芥川繭子という理由

新開 水留

文字の大きさ
上 下
31 / 76

31「真ん中とオフ」

しおりを挟む
2016年、10月25日。
雑談、神波大成。
都内某所にて、「焼肉を食べながら」。



-- 夢みたいです。これってデートですか?
「あとで織江来るから聞いてみなよ」
-- 怖くて聞けないです(笑)。すみません、わざわざ個室用意していただいて。本来ならこちらでセッティングしないといけないのに。
「なんで? いいよ、いつものスタジオや会議室だけだと飽きちゃうしね。良かったね、たまたま空いてて」
-- 他のメンバーも来られますか?
「呼ぶ?」
-- いえ、大丈夫です。
「これ経費で落とすからさ、一応呼んどかないと文句言うかな」
-- 言わない人達だと思います。…繭子は言いそうかなー。
「そうかもね(笑)」
-- こないだ話したんですよ。
「繭子?こないだ宣言してたアレだろ。プライベートな所に突っ込んでくって」
-- はい。
「あ、もう食べな。待ってる意味なんてないから」
-- すみません。…違う違う、私がやりますんで、大成さん食べて下さいよ。
「そお? じゃあもっと乗せて」
-- はい(笑)。
「例えばどんな話してんの?」
-- 使えない話ばっかりです(笑)。具体的なエピソードもそうですし、ちょっと誤解を与えかねないような関係性だったり。
「んー、何だろ」
-- 前に、普段休みの日とか何されてるんですかーとか、他のメンバーと会ったりしますかっていう質問したじゃないですか。
「うん」
-- 繭子に聞いたら、翔太郎さんと歌を歌ってますって。
「宅録のこと?」
-- そうです。結局後で翔太郎さんに聞いたら、昔からやってる事で別に何もおかしな話ではなかったんですけど、繭子って意外と男女間の話グイグイ来るから、どこまで本気でどっからが冗談なのか分からなくてドギマギしました。まあ聞いてる私がこんな事言えた義理じゃないですけど。
「あはは、そりゃそうだ。まあ確かに、そういう所あるね、あいつ」
-- 結局プライベートで会うのって、男性同士ではなくて、繭子と誰かというパターンが多いので、やっぱり繭子目線の話になりがちです。
「多いのでというか、会わないよ、休みの日は」
-- 全くですか。
「用がないとね。ギター直してくれとか、機材調整してとか、そういうのはあるけど」
-- それもどっかで音楽が絡んでくる用事なんですね。
「そうだね。別に会いたくないとか意固地になってるわけじゃないけどね。それでも格好良いライダース見つけたから見に行こうぜ、なんて話しにはならないな」
-- あはは。でも繭子は別なんですね。用がなくても会ってるみたいな感じでしたし。
「うん、家が近いし、飯食いに来てるからね。知らない間に来て知らない間に帰ってる事もあるし。でも泊ってった事は一度もないんだよ、変だよな」
-- それは、おふたりに気を使って。
「それもあるだろうけど、なんかちゃんと線引きがあるみたい。あいつの中で、甘えて良い部分と甘えちゃ駄目だって考えてる部分と」
-- へえ、そうなんですね。やはり、しっかりした人ですね。
「こっちは何だって構わないんだけどね。ただ帰るなら帰るでちゃんと言わないと、送ってってやれないからさ、ヒヤっとするよね」
-- 優しいですね。
「織江が怒るからな」
-- かかあ天下ですか。
「古いなあ。まあでも、そうだと思うよ」
-- 想像つきませんね。
「ん? 亭主関白な感じする?」
-- いえ、織江さんが主導権を握るお姿がです。
「お、意外とそうだろ?」
-- はい。なんか、織江さんて社長でマネージャーで仕事も出来るお人なのに、偉そうな部分がどこにもないですよね。
「あー、嬉しいね、ちゃんと見てくれてる」
-- あはは。皆さんに合わせて砕けた口調でお話されている時ですら、私腰から下がとろけそうになるんです、あの方の優しい目で見られると。
「それ話違わない?」
-- すみません(笑)。なので、かかあ天下だと言っても、ちょっとどんな風なのか見えないですね。
「結局さ、どっちが上とか下とか考える事もないんだよ。織江は仕事中もそうだけど、絶対人に対して偉そうにしないし、偉そうな事言わないし。口煩くもないしね」
-- 理想の女性ですね。そんな人世の中にいませんよ。
「あはは、そうだね。だから余計に、あいつが言う事は素直に聞けるというか。これはちゃんと聞かないといけない事だろうなって思える。例えその場で理解できてなくても、あいつを信頼してるから」
-- 凄いですね、そんな話サラっと言えちゃう大成さんが凄い。
「なんで?」
-- 本当に勉強になります。竜二さん、翔太郎さん、大成さん、3人ともタイプが違うのに、共通して男らしさと優しさがあって、はっきり物が言える人達です。人として大切なものを持ってる方々なので、話をするだけで一冊の本を読む以上に学ぶ所が多いです。
「ダメダメ。他人の話なんて盛ってるに決まってるし、そいつ自身にしか意味ない事なんだから。何も参考にしちゃ駄目」
-- インタビュアー殺し(笑)!
