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56「フロム・サーティーン 1」
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2017年、3月19日。
会議室にて。
芥川繭子(М)×関誠(SМ)×伊藤織江(O)。
撮影用カメラとパソコンをダイレクトでつなぐ作業でたまにエラーが起きる。
ケーブルで繋いで編集ソフトとの認証を確認するだけの簡単な接続作業の筈なのだが、連続して長時間使用する事の多い機材の為か、ハード機器も接続部品も突然音を上げるのだ。
予定時間直前になってそういう事態に陥ると非常に焦り、大いに困る。
独り言が多くなりぶつくさと文句を言いながらキーボートをガチャガチャ叩いていると、
立って作業をしていた私の背後にいつの間にか関誠が歩み寄って来ていた。
「代ろうか」
唐突に耳元で話しかけられて私は飛び上がり、それを見た彼女が愉しそうに笑い声を上げる。いまだに私は彼女を間近で見ると顔が赤くなってしまう為、2、3歩後退しながら胸に手を当てる。
-- 脅かさないでくださいよ。
「そんなにびっくりしなくてもいいでしょ」
普段から男前所、綺麗所と接する機会の多い仕事ではあるが、彼女は別格だ。写真という平面の美しさでは伝わり切らない圧倒的な存在感を放っているのが、この関誠という女性なのだ。(背が)大きいからね、と本人は笑って受け流すが、もちろんそれだけで息を呑んだりするわけがない。
-- やっぱりキレイ。
「声に出すな(笑)」
慌てて両手で口を押える私に目を細くして笑うと、彼女は素早くキーボードとマウスを触り、見事にものの一分程で再接続を完了させてしまった。
「これでいいね?」
-- ありがとうございます。なんでも出来るんですね。
「うん?」
-- 慣れてる私でも何度か同じ作業繰り返すくらい面倒なエラーなんですけどね。
「分かっちゃうと意外とそうでもないよ。あとでコツ教えてあげる」
-- 苦手な事ってないんですか?
「虫」
-- ふふ。そういう事でなくて。
「例えば何のこと?」
-- 壊滅的に料理が出来ないとか。
「一人暮らし長いから、そこはね」
-- 分からないじゃないですか。翔太郎さん優しいから言わないだけで、実は。
「くっそ不味いって? あはは、もしそうならあの人どんだけ我慢強いんだってなるね。結構食べてもらってるけど、概ね高評価をいただいておりますよ。優しい嘘じゃなければね」
-- 凄い。わざわざ料理作ってあげてる側なのに『食べてもらってる』って言えちゃうんですものね。私思った事すらないですよ。
「私、創作料理に果敢に挑戦するタイプだからね(笑)。たまに色味のおかしいモノ出して不思議な顔されたりするけど、そういう時でも文句言わずに食べてくれるから、まあ協力者だと思ってるよ」
-- ほえー。料理研究家を目指してるわけでもないのに?
「食べるのも作るのも好きは好きだからね。毎日ってわけじゃないし苦じゃないよ。それにこういう言い方しちゃうとおかしな人みたいに映るかもしれないけど、翔太郎って放っておくと適当な物食べて済ます人だから心配になるじゃんか。あれだけお酒飲む人だし、ご飯はちゃんと食べて欲しいからね。昔からそうだけど一度も料理作れとか言われた事ないしさ、作ってもらうのが当然だと思ってない人だから、逆に色々したくなるというかね」
-- ふふふ、完成されてますよね、誠さんね。
「失礼だな。まだまだこれから発育するんです」
-- 発育(笑)。眉目秀麗、語学堪能、料理自慢で機械にも強いって。
「あと喧嘩も強いよ」
-- あははは!文武両道!
「明朗快活、猪突猛進、食欲旺盛、早寝早起、焼肉定食」
-- お腹痛い(笑)!
またも気が付かなかったのだが、そんな私達を伊藤織江と芥川繭子が会議室の入口に立って眺めていたらしい。関誠はすでに気付いていたようで、思う存分私を笑わせると片手を挙げて2人に言葉を掛ける。
開口一番私は伊藤と繭子にこう質問する。
-- 誠さんに弱点ってないんですか?
二人は顔を見合わせると、「翔太郎」「さん」と即答した。
それを受けて『違いない』と関誠は笑うのだが、その表情を見る限り到底弱点だとは思えなかった。
-- お待たせしてすみませんでした。では、始めたいと思います。是非一度はお願いしたい企画だったので念願叶って何よりですかが、タイミング的に今回限りとなりそうですね。なかなかOKして貰えなかったこの企画の趣旨などを改めて説明させていただきますと、えー、もう、ただの趣味です。
M「(笑)」
-- 何度かそれなりに理由を説明させていただきましたが、その都度「なんだかんだいって趣味だろ」「やりたいだけだろ」という茶々が入るのでもう諦めました。趣味です。綺麗な女が大好きです。それでいいです。
M「ちょっと怒ってんじゃん」
SM「仕方ないよね、だって趣味だもんね」
O「容赦ないね(笑)」
SM「しないしない、もう今更この人に容赦なんてしないよ」
-- (笑)。
M「でもダメだよ、全然堪えないね、トッキーはマゾだから」
O「懐が深いって言ってあげなきゃ悪いよ? これはでも表には出ないよね。バンドの取材とは関係ないものだよね」
SM「ダーメダメ。時枝さんがそうだとしてもメンバー自身が面白ければなんでもアリだって人達だもん。もう線引自体無意味になってきてるんじゃないかな。ノリで全部採用されちゃうと思う」
-- またまた(笑)。
O「ああ、そうかもしれないねえ。じゃあやっぱり気を抜かない。社長モードで行こ」
SM「お、じゃあ私も出来るモデル風でスカして行こう」
M「ずるい。私何がいいかな。天真爛漫な妹設定で行こうか?」
SM「自分では設定のつもりなのか。いつもはじゃあ、お芝居だったんだね?」
M「そうそう」
O「時枝さんに本物の繭子を引きずり出してもらわないとね」
SM「私並には恥かいてもらわないと割に合わない」
-- (笑)。
М「それは知らないよ。でも簡単に尻尾掴ませないよ、この芥川繭子って女は」
SМ「それも自分で言うんだ」
M「無邪気な感じ出てるでしょ?」
SM「計算高い天真爛漫だなあ(笑)」
M「全部計算」
SM「ウソつけ!」
-- あはは!
O「はーい、はい。よし、じゃあちゃんと座り直す所から始めましょうか」
SM「はい」
M「はい」
二人の居住いを確認する伊藤の姿勢は、入室し、着席した瞬間からずっと美しいままだ。
O「…それでは、準備オッケーです」
-- もう録ってるに決まってるじゃないですか(笑)。
O「(首を横に振る)いいえ、今からです」
SM「っは!」
-- ふーう、さっすがですねえ!
M「うちの代表舐めんなよっ」
SM「ボン、オン コモンス?」(フランス語=「さ、始めましょうか?」)
M「何今の…ずっる!」
O「今のはずるいよねえ」
M「ねえ」
SM「なんで? 出来る女社長に対抗するスカしたモデルの演出としては、完璧でしょ?」
O「あはは!」
-- 『翔太郎さんの女』って感じ出てますね(笑)。
SM「はあ?(笑)」
M「いいね、それでこそだ」
SM「絶対チクってやろ。絶対だ」
O「あはは!」
M「ごめん!」
(一同、笑)
-- 今日は本来なら、翔太郎さんに編集確認の為のお時間を頂戴する予定でしたが、体調を崩されたとの事で急遽お休みになりました。代わりに派遣されてこられたのが誠さんなわけですが、今回このような並びでお話する事が出来たのも、何を隠そう誠さんご自身の提案があっての事です。ありがとうございます。
SM「全然平気」
-- あっさり(笑)。
SM「色々お世話してもらったからね、一度ぐらい言う事聞いたげてもバチは当たらないかなと思って」
-- 恐縮です。お世話した記憶はないので、ひたすら誠さんのお心遣いに感謝してます。
SM「…全然平気」
-- っははは!
SM「そんな大した話じゃないでしょ(笑)」
-- 翔太郎さんのお加減はいかがですか?
SМ「大丈夫、過労と風邪が重なっただけだと思うから。でも昨日の晩にグンって熱が上がっちゃったからもういい加減にダウンしてもらったんだよ。本人はいたって元気です」
-- 良かったです。何気にこの密着取材を始めてから約束の予定が飛んだのは初めてなので、少し不安でした。
SM「そうみたいだね。今回はたまたま事前に気が付いたからよかったけど、多分これまでも体調崩しながら練習なり取材受けてる事は普通にあったと思うよ。先月もほら、肩痛いとか首痛いとか」
-- ありましたね。
SМ「でも絶対練習休むとか言わないし、そもそも本当気づけないからね。織江さんでも分からないって言うし」
O「なんで分かったの?」
SM「離れた場所から、煙草を根元まで吸い切らずに消したのを見てて。なんとなく嫌な予感がして寝てる間に熱計ったら8度以上あって」
O「わお。覚えとく」
SM「あー、でもこれ言うと次からしんどくても吸い切るようになっちゃうな。今朝もね、ちゃんと休んで早く治す方が皆に迷惑かけなくて済むからって私言ったんだけど、『風邪引いたぐらいで寝込むとかおかしいだろ』って言うわけ。普通は休むのって言っても普通は休まねえって却って怒っちゃって。『平気な顔で我慢してりゃそもそも迷惑かけずに済むから』っていう理屈でさ。なんとなくだけどこれまでずっとそうだったんだなーって思って」
M「あはは」
SM「笑いごとじゃないって(笑)。私自分も仕事してたからそういう所ホント見逃してたんだなって気づいて冷や汗出たもん。こういう人だった、忘れてた!って」
-- ほんと皆さん練習には命かけてますね。
SМ「それもそうだし、単純に迷惑かけるのが嫌なんだと思うよ。もっと言えば、メンバーに対しては本当に尽くす女みたいなスタンスだからね」
-- 妬けちゃいますね(笑)。
SM「いやあ? というか却って迷惑かけてると思うから。繭子に移したらどうするの、時枝さんに移しちゃったら責任取れないでしょって、そこまで言ってようやく着替えるのやめたぐらいだし。自分が辛いかどうかは考えてもないね」
-- とことん、ですね。
SM「だから今日のこれだってさ。じゃあお前俺の代わりに面白い話して来てくれって言って送り出されてるからね。今日インタビューじゃないのにそんな言われ方してさ、もう必死だよ今。あの手この手。喋りすぎでごめんね!?」
-- いやいや(笑)。
O「頑張ってんなーって思った」
SM「わーい」
M「私は今超耳が痛い」
SM「うん、繭子にも言ってるからね」
M「気を付けます」
O「(嬉しそうに小さな拍手)」
-- 特にテーマを設けようとは思いませんが、一つ許されるなら、泣かなくて済むお話を聞きたいですね。
O「それはあなたが頑張って(笑)」
-- 耳が痛いです。
M「私知らなかったよ。翔太郎さんに、もう泣くなって言われてたんだってね」
-- ああー、うん。でもそれと今の話は別だよ。せっかくニューリリースやアメリカ進出を目前に控えたワクワクする時期なのに、こちらからお願いしているとは言え結構深く心を抉っているのではと、ここ最近反省している部分もあるので。
M「んー。そうでもないよきっと」
-- そうなのかな。
M「こういう言い方するとおかしいけど、一度は経験した感情だし。それはその瞬間のピークを越える事は絶対にないしね。改めて考えるとやっぱり辛いな、寂しいなって思う事はあるけど、皆そこを乗り越えてここにいるから今更抉られたりしないし、逆に話してみる事で気持ちが楽になってる部分もきっとあるんだよ」
-- …今絶対私を泣かす気で言ってるよね?
