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1「はじめに」
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はじめに。
この物語を始める前に、敬愛する男の言葉を紹介したいと思う。
『俺達は、自分が何者でもない事を知っている』
ボーカル・池脇竜二の言葉であり、バンドその物の言葉だと言える。
果たして彼らは何者であろうとしたのだろうか。
一年彼らを追い続ける間、私は4人の中に何を見たのだろうか。
私がこの企画を思いついた時、手前味噌ながら、
答えとも言える一つの確信めいた思いに、興奮を抑える事が出来なかった。
この仕事を終えた後、私は時代の先端を見る事になるだろう。
本気でそう思い、そう信じた。
決して流行の話をしているわけではない。
時代の先端とはつまり、まだ誰も辿り着いていない未開の地だ。
そして未開の地とは私にとって、音楽分野に於ける新たなジャンルでも、
セールス記録や動員数と言った数字の話もでない。
文字通り、誰も見た事のない光景、そして味わった事のない感動を言う。
私が席を置く詩音社という出版社が発刊する『Billion』は、
HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)専門誌である。
私は10年、記者として業務に従事し、やがて一つの答えを見出すに至った。
音楽。音の鳴りと、歌の響き。
そこで紡がれる人々の思いや感情を揺るがす波を全身に浴びる時、
ヘヴィメタルとはまさしく極限の到達点であるというのが、私なりの答えだ。
絶唱。咆哮。轟音。そして地鳴りのような振動。
人間が放つ本気は大気をも揺さぶり、世界中の人々の心を打つ。
世界その物を震わせる事が出来るのだ。
誤解を与えかねない表現になるが、敢えて言いたい。
私は本来、音楽のジャンル分けに興味がない。
私が興味を持って見ている、あるいは聞いているのは人間の魅力に他ならないからだ。
では人間の魅力とは何か。
一言で言えばその人間の『本気』であると私は考える。
確かに私は音楽ジャンルとしてのヘヴィメタルをこよなく愛している。
しかしそこに人間の魅力というものがなければ全く興味はない。
ロックであれ、パンクであれ、J-POPであれ、
それらを奏でる人々が本気になった時、その音楽は魅力で満ち溢れる。
そして私が良く知る4人が選んだ音楽は、
『デスラッシュ』と称されるヘヴィメタルであった。
私は彼らと出会い、彼らと時間を過ごして初めて、人間の本気に触れた気がするのだ。
今、この文章を書いている私の目の前には、テレビモニターがある。
目を細くして笑う女性の顔が大きく映し出されている。
芥川繭子。
その名を口にする度に、鼻の奥がつんとする。
今でも、胸の奥からがじわりと熱いものが込み上げてくる。
この笑顔を引き出すまで、毎日緊張で眠れない日々が続いた事を思い出す。
きっと誰もが、彼女の事を好きにならずにはいられないだろう。
同じ女性として、嫉妬心を微塵も感じない人間に初めて出会った。
「同じ女性として」などと書きたくないぐらい、私と彼女では何もかもが違う。
そしてそれは人としての優劣ではなく、熱量の問題なのだと思っている。
彼女達と過ごした一年の間、いつもビデオカメラを回していた。
膨大な量の資料映像を前に、腕組みしたまま編集作業が進まない日もあった。
どう伝えるべきか、一番の焦点をどこに当てるべきか、その構想はすでにあった。
しかしそれでも迷ってしまうのは、
このバンドの持つ凄さと魅力が一つや二つなどではなく、
書き連ねれば幾つでも列挙出来てしまう事と、
やはり芥川繭子の存在に因る所が大きい。
そもそも私がこの密着取材の企画を思いついた理由は、芥川繭子その人にある。
もし彼女の存在を知らなければ、
このバンドとこれ程までに深く関わる事は、なかったかもしれない。
もちろん以前からバンドの名前を知っていたし、当然音源を聞き込んでもいた。
単純にいちファンとして胸を焦がし、熱狂的にアルバムを楽しんでいた。
しかし所謂音楽シーン、
それもヘヴィメタルという世間一般庶民がおよそ足を踏み入れない、
深く激しい領域に於いて尚知る人ぞ知る存在であったそのバンドが、
ようやく重い腰を上げるや否や瞬く間に日本中を席巻し、
鋼鉄の翼を広げて世界へ飛び立とうとした正しくその瞬間に、
私は彼女の持つ魅力に憑りつかれてしまった。
そんな私が自分に対し、たった一つだけ褒められる点を挙げるとするならば、
(ライブ会場を除けば)初めて動く彼女に出会ったその瞬間から、
カメラを回していたという只一点に尽きる。