「気をつけなよ、本当に」
-- 肝に銘じます。
「バンドマンなんてロクなやついないしな」
-- なんで自分の首絞めてるんですか(笑)。
「フフ」
-- 大成さんから見て普段の繭子ってどういう印象ですか? ドラムセットから離れた瞬間、彼女は大成さんにとって何になりますか。
「何それ。繭子は繭子だよ」
-- そうですよねえ。
「何だよ。気持ち悪いなあ。あ、それがいい、それハラミ?」
-- いえ、ロースです。
「ええ」
-- ハラミはこっちです。だんだんと見えてきたのが、皆さんと繭子って、等しく彼女を大事に思っているんだけど、接する時間や態度ってちょっとずつ違うんだなって。
「そりゃそうだろうね。生活スタイルも違うし、別にこっちもあいつ中心に時間回してるわけじゃないし」
-- あ、繭子言ってましたよ。以前のようにお酒飲んだり、ご飯食べたり、誘ってもらう事が少なくなったんだって。
「そうなんだ。え、そうなの?」
-- 私は知りませんよ(笑)。
「飯食いに来るかって言ってると思うよ、しょちゅう」
-- 大成さんがですか?
「…あー、ないわ。織江だもんなぁ」
-- 何故なんでしょか。そこは意識したことあります?
「ない。ってか竜二とか翔太郎もないの? 意外。翔太郎なんか特に言いそうだけど」
-- 確かに、そうですね。
「あ、そう思う? やっぱちゃんと見てるんだね。あいつ分かりにくいけどさ、めっちゃくちゃ優しいだろ?」
-- はい。最初怖かったですけど、最近キツめに言われる言葉すら優しく聞こえてくるようになりました。
「あははは! それは重症だ。いや冗談抜きでホントにね、そうなんだよ。色んな所でよく気が付くしね」
-- 大成さんもそう見えますけどね。
「俺なんて全然だよ。昔からヒョロヒョロでそんな印象持たれてるみたいだけど、一番繊細なのはやっぱり翔太郎。だから、ちょっと意外かな、その話は」
-- 大成さんヒョロヒョロじゃないですよ(笑)。でも、竜二さんは意外じゃないんですか?
「うん。あいつはねえ、ドンとしてるよね。気が付いたら周りに人がいるタイプ。誘うより誘われるタイプ」
-- ああ、なるほど。
「あいつほとんど家にいないしね。いっつもどっかで誰かと会ってるし、飲んでるね。業界の人間とはほとんどつるまないけど、畑違いの奴とか意外なつながりで顔広いし、あと後輩の面倒見がいいからね。それはそれで尊敬するよ。俺昔からそういうの苦手だし」
-- そうなんですね。という事は皆さん敢えて気を使って、繭子に声をかけないわけじゃないんですね。
「気を使う理由なんてないからなあ。だから感覚としてはほかのメンバーと同じだよ。なんでわざわざ休みの日に会うんだよって」
-- 嫌なんですか(笑)。あんな可愛いのに。
「嫌じゃないよ、でも明日も明後日も会うじゃん」
-- そうなんですけどね。全然話違いますけど、翔太郎さんてお酒強い話よく聞きますけど、喧嘩も強いんですか。
「なんで?」
-- 想像付かないなって。
「俺とか竜二はつくの?」
-- はい。
「へえ」
-- 強い、っていう顔ですねえ。
「うん。キーマンだよね。あいつのいる場所に必ず勝ちが行くような」
-- ええ、凄いですね。
「単純に腕っぷしも相当だけど、ああ、そういやこないだ見たね。びっくりしなかった?」
-- しましたよ!どんだけ怖かったか!
「あははは!ごめんね。あれはもう、仕方ないよね。ははは」
-- はははじゃなくって、もおー。
「だから例えばアキラも入れて4人で誰が一番だってのは分からないよ。でも俺が一番やりたくないのは翔太郎だね」
-- 相性の問題ですか。
「そうだろうね。多分、予想だけど、仮に4人でやりあったら最後の最後に立ってるのは竜二だと思うんだよ。でも翔太郎が誰かに負ける姿を想像できないんだよね。あいつにそれは似合わないし、うん、想像付かない。今までも、多分誰にも負けた事ないと思う。ひっくり返って意識がないみたいな状態、見た事ないかな。でも珍しいね、喧嘩の話とか嫌いじゃなかった?」
-- 嫌いですよ。でも皆さんの事はちゃんと理解したいので、全部知りたいんです。
「そっか。…でも翔太郎、最近どう?」
-- え?
「ちょっとは元気になってきてる?」
-- …ええ、泣きそう。…泣きませんよ!