M「バレた(笑)」
-- ひどい!でも、嬉しいです。
M「ほんとほんと、特に私なんかはその傾向が強いかな」
-- そうなんだ?
M「そもそも私この二人には完全に理解されてると思うんだ、全部。だから、もうそれだけで十分だって思って生きてきたからさ。それ以外誰に何を聞かれても適当に答えてた気がするんだよね、これまでは。だから覚えてない事も多いんだよ実は」
-- 複雑なだなあ、なんか、悲しいような嬉しいような。
M「私も複雑なんだよ。ちょっと前に誠さんと三人で話した時にさ、トッキーが熱く音楽について語ったでしょ。その時に誠さんがそもそも音楽にそういう余計な情報いらないじゃんって言ったの覚えてる?」
-- もちろん。
SM「繭子爆笑してたよね」
M「うん。私実はどっちも分かるんだ。トッキーみたいにさ、色々言いたくなる衝動も理解出来るし共感できるの。でもそれって私の中では自分のバンド内でしか起こらない衝動だから、外に対して発信したいとは一切思わないんだよ」
-- うん、うん。
M「それと同時にね、誠さんと同じで、ただ聞いて楽しむだけが全てだろう?っていうスタンスも凄く理解できるの。外に対してはそういう感情で接してるから何も言えないし言いたくないと思ってて。だから去年一年トッキーに取材してもらって、他のメンバーのストレートな言い方や気持ちなんかを全部ではないけど、私もその場で聞く事が出来たのはとても貴重だったし、嬉しいし、きっと他の人達も同じ様に感じてると思うよ」
-- 嬉しい。
M「それに私自身さっきも言ったけど、ずっと言わないでいようと思った事でもさ、言ってみると気が楽になる事ってあるなって感じたし。誠さんもあるよね?」
SМ「そうだね」
M「織江さんも?」
O「うん、そう思うよ」
M「うん。…それは私の学生時代の事だけじゃなくて、そういうのを経て日々どういう感情で生きて来たかとか、そこまで含めて考えた時に、私の中では当たり前のようにある気持ちだったとしても敢えて言葉にすることでびっくりされたり、喜ばれたリとか。そういう発見が去年一年はいっぱいあったから、良かったんだと思う。今にしてみればね」
-- (頷くしかできない)。
SM「ハイ泣いたー(笑)」
M「早いぞー」
O「常に涙9割の水瓶だね」
-- いやいやだって、今の繭子の言葉で全部報われた気がしますもん。ありがたい言葉をいただいたなぁと思って。
M「こちらこそ。こちらこそってフランス語でなんて言うの?」
SM「メルシーボークーで通じると思うよ」
M「あはは、URGAさんだ。メルシーポークー!」
SM「豚、ありがとう!」
M「…間違えた?」
-- (笑)、URGAさんと言えば、彼女のクリスマスコンサートを皆さんと一緒に観覧した時にもこの状態に近い状況にはなりましたね。その時はもう一人、大成さんがいらっしゃいましたけど。
O「ディナーの時?」
-- そうです。コンサート前にレストランでディナーをご一緒させていただきましたね。
O「あの時も割とプライベートな話結構したよね」
-- でも緊張しすぎててあまり覚えてないんです、実は(笑)。
O「緊張?」
-- ドレスコードがあるわけじゃないのに、皆さん割と煌びやかな衣装を着ておられて。大成さんなんてスタジオだと冬でも薄着じゃないですか。なのにその時はタキシードとロングコートで、私ゲスト出演されるのかと勘違いしたくらいです。
O「ちょっとディスってる?」
-- ディスってません!
O「似合ってたと思うけどなぁ」
-- もちろんです。でも普段と違う装いの雰囲気に圧倒されてしまって、見とれてしまいました。
SM「大成さんはほんと衣装選びし甲斐があるよね。織江さんもそうだけど、雰囲気作りが上手いんだよ。演出が出来る人というか。『夜が似合う』二人だよね」
M「私だけ普通に革ジャンだったからちょっと怒ったもん、言ってよって(笑)」
SM「そもそも打ち合わせしてないもんだって」
O「非日常を楽しもうとする気持ちが強いのかもしれない。本当は私がそういう特別な日にドレスアップしたりするのが好きなの。でも私一人だと浮いちゃうから、大成にも着飾ってもらってるっていうのはあるかな。本来は私達二人だけそうなる筈だったのが、誠と時枝さんも綺麗目な服装だったもんね」
-- 完全に余所行きの、普段袖を通さない服を引っ張り出しました。ここぞとばかりに。
O「よく似合ってたよ」
SM「そうだね、別人だと思ったもん最初」
-- ありがとうござます。
M「ずるいよなあ。私と竜二さんと翔太郎さんは相変わらずだったけどね。3人ともライダースだったし」
-- 同じ会社の人間とは思えない組み合わせだなあーって言われてたね、URGAさんに。
SM「実はあの後翔太郎に言われたもん。お前らちゃんと声かけてやれよって」
M「え、嘘」
SM「向こうも冗談半分だと思うよ。良い大人なんだしいちいちそんなトコ声かけしないよって言ったら笑ってたけど、でも気付く人は気付くんだなってちょっと思う所もあったよ、正直言うと」
M「あはは。私が言っちゃダメかもしれないけど、それはちょっと過保護だよね」
O「言うな言うな(笑)」
M「あはは」
-- 愛されてるなあ。
M「いやいや、単純にさ、あの二人がライダース着てたから自然と側に居やすいでしょ。そこでなんとなく気が付いて、言ってくれたんだと思うけどね。それは多分、私だからとかじゃないよきっと」
SM「繭子だからだよ」
M「ええ?」
SM「全然別の日だけどさ、私たまたま翔太郎の前でジャージ着てたの」
O「あっは、似合わない」
-- 似合いませんね。
SM「なんで!? 着るよジャージぐらい」
M「ジャージのイメージはないね。私にくれた練習着だってちょっと流行りのシュッとしたパンツだったし」
SM「…なんの話?」
-- ジョガーパンツの事ですよ。
SM「シュッとしたパンツ(笑)」
M「呼び方はなんだっていいじゃん!」
SM「あはは。そいでね、最近はマシだけどさ、冬場でも雪が降ったりとか特別寒い日とかあると、やっぱり胸の筋肉が縮こまったようになって腕が上がらない感じになるんだよ。引っ張られるような違和感というか。それをストレッチの要領で伸ばすんだけど、こうやってバスケットボールを手で挟んで持ち上げたりとか。それをやる時にジャージ着てやってたら後ろで翔太郎が見てて。汗かくぐらいやってたら凄い珍しそうな顔で見てるからさ、『セクシー?』って聞いたら『モデルって努力の仕方が独特だな』って見当違いな答え返って来るわけ」
M「(爆笑)」
O「そういうんじゃないと(笑)」
SM「そういんじゃないし、うん。リハビリだからって。モデルやめるって言ったでしょって。『ああ、そーかー』ってすっごい適当な事言われてさ。『どうする? 私このままジャージ大好き女子でスッピンで生きて行きますって言ったら、嫌だ?』って聞いたら『お前がそうしたいんなら俺は構わないよ。けどそれならお前の持ってる服全部繭子にやれよ。あいつお前の言うリハビリ着程度の服でステージ上がろうとすんだぞ』だって」
(一同、爆笑)
繭子、両手で顔を隠す。
O「優しいんだか優しくないんだかさー。そういう事言うもんね、あの男はね」
SM「私それ聞いた時めっちゃ笑ったけどさ、でも同時にやっぱり凄い人の事見てるなと思って。毎日顔合わせて同じ時間を共有してるから色々見えてくるのは分かるけどさ、服装にまであれこれ言うんだって思って。ちょっと面倒臭くならない? 正直に言ってみな?」
M「あはは、え、何が? 翔太郎さんが?」
SM「うん、いちいちうるさいなーとか思わない?」
M「いやそれだって、今初めて知ったもん(笑)。普段そんな服装の事とか言われないって」
SM「そうなんだ!? そっかー、まあ、それならいいのか」
O「言っても皆そこまで高級ブランドの衣装でステージ立ってるわけじゃないけどね。ライダースとかは素材が革だからそりゃそこそこ値段したけどさ、私物でステージ立つ時もあるし。そもそも衣装なんてあってないようなバンドだもんね。リリースの時にジャケット撮影用で一式揃えたりするけど、それも年一回だもんね」
-- 夏場ならバンドTシャツとデニムですからね。
O「なんならそれも脱ぐ奴いるしね、上は」
-- 確かに(笑)。
M「服装に興味ないからかなあ。そういう所を言われてるのかもしれないね」
-- なんかさ、敢えてっていう部分も感じるよね。
М「ん?」
-- バンドとしては繭子を特別扱いしないし、する気はないんだけど、でも女性である事を無視したくはない、そういう部分を抑え込んで欲しくないっていう風にも考えてくれていそうな気がするんだ。それは3人とも。だから男性3人は適当な服装であっても、繭子までそれに付き合う事ないよって思ってくれていそう。
M「そうなのかな。もしそうなら嬉しいけど、でも本当興味ないんだよ」
SM「昔から私の服よく着てるけど、あれもやっぱり好きで着てるわけじゃないの?」
M「誠さんがお洒落なのはもう間違いないから、安心して着れるっていう理由かな。何着ても変にはならないだろうなって」
SM「そういう理由なのか(笑)」
М「もちろん好き嫌いはあるから興味がないって言うより、お洒落を楽しむ自分に興味がないのかもしれない」
O「そこを楽しもうという事に意識がいかないんだ?」
M「うん。…うーん、難しいな。言ってもほら、このライダースを貰った時ってすんごい嬉しかったし、毎日着る!って言って本当に毎日着てるし、毎日格好いいって思ってるの。そう思うとその意識もお洒落を楽しんでるって事になるのかなあって一瞬思ったけど、どうだろ」
SM「でもそれってライダースだから嬉しいわけじゃないでしょ? 翔太郎が着てたこのペイントの懐メロ革ジャンだから嬉しいんでしょ?」
M「変な言い方やめて(笑)。なんかダサいっ」
O「懐メロ革ジャンはやばいな」
M「まあでもそうかもしれない(笑)。ライダースじゃなくても、きっと嬉しいもんね」
-- でも私繭子の練習着とか、私服もそうですけど、全部好きですよ。変だと思った事一度もないですけどねえ。
SM「冒険しないもんね。Tシャツとジーパンでしょ。冬ならパーカーに革ジャンだし。大体色は黒、青、白、グレー」
M「うん(笑)」
-- 確かに。
SM「ピンクとか着てみればいいじゃん」
M「なんで、嫌だよ」
SM「ピンクの花柄!今度持ってくるから」
M「嫌だよ!」
-- お二人だとどちらの方が身長高いんですか?
