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②第一章 僕たちの関係はまだ、お友達のまま
5認められたいのは(冬規視点)
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画面の向こうに広がる世界、それはインターネットと呼ばれるもう一つの現実。
あの人達はネット上のことを「遊び」と称して仮想上のものと位置付けているが、今や世はネット社会なのだ。
「ネットなんて所詮ただの趣味」
だとか言うのはもう古臭いと言わざるを得ない。
次代を担う若人も政治家やテレビの人達も商売をしている者達はネットを介して通販業を行ったり、仕事をしたり、或いは宣伝、広報の為に使っている。
身近だからか知らないけど「画面の向こうに人が居る」というのをあまり意識せずにやっている人が多いのも事実。画面にはビデオ通話や顔出し配信でない限り本人の姿が映ることが無い影響だと思われるが、何時の時代だって人が作ったものを扱うのは人自身なのだから当たり前のこと。
中でも分かりやすさ、向こうを見ている側に伝えることが出来るのは『生配信』。
自覚の無い誰かへ向けて人が居るのだと実感させるに持ってこいな手段だ。
何より、誤解の無いように伝えることが出来る。
話術で人を魅了するあの様は正に注目の的──……ボクが憧れる『目立つ人』だ。
ボクはああいう、自分自身と向き合って容姿も声も何もかもを受け入れてありのままの姿を自分の力──長所に変えている配信者になりたい。
(あ、今日はベリースターさんの配信やってる!)
動画サイトで動画や現在配信中のものを流し見すると尊敬している配信者の名前があった。
大好きなベリースターさんが楽しそうにやっていて、つられてボクも顔を綻ばせる。
『──小学六年生にもなって夢が動画配信者? 下らないな、仕事っていうのはそんな遊びと違うんだ』
パパの言葉が脳裏に過った途端、熱が冷めていくのが分かった。
遊びという一言だけで片づけたら、ニュースのアナウンサーだってタレントだって遊びとなってしまう。
一時期は趣味としてしか活動出来なかった生放送はその後テレビにだって出てくるようになった。
配信者だって立派な芸能界の仲間入りを果たしたのだ、それを遊び。
「(遊び遊びって……、いつも馬鹿にしやがって)」
人差し指にある爪の中心に向かって行き場の無い怒りを込めて、強く、噛んだ。
がりっ。
目に見えてやさぐれている冬規を見て、窓から覗いていたブラビットは同情の目線を送っていた。
(うーん、ちょっと可哀想だなあの子)
しかしながら目を凝らすとそれよりも気になることが一つあったようだ。あれ?
と不可思議なものを見るように首を傾げる。
(……あの目の色は天使……いや、違うのかな……?)
少年の目は橙に光っているように見え、彼女は頭を唸らせる。
──人間の目色というのは人外とは違って決まった色が無い。
だからこその疑念が生じていた。
赤い色は無いにしろオレンジや青はあるのだ、どちらの可能性もある。
注意深く観察すべきだろう。
ブラビットは興味本位がてら継続してガラス越しに彼の様子を見守るのだった。
がりがりと音を立てて鉛筆を走らせる。
黒い芯が摩擦する音が耳に反響して、虫の羽音に聞こえてくる程目前のノートに問題集の答えを書いていく。
「……」
貴方達は知っているだろうか、ボクが夜は勉強をしていること。
知っているんだろうか、ボクのテストの点数はそこまで悪くないこと。
(見てないからあんなこと言えるんだろうな。いや、見ていても同じか)
居場所はここのはずなのに、生まれついた頃から強いられてきたこの場所が苦痛でしかない。
だって誰もボクの凄さを理解してくれない。見てくれない。
救いの無い迷路に閉じ込められてしまった気がして、思わずぽつりと零す。
「……はぁ……疲れる……」
「疲れるならやめちゃえばいいのに」
声の先へ振り返ると、そこには銀髪の美少年がいた。窓は鍵を閉めているはずなのに、今はどうしてだか開いている。
「……だ、誰!? えっ、ちょっと、ここボクの部屋……!」
「初めまして、僕はブラビット。人間なのかそうでないのか分からない君に会いに来たよ!」
にっこりと自己紹介をされて動揺を隠せないまま復唱する。
「ぶ、ブラビットさん……? 凄く変わった名前だねぇー……」
よく見れば浮かんだ羽が見えるしもうこれは勉強疲れで寝落ちしたと考えるべき状況で、現実を直視するのを避けた。
(あー、疲れてるんだろうなあボク。うんうん、仕方ないね馬鹿を演じすぎたんだ)
言い聞かせるように頷くのも束の間、気付けば首を傾げたブラビットさんとやらが間近にいる。
「夢じゃないよ?」
「えっ」
「ただ人間じゃないってだけだよ」
「……えっ?」
いやいやどういうこと、と更なる混乱を招いた本人(?)が
(あー、この反応……うん、人間だな!)