「なんだよ、変な人」
-- でも一時期よりは全然笑顔ですよね。今はちょっと忙しすぎるっていうのも理由としてある気がしますけど。
「そっか。誠がいた時はさ、あの2人ってホントに繭子を構うのが好きだったから、しょっちゅう3人でいるの見かけたんだよ。今それがないからさ、誘われないっていう繭子の話聞いてちょっと、ドキっとした」
-- ああ、でも全然凹んでる感じでは言ってなかったですよ。口を尖らせる程度の軽いスネ方です。
「そ。良かった」
-- 繭子自身が自分から誘ってるんじゃないでしょうかね。ついこないだも翔太郎さんの部屋で宅録したみたいです。
「うんうんうん。だから俺からしてみたら、そうなんだよな。繭子が今、翔太郎の側にいてあげてる感じなんだろうね」
-- これまで自分がそうしてもらったように、という事ですか。
「うん。ん?…ああ、よく知ってんね」
-- ああ、そうかあ、そう見ると、ああ、そうかあ。
「フフフ。なんで2回言ったの」
-- いや、私下衆だなあって。
「なんで?…ああ、2人の間に何かあるんじゃないかって?」
-- まあ、はっきり言っちゃうとそうです。
「別にあっても良いんじゃない?その事でお互いが傷つかないなら、いいと思うけどね」
-- いやあ、そうは言ってもそこはホラ、バランスというものが。
「なんかあってくれた方が気が楽なくらいだよ。任せて大丈夫な奴だし」
-- でも以前、織江さんが『翔太郎は一途じゃない』って言ってましたよ。
「あははは!いつの話してんだよ。あー、笑った」
-- 今は違いますか。
「ご存じの通りなんじゃない。そもそもあいつ異常にモテるからね、周りから寄ってくるんだよね。だから一見しただけじゃ分からない状況も多かったし、何をもって一途かも分からないけどさ、少なくとも自分の女傷つけるような男ではないよ。面倒臭がりの所があるから誤解を生むし、取り繕うような真似もしないから勝手に傷ついてる女の子は一杯見て来たけどね」
-- そうなんですね。
「結局は誰も、誠には勝てなかったんだろうね」
-- あははは、あの人やっぱり無敵だなあ。
「そうだね、そう思う。うん、あれを越える人間はそうそういない。でも俺は嫌じゃないな、翔太郎と繭子なら。まあ、なんだかんだ言っても付き合いはしないと思うけどね、今更」
-- そうなんでしょうか。
「うん。でも慰めたいと思う気持ちくらいあっても普通じゃない。それだけの付き合いはあるし。良いと思うよ、オッサンと三十路前の女が適当に遊ぶくらい」
-- 身も蓋もないっす。なんか、全然色気ないっす。
「あははは。でもまあ、それもないだろうなあ、あそこは。2人とも優しすぎるよ。ほんとに」
-- そういうもんですか?
「だと思うよ。結局、自分が気持ち良くなる事を優先するか、相手の尊厳を大事にするかって言ったら、お互いが相手の事考えて手を出さないタイプだよ」
-- うわ、凄い説得力。本当に大成さんて、お話上手ですよね。
「なんだよそれ(笑)」
-- ごめんなさい、職業病です。
「ましてや別れたとは言え翔太郎の横にいたのは誠だしね。相当ハードル高いぜ、誠って存在は」
-- 激賞じゃないですか、先程から(笑)。でも、繭子も負けてはいないと思いますけどね。
「あはは、いやいや。繭子が悪いってんじゃ全然ないし、あれはあれで凄まじいけどね。でも翔太郎の相手ってなったら話にならない、全然勝負にならないと思う。あいつの、誠の側に一週間いてみなよ。その凄さが分かるから」
-- そうなんですか。まだまともにお話出来たのって2回ぐらいなんですよ。自己紹介程度のお話と、アキラさんとの思い出をお伺い出来たぐらいで。もったいないなー。
「いつかまた会えるよ。俺はそう思うね」
-- へえ、大成さんがそう仰るならそんな気がしてきました。
「今なんでか知らないけどURGAさんも割と近くにいない?」
-- そうですねえ。だけどそこはちょっと名前をあんまし出せないですねえ。
「マジすぎてって事?」
-- いやいや、他事務所ですし、許可取ってないですから。一方的過ぎてご迷惑だと思います。
「そっかそっか、織江に怒られるからやめよ」
-- はい。あのう、以前一度お伺いしたと思うんですけど。大成さんは織江さんのどこに魅かれて、お付き合いされたんですか。
「どこ。…どこって、どこ?」
-- そんな顔されても。あ、目、大丈夫ですか。全然、サングラスしてくださいね。
「ごめんね、煙が」
-- あ、こっちのおしぼり使ってください。
「ありがとう。…ううーーんと、ほんと普通の話になっちゃうけど、自分の中での基準というか」
-- はい。
「ワールドスタンダードって勝手に言ったりするんだけど。そこにいる人なんだよね、織江って」
-- ワールドスタンダード。
「うん。良い意味でど真ん中。そういう意味のスタンダード。特別何かに秀でているとか、世界一可愛いとか、世界一頭が良いとかまではいかないと思うんだけど、…何で笑うの?」
-- いえ、私には世界一なので。
「もう、どうしたいんだよ、あいつを(笑)。でも、痒い所に手の届く丁度良さっていうかね。なんか平凡な印象になっちゃうと、全然そういう意味じゃないから違ってくるんだけど。例えば、…なんだろうな。街歩いててさ、知らない女の子とすれ違うとするじゃない。それでその子が、割とお洒落な、雑誌に載ってるようなコートを着ててさ、良いなあ、ああいう服をサラっと着こなしてる子は素敵だなって思ったとするだろ。でさ、パッと自分の隣を見るとさ、ちゃんとそういう人なの、織江って」
-- あはは!それ相当凄い事ですよ!街で見かけた素敵な女の子みたいな女性が自分の彼女って、最高じゃないですか!絶対一度は妄想する男子の夢じゃないですか!