SM「背? 私の方が5センチくらい高いかな。ヒール履くと翔太郎と同じぐらいになるし」
O「でも履かないよね。誠ってヒール似合わないよね」
SM「うん(笑)。顔が幼いってよく言われる、ガキみたいな顔だなって」
O「あー、ガキではないけど(笑)。首から上と下でアンバランスになっちゃうんだよね」
SM「だからってあんまり濃いメイクしすぎると衣装の持ち味と合わなくなるから、昔から苦手な服装とかアイテムとか避けてたもん、ヒールもそうだし。これは私じゃない」
O「年齢が上がって来るとマニッシュな格好はメインページで求められる事が減ってくるよね。特集として組む事はあっても、やっぱり王道でOLとか出来る女ファッションが中心だったりしない?」
SM「うん、需要の多い部分でページ割くのは基本だからどうしたってベーシックとか着回しが多いね。私の場合ヘアスタイルも織江さんみたいに伸ばせばまた状況は変わってたんだろうけど、なんかせっかく好きでショートにしてるのに、仕事に寄せていくのは嫌だなあってそこを拘っちゃったんだよね。あともっと色を明るめにしたりとか、色々チャレンジしておけばもっと上に行けたかもね」
O「言うねえ」
SM「なはは。終わってから言うなって?」
O「雑誌の表紙を飾る人がもっと上って言えばそれはもうテレビタレントだけどね?」
SM「あはは、あー、それはないかな(笑)」
M「前からちょっと気になってたんだけどさ」
SM「うん」
M「誠さん写真撮る時口開いてる事多いのはわざとなの?」
SM「え。写真の選別は私じゃないし、狙ってそんな事しないけど?」
O「インスタとかツイッターじゃない?」
SM「ああ、ああ」
M「そうそう。なんかさ、一番多いのは澄まし笑顔なんだけど次に多いのは『わー』って言ってそうな感じで口開けてる写真なの」
SM「分かった分かった、アレね。うん、わざとと言えばわざと。丸顔だから苦労してんの(笑)」
M「そうなんだ。可愛いけどさ、流行ってんのなかと思って」
SM「流行ってない、流行ってない」
M「そっか(笑)。でも誠さんと言えばこの顔だなって思ってたから好きだし、良いと思うな。髪型だってショーヘアで誠さんより似合っててキレイなモデルさんて、私見た事なかったよ」
SM「ありがとう(笑)。ファッションに興味ない繭子が言っても贔屓にしか聞こえないけどね、嬉しいよ」
M「あはは!ずっとあなたが好きでした!あはは。でも誠さんが載ってる号だけは『ROYAL』も『MEANING』も織江さんと回し読みしてたよ。参考にはならなかったけど」
SM「おい(笑)」
O「それはあちこちの会社に対して悪く言うのと同じ発言だからダメ」
M「は、撤回します。私のような若輩者には高尚すぎて理解できませんでした」
O「繭子(笑)」
SM「こんな事言うくせにさー、意外とこっちの業界でも注目されてたんだよこの子。腹立つでしょー?」
M「うふふ、実はそーなの。具体的な事は何も知らないけど」
O「具体的な話する前に全部拒否するからでしょ!」
M「その節はどうも、ご迷惑おかけしました」
-- 一度ぐらいチャンレジしてみようとか思わなかったの? 回りまわってバンドの為になる、貢献出来るとは考えなかった?
M「えー」
O「そんな事さんざん言ったよ。でも泣いて嫌がるんだもん、可愛そうになっちゃってさ。もう最後抱きしめて私が謝ったもん」
(一同、笑)
-- 相当だ。
SM「相当嫌なんだよね。10年誘ってもグラビア一枚やらないわけだよ」
-- アー写は撮るの平気でしょ?取材とか。
M「ピン撮影は嫌い」
-- なんで?魂抜かれるとか思ってるの?
M「まさか!」
SM「江戸時代か」
M「ふふ、私個人を見て欲しいと思った事は一度もないし、そういう自己アピール欲みたいなのない人間にしてみたらカメラマンの前で笑うなんて拷問なんだよ」
O「それは、ちょっと私も分かるかも」
SM「織江さんはちょくちょく取材受けてんじゃん」
O「仕方ないよ、仕事だし。バイラルの肩書を堂々と表に出せるならやらない手はないはずだからって、自分に言い聞かせてるから」
SM「繭子聞いた!? 聞いた!? 聞いて! 耳を塞ぐんじゃない!」
O「あはは、でもその代わりこの子は誰にも真似できない力でバンドに貢献してるから、別にその他の仕事を断るからってどうこう思った事は正直一度もないよ。今後もない。却ってこの子の価値を高めてると思うし、繭子に余計なストレス与えて良い方向に転ぶわけないもん。それはバンド全体の士気に関わるからね。ご存知の通りめちゃくちゃ可愛がられてますから、もう伸び伸びやってくれてた方が私も気楽だよ。それに…」
-- …なんですか?
O「義理堅い子でもあるからね。そういう自分の嫌な事をやらない代わりにその倍他で取り戻そうとする姿勢を感じるし、うん。繭子はこのままでいい」
-- はい。
O「どう? 泣けそう?」
M「(顔を手で覆いながら仰け反る)」
-- ふはは!ちょっと待ってくださいよ、私の感動をどうしてくれるんですか。
M「私がやばいー(笑)」
O「まだダメかー。でもその代わり、そういった役目は誠に回すけどね」
SM「私?」
O「マネージメントは私が継続するけど、他は全部誠にやってもらおうかな」
SM「全部って?」
O「一番お願いしたいのは広報と営業だねえ。誠が会社の顔になってくれたら大助かり」
SM「織江さんの代わりなんて務まらないよ」
O「何言ってんのよモデルさん」
SM「顔で仕事するわけじゃないじゃん。そもそもルックスだって織江さんに勝ってると思った事一度もないよ」
O「はあ?」
SM「その卑怯な反則ふんわりオーラがどうやったって出ないんだもん」
O「卑怯って(笑)。そんなのはさ、『この人達とのつながりがやがてバンドをいい方向へ導くんだ』って考えれば自然と笑顔になるよ」
SM「それは人として完成してる織江さんだから出来る芸当だよ」
O「完成なんてしてないし、そんな事ない。誠なりのやり方で良いと思うよ、私には私の方法論があったわけだしさ」
SM「…ウソだよね?」
O「どうしてウソだと思うの?」
SM「いや、出来ないよ」
O「誠なら出来るよ」
SМ「出来ないって」
M「え、誠さんが社長になるの?」
O「そ」
SM「嫌だよ!」
O「どうして?」
SM「例え肩書だけだとしても織江さんの上に立ちたくなんかないし」
O「な」
SM「織江さんがどんだけ頑張って来たか私知ってるもん!」
O「あはは」
SM「それを知ってる私が横からかっさらう真似出来るわけないじゃん!」
O「大袈裟だよ」
SM「無理無理」
O「かっさらうわけじゃないよ。代変わりというか」
SM「絶対に嫌だ!」
O「絶対?」
SM「嫌だ」
O「私の事を思うなら出来るでしょ?」
SM「思うから出来ない」
O「私自身がお願いしてる事なのに?」
SM「織江さんがそこにいないなら私バイラル入らないから」
O「なんで誠が泣いちゃうかなぁ」
SM「絶対に嫌だから」
M「…誠さん」
-- 誠さん。
M「じゃあ私が社長やるね」
SM「お前がやるんかい!」
M「サプラーイズ!」
O「サプラーイズ(笑)」
-- …え、なんですか? どういう事ですか?
SM「どう? 泣けた?」
-- もおー!何をやってるんですかさっきから!
O「ちょっと涙出てるよ誠」
SM「感情移入し過ぎたー、想像したら本気で泣けてきちゃった(笑)」
M「設定が生々しいよ、どきどきしちゃったじゃないかぁ」
-- 遊びの限度を越えちゃってましたよ。もうやめて下さいね、本当に。…本当に!
(一同、笑)
-- でも、所謂モデル然とした写真撮影やグラビア以外でも、特集や企画などで参加してみれば、面白い結果が残せたと思うけどな。
М「私? 例えばどういうの?」
-- 以前『MEANING』で読んだんですけど、モデルさん同士での持ち寄り企画あったじゃないですか。私が覚えてるのは『男性に言われて嬉しい言葉、嫌な言葉』とか。
SМ「あったねー(笑)」
-- 題材はなんでも良いと思いますけど、そこで誠さんと二人で紙面担当するだけで大分売り上げに貢献出来たと思うし、バンドにも見返りはあったんじゃないでしょうかね?
O「なるほど。ビジュアル押しじゃなくて人物像にスポットを当ててね。それでもこの二人を並ばせるだけでインパクト出るもんね」
-- そう思います。
M「んー、言ってる意味は分かるんだけど、でもバンドにとってのリターンはあまり感じないから、やっぱりやらないかな」
-- 強情だな(笑)。
M「雑誌の売り上げに貢献出来てもバンドに見返りがないなら私はやんないって(笑)。写真撮影がメインじゃないっていう意味ではやりやすい企画だと思うけど。でもそれって誠さんと私が喋るだけなんでしょ? そんなの需要あるの?」
O「あ」
-- 今これがまさにそれなんだけどなー(笑)。
(一同、爆笑)
O「凄い事言うなー(笑)」
M「これもダメでした?」
O「正直で良いけど」
SM「でも実を言うと私もあの企画は苦戦したんだよ、苦手だった。あまりにも周りの子と食い違うから」
O「っはは」
SM「そう思ったでしょ?」
O「うん、誠も正直だね(笑)」
SM「そこはだから自信持って繭子を誘えない」
-- ええ、そうだったんですか?
SM「『恋人に言われて嬉しかった言葉、言われたい言葉』っていうテーマで同じ専属のモデルさん達とやった時にさ、皆超可愛いの、いちいち」
-- いちいち(笑)。
O「あれってその場で考えてたの? 事前アンケートみたいなのに記入して持って行ってたの?」
SM「テーマによるんだけど、その時は事前だった。でも間違えたーと思って」
O「間違えた?」
M「皆なんて答えてたの?」
SM「『将来の夢を私だけに聞かせてくれる』とか。『楽しかった事や幸せな事を一番に報告してくれる』とか、『テレビを見ていて同じ場面で笑って、似てるんだね』とか」
M「いいじゃん、ダメなの?」
SM「はぁ!?って思って。そんなふんわりドーナツみたいな例えで良かったんだーって焦ったもん」
M「え、今のでふんわりしてるの? いかにも恋愛楽しんでる女の人が喜んで答えてそうだなって思ったけど」
SМ「ふふん、ドーナッツ(笑)」
O「っはは。ごめん繭子、何かトゲを感じる」
M「ないですよ(笑)」
SM「でも全っ然だね。『恋人に言われて嬉しかった言葉』だよ。本気で人を好きになった事あるのこの人達って思ったし、私これ絶対裏切られたって思ったもん」
M「ええ!?」
O「ちょっとちょっともう、時枝さん止めて(笑)」
-- あはは!無理ですよ!では誠さんは何というお答えだったんですか?