と思っているなど冬規には知る由もない。
情でも移ったのかブラビットさんがボクに向かって言う。
「現状を変えてみようとしたりはしないの?」
「な、なんでそんなこと……」
言葉を濁す。変えようと思っても変えられないものもあるというのを分かっていての発言だとしたら性根が腐っているとしか言いようが無いけど、初対面の相手の考えてることなんか分かりっこない。
あまりにも真っ直ぐな視線に耐え切れず目を逸らす。
「パパやママは何言ったって変わってくれやしなかった、今更何言ったって」
「必ずしも家族に認めてもらわなきゃいけないもの?」
──確かに家族以外だったら変えられるかもしれない。
一理ある考えだ。この子は同い年なんだろうか?
それにしてはしっかりしているし、外見の幼さから小学四年生くらいが妥当だけど。
「君はもっと出来る子でしょ。さっきやってた勉強だって、僕のお友達は苦手なとこだったもん」
あ。
(この子なら)
ボクのこと認めてくれるかも──……。
期待と不安が半分ずつ混ざり合い視線を合わせていく。
「小学生の勉強なんて簡単じゃない? そんな子いるんだ」
正直に思ったことをそのまま吐き出すとむっとした表情でこちらを見ていた。
怒らせちゃったかな?
「ちょっと、その発言は謝って! 全国の勉強苦手な子達に!」
失礼でしょ!
叱られているはずなのに見た目が年下に見えるからか、全く怖くなかった。
「……ごめんなさい」
「分かればよし。ね、冬規君は何かやりたいことないの?」
名前を呼ばれて違和感を感じる。
──あれ、名前教えてないのになんで?
あの人達はネット上のことを「遊び」と称して仮想上のものと位置付けているが、今や世はネット社会なのだ。
「ネットなんて所詮ただの趣味」
だとか言うのはもう古臭いと言わざるを得ない。
次代を担う若人も政治家やテレビの人達も商売をしている者達はネットを介して通販業を行ったり、仕事をしたり、或いは宣伝、広報の為に使っている。
身近だからか知らないけど「画面の向こうに人が居る」というのをあまり意識せずにやっている人が多いのも事実。画面にはビデオ通話や顔出し配信でない限り本人の姿が映ることが無い影響だと思われるが、何時の時代だって人が作ったものを扱うのは人自身なのだから当たり前のこと。
中でも分かりやすさ、向こうを見ている側に伝えることが出来るのは『生配信』。
自覚の無い誰かへ向けて人が居るのだと実感させるに持ってこいな手段だ。
何より、誤解の無いように伝えることが出来る。
話術で人を魅了するあの様は正に注目の的──……ボクが憧れる『目立つ人』だ。
ボクはああいう、自分自身と向き合って容姿も声も何もかもを受け入れてありのままの姿を自分の力──長所に変えている配信者になりたい。
(あ、今日はベリースターさんの配信やってる!)
動画サイトで動画や現在配信中のものを流し見すると尊敬している配信者の名前があった。
大好きなベリースターさんが楽しそうにやっていて、つられてボクも顔を綻ばせる。
『──小学六年生にもなって夢が動画配信者? 下らないな、仕事っていうのはそんな遊びと違うんだ』
パパの言葉が脳裏に過った途端、熱が冷めていくのが分かった。
遊びという一言だけで片づけたら、ニュースのアナウンサーだってタレントだって遊びとなってしまう。
一時期は趣味としてしか活動出来なかった生放送はその後テレビにだって出てくるようになった。
配信者だって立派な芸能界の仲間入りを果たしたのだ、それを遊び。
「(遊び遊びって……、いつも馬鹿にしやがって)」
人差し指にある爪の中心に向かって行き場の無い怒りを込めて、強く、噛んだ。
がりっ。
目に見えてやさぐれている冬規を見て、窓から覗いていたブラビットは同情の目線を送っていた。
(うーん、ちょっと可哀想だなあの子)
しかしながら目を凝らすとそれよりも気になることが一つあったようだ。あれ?