「そうなのか(笑)。うん、そういう嬉しさってあるよね。だからきっと織江も、街で素敵だなって思われてると思うし。自分で言うの変だけど、仮に俺を除いたとしてもさ、強烈に個性的な人間に囲まれてるじゃない?」
-- そうですね。
「その中で見る織江の普通さっていうかど真ん中さって、却って凄いなって思うんだよ。そういうのが、今ルックスの話で例えたけど、中身もそうなんだよね」
-- 中身のワールドスタンダードとは?
「さっき言ったみたいな、偉そうにしないし、押し付けないんだけど、消極的ではないし、なんならアメリカ人とだって笑って渡り合えたりするだろ? そういうバランス力の中心にある強さって、鍛えて出来るとか考えて出来る事でもない気がするんだよね。そこが、織江のもともと備わってる凄さだと思う」
-- 確かに、真似は出来ないですね。
「色々な感情がある中で物事の正否がちゃんと見えてて、抑制力の効いた態度で真正面から向き合えるって、普通出来ないからね。特に俺達4人はね(笑)。だから自分にはない王道の感覚も持ってて、恥ずかしい言い方すると真っ直ぐで凛とした綺麗な人が、俺みたい奴の隣にいる事の有り難さって、なかなか本人には言えないけど、ずっと思ってはいるよね」 
-- しかも出会って20年以上経つのに、その思いがずっとあるって、相当魅力的だという証拠ですよね。
「尊敬できるよ。それに、俺が言うのは変なのかもしれないけどさ、織江ってホント誰にでも優しいんだよ。そういう所もね、見てて気持ちがいいよな」
-- 独占欲とかないんですか? 自分にだけ優しくしてればいいんだ、みたいな。
「ううん、嫌かな。やっぱりそれが普通なの?あ、面白いのはね、前にそういう話になった事があって」
-- へえ、恋バナもするんですか。
「や、そういうんじゃないと思うけど。また誠の話になっちゃうから使えないかもしれないけど、あいつって俺や竜二と話す時と翔太郎と話す時とじゃ全然顔が違うわけ」
-- あー、はいはい。女の子の顔ってことですよね。
「どう違うかは分からないけど、なんか扱い違うじゃねえかって竜二が言ってて。当たり前でしょって誠も笑って返すんだけど、でもいくら考えてもさ、誠が俺達を邪険に扱ったり差別的な態度で落差を付けるなんてことは一切ないわけ。それこそ織江みたいに、誰の前でも同じ態度だし、良い子だなって皆思うんだよ。だけど翔太郎の前になると全然違うんだよ。なんだ?あれはどういう仕組みだ?って」
-- いや、だから、さらに可愛くなるっていう事ですよ。皆さんの前では標準仕様の関誠。その時点で良い人。でも翔太郎さんの前ではウルトラ関誠。超絶可愛いモード。
「どういう事?」
-- え、どういうって言われても。
「何が言いたいかって言うと、竜二も翔太郎も俺も、自分にだけ優しくて、他の人間にはそうじゃない女の子を好きになれないんだよ。本来他人に冷たい人間が自分の前でだけ可愛い子ぶっても気持ちが悪いっていう風に見えちゃって」
-- 本当はそうですよね。
「そうだよね。変じゃないよな?」
-- はい。
「誠は明らかに翔太郎を特別扱いしてんのに、それを俺達はなんとも思わないし、嫌な気にならない。でもほかの女の子がそれをやるとイラつくんだよ。この差は何?っていう話を前にしたことがあるんだけど、これ恋バナ?」
-- そんな真面目な顔で言われても。恋バナ、ではないのかなあ。心理学的な話ですか?
「いまだに解明できないんだよ」


そんなこんなで、伊藤織江が到着した。
仕事を終えて現れた女は、とても充実した笑顔で神波にお疲れ様を告げ、私に微笑んだ。
そして私の隣に膝を折って座ると、そっとおしぼりで私の口元を拭った。その優しい力加減に、私は骨抜きになる。すみません、お恥ずかしい、と頭を下げる私の肩に手を置いて立ち上がると、微笑んだまま神波の横に座りなおした。
「飲んでるの?珍しいね」
「飲む?」
「うん。じゃあ、いただこうかな」
-- さっきまでずっと織江さんの事話してました。
「なに、嘘」
-- 本当です。
「仕事の出来るスーパー女社長って?」
-- あはは、それもありますけど、とても魅力的な女性だと、改めて2人でベタ誉めしてました。
私の言葉に、伊藤は隣の神波をじっと見つめる。
何も言わない彼女に、神波が少し動揺して「なんだよ」と小さな声で言うと、伊藤が真面目な顔でこう答えた。
「再現してください」
-- あははは!