全く、物凄いバンドである。物凄い4人である。
そして4人組のバンドとは言え、敢えて物凄い5人だったと付け加えたい。
この文章を読んでいる諸兄らには強く共感してもらえるどころか、
今更こんな浅い言葉しか出てこない事にお叱りを受けるかもしれない。
多種多様な表現を用いてありったけの思いで賛辞の言葉を贈ろうと試みたが、
やはり心の底から湧き上がってくる「凄い」という言葉以上に、
気持ちのこもった表現が出てこなかった。
彼らのファン、そして弊誌の読者だけでなく一人でも多くの人々に、
彼らの『本気』と『人間力』を伝えたい。
私の願いは本当にただそれだけだ。
今回の企画に携わって下さった全ての人々へ、心から感謝の意を述べたい。
彼らの協力なくして成しえた事は何一つなかっただろう。
正直、当初は単なる記録係以上の役割を果たしているとは言えなかったし、
私がそこに存在する意味を何度も己に問い質した。
邪魔なだけだったかもしれない。
しかし思い起こせば最初から、彼らは言葉にして私を退けることをしなかったし、
どれだけ辛い瞬間も、嬉しい瞬間も、私と私の回すカメラを側に置いてくれた。
時には私を叱咤し、導き、背中を押してくださった『 VIRAL 4 STUDIO 』の代表、
伊藤織江氏には格別の思いがある。
そして事務所外の立場でありながら、惜しみない協力を買って出た下さった、関誠氏。
更には、ご自身が築き上げた地位と名誉を顧みず、いつも快く取材に応じて下さった、URGA氏。
御三方を含むすべての関係者各位に、改めて感謝の気持ちを述べさせていただきたい。
本当に、ありがとうございました。
あなた達と出会えて本当に良かった。
数々の素晴らしい瞬間に立ち会えた事を心から誇りに思います。
少しでもこの文章と記録があなた達にとって有益であり、
素敵な思い出のアルバムとなる事を祈って。
『 芥川 繭子という理由 』
~ ドーンハンマーの全てが、ここにある ~
取材、撮影、編集、文、━ 時枝 可奈。
『取材内容による書き分けのルール』
・インタビュー時を含む時枝の発言は『--』から始まる。
・単独インタビューでのメンバー及び関係者の発言は、全て冒頭の紹介以降無記名。
・対談、鼎談、ならびに複数人でのインタビュー、雑談におけるメンバーの発言はイニシャルで表記する。
・その他の動作を伴う記録映像の表現に際しては会話形式、「」を用いて記す事とする。
この物語を始める前に、敬愛する男の言葉を紹介したいと思う。
『俺達は、自分が何者でもない事を知っている』
ボーカル・池脇竜二の言葉であり、バンドその物の言葉だと言える。
果たして彼らは何者であろうとしたのだろうか。
一年彼らを追い続ける間、私は4人の中に何を見たのだろうか。
私がこの企画を思いついた時、手前味噌ながら、
答えとも言える一つの確信めいた思いに、興奮を抑える事が出来なかった。
この仕事を終えた後、私は時代の先端を見る事になるだろう。
本気でそう思い、そう信じた。
決して流行の話をしているわけではない。
時代の先端とはつまり、まだ誰も辿り着いていない未開の地だ。
そして未開の地とは私にとって、音楽分野に於ける新たなジャンルでも、
セールス記録や動員数と言った数字の話もでない。
文字通り、誰も見た事のない光景、そして味わった事のない感動を言う。
私が席を置く詩音社という出版社が発刊する『Billion』は、
HR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)専門誌である。
私は10年、記者として業務に従事し、やがて一つの答えを見出すに至った。
音楽。音の鳴りと、歌の響き。
そこで紡がれる人々の思いや感情を揺るがす波を全身に浴びる時、
ヘヴィメタルとはまさしく極限の到達点であるというのが、私なりの答えだ。
絶唱。咆哮。轟音。そして地鳴りのような振動。
人間が放つ本気は大気をも揺さぶり、世界中の人々の心を打つ。
世界その物を震わせる事が出来るのだ。
誤解を与えかねない表現になるが、敢えて言いたい。
私は本来、音楽のジャンル分けに興味がない。
私が興味を持って見ている、あるいは聞いているのは人間の魅力に他ならないからだ。
では人間の魅力とは何か。
一言で言えばその人間の『本気』であると私は考える。
確かに私は音楽ジャンルとしてのヘヴィメタルをこよなく愛している。
しかしそこに人間の魅力というものがなければ全く興味はない。
ロックであれ、パンクであれ、J-POPであれ、
それらを奏でる人々が本気になった時、その音楽は魅力で満ち溢れる。
そして私が良く知る4人が選んだ音楽は、
『デスラッシュ』と称されるヘヴィメタルであった。
