血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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②第一章 僕たちの関係はまだ、お友達のまま

6夢は生きる活力であって取り上げるべきものではない(冬規視点)

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 この子にまだ教えていないはず、だというのに彼は軽々しく言ってのけた。
 ともあれ相談に乗ろうとしてくれているその姿勢に好感は持てる。

「……笑わない?」
「笑わないよ! 個人の考えは尊重するべきなんだから!」

 例え賛同出来ないものでもね。

 と暗い影を落として言うということは、ブラビットさんにも納得出来ないことがあるのかな。
 同じところがあって安心した。
 何もかもが眩しいなんてあり得ないことだと思っているから。

 自分と同じ腐った考えを持っていないと対等に話せないとか、カッコ悪い。

 嫌な部分から目を背けていても蘇る。
 そんな自分が嫌いだというのも確かなことだ、遠くに視線をやりながらおもむろに口を開く。

「……ネットでね、憧れの人がいるの。その人の動画は毎回再生数も凄くって、コメント欄も賑わってて……ほんっと凄いんだよ~! いっつも内容も面白くってネタが尽きないの!」

 一旦間を置いて発言する。

「ボクね、いつかああいう風になりたくって」

 思えばこうやって自分の夢を明確に誰かに話すのは初めてかもしれない。
 それとなく両親や弟に言ったことはあるが、聞き入れてもらえなかった。

「だから生放送には真っ先に聴きに行って、どういうものが話題になるのか、とかいっぱいいっぱい考えるんだ。もっと勉強して、いつかあの人の生放送に一緒に出てみたい!」

 悪意の無い態度を取る子だからきっと否定はしないだろうと思いつつも内心ではやはり不安は拭えなかった。

 ──もし否定されたら?
 無理だよ、諦めなよって『周囲がよく言う常套句』を言われたら?

 するとその不安を取り除くように優しく笑ってくれた。

「そうなんだ。君は凄くその人の作品が好きなんだね」
「うん!」

 否定することもなく肯定することもない返答をされて、なるほど上手いことをやるものだと感心してしまう自分がいて、少し後ろめたい気持ちが押し寄せる。

「自分でもそういう作品が作れる、そういう自信も勿論ある?」

「……うん」

 当たり前だ。
 夢を語る者達はいずれにせよ、その分野での得を感じている。

 自分にとっての天職としてか、才覚を発揮出来る場と考えているか、或いは人生になくてはならないものであると……そう感じていることだろう。

『向いてない』

『無理に決まっている』

 という理由だけで、もし、無理に取り上げれば無気力状態に陥るか最悪引きこもりになる可能性だってある。
 なのにそれを理解もせずに真っ向から否定して真剣に向き合おうとする人はこの世に思ったよりも少ない。

 ボクの限界を勝手に決めるな、勝手に人生を動かそうとするな。

 言いたいことがあっても言い負かせられて、次第に自分自身を押し殺すことを学んだ。
 そのまま生きてきた結果が今日であり今なのだ。

 反省をするならまだしもボクだけに責任を押し付けるなど言語道断。

 でも、それが許されるのが「社会」というものだった。

「じゃあ……皆にさ、君はもっとできるんだって教えてあげなよ!」
「え、え? でもどうやって――ってうわっ!?」

 気が付いた頃には身体が宙に浮いていた。
 仕方なくしどろもどろに周りを見れば家では無く空にいることは明らかで、飾りっ気のない僅かに目視出来る雲と夜空に輝く無数の星達が真上に広がっている。

「ちょ、ちょ、っと! 落ちる、落ちるってばぁ~っ⁈」

 ──本当に人間じゃないんだ!

「落ちないから安心して! 僕は人外だからね、人じゃないから空を飛べるんだよ」

 未知なる存在との出会いに冒険心を擽られ、さっきまでは迷子か何かだと信じて疑わなかったボクは考えを改めた。
 物語の中に出てくる存在は案外近くに存在しているのだと。
 抑えきれない高揚感を得ていると、ふと、行き先が気になった。
 何処へ向かっているのだろう。

 既に出ている発言から推測するしか出来ないが考えられる方向性としては──ボクの力になりたい=夢を実現させよう、からの……

 ──まさか飛んであの人のとこ行こうとしてる!? 夜なのにぃ!?

 気付いたボクは慌てて声をかける。

「ま、まままってブラビットさん! 今夜だよ、夜じゃ皆寝てるって!」
「あ。それもそっか。じゃあそっちは明日にしよう!」

「え」

 うんうんと頷いたと思ったら風が途端に止み突然の急降下、驚く間も無く前髪が上へ持ち上がる。

「わあぁぁぁぁッ!?」

 そして唐突に速度を下げて下へ落ちていく。
 少し酔いそうだったが、遊園地のアトラクションで鍛えられている自分に死角はなかったみたいだ。
 すぐ呼吸を整え終える。

「今日は君の元気付けで。ね?」

 閉じていた目を開けるとドッキリ大成功、と言いたげな悪戯っ子の顔が映り思わず口から笑いが零れた。

「……っぷは」

 考えなしで行動してる突発的なこの子を見てなんとなく、呆れるよりも少し……安心した。
 なんか、信じられる子だなぁって。
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