「私、見ても聞いてもないのに喜べないよ?」
「別に喜ばすために言ってないよ。後で見せてもらえばいいじゃない」
神波がテーブルの上のビデオカメラを指さして言うと、伊藤は目を丸くして私を見る。
「家でもこういう感じなんだよ?はっきり言わないの、寂しいよね?」
-- そうなんですか。じゃあ、もうこれひっくり返るかもしれませんよ。
「嘘ー、今見るー」
「待てって。とりあえず食べな、腹減ってるだろ」
「あはは。じゃあさ。えーっと、時枝さんが一番印象に残ってる話、もしくは一番『これいいなあ』って思ったセリフ!」
と、伊藤がいきなり私を指さした。
-- え、え、えーっと、『ワールドスタンダード』!
伊藤は虚を突かれたように目を丸くする。
「…何?」
(一同、爆笑)





2016年、10月26日
雑談、池脇竜二。
会議室にて、「PV撮影旅行記を見ながら」。


-- 竜二さんって壁ありますよね。
「え?初めて言われた」
-- そうなんですよ。私も最近気付きました。
「壁ェ?」
-- 意識して人を遠ざけるとかされない方ですけど、でもある程度の距離から近づけない壁とか膜のような物があります。
「ちょっと傷つくな」
-- すみません!
「あははは!」
-- もー。…なんて言うんでしょうね。そのう、どーんと突っぱねられる感じじゃないのが分かり辛い原因なんですけど、意外と竜二さんて一人でいる方が好きなのかなーって思う事があるんですよね。
「今日なんかグイグイ来るな、どした、グイグイ来てる」
-- すみません、いきなりネガティブなイメージぶつけられても困りますよね。
「孤高の存在みたいで格好いいな」
-- やはり、そういうのはどこかで自覚されますか?
「自覚なんかねえけど、一人でいるのは嫌いじゃねえよ。ただでさえずっとメンバーといるからな、うん、もしかしたらそういう感覚もあるかもしれねえな」
-- 大成さんが、竜二さんは気付くと周りに人がいるタイプだと仰ってましたが、誰かと騒いでいる自分と、一人でいる自分と、どちらが自然体ですか?
「いやあ、切り替えるだけであって、どっちも自然だろ」
-- スイッチングされているわけですか。
「どっちがオンオフじゃなくて、人と盛り上がるモード、自家発電モードっていう切り替えがあるだけ」
-- また話変わってきてるじゃないですか。なんですか自家発電て。
「あはは!下ネタ行けるねえ」
-- おかげさまで、庄内で慣れたのもあります(笑)。
「あいつもなあ。…ちょっとハゲた?」
-- あははは!どうなんでしょうかねえ、聞いておきます。普段あまり家にいないという風にお伺いしたのですが、休日は何をされてるんですか?
「休みの日は寝てる事多いぞ、結構。普段練習終わりはそのままだと眠れないからたいてい飲んでる。ヘロヘロんなりながら」
-- そうなんですか。それは、興奮で?
「そうそう、体は疲れ切ってんだけど、意識がもうギンギンに尖ってるから。でもそれは俺だけじゃないと思うけどね」
-- 普段の練習終わりだと確かに、皆さんテンション高いですものね。特に竜二さん。
「毎日毎日ぶっ倒れるまでやってた時もあったけどな(笑)。それだと次の日に影響して思うようにはパフォーマンスが向上しないっつーか、効率が悪くて」
-- 当たり前ですよ(笑)。
「本当はでも、やりたいんだけどな」
-- いやいや、もう、…狂気(笑)!
「うははは!」
-- 練習終わりのお酒はご褒美ですよね、そうなると。 御一緒されるのは、真壁さんや渡辺さんですか。
「とか、昔のツレとか」
-- 他のバンドマンと交流はないんでしたっけ。
「ないこともないけど、そもそもバンドマンて顔合わすとすぐ音楽の話するだろ、どこどこのバンドからギター抜けたらしいよ、とか、あのバンドの新譜聞いた?とか」
-- はいはい、日常会話がそんな感じですよね。
「くっそつまんねえよなぁ!」
-- もー、怖いー。返事出来ないー(笑)。
「俺そこらへんはマジでどうでもいいし興味ねえんだよ。バンドマンが外で音楽の話するって意味分かんねえ」
-- ええ…。
「違う?」
-- 私は、普通だと思うんですけどね、あくまで個人的にはですが。それはバンドマン同志だから嫌だという事ですか?例えば別のジャンルでお仕事されてる方と同席していて、自分のバンドの話ばかりするわけにはいかないっていうお考えでしたら、納得なんですけどね。
「俺は逆だな。そもそもテメエの事を意気揚々と喋ったりはしないけど、違うジャンルの相手とならいくらでも話聞いてられる。けど同じ業界の奴と飲んでて音楽の話されても『うるせえなあ』ってなるし、言うし」
-- 言うんですか(笑)。でも少し、分かる気がしてきました。相手に興味を持てるかとうかっていう事なんでしょうか。
「それもそうだし、例えば何のジャンルであれバンドマンが俺に音楽の話振って来て、俺はそれ聞いて何を思えばいいんだよ」
-- 何をって…。
「んん?」
-- えーっと、…曲作りにちょっと行き詰っててー。
「知らねえよ(笑)」
-- あ、こないだ出たアルバムがもう会心の出来で!
