内容は興味ねえけど、それぞれの言葉で昔話をしてるあいつらの側を通りすがりで見たりとか、そういう場面って今までなかったからそこはずっと新鮮だった」
M「あー、確かにそれもありますね。生で見るってなかなかないですもんね」
R「Billionとか他の雑誌取材で音楽以外の話ってまずしねえし。でも実際に本音が出るのってそこ以外の話だからな」
-- そうですよね。
R「実際、昔の話なんてどんな内容であれ、実は俺もその場にいたりするからな。懐かしいーって言いたくなるような場面でもよ、翔太郎や大成が改めて自分の言葉で喋ってんの聞いたりすると、なんかすっげー新鮮なんだよな」
M「確かに(笑)」
-- それはきっと去年後半の事を仰ってるんだと思いますが、その事に関して私としては翔太郎さんのおかげだとしみじみ思ってます。
R「ん?」
M「自分達のこれまでを記録保存して、一旦リセットして行こうかっていう申し出の事です」
-- そうです。
R「あー、なるほどな。そういう意味でな」
M「翔太郎さんからその話をされた時皆会議室にいて、一瞬重苦しい沈黙になりましたよね」
-- そうなんだ!?
R「全体会議(笑)」
-- ええ!?
R「そりゃーやっぱり、とんでもねえ事言うなって思ったよな」
M「そうですよね(笑)」
R「あいつがそれを言うって事はきっと本当に全部話すって事なんだろうなって。…繭子の事も、自分達の事も、アキラの事も、全部って事だろって。それってどうなの? 俺が自分で自分の事喋るのはアリだけど、お前らそれ他の人間に喋られてアリなのか?って」
-- 確かに。
M「でもその時点で私自身が、自分の学生の頃の話をしちゃってるわけなんですよ。だから私は私の事よりも皆の昔の事思い出して、普通に無理でしょって(笑)」
R「収録できないでしょって?」
M「ピー!(笑)」
R「まあな。だから大成がそん時言ってた言葉が俺の答えとほぼ一緒で」
M「はい、私もそうです」
-- 何と仰られたんですか?
R「(繭子を見る)」
M「(視線を受けて)『誰に言って聞かせたい話とか、自慢したい話があるわけじゃないけど。ただお前と違って最近忘れっぽいから、時枝さんに話す事でもう一度思い出してみるのは面白いかもな』って」
-- 大成さんがそんな事を…。
M「『なんだかんだ言ってずっと面白かったからなー、俺』って言われて私何も反論なかったです」
R「(頷く)」
M「そうだよ、面白かったよ、ずっと楽しかったんだって思って」
R「それ聞いた織江が嬉しそうでな。そういうの見ちゃうとついな、おお、良いね良いねってなるしな」
M「なりますね。しかもその時誠さんもいてさ、『私にも喋る権利あるー?』ってめっちゃ楽しそうな笑顔で。やべえっていう顔してる翔太郎さんが可笑しくて!」
R「あったな(笑)」
-- 目に浮かびます(笑)。
M「ただもちろん、本になる、本にしたいって言われた時は動揺したよ?」
-- それはね。ちょっと話の路線が違うものね。
M「うん、記録として残しておく為に昔の話をするのは精神衛生的に良い部分もあったし、私だけの話じゃないから色々聞けるのはちょっと楽しみでもあったし。ただそれを全然知らない第三者に読ませるって何でよって、それはちょっと今でも思ってる所あるしね(笑)」
R「まあそれが当たり前の反応だよな」
-- そうですよね。
M「そこも踏まえて振り返った時にさ。だから私はやっぱり、この話とかこの日とかじゃなくて、この一年で一杯これまでの皆の事を思い出したり、感謝したり、泣いたり、そうやって過ごした時間が幸せだったんだよねって思う」
R「(頷く)」
M「過去の出来事って自分の中では、通り過ぎた事として経験に変えちゃってる部分もあって、敢えて振り返ろうとしない場面もあったりするでしょ?」
-- はい。
M「だけどそこには大切な、忘れちゃいけないような思い出だって一杯あったわけだし。そういうのを改めて考えたし、何より自分だけじゃなくて竜二さんだったり、翔太郎さんや大成さんの口から当時の気持ちを聞けた事とか。…うん、幸せだったな」
R「いいねー」
M「あ、今綺麗にまとまってましたね。お疲れ様でした!」
R「した!(立ち上がる)」
-- 待って待って!そんな急に終わらないで!