SM「これはだから、ボツにして急遽別なの考えたけどさ。アンケートには『なあ、誠』って書いた」
(一同、大爆笑)
SM「うわ、間違えたー!って思って」
M「お腹痛い!お腹痛い!」
O「今耳元ではっきりと翔太郎の声が聞こえた(笑)」
SM「めちゃくちゃリアルに私が嬉しかった言葉を書いちゃってさ、これって伝わるのかなーとか思ってたけど、そりゃそうだ、伝わるわけないもんなって思って(笑)」
M「はー。最高!」
-- でも、面白いんですけど、でも私はやっぱり誠さん素敵だなって思います。
SM「そう言ってくれるのは時枝さんだけだよ」
M「最高って言ってるじゃん(笑)」
SM「笑いながら言うなっ」
-- 具体的と言えばそうなのかもしれませんけど、割とどこにでもある乙女なエピソードとか、甘ったるい夢みたいな浅い言葉なんかじゃなくて、ただただ、大好きな人に名前を呼んでもらって振り向く事が、誠さんにとって一番心躍る大切な瞬間なんだなって想像すると、ああ、ほら、私涙出て来ちゃいました。
SM「うわーお(笑)。現在進行形だから改めて分析されると照れるけど、でも嬉しい。うん、そういう事だよ」
-- はい。
O「日記を公開するレベルのリアルさだよね。でも本当言えば嬉しい事ってそういうものなんだけど、なかなか女性誌の企画でそれは通せないよね。…ダメだ、超面白い(笑)」
SM「あははは!」
M「結局はどんな言葉を採用にしたの?」
SM「普通に、作ったご飯を美味しいって言ってくれるとか、なんかそんな」
M「普っ通ー(笑)」
O「だから苦戦してるなーって思ったもん。全然誠の面白み出せてないなって。事前に考えたんじゃなくてその場でぱっとテーマ出されて、即答しないといけないような企画だったのかなって思ってた」
SM「あはは、本当だよねえ(苦笑)」
M「でも実はその裏でメガトン級の答えを用意してたんだね!」
SM「そうだよ。あとで事務所の人に、アンケ通り発表して話膨らませれば良かったのにって言われて、それアリなのかーって反省したもん。若かったからね、よく分かってなかった」
-- なるほどー。でも素敵な話だと思います。
SM「ありがとう」
M「今ならもっと面白い企画に出来たかもしれないね。意外だった、誠さんがそういう部分で苦戦してるとは思ってなかった」
SM「どういう部分?」
M「誰にも似てない人だからさ、そこを武器に変えて無双してると思ってた。さっきの企画なんかでも、独特の言い回しや尖った意見なんかで注目浴びたり、驚かせたりして。ルックスももちろんだけど、私誠さんの場合人間性が突き抜けてると思ってるからさー…」
SM「めちゃくちゃ笑ったから悪いと思って今フォローしてるな?」
M「(爆笑)」
SM「これだよ(笑)」
-- いやでも、私も繭子の意見に賛成です。私もそう思ってました。
O「へー。そういう風に見られてるんだね、誠」
SM「意外でしょ?」
O「うん(笑)」
SM「そうなんだよ、皆人を面白人間みたいに言ってさー」
O「いや、面白いけどね」
M「(お腹を押さえて顔を伏せる)」
SM「(繭子の上に"グー"を持ち上げる)」
O「面白い子ではあるけど、私はそこまで器用に他人の中でスイスイ泳いでいられる子ではないと思ってるかな。自分でも言ってたけど、多分真剣に考えれば考える程他人とは多くの場面で考え方がズレる人だと思う」
-- …深い。
O「頭が良いからね、こうやって会話も弾むし。だけど一般的なというか、普遍性があるというか、誰にでも当てはまるような感覚とか行動は、そんなに大事にしてない感じ」
SM「それやばい奴じゃない?」
O「ううん、全然そんな事はないよ。ちゃんと一般的なそこを理解した上で自分の思う方法を選択してると思うし。でも本当に見た事ないぐらい変わった人」
SM「あはは!」
M「そうなのかあ。…そうなの?」
SM「自分でなかなか『そうです』って言えないけど、他人と意見が合わない事は割とよくある(笑)」
M「それって分かんないけど、でも誠さんは間違ってないと思うよ」
SM「分かんないのにー?」
M「細かい部分は知らないけど話自体は前から聞いてるもん。周りのモデルさんとか業界の方針とか慣例みたいな事に染まれないって話でしょ? でもそこをさ、物ともしない自由さとか強さを誠さんは持ってると思うから、全然上手くやれてると思ってた」
O「上手くはやれてたよ、10年間一線(での活躍)だったもん、それは間違いない。もちろん愛される人間ではあるけど、それってきっと不器用さも含めてだよね」
M「それはそうですけど、相性の問題なんじゃないですか?」
SM「恥ずかしいよもう! 両側からこんな(笑)」
M「聞いて。私ずっと思ってたけどさ、誠さんだけじゃなくてそこへ私や織江さんが入って行っても、きっと同じ様にズレてた気がするんだよ」
SM「織江さんはズレないよ(笑)」
O「え、何で?」
-- あー…。
O「あー?(笑)」
-- いや、誠さんの仰る事分かります。織江さんてどこへ行っても自分を保っていられる方だろうなって。どこにいて何をしていても絶対に他人の影響受けないだろうなって思います。
O「すんごい嫌な奴に聞こえる(切ない表情)」
SM「強い人っていう意味だよね。強情とか見栄っ張りとはまた全然違ってね」
-- そうです。
M「なるほどね」
SM「包容力半端ないもん。とりあえず一度は相手の人間性を受け止める、でも受け入れはしないの。そこで織江さんの何かが変わる事は絶対にないけど、相手を否定もしない。上手に押し引きしながら絶妙な落とし所で自分も相手も気分よく事を進める事が出来る人だから。コミュニケーションエキスパート」
O「強情で見栄っ張りなんです」
SM「違うって(笑)。英語で発音してみて」
O「え? Communication expert」
SM「ね? 包容力。…めっちゃ発音良いな」
(一同、笑)
M「でもさあ、私は誠さんもそういう風に見えてたなあと思って」
O「へー」
SM「へーだって(笑)」
O「今ふと思ったのはきっと繭子は、誠を翔太郎とセットで見て来たからなんじゃないかな? 翔太郎といる時の誠は確かに、私が見てても真似できない柔軟性があるよね」
M「あ、それかもしれない」
O「だから本当に翔太郎は幸せ者だと思うもん(笑)。見て、これだよ?こんな子が『どうしてそこまでするのよ』っていうレベルで尽くすんだよ。まあ、半分冗談だとしてもさ、翔太郎はアレでなかなか優しい人だけど若い時なんて今程素直じゃないから、結構泣かせてるとこ見たもん。それがまた翔太郎が何かをしたってわけじゃいから、私それが腹立って腹立って」
SM「私が泣いて? あはは」
M「…ねえ、今まで一度も浮気した事ないの?」
SM「…私が!?」
М「見て、このリアクションがもうちょっとイラっとするもの」
-- (爆笑)。
SM「何でよ、普通でしょっ」
O「(胸に手を当て)この私が浮気なんてすると思いますか?っていうスタンスがね。…はいはい」
M「あはは!」
SM「織江さんだってしないじゃん」
O「分からないじゃない」
SM「誰とするのよだって。大成さん以上の男前いる?」
O「いない」
SM「ホラ!」
O「いたらするかもしれないじゃない。翔太郎以上に…なんだー、そのー、上がいるかもしれないでしょ?」
SM「何の!?(笑)」
M「(ずっとお腹を押さえている。顔が真っ赤だ)」
O「色々とさー、顔とか身長とか、学歴とか稼ぎとか」
SM「全部興味ない(笑)」
M「顔も格好いいよねえ?」
SM「うん、超好き」
-- はい。
М「…お酒強いしね」
SМ「そこは、どうでもいいかな」
M「…喧嘩も強いしね」
SM「どうでもいいよ(笑)」
M「ギター超上手いしね」
SM「あ、うーん(苦笑)」
O「あと何がある?」
-- え? …外見的な事に興味がないとなれば、内面の話になりますね。
M「え、でも待って。誠さんも所謂芸能界に近い場所にいたでしょ。普通に超絶男前とかイケメンがうろうろしてたと思うけど、何にも思わなかった?」
SM「えー。言ってもそんな芸能人みたいな仕事してたわけじゃないからなあ」
M「でも何度か対談とかしてたでしょ」
SM「私が専属で出てたのって女性誌だよ。そこの表紙を敢えて飾りに来るレベルの俳優さんなんて、別世界の人だったよ(笑)。ふわー、本物だー!って、それだけ」
-- 誘われたリしないんですか?
SM「何に?」
-- お食事とか、デートとか。
SM「あー、社交辞令なんだろうなって思ってたし」
M「あったんだ!」
SM「もうこの話止めたい(笑)」
-- 普段こういう話されないですよね。
SM「最近はしないね。前にもチラッと言った気がするけど、私はだから、そういう選択肢もあったよねとか、可能性あったよね、みたいな話すら…本当は嫌いだから」
-- 嫌いというのは、どういう意味ですか?
SM「イケメンと恋に落ちたりしない?とか。浮気とかそういう話も全部嫌い」
-- それは誠さんの性格的に、楽しくない話題という事ですか?
SM「違うよ。だって翔太郎以外の『男』はこの世に必要ないから」
M「ふうーわ!」
O「(目を見開く)…鳥肌立ったー」
-- ああ、私、胸が締め付けられるような思いです。さすが誠さんです!