「おめでとう」
-- (笑)、えー…、解散、するんです…。
「お疲れさまでした!なんだそれ!あんた本当に記者か!?」
-- あははは!すみません、テンパりました!
「けどまあ大体似たり寄ったりでよ。そもそも他人の出す音にそこまで興味を示せるんなら、テメエで音楽なんかやってねえよ」
-- なるほど! それでは、バンド内でも音楽の話はされませんか?
「それはまた別だろ、仕事なんだし。今俺がバンドのボーカルで、毎日気が狂ったように歌ってギター弾いてってのを繰り返してるのは、他人が作る音楽に興味ねえって事の表れでもあるけどさ。じゃあ音楽嫌いなんですかって言われちまうと、そんなわけねえし」
-- 確かに(笑)。あえて外で音楽の話するなんて、オフの時間にならないじゃないかと。
「まあな。でもまあ、オンオフの話で言うと、オフがいらねえよそもそも」
-- あ、休みがいらないと。
「うん。もうオッサンだし疲れもたまるから寝たいのは寝たいけどな。常に眠たいし(笑)。んー、でもそれぐらいかな。疲れるから寝る。それが俺のオフ。あとはもうオンでいいな。歌ってるか、バンドの事考えてるか、酒飲んでるか」
-- お酒はオフじゃないですか。
「仕事仕事! バンドの事考えながら飲んでるから」
-- (笑)。みんな心配してますよ、翔太郎さんもですけど、お酒飲みすぎじゃないかって。
「最近量はそうでもねえよ、俺は。それを言うならマジで翔太郎だろ。酒も煙草もイクし」
-- 竜二さん吸われませんものね。
「クロウバーの時までは吸ってけどな。織江に釘刺されてやめたんだよ」
-- なんて言われたんですか?
「世界に行くって言い出したのはあなたでしょ、って」
-- うわ(笑)、ぶっとい釘ですね。
「そりゃあもう、痛い痛い」
-- 織江さんの話で思い出したんですけど、以前から皆さんの中で、もっと繭子を認めさせよう、ちゃんと注目させよう、みたいな戦略というか、お話をされてたじゃないですか。
「おお、うんうん」
-- でもその反面、織江さんて繭子をとても女性として扱っているし、守ろうとする意志も強いと思うんです。ファーマーズでも、ニッキーに対して食ってかかるぐらい、女性的な魅力を前に押し出すのを嫌っているというか。まあ、ファーマーズ側の提案は確かに突拍子のない話でしたが。
「うん」
-- その辺りで、メンバーと織江さんの意見が対立する事はなかったですか。
「ねえよ、全然」
-- そうなんですか。
「別に俺らも繭子を女として注目させようと思ってるわけじゃねえしな。最初のうちは誤解されるかもしんねえけど、そこを恐れないで一回きっちりあいつを見てみろと。どうだよ、格好いいドラム叩くだろ?って、そういう考えだから、それは織江も分かってんだと思うよ」
-- なるほど。
「そもそも織江に関しては、逆に俺らが色々相談しすぎてる部分が多くてさ。うるせえな!ってなった事があって」
-- ええ、本当ですか?
「マジでマジで。こないだ繭子が入れ墨の話しただろ?あれとは別に、俺も大成もそこそこ入れてんだけど、最初のうちは毎度織江に『彫っていい?』『この絵とか字は大丈夫なやつ?』とか聞いてたもん」
-- もうどこまで本気なのかわかりませんよ(笑)。何故そんな事聞いてたんですか。
「だってあいつ一応社長じゃんか。俺ら所属アーティストじゃんか、俺らしかいねえけど」
-- はははは!
「でもいきなり、うっせーなあってマジ切れされて。私はプロデューサーじゃないんだから、自分達の演出は勝手に自分達でやってくれって。マネージメントもやるし責任も全部取るから、舵取りは自分でやれよって」
-- 男前だなあ。
「正論だよな。ッハ!ってなって。確かにそうだ!ってなって」
-- (笑)、でも、止まらなくなるそうですね。
「かっぱえびせん?」
-- ちょっと待って!(笑)
「なにが?」
-- 今入れ墨の話ですよね?
「あー、うん、一時期そうだった。ただ翔太郎がよ、あいつも彫ってるくせに…何つーか、説教じゃねえけど、上手くブレーキ掛けてくれて」
-- 何と仰ったんですか?
