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②第三章 “血魂”前編
4表情を忘れてしまった
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「謝罪は?」
「こっちはお前のせいで面倒に巻き込まれたんだぞ。責任取れよ」
絶賛悪化中です。
要約すると「お前が先生に言ったせいで巻き込まれたこっちに謝れ」ということで囲まれているんですが、囲む意味、どこ。一体何故カバディのディフェンスみたいに囲む必要があるんだ。
ボールの次はそれが流行ってんのか?
馬鹿な思考をしている間にも突き飛ばされるわ床に這いつくばる羽目になるわ、散々な目に合っている。
どうにもこういう時、加害者側は協力しそうに無い者を事前に追い出しておくのが通例なのか、森時さんたちの姿は無かった。
なんとなく、室田君は今まで何回か恐怖から傍観してたのではないかと思うので彼はそのまま居ても変わらなかったのではという疑惑があるのだが。念には念を入れよってことだろうか。
「いっ、た」
頭部に痛みが走り視界が横になる。
目を凝らして見上げれば仁夏に踏みつけられているのだと分かった。
「こうしたら謝れるんじゃねえの……っくく」
全くついてねえな。こんなことなら手羽先先生の方が百倍マシだった。
畜生、今夜は手羽先だ。
手羽先を食ってやる、しっかり塩で味付けしてな!
ぐらつくこの視界で気掛かりなのはブラビットと……嘘やろいつも完璧な狼の笑顔がちょっと引き攣っとる。
嘘やろ。
え、なかなか崩さない嘘笑顔を?
混乱したせいか痛みを忘れて狼の言葉を待った。
彼は僕の前まで移動して、歯切れの悪い口ぶりで話す。
「いやー、ほら。皆怒ってるみたいだし。謝罪した方が良いんじゃない? 赤君」
──いや謝罪することは何も無いっすね。
悪いのはお前たちで僕じゃないし。今も法の国として成立していたら強要罪で訴えたいくらいだ。
謝罪することがあるとすれば、僕が過去に無神経なことを言って彼らを傷付けてしまったこと。
……今更謝ったところでどうにもならないなんて分かり切ってる。
ただ無表情で見ていたからだろうか、少し癪に障ったか、今度は強めに言ってくる。
「謝罪したら皆許してくれるよ。でも元はと言えば悪いのは君でしょう、赤君。皆君に少しは期待してたのに、君はそれを裏切った……そりゃ怒るよ」
相変わらずの王様っぷりには反吐が出るな。
「前から思ってたんだけど」
これは言わない方が良い。分かってる。
だとしても自分の利益だけを考えて味方を増やして、自分が不利になる時は裏切って、期待を持たせるような言葉を含めて、ご立派な王国を造り上げるこいつらってほんと
「揃いも揃って悪魔みたいだ」
ははっ。渇いた口から笑いが漏れる。
僕の様子が気に食わなかったことをまざまざと見せつけなくても良いのに、彼らは大層ご立腹で、心底笑いが止まらない。
「何笑ってんだ、てめえ。遂に頭イカれちまったか」
「あーあ、赤君が狂っちゃった。早く窓を開けなきゃね」
馬鹿を言うな。狂ってるのは僕じゃなくてお前たちだ。
なんでだろうな、たまには弱者が噛みついたって良いだろうにいざ噛みつくと変人扱いされる。
こんなクソったれた世の中に誰がしたんだろう。
狼が窓を開けると、仁夏が僕を立ち上がらせて窓の前へ押し出された。
勢いのまま視界は下を向く。
「そんくらいの度胸あんならここから飛び降りるくらいどうってことねえよな?」
「遠慮なく飛び降りていいんだよ。どうせ事故死か自殺になるんだし」
楽になりなよ、と言い放つ彼らの姿は良い笑顔をしていて、恐怖を植え付けられるような錯覚に陥る。
本当に同じ人間なんだろうか。
過去は仲良くしていたあの頃の僕達と、今の僕たちって、同一人物なのかな。
血の気が引いているのは「生きていたい」からではない気がするんだ。
青ざめて、震えていく手の動きも、息が詰まるようなこの不規則な呼吸も、全部。
その証拠に──表情が全く変わっていないのである。
「まさか今更ビビってる訳じゃねえよな」
あれ。
「俺たちは悪魔なんだろ? だったら逃げてみろよ、そこから。上手くいけば助かるかもしれねえぜ」
こういう時って、どんな顔すれば良いんだっけ。
どうやって怖がるんだっけ。
怒り方は?