私は彼らと出会い、彼らと時間を過ごして初めて、人間の本気に触れた気がするのだ。
今、この文章を書いている私の目の前には、テレビモニターがある。
目を細くして笑う女性の顔が大きく映し出されている。
芥川繭子。
その名を口にする度に、鼻の奥がつんとする。
今でも、胸の奥からがじわりと熱いものが込み上げてくる。
この笑顔を引き出すまで、毎日緊張で眠れない日々が続いた事を思い出す。
きっと誰もが、彼女の事を好きにならずにはいられないだろう。
同じ女性として、嫉妬心を微塵も感じない人間に初めて出会った。
「同じ女性として」などと書きたくないぐらい、私と彼女では何もかもが違う。
そしてそれは人としての優劣ではなく、熱量の問題なのだと思っている。
彼女達と過ごした一年の間、いつもビデオカメラを回していた。
膨大な量の資料映像を前に、腕組みしたまま編集作業が進まない日もあった。
どう伝えるべきか、一番の焦点をどこに当てるべきか、その構想はすでにあった。
しかしそれでも迷ってしまうのは、
このバンドの持つ凄さと魅力が一つや二つなどではなく、
書き連ねれば幾つでも列挙出来てしまう事と、
やはり芥川繭子の存在に因る所が大きい。
そもそも私がこの密着取材の企画を思いついた理由は、芥川繭子その人にある。
もし彼女の存在を知らなければ、
このバンドとこれ程までに深く関わる事は、なかったかもしれない。
もちろん以前からバンドの名前を知っていたし、当然音源を聞き込んでもいた。
単純にいちファンとして胸を焦がし、熱狂的にアルバムを楽しんでいた。
しかし所謂音楽シーン、
それもヘヴィメタルという世間一般庶民がおよそ足を踏み入れない、
深く激しい領域に於いて尚知る人ぞ知る存在であったそのバンドが、
ようやく重い腰を上げるや否や瞬く間に日本中を席巻し、
鋼鉄の翼を広げて世界へ飛び立とうとした正しくその瞬間に、
私は彼女の持つ魅力に憑りつかれてしまった。
そんな私が自分に対し、たった一つだけ褒められる点を挙げるとするならば、
(ライブ会場を除けば)初めて動く彼女に出会ったその瞬間から、
カメラを回していたという只一点に尽きる。
全く、物凄いバンドである。物凄い4人である。
そして4人組のバンドとは言え、敢えて物凄い5人だったと付け加えたい。
この文章を読んでいる諸兄らには強く共感してもらえるどころか、
今更こんな浅い言葉しか出てこない事にお叱りを受けるかもしれない。
多種多様な表現を用いてありったけの思いで賛辞の言葉を贈ろうと試みたが、
やはり心の底から湧き上がってくる「凄い」という言葉以上に、
気持ちのこもった表現が出てこなかった。
彼らのファン、そして弊誌の読者だけでなく一人でも多くの人々に、
彼らの『本気』と『人間力』を伝えたい。
私の願いは本当にただそれだけだ。
今回の企画に携わって下さった全ての人々へ、心から感謝の意を述べたい。
彼らの協力なくして成しえた事は何一つなかっただろう。
正直、当初は単なる記録係以上の役割を果たしているとは言えなかったし、
私がそこに存在する意味を何度も己に問い質した。
邪魔なだけだったかもしれない。
しかし思い起こせば最初から、彼らは言葉にして私を退けることをしなかったし、
どれだけ辛い瞬間も、嬉しい瞬間も、私と私の回すカメラを側に置いてくれた。
時には私を叱咤し、導き、背中を押してくださった『 VIRAL 4 STUDIO 』の代表、
伊藤織江氏には格別の思いがある。
そして事務所外の立場でありながら、惜しみない協力を買って出た下さった、関誠氏。
更には、ご自身が築き上げた地位と名誉を顧みず、いつも快く取材に応じて下さった、URGA氏。
御三方を含むすべての関係者各位に、改めて感謝の気持ちを述べさせていただきたい。
本当に、ありがとうございました。
あなた達と出会えて本当に良かった。
数々の素晴らしい瞬間に立ち会えた事を心から誇りに思います。
少しでもこの文章と記録があなた達にとって有益であり、
素敵な思い出のアルバムとなる事を祈って。
『 芥川 繭子という理由 』
~ ドーンハンマーの全てが、ここにある ~
取材、撮影、編集、文、━ 時枝 可奈。
『取材内容による書き分けのルール』
・インタビュー時を含む時枝の発言は『--』から始まる。
・単独インタビューでのメンバー及び関係者の発言は、全て冒頭の紹介以降無記名。
・対談、鼎談、ならびに複数人でのインタビュー、雑談におけるメンバーの発言はイニシャルで表記する。
・その他の動作を伴う記録映像の表現に際しては会話形式、「」を用いて記す事とする。
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