「その内全身墨で覆われて、お前誰だよって言える日も近いなって」
-- ふぁー(笑)。
「なんか、考えちまって、俺も大成も」
-- なるほど。増える過ぎるタトゥーが、自分を覆い隠していくって言う発想なんですね。
「そう。癪だけど、一理あるなって」
-- 確かに、言われてしまうとそうかもしれませんね。自己表現とか投影のはずなのに、そこにあった本来の自分を覆い隠すっていう発想は、ブレーキになりますよね。ちなみに竜二さんはなんて彫ったんですか? Pのフレーズは。
「へたくそか!」
-- 実はまだ誰にも聞けてません(笑)。
「聞きたい?」
-- 正直言うと、よく分からない感覚ですね。知りたいような、でも触れちゃいけない事のような。
「うん?」
-- 皆さんの事は全部知りたいんですけどね。でも、そこを知ってしまう事で、知りすぎてしまう距離感の怖さってあると思うので。
「なんか、分かる気はするけど」
-- それはプライベートな話というよりは、とても大切な共有の思い出だし、宝物だと思います。そこは皆さんだけの物なんじゃないかって思うと、例え聞かせて頂いた所で処理しきれない感情に襲われる気がするんです。
「うんうん。…じゃあ俺だけ教えたげよーか?」
-- え?
「俺のを聞いてさ、判断したら?前も言ったけど、俺はタブーなんてないから」
-- 仰ってましたもんね。…そうですか、じゃあ、竜二さんのPだけお伺いしてみようかな。まず、どこに彫ったんですか?
「ここ」
-- こめかみですか!?
「うん、痛かったー、ここ彫るの。一回髪の毛全部剃って」
-- あー、うわわ、鳥肌が(笑)。では言葉はなんと?
「POOR」
-- え?…あ、あー。そうか、そういう方向なんですね。ありがとうございます、教えていただいて。
「どうする?あいつらにも聞く?」
-- ちょっと、無理ですね。聞けないです。
「あらま」
-- 気に入ったフレーズを彫った若気の至りとは話が違いますものね。それはあなた方の大きな優しさの象徴であって、繭子が味わった苦悩を一緒に背負わんとする十字架なわけです。好奇心で手を出していい話とは思えないです。
「そんな大した事じゃねえよ!照れる事言うなって(笑)」
-- でも繭子は絶対軽く捉えてませんよ。
「そうなんだよ、言わなきゃ良かったんだよな。誠がペラっと言っちまいやがってさあ、まあ、仕方ねえっちゃあ仕方ねえけど」
-- 誠さんが言っちゃったんですか。
「おお。まあ、アレに気付くのは誠しかいねえもんなあ」
-- …え、まさかとは思いますけど、私の変な想像が万が一当たってたら、翔太郎さんの彫った場所ってとんでもない場所ですか。
「(爆笑)」
-- 嘘ー!?
「まあまあまあ、そこはあえて触れないでいてやろうか。…お嬢ちゃん顔が赤いぜ?」
-- やめてくださいよ、セクハラですよ、…今更ですけど(笑)。
「あはは、でも良い笑い話にはなってるよなあって思うんだ。なんだかんだ、それだけ考えてやったことだし」
-- と仰いますと。
「そのー。色々あったからね、繭子。多分、普通に記事には出来ねえ事なんかもいっぱい経験してんだよ。それでもさ。それでもあいつの人生の一部に変わりねえし、忘れたくても綺麗さっぱり忘れる事はできねえだろ。なんかの拍子で思い出して苦しくなる事だってあるだろうし。そういう時にさ、俺らみたいなバカがさらに大馬鹿やった思い出が、そんな苦しい記憶の横に一つでも多くあれば、少しはマシになんじゃねえかって。それだけだよ、こんなもん(タトゥー)は。全然大したことない」
-- 泣かないと決めたので泣きませんけど、私は今絶叫したいくらい心が叫んでます。
「あはは、詩人じゃねえかあ、良いねえ」
-- 繭子は本当に素敵な人たちに巡り合えて、良かった!
「俺達だってそう思ってるよ」
-- これ、あんまり言い過ぎると読者やあなた方を知らない人間に余計な誤解を与えるので本当は控えないといけない話ですけど、どのぐらい繭子が皆さんを大切に思ってるかっていうと。
「ああ、それ言わないでやって。知ってるから。もうずっと前からそういう事言ってるの、知ってるから」
-- あ、すみません。私最近知って衝撃を受けてしまって。
「だろうねえ。まあ名誉のために言っておくけど、一回もそういう間違いはねえよ。少なくとも俺とはね」
-- はい。
「俺達自身はなんとも思ってねえ。乱交バンドだって思われたって書かれたって屁でもない。人間的な判断なんてどうでも好きに思ってもらったらいい。俺達の人生になんの影響もねえからな。問題は繭子の将来とあいつの両親に不名誉があっちゃマズいって、それはあるけどな」
-- そうですね。きっと皆さんならそう考えるだろうなって思います。
「だからほら、俺らの曲に詳しい時枝さんならピンとくると思うけど」
-- え、何ですか、曲名当てすか。得意ですよ。
「今俺が言った言葉が関係してそうな曲のタイトルはなーんだ。ヒントは、そこまで古くありません」
-- 分かりました。
「早えなあぁ」
-- いやだって、分かり易いですよ流れ的に。『&ALL』の2曲目『4P』ですよね。
「おお、当たり。スゲなあ、嬉しいよ」
-- でも良かったです。ずっと、もしかしてそうなのかなと思いながらも聞けないじゃないですか。違ったらただの赤っ恥だし。
「確かに(笑)。曲としては全員のソロパートがあって、一塊に混じり合って突っ込んでいくイメージだから、別にエロいだけの歌じゃないけどな」
-- 歌詞はどうなんですか? 直接的な表現されてましたっけ。
「直接的ではねえかも。だから海外だとどういう意味なんだ?ってしょっちゅう聞かれた」
-- なんて答えるんですか、その場合。
「フォープレイ」
-- プレイヤーのPLAYですか?