いや、そもそも……怒ることを表に出す理由は、なんだ。
すっかり『表情』の出し方を忘れてしまった僕は、呆然と外を眺めているだけだった。
「おい、聞いてんのか?」
「え。ああ、飛び降りれば良いんだっけ。いいよ」
「はっ?」
なんだその顔。
そっちがやれって言ったんじゃないか、もっと喜んでみろよ。加害者サマ。
窓から身を落として目を閉じる。
僕にとって、これで彼女が助けに来てくれればまだ生きていようと希望を持てるきっかけが出来るのだ。
「黒兎赤に死んで欲しくない」のだと、その事実が分かるから──……
「え、ちょっと……あーもうっ!」
声が聴こえたからと辺りを見回してみれば、身体は宙に浮いていて、魔法で作られたであろう空間に閉じ込められている。
「っへへ」
「何笑ってるの!? 危うく死ぬところだったんだよ!」
──やっぱり助けに来てくれた。
じゃあ、これは確定で良いんだ。ブラビットはもう、僕を殺す気が無いんだ。嬉しくって笑い続けてしまう。
「表情変えずに笑ってる……ちょっと怖い……」
「えっ。じゃ、じゃあ今後は頑張って変えてみるね!」
「そんなに無理しなくても」
ってんん?
よく見たら彼女が白銀に輝く煌びやかな髪、白く光る長い睫毛。
華奢な体格と僕よりももっと低い身長をした美少年になってる……ひょっとしてこの姿が普段の姿なのか。
か、可愛い。なんて可憐なんだっ。
じろじろと見すぎたのか、可愛らしい柔らかそうな頬がぷっくりと膨れ上がる。
「何、珍しそうなものを見るような目して」
「いや……男の子だったの?」
「こっちはお前のせいで面倒に巻き込まれたんだぞ。責任取れよ」
絶賛悪化中です。
要約すると「お前が先生に言ったせいで巻き込まれたこっちに謝れ」ということで囲まれているんですが、囲む意味、どこ。一体何故カバディのディフェンスみたいに囲む必要があるんだ。
ボールの次はそれが流行ってんのか?
馬鹿な思考をしている間にも突き飛ばされるわ床に這いつくばる羽目になるわ、散々な目に合っている。
どうにもこういう時、加害者側は協力しそうに無い者を事前に追い出しておくのが通例なのか、森時さんたちの姿は無かった。
なんとなく、室田君は今まで何回か恐怖から傍観してたのではないかと思うので彼はそのまま居ても変わらなかったのではという疑惑があるのだが。念には念を入れよってことだろうか。
「いっ、た」
頭部に痛みが走り視界が横になる。
目を凝らして見上げれば仁夏に踏みつけられているのだと分かった。
「こうしたら謝れるんじゃねえの……っくく」
全くついてねえな。こんなことなら手羽先先生の方が百倍マシだった。
畜生、今夜は手羽先だ。
手羽先を食ってやる、しっかり塩で味付けしてな!
ぐらつくこの視界で気掛かりなのはブラビットと……嘘やろいつも完璧な狼の笑顔がちょっと引き攣っとる。
嘘やろ。
え、なかなか崩さない嘘笑顔を?