SM「もお(苦笑)。いや、人として大好きな人は一杯いるよ。竜二さんも大成さんもアキラさんも、マーさんもナベさんもテツさんも大好き。庄内さんも好きだし、それこそ銀一おじさん達、上の世代の男性方も皆素敵。だけど皆が言いたがるような性愛としての対象は選択肢なんかいらないし考えたくもない」
M「えー…やっぱ凄いね」
SM「考えるだけ気持ち悪い」
O「言い過ぎ」
SM「聞くからじゃん」
O「…」
M「(怒ってる?という顔でカメラを見る)」
-- (少し、焦る)
O「(誠をじっと見やる)」
SM「(何喰わぬ顔で、伊藤を見返す)」
O「(カメラを見る)これだもん、そりゃ他の子とズレるでしょ」
SM「あははは!」
-- (ほっと胸を撫でおろす)。
(続く)
会議室にて。
芥川繭子(М)×関誠(SМ)×伊藤織江(O)。
撮影用カメラとパソコンをダイレクトでつなぐ作業でたまにエラーが起きる。
ケーブルで繋いで編集ソフトとの認証を確認するだけの簡単な接続作業の筈なのだが、連続して長時間使用する事の多い機材の為か、ハード機器も接続部品も突然音を上げるのだ。
予定時間直前になってそういう事態に陥ると非常に焦り、大いに困る。
独り言が多くなりぶつくさと文句を言いながらキーボートをガチャガチャ叩いていると、
立って作業をしていた私の背後にいつの間にか関誠が歩み寄って来ていた。
「代ろうか」
唐突に耳元で話しかけられて私は飛び上がり、それを見た彼女が愉しそうに笑い声を上げる。いまだに私は彼女を間近で見ると顔が赤くなってしまう為、2、3歩後退しながら胸に手を当てる。
-- 脅かさないでくださいよ。
「そんなにびっくりしなくてもいいでしょ」
普段から男前所、綺麗所と接する機会の多い仕事ではあるが、彼女は別格だ。写真という平面の美しさでは伝わり切らない圧倒的な存在感を放っているのが、この関誠という女性なのだ。(背が)大きいからね、と本人は笑って受け流すが、もちろんそれだけで息を呑んだりするわけがない。
-- やっぱりキレイ。
「声に出すな(笑)」
慌てて両手で口を押える私に目を細くして笑うと、彼女は素早くキーボードとマウスを触り、見事にものの一分程で再接続を完了させてしまった。
「これでいいね?」
-- ありがとうございます。なんでも出来るんですね。
「うん?」
-- 慣れてる私でも何度か同じ作業繰り返すくらい面倒なエラーなんですけどね。
「分かっちゃうと意外とそうでもないよ。あとでコツ教えてあげる」
-- 苦手な事ってないんですか?
「虫」
-- ふふ。そういう事でなくて。
「例えば何のこと?」
-- 壊滅的に料理が出来ないとか。
「一人暮らし長いから、そこはね」
-- 分からないじゃないですか。翔太郎さん優しいから言わないだけで、実は。
「くっそ不味いって? あはは、もしそうならあの人どんだけ我慢強いんだってなるね。結構食べてもらってるけど、概ね高評価をいただいておりますよ。優しい嘘じゃなければね」
-- 凄い。わざわざ料理作ってあげてる側なのに『食べてもらってる』って言えちゃうんですものね。私思った事すらないですよ。
「私、創作料理に果敢に挑戦するタイプだからね(笑)。たまに色味のおかしいモノ出して不思議な顔されたりするけど、そういう時でも文句言わずに食べてくれるから、まあ協力者だと思ってるよ」
-- ほえー。料理研究家を目指してるわけでもないのに?
「食べるのも作るのも好きは好きだからね。毎日ってわけじゃないし苦じゃないよ。それにこういう言い方しちゃうとおかしな人みたいに映るかもしれないけど、翔太郎って放っておくと適当な物食べて済ます人だから心配になるじゃんか。あれだけお酒飲む人だし、ご飯はちゃんと食べて欲しいからね。昔からそうだけど一度も料理作れとか言われた事ないしさ、作ってもらうのが当然だと思ってない人だから、逆に色々したくなるというかね」
-- ふふふ、完成されてますよね、誠さんね。
「失礼だな。まだまだこれから発育するんです」
-- 発育(笑)。眉目秀麗、語学堪能、料理自慢で機械にも強いって。
「あと喧嘩も強いよ」
-- あははは!文武両道!
「明朗快活、猪突猛進、食欲旺盛、早寝早起、焼肉定食」
-- お腹痛い(笑)!
またも気が付かなかったのだが、そんな私達を伊藤織江と芥川繭子が会議室の入口に立って眺めていたらしい。関誠はすでに気付いていたようで、思う存分私を笑わせると片手を挙げて2人に言葉を掛ける。
開口一番私は伊藤と繭子にこう質問する。
-- 誠さんに弱点ってないんですか?
二人は顔を見合わせると、「翔太郎」「さん」と即答した。
それを受けて『違いない』と関誠は笑うのだが、その表情を見る限り到底弱点だとは思えなかった。
-- お待たせしてすみませんでした。では、始めたいと思います。是非一度はお願いしたい企画だったので念願叶って何よりですかが、タイミング的に今回限りとなりそうですね。なかなかOKして貰えなかったこの企画の趣旨などを改めて説明させていただきますと、えー、もう、ただの趣味です。
M「(笑)」
-- 何度かそれなりに理由を説明させていただきましたが、その都度「なんだかんだいって趣味だろ」「やりたいだけだろ」という茶々が入るのでもう諦めました。趣味です。綺麗な女が大好きです。それでいいです。
M「ちょっと怒ってんじゃん」
SM「仕方ないよね、だって趣味だもんね」
O「容赦ないね(笑)」
SM「しないしない、もう今更この人に容赦なんてしないよ」
-- (笑)。
M「でもダメだよ、全然堪えないね、トッキーはマゾだから」
O「懐が深いって言ってあげなきゃ悪いよ? これはでも表には出ないよね。バンドの取材とは関係ないものだよね」
SM「ダーメダメ。時枝さんがそうだとしてもメンバー自身が面白ければなんでもアリだって人達だもん。もう線引自体無意味になってきてるんじゃないかな。ノリで全部採用されちゃうと思う」
-- またまた(笑)。
O「ああ、そうかもしれないねえ。じゃあやっぱり気を抜かない。社長モードで行こ」
SM「お、じゃあ私も出来るモデル風でスカして行こう」
M「ずるい。私何がいいかな。天真爛漫な妹設定で行こうか?」
SM「自分では設定のつもりなのか。いつもはじゃあ、お芝居だったんだね?」
M「そうそう」
O「時枝さんに本物の繭子を引きずり出してもらわないとね」
SM「私並には恥かいてもらわないと割に合わない」
-- (笑)。
М「それは知らないよ。でも簡単に尻尾掴ませないよ、この芥川繭子って女は」
SМ「それも自分で言うんだ」
M「無邪気な感じ出てるでしょ?」
SM「計算高い天真爛漫だなあ(笑)」
M「全部計算」
SM「ウソつけ!」
-- あはは!
O「はーい、はい。よし、じゃあちゃんと座り直す所から始めましょうか」
SM「はい」
M「はい」
二人の居住いを確認する伊藤の姿勢は、入室し、着席した瞬間からずっと美しいままだ。
O「…それでは、準備オッケーです」
-- もう録ってるに決まってるじゃないですか(笑)。
O「(首を横に振る)いいえ、今からです」
SM「っは!」
-- ふーう、さっすがですねえ!
M「うちの代表舐めんなよっ」
SM「ボン、オン コモンス?」(フランス語=「さ、始めましょうか?」)
M「何今の…ずっる!」
O「今のはずるいよねえ」
M「ねえ」
SM「なんで? 出来る女社長に対抗するスカしたモデルの演出としては、完璧でしょ?」
O「あはは!」
-- 『翔太郎さんの女』って感じ出てますね(笑)。
SM「はあ?(笑)」
M「いいね、それでこそだ」
SM「絶対チクってやろ。絶対だ」
O「あはは!」
M「ごめん!」
(一同、笑)
-- 今日は本来なら、翔太郎さんに編集確認の為のお時間を頂戴する予定でしたが、体調を崩されたとの事で急遽お休みになりました。代わりに派遣されてこられたのが誠さんなわけですが、今回このような並びでお話する事が出来たのも、何を隠そう誠さんご自身の提案があっての事です。ありがとうございます。
SM「全然平気」
-- あっさり(笑)。
SM「色々お世話してもらったからね、一度ぐらい言う事聞いたげてもバチは当たらないかなと思って」
-- 恐縮です。お世話した記憶はないので、ひたすら誠さんのお心遣いに感謝してます。
SM「…全然平気」
-- っははは!
SM「そんな大した話じゃないでしょ(笑)」
-- 翔太郎さんのお加減はいかがですか?
SМ「大丈夫、過労と風邪が重なっただけだと思うから。でも昨日の晩にグンって熱が上がっちゃったからもういい加減にダウンしてもらったんだよ。本人はいたって元気です」
-- 良かったです。何気にこの密着取材を始めてから約束の予定が飛んだのは初めてなので、少し不安でした。
SM「そうみたいだね。今回はたまたま事前に気が付いたからよかったけど、多分これまでも体調崩しながら練習なり取材受けてる事は普通にあったと思うよ。先月もほら、肩痛いとか首痛いとか」
-- ありましたね。
SМ「でも絶対練習休むとか言わないし、そもそも本当気づけないからね。織江さんでも分からないって言うし」
O「なんで分かったの?」
SM「離れた場所から、煙草を根元まで吸い切らずに消したのを見てて。なんとなく嫌な予感がして寝てる間に熱計ったら8度以上あって」
O「わお。覚えとく」
SM「あー、でもこれ言うと次からしんどくても吸い切るようになっちゃうな。今朝もね、ちゃんと休んで早く治す方が皆に迷惑かけなくて済むからって私言ったんだけど、『風邪引いたぐらいで寝込むとかおかしいだろ』って言うわけ。普通は休むのって言っても普通は休まねえって却って怒っちゃって。『平気な顔で我慢してりゃそもそも迷惑かけずに済むから』っていう理屈でさ。なんとなくだけどこれまでずっとそうだったんだなーって思って」
M「あはは」
SM「笑いごとじゃないって(笑)。私自分も仕事してたからそういう所ホント見逃してたんだなって気づいて冷や汗出たもん。こういう人だった、忘れてた!って」
-- ほんと皆さん練習には命かけてますね。
SМ「それもそうだし、単純に迷惑かけるのが嫌なんだと思うよ。もっと言えば、メンバーに対しては本当に尽くす女みたいなスタンスだからね」
-- 妬けちゃいますね(笑)。
SM「いやあ? というか却って迷惑かけてると思うから。繭子に移したらどうするの、時枝さんに移しちゃったら責任取れないでしょって、そこまで言ってようやく着替えるのやめたぐらいだし。自分が辛いかどうかは考えてもないね」
-- とことん、ですね。
SM「だから今日のこれだってさ。じゃあお前俺の代わりに面白い話して来てくれって言って送り出されてるからね。今日インタビューじゃないのにそんな言われ方してさ、もう必死だよ今。あの手この手。喋りすぎでごめんね!?」
-- いやいや(笑)。
O「頑張ってんなーって思った」
SM「わーい」
M「私は今超耳が痛い」
SM「うん、繭子にも言ってるからね」
M「気を付けます」
O「(嬉しそうに小さな拍手)」
-- 特にテーマを設けようとは思いませんが、一つ許されるなら、泣かなくて済むお話を聞きたいですね。
O「それはあなたが頑張って(笑)」
-- 耳が痛いです。
M「私知らなかったよ。翔太郎さんに、もう泣くなって言われてたんだってね」
-- ああー、うん。でもそれと今の話は別だよ。せっかくニューリリースやアメリカ進出を目前に控えたワクワクする時期なのに、こちらからお願いしているとは言え結構深く心を抉っているのではと、ここ最近反省している部分もあるので。
M「んー。そうでもないよきっと」
-- そうなのかな。
M「こういう言い方するとおかしいけど、一度は経験した感情だし。それはその瞬間のピークを越える事は絶対にないしね。改めて考えるとやっぱり辛いな、寂しいなって思う事はあるけど、皆そこを乗り越えてここにいるから今更抉られたりしないし、逆に話してみる事で気持ちが楽になってる部分もきっとあるんだよ」
-- …今絶対私を泣かす気で言ってるよね?