「でもいいし、祈りのPRAYでもいいし」
-- なるほど、頭良いですね。…あ、Pじゃないですか。
「あ、ほんとだ」
-- PRAYにすればよかったじゃないですか。
「そうかもな(笑)。まあ、でも、格好良い言葉彫ったら、ダメだろ」
-- めっちゃ格好良い笑顔ですね。ああ、ダメだダメだ。ほああああ!
「なんだよ(笑)」
-- なんでもないです。『END』はアルバムに収録されないって本当ですか。
「う、うん。…いきなり(笑)」
-- 勿体ないですよねえ。
「っつーか、URGAさんに悪いよな。ピアノアレンジも歌入れもお願いしたのに、世に出さないかもしれないってな。俺はそれで構わないけど、いい曲だよなっていう客観的な思いもあるし」
-- 次のアルバムのおまけってマユーズの曲とPVですよね。そこに収録されてはどうですか。
「そういう案もあったけどね。でもそれはなんか違うんじゃねえかなーって。ブツかるというか、ボヤけるというか」
-- なるほど。難しいですね。なんとかして世に出したいなあ。
「あとはベスト盤出せっていう話もあって」
-- ああ、ビクターからですよね。それ前から話ありますよね。
「良く知ってんな。けどどちらかと言えば、そっちの線が強いかな。ボーナストラックか、ボーナスCDにして」
-- 私ずっと出したくないんだと思ってました。ベスト盤嫌いというか。
「あはは、確かに好きではねえな。商売っ気が見えすぎるしな。そこだけ聞いてバンドを知ったような顔されるのも嫌だしよ。でも普通にメタルファンとして、好きなバンドのベストが出ればなんかちょっと嬉しいっていう心理も分かるしさ。今回ビクターとも切れちまうし、恩返しじゃねえけど、置き土産ぐらいはっていう雰囲気にはなってきてるよ」
-- なるほど。これまた有意義な情報をありがとうございます。
「忙しくなるよまた。アルバムも作る、マユーズの曲も作る、ベスト盤も作る」
-- PVも録る、ベスト用に新曲1、2曲入れる、『END』のPVも作る。
「おいおいおい、仕事増やすな(笑)」
-- でもきっとやるんでしょうね、あなた方は。普通の物は作りませんものね。
「『END』はやらねえよ。それはやらねえ。新曲は入れるかな。金払う奴に申し訳ねえし。PVってなんのPV?」
-- え、マユーズです。
「ああ、それはまあ、繭子頑張れ!」
-- そんな他人事みたいに(笑)。…でも実際そうですもんね。
「他人事とは思わねえけどな。けどそこはホント楽しみにしてんだよ」
-- 私もです。
「もう、全部やって欲しいっつーかよ」
-- 全部と仰いますと。
「可愛いも格好良いもクールなのもめっちゃくちゃにぶち込んで、全部やって欲しい。あいつはそれが出来ると思う。もうこの先女の子がどんなPV撮っても越えられねえくらいの壁を作って欲しいんだよ」
-- 良いですねー!大賛成です。
「その前に曲作らないといけねえな」
-- 楽しそうですねえ。お忙しいのに。
「忙しいのは嫌いじゃねえよ。だから楽しいよ今。やる事一杯あって、全部面白い。あ、インタビューはBillionで限界だけどな」
-- 足を向けて眠れません(笑)。感謝しかないです。
「庄内にまたスタジオ来いって言っといて。また飲もうって」
-- 分かりました。あー、結局仕事の話になってしまいました。今回結構突っ込んだプライベートの話をお伺い出来てたんですけど。
「他の奴ら?」
-- はい。でもなんでろうな。竜二さんの笑顔見てると、そこらへん曖昧になります。プライベートとか、仕事とか、関係ないくらい全部目の前にある気がします。
「っはは、良い事言うじゃねえか。今日イチ嬉しいよ」
-- え?
「ありがと。俺はそれでいいよ。それがいい」
-- ごめんなさい、今だけホントごめんなさい。クッソ格好良いなー!!
「あははは!」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう

凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。 私は、恋に夢中で何も見えていなかった。 だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か なかったの。 ※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。 2022/9/5 隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。 お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...