M「あははは!」
-- もー!びっくりしたー、今。本気で終わったかと思った。
M「(両手をハサミにして)上手く、コレすれば」
-- 綺麗に終わるって? まーねー(笑)。
R「なら全然関係ない話していいか?」
-- お願いします!お願いします!
M「必死(笑)」
R「今でも具体的な事って何も聞いてないんだけど、ちょいちょいお前と自分を比較して器の小ささを嘆くわけ、あのー、あの人が」
M「?」
-- 名前伏せなきゃ駄目ですか?
R「いや(笑)」
M「URGAさんですか?」
R「おお」
M「私と比較してですか? ちょっと意味が分からないですね」
-- 繭子と皆さんの関係を傍から見た時に、とても真似が出来ない部分があるっていうお話は私も聞いた事があります。その事ですか?
R「多分、そうかな。具体的な『何』っていう部分は笑って首を振るだけだし分かんねえけど。前にお前あの人の家行って色々話したんだってな」
M「いつだろう」
R「年明けて、末ぐらいか?」
M「っはい、はい」
R「何話したんだよ」
M「え、言えませんよ」
R「何で」
M「ガールズトークなんで」
R「何だそれ」
M「URGAさんが話して良いっていう許可を出すまでは、言えません」
R「そういうもんなのか? いや、俺は別に何でも構わないけどな。ただよく分かんねえ所あるからよ、聞いて欲しいのか欲しくねえのか。考えたって俺は分かんねえから」
M「それらしい、聞いてよーみたいな、そういう雰囲気になるんですか?」
R「それも分かんねえ。突然繭子の名前が出て、お前みたいにはなかなかなれねえとかそういう事は言うかな」
M「えええー(腕組み)」
R「それが何なのかも俺は別になんだって良いけどよ、どういう話をしたのかが分かればすっきりすんのかなって」
M「うんうん(頷く)」
R「…いた?」
-- 私ですか!? さすがにその場にはいませんでした(笑)。それってあれですか、年明けの、会議室での皆さんとの会談での件を仰ってるんですか?
R「それもだから分かんねえって(笑)」
-- あはは。
M「そんな、何ていうか、哲学的な話とか難しい事は何も言ってませんよ。私の目から見た、この10年の皆さんの事とか。…うん、そういう話ですから。ただそれを受けてURGAさんが仰って下さった話の内容は、私は口が裂けても言いません」
R「お前(笑)」
-- 余計に謎を振りまくっていう暴挙。
M「あはは。でも、うん…うーん! こればっかりはね、言えないんです。ごめんなさい」
R「え、謝られるような話なのか?」
M「内容うんぬんもそうですけど、私が竜二さんに向かって首を縦に振らない事がもう苦しくて仕方ないです」
R「おいおいおい、そんな脅迫紛いの話はやめよーや!」
-- あははは! でもガールズトークなんだ?
M「ガールズトークって実際何?」
R「(爆笑)」
-- 恋愛トークじゃない?
M「ああ、じゃあ、そうかも」
-- 繭子はURGAさんの話を聞いてどう思ったの?
M「んー、まあ、仕方ないんじゃないかなって」
R「…」
M「…ちょっと待って!何喋らせようとしてんの!?」
R「(爆笑)」
-- (両手を上げて)ごめん、職業病の悪い癖が出た。今のは誘導尋問だった、心からごめんなさい。
R「(爆笑)」
あいつの笑い声ってドア閉まってても聞こえる気がすんの俺だけ?
ああ、俺も聞こえるわ、イラっとするよな。
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