M「バレた(笑)」
-- ひどい!でも、嬉しいです。
M「ほんとほんと、特に私なんかはその傾向が強いかな」
-- そうなんだ?
M「そもそも私この二人には完全に理解されてると思うんだ、全部。だから、もうそれだけで十分だって思って生きてきたからさ。それ以外誰に何を聞かれても適当に答えてた気がするんだよね、これまでは。だから覚えてない事も多いんだよ実は」
-- 複雑なだなあ、なんか、悲しいような嬉しいような。
M「私も複雑なんだよ。ちょっと前に誠さんと三人で話した時にさ、トッキーが熱く音楽について語ったでしょ。その時に誠さんがそもそも音楽にそういう余計な情報いらないじゃんって言ったの覚えてる?」
-- もちろん。
SM「繭子爆笑してたよね」
M「うん。私実はどっちも分かるんだ。トッキーみたいにさ、色々言いたくなる衝動も理解出来るし共感できるの。でもそれって私の中では自分のバンド内でしか起こらない衝動だから、外に対して発信したいとは一切思わないんだよ」
-- うん、うん。
M「それと同時にね、誠さんと同じで、ただ聞いて楽しむだけが全てだろう?っていうスタンスも凄く理解できるの。外に対してはそういう感情で接してるから何も言えないし言いたくないと思ってて。だから去年一年トッキーに取材してもらって、他のメンバーのストレートな言い方や気持ちなんかを全部ではないけど、私もその場で聞く事が出来たのはとても貴重だったし、嬉しいし、きっと他の人達も同じ様に感じてると思うよ」
-- 嬉しい。
M「それに私自身さっきも言ったけど、ずっと言わないでいようと思った事でもさ、言ってみると気が楽になる事ってあるなって感じたし。誠さんもあるよね?」
SМ「そうだね」
M「織江さんも?」
O「うん、そう思うよ」
M「うん。…それは私の学生時代の事だけじゃなくて、そういうのを経て日々どういう感情で生きて来たかとか、そこまで含めて考えた時に、私の中では当たり前のようにある気持ちだったとしても敢えて言葉にすることでびっくりされたり、喜ばれたリとか。そういう発見が去年一年はいっぱいあったから、良かったんだと思う。今にしてみればね」
-- (頷くしかできない)。
SM「ハイ泣いたー(笑)」
M「早いぞー」
O「常に涙9割の水瓶だね」
-- いやいやだって、今の繭子の言葉で全部報われた気がしますもん。ありがたい言葉をいただいたなぁと思って。
M「こちらこそ。こちらこそってフランス語でなんて言うの?」
SM「メルシーボークーで通じると思うよ」
M「あはは、URGAさんだ。メルシーポークー!」
SM「豚、ありがとう!」
M「…間違えた?」
-- (笑)、URGAさんと言えば、彼女のクリスマスコンサートを皆さんと一緒に観覧した時にもこの状態に近い状況にはなりましたね。その時はもう一人、大成さんがいらっしゃいましたけど。
O「ディナーの時?」
-- そうです。コンサート前にレストランでディナーをご一緒させていただきましたね。
O「あの時も割とプライベートな話結構したよね」
-- でも緊張しすぎててあまり覚えてないんです、実は(笑)。
O「緊張?」
-- ドレスコードがあるわけじゃないのに、皆さん割と煌びやかな衣装を着ておられて。大成さんなんてスタジオだと冬でも薄着じゃないですか。なのにその時はタキシードとロングコートで、私ゲスト出演されるのかと勘違いしたくらいです。
O「ちょっとディスってる?」
-- ディスってません!
O「似合ってたと思うけどなぁ」
-- もちろんです。でも普段と違う装いの雰囲気に圧倒されてしまって、見とれてしまいました。
SM「大成さんはほんと衣装選びし甲斐があるよね。織江さんもそうだけど、雰囲気作りが上手いんだよ。演出が出来る人というか。『夜が似合う』二人だよね」
M「私だけ普通に革ジャンだったからちょっと怒ったもん、言ってよって(笑)」
SM「そもそも打ち合わせしてないもんだって」
O「非日常を楽しもうとする気持ちが強いのかもしれない。本当は私がそういう特別な日にドレスアップしたりするのが好きなの。でも私一人だと浮いちゃうから、大成にも着飾ってもらってるっていうのはあるかな。本来は私達二人だけそうなる筈だったのが、誠と時枝さんも綺麗目な服装だったもんね」
-- 完全に余所行きの、普段袖を通さない服を引っ張り出しました。ここぞとばかりに。
O「よく似合ってたよ」
SM「そうだね、別人だと思ったもん最初」
-- ありがとうござます。
M「ずるいよなあ。私と竜二さんと翔太郎さんは相変わらずだったけどね。3人ともライダースだったし」
-- 同じ会社の人間とは思えない組み合わせだなあーって言われてたね、URGAさんに。
SM「実はあの後翔太郎に言われたもん。お前らちゃんと声かけてやれよって」
M「え、嘘」
SM「向こうも冗談半分だと思うよ。良い大人なんだしいちいちそんなトコ声かけしないよって言ったら笑ってたけど、でも気付く人は気付くんだなってちょっと思う所もあったよ、正直言うと」
M「あはは。私が言っちゃダメかもしれないけど、それはちょっと過保護だよね」
O「言うな言うな(笑)」
M「あはは」
-- 愛されてるなあ。
M「いやいや、単純にさ、あの二人がライダース着てたから自然と側に居やすいでしょ。そこでなんとなく気が付いて、言ってくれたんだと思うけどね。それは多分、私だからとかじゃないよきっと」
SM「繭子だからだよ」
M「ええ?」
SM「全然別の日だけどさ、私たまたま翔太郎の前でジャージ着てたの」
O「あっは、似合わない」
-- 似合いませんね。
SM「なんで!? 着るよジャージぐらい」
M「ジャージのイメージはないね。私にくれた練習着だってちょっと流行りのシュッとしたパンツだったし」
SM「…なんの話?」
-- ジョガーパンツの事ですよ。
SM「シュッとしたパンツ(笑)」
M「呼び方はなんだっていいじゃん!」
SM「あはは。そいでね、最近はマシだけどさ、冬場でも雪が降ったりとか特別寒い日とかあると、やっぱり胸の筋肉が縮こまったようになって腕が上がらない感じになるんだよ。引っ張られるような違和感というか。それをストレッチの要領で伸ばすんだけど、こうやってバスケットボールを手で挟んで持ち上げたりとか。それをやる時にジャージ着てやってたら後ろで翔太郎が見てて。汗かくぐらいやってたら凄い珍しそうな顔で見てるからさ、『セクシー?』って聞いたら『モデルって努力の仕方が独特だな』って見当違いな答え返って来るわけ」
M「(爆笑)」
O「そういうんじゃないと(笑)」
SM「そういんじゃないし、うん。リハビリだからって。モデルやめるって言ったでしょって。『ああ、そーかー』ってすっごい適当な事言われてさ。『どうする? 私このままジャージ大好き女子でスッピンで生きて行きますって言ったら、嫌だ?』って聞いたら『お前がそうしたいんなら俺は構わないよ。けどそれならお前の持ってる服全部繭子にやれよ。あいつお前の言うリハビリ着程度の服でステージ上がろうとすんだぞ』だって」
(一同、爆笑)
繭子、両手で顔を隠す。
O「優しいんだか優しくないんだかさー。そういう事言うもんね、あの男はね」
SM「私それ聞いた時めっちゃ笑ったけどさ、でも同時にやっぱり凄い人の事見てるなと思って。毎日顔合わせて同じ時間を共有してるから色々見えてくるのは分かるけどさ、服装にまであれこれ言うんだって思って。ちょっと面倒臭くならない? 正直に言ってみな?」
M「あはは、え、何が? 翔太郎さんが?」
SM「うん、いちいちうるさいなーとか思わない?」
M「いやそれだって、今初めて知ったもん(笑)。普段そんな服装の事とか言われないって」
SM「そうなんだ!? そっかー、まあ、それならいいのか」
O「言っても皆そこまで高級ブランドの衣装でステージ立ってるわけじゃないけどね。ライダースとかは素材が革だからそりゃそこそこ値段したけどさ、私物でステージ立つ時もあるし。そもそも衣装なんてあってないようなバンドだもんね。リリースの時にジャケット撮影用で一式揃えたりするけど、それも年一回だもんね」
-- 夏場ならバンドTシャツとデニムですからね。
O「なんならそれも脱ぐ奴いるしね、上は」
-- 確かに(笑)。
M「服装に興味ないからかなあ。そういう所を言われてるのかもしれないね」
-- なんかさ、敢えてっていう部分も感じるよね。
М「ん?」
-- バンドとしては繭子を特別扱いしないし、する気はないんだけど、でも女性である事を無視したくはない、そういう部分を抑え込んで欲しくないっていう風にも考えてくれていそうな気がするんだ。それは3人とも。だから男性3人は適当な服装であっても、繭子までそれに付き合う事ないよって思ってくれていそう。
M「そうなのかな。もしそうなら嬉しいけど、でも本当興味ないんだよ」
SM「昔から私の服よく着てるけど、あれもやっぱり好きで着てるわけじゃないの?」
M「誠さんがお洒落なのはもう間違いないから、安心して着れるっていう理由かな。何着ても変にはならないだろうなって」
SM「そういう理由なのか(笑)」
М「もちろん好き嫌いはあるから興味がないって言うより、お洒落を楽しむ自分に興味がないのかもしれない」
O「そこを楽しもうという事に意識がいかないんだ?」
M「うん。…うーん、難しいな。言ってもほら、このライダースを貰った時ってすんごい嬉しかったし、毎日着る!って言って本当に毎日着てるし、毎日格好いいって思ってるの。そう思うとその意識もお洒落を楽しんでるって事になるのかなあって一瞬思ったけど、どうだろ」
SM「でもそれってライダースだから嬉しいわけじゃないでしょ? 翔太郎が着てたこのペイントの懐メロ革ジャンだから嬉しいんでしょ?」
M「変な言い方やめて(笑)。なんかダサいっ」
O「懐メロ革ジャンはやばいな」
M「まあでもそうかもしれない(笑)。ライダースじゃなくても、きっと嬉しいもんね」
-- でも私繭子の練習着とか、私服もそうですけど、全部好きですよ。変だと思った事一度もないですけどねえ。
SM「冒険しないもんね。Tシャツとジーパンでしょ。冬ならパーカーに革ジャンだし。大体色は黒、青、白、グレー」
M「うん(笑)」
-- 確かに。
SM「ピンクとか着てみればいいじゃん」
M「なんで、嫌だよ」
SM「ピンクの花柄!今度持ってくるから」
M「嫌だよ!」
-- お二人だとどちらの方が身長高いんですか?