混乱したせいか痛みを忘れて狼の言葉を待った。
彼は僕の前まで移動して、歯切れの悪い口ぶりで話す。
「いやー、ほら。皆怒ってるみたいだし。謝罪した方が良いんじゃない? 赤君」
──いや謝罪することは何も無いっすね。
悪いのはお前たちで僕じゃないし。今も法の国として成立していたら強要罪で訴えたいくらいだ。
謝罪することがあるとすれば、僕が過去に無神経なことを言って彼らを傷付けてしまったこと。
……今更謝ったところでどうにもならないなんて分かり切ってる。
ただ無表情で見ていたからだろうか、少し癪に障ったか、今度は強めに言ってくる。
「謝罪したら皆許してくれるよ。でも元はと言えば悪いのは君でしょう、赤君。皆君に少しは期待してたのに、君はそれを裏切った……そりゃ怒るよ」
相変わらずの王様っぷりには反吐が出るな。
「前から思ってたんだけど」
これは言わない方が良い。分かってる。
だとしても自分の利益だけを考えて味方を増やして、自分が不利になる時は裏切って、期待を持たせるような言葉を含めて、ご立派な王国を造り上げるこいつらってほんと
「揃いも揃って悪魔みたいだ」
ははっ。渇いた口から笑いが漏れる。
僕の様子が気に食わなかったことをまざまざと見せつけなくても良いのに、彼らは大層ご立腹で、心底笑いが止まらない。
「何笑ってんだ、てめえ。遂に頭イカれちまったか」
「あーあ、赤君が狂っちゃった。早く窓を開けなきゃね」
馬鹿を言うな。狂ってるのは僕じゃなくてお前たちだ。
なんでだろうな、たまには弱者が噛みついたって良いだろうにいざ噛みつくと変人扱いされる。
こんなクソったれた世の中に誰がしたんだろう。
狼が窓を開けると、仁夏が僕を立ち上がらせて窓の前へ押し出された。
勢いのまま視界は下を向く。
「そんくらいの度胸あんならここから飛び降りるくらいどうってことねえよな?」
「遠慮なく飛び降りていいんだよ。どうせ事故死か自殺になるんだし」
楽になりなよ、と言い放つ彼らの姿は良い笑顔をしていて、恐怖を植え付けられるような錯覚に陥る。
本当に同じ人間なんだろうか。
過去は仲良くしていたあの頃の僕達と、今の僕たちって、同一人物なのかな。
血の気が引いているのは「生きていたい」からではない気がするんだ。
青ざめて、震えていく手の動きも、息が詰まるようなこの不規則な呼吸も、全部。
その証拠に──表情が全く変わっていないのである。
「まさか今更ビビってる訳じゃねえよな」
あれ。
「俺たちは悪魔なんだろ? だったら逃げてみろよ、そこから。上手くいけば助かるかもしれねえぜ」
こういう時って、どんな顔すれば良いんだっけ。
どうやって怖がるんだっけ。
怒り方は?
いや、そもそも……怒ることを表に出す理由は、なんだ。
すっかり『表情』の出し方を忘れてしまった僕は、呆然と外を眺めているだけだった。
「おい、聞いてんのか?」
「え。ああ、飛び降りれば良いんだっけ。いいよ」
「はっ?」
なんだその顔。
そっちがやれって言ったんじゃないか、もっと喜んでみろよ。加害者サマ。
窓から身を落として目を閉じる。
僕にとって、これで彼女が助けに来てくれればまだ生きていようと希望を持てるきっかけが出来るのだ。
「黒兎赤に死んで欲しくない」のだと、その事実が分かるから──……
「え、ちょっと……あーもうっ!」
声が聴こえたからと辺りを見回してみれば、身体は宙に浮いていて、魔法で作られたであろう空間に閉じ込められている。
「っへへ」
「何笑ってるの!? 危うく死ぬところだったんだよ!」
──やっぱり助けに来てくれた。
じゃあ、これは確定で良いんだ。ブラビットはもう、僕を殺す気が無いんだ。嬉しくって笑い続けてしまう。
「表情変えずに笑ってる……ちょっと怖い……」
「えっ。じゃ、じゃあ今後は頑張って変えてみるね!」
「そんなに無理しなくても」
ってんん?
よく見たら彼女が白銀に輝く煌びやかな髪、白く光る長い睫毛。
華奢な体格と僕よりももっと低い身長をした美少年になってる……ひょっとしてこの姿が普段の姿なのか。
か、可愛い。なんて可憐なんだっ。
じろじろと見すぎたのか、可愛らしい柔らかそうな頬がぷっくりと膨れ上がる。
「何、珍しそうなものを見るような目して」
「いや……男の子だったの?」
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