SM「背? 私の方が5センチくらい高いかな。ヒール履くと翔太郎と同じぐらいになるし」
O「でも履かないよね。誠ってヒール似合わないよね」
SM「うん(笑)。顔が幼いってよく言われる、ガキみたいな顔だなって」
O「あー、ガキではないけど(笑)。首から上と下でアンバランスになっちゃうんだよね」
SM「だからってあんまり濃いメイクしすぎると衣装の持ち味と合わなくなるから、昔から苦手な服装とかアイテムとか避けてたもん、ヒールもそうだし。これは私じゃない」
O「年齢が上がって来るとマニッシュな格好はメインページで求められる事が減ってくるよね。特集として組む事はあっても、やっぱり王道でOLとか出来る女ファッションが中心だったりしない?」
SM「うん、需要の多い部分でページ割くのは基本だからどうしたってベーシックとか着回しが多いね。私の場合ヘアスタイルも織江さんみたいに伸ばせばまた状況は変わってたんだろうけど、なんかせっかく好きでショートにしてるのに、仕事に寄せていくのは嫌だなあってそこを拘っちゃったんだよね。あともっと色を明るめにしたりとか、色々チャレンジしておけばもっと上に行けたかもね」
O「言うねえ」
SM「なはは。終わってから言うなって?」
O「雑誌の表紙を飾る人がもっと上って言えばそれはもうテレビタレントだけどね?」
SM「あはは、あー、それはないかな(笑)」
M「前からちょっと気になってたんだけどさ」
SM「うん」
M「誠さん写真撮る時口開いてる事多いのはわざとなの?」
SM「え。写真の選別は私じゃないし、狙ってそんな事しないけど?」
O「インスタとかツイッターじゃない?」
SM「ああ、ああ」
M「そうそう。なんかさ、一番多いのは澄まし笑顔なんだけど次に多いのは『わー』って言ってそうな感じで口開けてる写真なの」
SM「分かった分かった、アレね。うん、わざとと言えばわざと。丸顔だから苦労してんの(笑)」
M「そうなんだ。可愛いけどさ、流行ってんのなかと思って」
SM「流行ってない、流行ってない」
M「そっか(笑)。でも誠さんと言えばこの顔だなって思ってたから好きだし、良いと思うな。髪型だってショーヘアで誠さんより似合っててキレイなモデルさんて、私見た事なかったよ」
SM「ありがとう(笑)。ファッションに興味ない繭子が言っても贔屓にしか聞こえないけどね、嬉しいよ」
M「あはは!ずっとあなたが好きでした!あはは。でも誠さんが載ってる号だけは『ROYAL』も『MEANING』も織江さんと回し読みしてたよ。参考にはならなかったけど」
SM「おい(笑)」
O「それはあちこちの会社に対して悪く言うのと同じ発言だからダメ」
M「は、撤回します。私のような若輩者には高尚すぎて理解できませんでした」
O「繭子(笑)」
SM「こんな事言うくせにさー、意外とこっちの業界でも注目されてたんだよこの子。腹立つでしょー?」
M「うふふ、実はそーなの。具体的な事は何も知らないけど」
O「具体的な話する前に全部拒否するからでしょ!」
M「その節はどうも、ご迷惑おかけしました」
-- 一度ぐらいチャンレジしてみようとか思わなかったの? 回りまわってバンドの為になる、貢献出来るとは考えなかった?
M「えー」
O「そんな事さんざん言ったよ。でも泣いて嫌がるんだもん、可愛そうになっちゃってさ。もう最後抱きしめて私が謝ったもん」
(一同、笑)
-- 相当だ。
SM「相当嫌なんだよね。10年誘ってもグラビア一枚やらないわけだよ」
-- アー写は撮るの平気でしょ?取材とか。
M「ピン撮影は嫌い」
-- なんで?魂抜かれるとか思ってるの?
M「まさか!」
SM「江戸時代か」
M「ふふ、私個人を見て欲しいと思った事は一度もないし、そういう自己アピール欲みたいなのない人間にしてみたらカメラマンの前で笑うなんて拷問なんだよ」
O「それは、ちょっと私も分かるかも」
SM「織江さんはちょくちょく取材受けてんじゃん」
O「仕方ないよ、仕事だし。バイラルの肩書を堂々と表に出せるならやらない手はないはずだからって、自分に言い聞かせてるから」
SM「繭子聞いた!? 聞いた!? 聞いて! 耳を塞ぐんじゃない!」
O「あはは、でもその代わりこの子は誰にも真似できない力でバンドに貢献してるから、別にその他の仕事を断るからってどうこう思った事は正直一度もないよ。今後もない。却ってこの子の価値を高めてると思うし、繭子に余計なストレス与えて良い方向に転ぶわけないもん。それはバンド全体の士気に関わるからね。ご存知の通りめちゃくちゃ可愛がられてますから、もう伸び伸びやってくれてた方が私も気楽だよ。それに…」
-- …なんですか?
O「義理堅い子でもあるからね。そういう自分の嫌な事をやらない代わりにその倍他で取り戻そうとする姿勢を感じるし、うん。繭子はこのままでいい」
-- はい。
O「どう? 泣けそう?」
M「(顔を手で覆いながら仰け反る)」
-- ふはは!ちょっと待ってくださいよ、私の感動をどうしてくれるんですか。
M「私がやばいー(笑)」
O「まだダメかー。でもその代わり、そういった役目は誠に回すけどね」
SM「私?」
O「マネージメントは私が継続するけど、他は全部誠にやってもらおうかな」
SM「全部って?」
O「一番お願いしたいのは広報と営業だねえ。誠が会社の顔になってくれたら大助かり」
SM「織江さんの代わりなんて務まらないよ」
O「何言ってんのよモデルさん」
SM「顔で仕事するわけじゃないじゃん。そもそもルックスだって織江さんに勝ってると思った事一度もないよ」
O「はあ?」
SM「その卑怯な反則ふんわりオーラがどうやったって出ないんだもん」
O「卑怯って(笑)。そんなのはさ、『この人達とのつながりがやがてバンドをいい方向へ導くんだ』って考えれば自然と笑顔になるよ」
SM「それは人として完成してる織江さんだから出来る芸当だよ」
O「完成なんてしてないし、そんな事ない。誠なりのやり方で良いと思うよ、私には私の方法論があったわけだしさ」
SM「…ウソだよね?」
O「どうしてウソだと思うの?」
SM「いや、出来ないよ」
O「誠なら出来るよ」
SМ「出来ないって」
M「え、誠さんが社長になるの?」
O「そ」
SM「嫌だよ!」
O「どうして?」
SM「例え肩書だけだとしても織江さんの上に立ちたくなんかないし」
O「な」
SM「織江さんがどんだけ頑張って来たか私知ってるもん!」
O「あはは」
SM「それを知ってる私が横からかっさらう真似出来るわけないじゃん!」
O「大袈裟だよ」
SM「無理無理」
O「かっさらうわけじゃないよ。代変わりというか」
SM「絶対に嫌だ!」
O「絶対?」
SM「嫌だ」
O「私の事を思うなら出来るでしょ?」
SM「思うから出来ない」
O「私自身がお願いしてる事なのに?」
SM「織江さんがそこにいないなら私バイラル入らないから」
O「なんで誠が泣いちゃうかなぁ」
SM「絶対に嫌だから」
M「…誠さん」
-- 誠さん。
M「じゃあ私が社長やるね」
SM「お前がやるんかい!」
M「サプラーイズ!」
O「サプラーイズ(笑)」
-- …え、なんですか? どういう事ですか?
SM「どう? 泣けた?」
-- もおー!何をやってるんですかさっきから!
O「ちょっと涙出てるよ誠」
SM「感情移入し過ぎたー、想像したら本気で泣けてきちゃった(笑)」
M「設定が生々しいよ、どきどきしちゃったじゃないかぁ」
-- 遊びの限度を越えちゃってましたよ。もうやめて下さいね、本当に。…本当に!
(一同、笑)
-- でも、所謂モデル然とした写真撮影やグラビア以外でも、特集や企画などで参加してみれば、面白い結果が残せたと思うけどな。
М「私? 例えばどういうの?」
-- 以前『MEANING』で読んだんですけど、モデルさん同士での持ち寄り企画あったじゃないですか。私が覚えてるのは『男性に言われて嬉しい言葉、嫌な言葉』とか。
SМ「あったねー(笑)」
-- 題材はなんでも良いと思いますけど、そこで誠さんと二人で紙面担当するだけで大分売り上げに貢献出来たと思うし、バンドにも見返りはあったんじゃないでしょうかね?
O「なるほど。ビジュアル押しじゃなくて人物像にスポットを当ててね。それでもこの二人を並ばせるだけでインパクト出るもんね」
-- そう思います。
M「んー、言ってる意味は分かるんだけど、でもバンドにとってのリターンはあまり感じないから、やっぱりやらないかな」
-- 強情だな(笑)。
M「雑誌の売り上げに貢献出来てもバンドに見返りがないなら私はやんないって(笑)。写真撮影がメインじゃないっていう意味ではやりやすい企画だと思うけど。でもそれって誠さんと私が喋るだけなんでしょ? そんなの需要あるの?」
O「あ」
-- 今これがまさにそれなんだけどなー(笑)。
(一同、爆笑)
O「凄い事言うなー(笑)」
M「これもダメでした?」
O「正直で良いけど」
SM「でも実を言うと私もあの企画は苦戦したんだよ、苦手だった。あまりにも周りの子と食い違うから」
O「っはは」
SM「そう思ったでしょ?」
O「うん、誠も正直だね(笑)」
SM「そこはだから自信持って繭子を誘えない」
-- ええ、そうだったんですか?
SM「『恋人に言われて嬉しかった言葉、言われたい言葉』っていうテーマで同じ専属のモデルさん達とやった時にさ、皆超可愛いの、いちいち」
-- いちいち(笑)。
O「あれってその場で考えてたの? 事前アンケートみたいなのに記入して持って行ってたの?」
SM「テーマによるんだけど、その時は事前だった。でも間違えたーと思って」
O「間違えた?」
M「皆なんて答えてたの?」
SM「『将来の夢を私だけに聞かせてくれる』とか。『楽しかった事や幸せな事を一番に報告してくれる』とか、『テレビを見ていて同じ場面で笑って、似てるんだね』とか」
M「いいじゃん、ダメなの?」
SM「はぁ!?って思って。そんなふんわりドーナツみたいな例えで良かったんだーって焦ったもん」
M「え、今のでふんわりしてるの? いかにも恋愛楽しんでる女の人が喜んで答えてそうだなって思ったけど」
SМ「ふふん、ドーナッツ(笑)」
O「っはは。ごめん繭子、何かトゲを感じる」
M「ないですよ(笑)」
SM「でも全っ然だね。『恋人に言われて嬉しかった言葉』だよ。本気で人を好きになった事あるのこの人達って思ったし、私これ絶対裏切られたって思ったもん」
M「ええ!?」
O「ちょっとちょっともう、時枝さん止めて(笑)」
-- あはは!無理ですよ!では誠さんは何というお答えだったんですか?
SM「これはだから、ボツにして急遽別なの考えたけどさ。アンケートには『なあ、誠』って書いた」
(一同、大爆笑)
SM「うわ、間違えたー!って思って」
M「お腹痛い!お腹痛い!」
O「今耳元ではっきりと翔太郎の声が聞こえた(笑)」
SM「めちゃくちゃリアルに私が嬉しかった言葉を書いちゃってさ、これって伝わるのかなーとか思ってたけど、そりゃそうだ、伝わるわけないもんなって思って(笑)」
M「はー。最高!」
-- でも、面白いんですけど、でも私はやっぱり誠さん素敵だなって思います。
SM「そう言ってくれるのは時枝さんだけだよ」
M「最高って言ってるじゃん(笑)」
SM「笑いながら言うなっ」
-- 具体的と言えばそうなのかもしれませんけど、割とどこにでもある乙女なエピソードとか、甘ったるい夢みたいな浅い言葉なんかじゃなくて、ただただ、大好きな人に名前を呼んでもらって振り向く事が、誠さんにとって一番心躍る大切な瞬間なんだなって想像すると、ああ、ほら、私涙出て来ちゃいました。
SM「うわーお(笑)。現在進行形だから改めて分析されると照れるけど、でも嬉しい。うん、そういう事だよ」
-- はい。
O「日記を公開するレベルのリアルさだよね。でも本当言えば嬉しい事ってそういうものなんだけど、なかなか女性誌の企画でそれは通せないよね。…ダメだ、超面白い(笑)」
SM「あははは!」
M「結局はどんな言葉を採用にしたの?」
SM「普通に、作ったご飯を美味しいって言ってくれるとか、なんかそんな」
M「普っ通ー(笑)」
O「だから苦戦してるなーって思ったもん。全然誠の面白み出せてないなって。事前に考えたんじゃなくてその場でぱっとテーマ出されて、即答しないといけないような企画だったのかなって思ってた」
SM「あはは、本当だよねえ(苦笑)」
M「でも実はその裏でメガトン級の答えを用意してたんだね!」
SM「そうだよ。あとで事務所の人に、アンケ通り発表して話膨らませれば良かったのにって言われて、それアリなのかーって反省したもん。若かったからね、よく分かってなかった」
-- なるほどー。でも素敵な話だと思います。
SM「ありがとう」
M「今ならもっと面白い企画に出来たかもしれないね。意外だった、誠さんがそういう部分で苦戦してるとは思ってなかった」
SM「どういう部分?」
M「誰にも似てない人だからさ、そこを武器に変えて無双してると思ってた。さっきの企画なんかでも、独特の言い回しや尖った意見なんかで注目浴びたり、驚かせたりして。ルックスももちろんだけど、私誠さんの場合人間性が突き抜けてると思ってるからさー…」
SM「めちゃくちゃ笑ったから悪いと思って今フォローしてるな?」
M「(爆笑)」
SM「これだよ(笑)」
-- いやでも、私も繭子の意見に賛成です。私もそう思ってました。
O「へー。そういう風に見られてるんだね、誠」
SM「意外でしょ?」
O「うん(笑)」
SM「そうなんだよ、皆人を面白人間みたいに言ってさー」
O「いや、面白いけどね」
M「(お腹を押さえて顔を伏せる)」
SM「(繭子の上に"グー"を持ち上げる)」
O「面白い子ではあるけど、私はそこまで器用に他人の中でスイスイ泳いでいられる子ではないと思ってるかな。自分でも言ってたけど、多分真剣に考えれば考える程他人とは多くの場面で考え方がズレる人だと思う」
-- …深い。
O「頭が良いからね、こうやって会話も弾むし。だけど一般的なというか、普遍性があるというか、誰にでも当てはまるような感覚とか行動は、そんなに大事にしてない感じ」
SM「それやばい奴じゃない?」
O「ううん、全然そんな事はないよ。ちゃんと一般的なそこを理解した上で自分の思う方法を選択してると思うし。でも本当に見た事ないぐらい変わった人」
SM「あはは!」
M「そうなのかあ。…そうなの?」
SM「自分でなかなか『そうです』って言えないけど、他人と意見が合わない事は割とよくある(笑)」
M「それって分かんないけど、でも誠さんは間違ってないと思うよ」
SM「分かんないのにー?」
M「細かい部分は知らないけど話自体は前から聞いてるもん。周りのモデルさんとか業界の方針とか慣例みたいな事に染まれないって話でしょ? でもそこをさ、物ともしない自由さとか強さを誠さんは持ってると思うから、全然上手くやれてると思ってた」
O「上手くはやれてたよ、10年間一線(での活躍)だったもん、それは間違いない。もちろん愛される人間ではあるけど、それってきっと不器用さも含めてだよね」
M「それはそうですけど、相性の問題なんじゃないですか?」
SM「恥ずかしいよもう! 両側からこんな(笑)」
M「聞いて。私ずっと思ってたけどさ、誠さんだけじゃなくてそこへ私や織江さんが入って行っても、きっと同じ様にズレてた気がするんだよ」
SM「織江さんはズレないよ(笑)」
O「え、何で?」
-- あー…。
O「あー?(笑)」
-- いや、誠さんの仰る事分かります。織江さんてどこへ行っても自分を保っていられる方だろうなって。どこにいて何をしていても絶対に他人の影響受けないだろうなって思います。
O「すんごい嫌な奴に聞こえる(切ない表情)」
SM「強い人っていう意味だよね。強情とか見栄っ張りとはまた全然違ってね」
-- そうです。
M「なるほどね」
SM「包容力半端ないもん。とりあえず一度は相手の人間性を受け止める、でも受け入れはしないの。そこで織江さんの何かが変わる事は絶対にないけど、相手を否定もしない。上手に押し引きしながら絶妙な落とし所で自分も相手も気分よく事を進める事が出来る人だから。コミュニケーションエキスパート」
O「強情で見栄っ張りなんです」
SM「違うって(笑)。英語で発音してみて」
O「え? Communication expert」
SM「ね? 包容力。…めっちゃ発音良いな」
(一同、笑)
M「でもさあ、私は誠さんもそういう風に見えてたなあと思って」
O「へー」
SM「へーだって(笑)」
O「今ふと思ったのはきっと繭子は、誠を翔太郎とセットで見て来たからなんじゃないかな? 翔太郎といる時の誠は確かに、私が見てても真似できない柔軟性があるよね」
M「あ、それかもしれない」
O「だから本当に翔太郎は幸せ者だと思うもん(笑)。見て、これだよ?こんな子が『どうしてそこまでするのよ』っていうレベルで尽くすんだよ。まあ、半分冗談だとしてもさ、翔太郎はアレでなかなか優しい人だけど若い時なんて今程素直じゃないから、結構泣かせてるとこ見たもん。それがまた翔太郎が何かをしたってわけじゃいから、私それが腹立って腹立って」
SM「私が泣いて? あはは」
M「…ねえ、今まで一度も浮気した事ないの?」
SM「…私が!?」
М「見て、このリアクションがもうちょっとイラっとするもの」
-- (爆笑)。
SM「何でよ、普通でしょっ」
O「(胸に手を当て)この私が浮気なんてすると思いますか?っていうスタンスがね。…はいはい」
M「あはは!」
SM「織江さんだってしないじゃん」
O「分からないじゃない」
SM「誰とするのよだって。大成さん以上の男前いる?」
O「いない」
SM「ホラ!」
O「いたらするかもしれないじゃない。翔太郎以上に…なんだー、そのー、上がいるかもしれないでしょ?」
SM「何の!?(笑)」
M「(ずっとお腹を押さえている。顔が真っ赤だ)」
O「色々とさー、顔とか身長とか、学歴とか稼ぎとか」
SM「全部興味ない(笑)」
M「顔も格好いいよねえ?」
SM「うん、超好き」
-- はい。
М「…お酒強いしね」
SМ「そこは、どうでもいいかな」
M「…喧嘩も強いしね」
SM「どうでもいいよ(笑)」
M「ギター超上手いしね」
SM「あ、うーん(苦笑)」
O「あと何がある?」
-- え? …外見的な事に興味がないとなれば、内面の話になりますね。
M「え、でも待って。誠さんも所謂芸能界に近い場所にいたでしょ。普通に超絶男前とかイケメンがうろうろしてたと思うけど、何にも思わなかった?」
SM「えー。言ってもそんな芸能人みたいな仕事してたわけじゃないからなあ」
M「でも何度か対談とかしてたでしょ」
SM「私が専属で出てたのって女性誌だよ。そこの表紙を敢えて飾りに来るレベルの俳優さんなんて、別世界の人だったよ(笑)。ふわー、本物だー!って、それだけ」
-- 誘われたリしないんですか?
SM「何に?」
-- お食事とか、デートとか。
SM「あー、社交辞令なんだろうなって思ってたし」
M「あったんだ!」
SM「もうこの話止めたい(笑)」
-- 普段こういう話されないですよね。
SM「最近はしないね。前にもチラッと言った気がするけど、私はだから、そういう選択肢もあったよねとか、可能性あったよね、みたいな話すら…本当は嫌いだから」
-- 嫌いというのは、どういう意味ですか?
SM「イケメンと恋に落ちたりしない?とか。浮気とかそういう話も全部嫌い」
-- それは誠さんの性格的に、楽しくない話題という事ですか?
SM「違うよ。だって翔太郎以外の『男』はこの世に必要ないから」
M「ふうーわ!」
O「(目を見開く)…鳥肌立ったー」
-- ああ、私、胸が締め付けられるような思いです。さすが誠さんです!
SM「もお(苦笑)。いや、人として大好きな人は一杯いるよ。竜二さんも大成さんもアキラさんも、マーさんもナベさんもテツさんも大好き。庄内さんも好きだし、それこそ銀一おじさん達、上の世代の男性方も皆素敵。だけど皆が言いたがるような性愛としての対象は選択肢なんかいらないし考えたくもない」
M「えー…やっぱ凄いね」
SM「考えるだけ気持ち悪い」
O「言い過ぎ」
SM「聞くからじゃん」
O「…」
M「(怒ってる?という顔でカメラを見る)」
-- (少し、焦る)
O「(誠をじっと見やる)」
SM「(何喰わぬ顔で、伊藤を見返す)」
O「(カメラを見る)これだもん、そりゃ他の子とズレるでしょ」
SM「あははは!」
-- (ほっと胸を撫でおろす)。
(続く)
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