と不可思議なものを見るように首を傾げる。
(……あの目の色は天使……いや、違うのかな……?)
少年の目は橙に光っているように見え、彼女は頭を唸らせる。
──人間の目色というのは人外とは違って決まった色が無い。
だからこその疑念が生じていた。
赤い色は無いにしろオレンジや青はあるのだ、どちらの可能性もある。
注意深く観察すべきだろう。
ブラビットは興味本位がてら継続してガラス越しに彼の様子を見守るのだった。
がりがりと音を立てて鉛筆を走らせる。
黒い芯が摩擦する音が耳に反響して、虫の羽音に聞こえてくる程目前のノートに問題集の答えを書いていく。
「……」
貴方達は知っているだろうか、ボクが夜は勉強をしていること。
知っているんだろうか、ボクのテストの点数はそこまで悪くないこと。
(見てないからあんなこと言えるんだろうな。いや、見ていても同じか)
居場所はここのはずなのに、生まれついた頃から強いられてきたこの場所が苦痛でしかない。
だって誰もボクの凄さを理解してくれない。見てくれない。
救いの無い迷路に閉じ込められてしまった気がして、思わずぽつりと零す。
「……はぁ……疲れる……」
「疲れるならやめちゃえばいいのに」
声の先へ振り返ると、そこには銀髪の美少年がいた。窓は鍵を閉めているはずなのに、今はどうしてだか開いている。
「……だ、誰!? えっ、ちょっと、ここボクの部屋……!」
「初めまして、僕はブラビット。人間なのかそうでないのか分からない君に会いに来たよ!」
にっこりと自己紹介をされて動揺を隠せないまま復唱する。
「ぶ、ブラビットさん……? 凄く変わった名前だねぇー……」
よく見れば浮かんだ羽が見えるしもうこれは勉強疲れで寝落ちしたと考えるべき状況で、現実を直視するのを避けた。
(あー、疲れてるんだろうなあボク。うんうん、仕方ないね馬鹿を演じすぎたんだ)
言い聞かせるように頷くのも束の間、気付けば首を傾げたブラビットさんとやらが間近にいる。
「夢じゃないよ?」
「えっ」
「ただ人間じゃないってだけだよ」
「……えっ?」
いやいやどういうこと、と更なる混乱を招いた本人(?)が
(あー、この反応……うん、人間だな!)
と思っているなど冬規には知る由もない。
情でも移ったのかブラビットさんがボクに向かって言う。
「現状を変えてみようとしたりはしないの?」
「な、なんでそんなこと……」
言葉を濁す。変えようと思っても変えられないものもあるというのを分かっていての発言だとしたら性根が腐っているとしか言いようが無いけど、初対面の相手の考えてることなんか分かりっこない。
あまりにも真っ直ぐな視線に耐え切れず目を逸らす。
「パパやママは何言ったって変わってくれやしなかった、今更何言ったって」
「必ずしも家族に認めてもらわなきゃいけないもの?」
──確かに家族以外だったら変えられるかもしれない。
一理ある考えだ。この子は同い年なんだろうか?
それにしてはしっかりしているし、外見の幼さから小学四年生くらいが妥当だけど。
「君はもっと出来る子でしょ。さっきやってた勉強だって、僕のお友達は苦手なとこだったもん」
あ。
(この子なら)
ボクのこと認めてくれるかも──……。
期待と不安が半分ずつ混ざり合い視線を合わせていく。
「小学生の勉強なんて簡単じゃない? そんな子いるんだ」
正直に思ったことをそのまま吐き出すとむっとした表情でこちらを見ていた。
怒らせちゃったかな?
「ちょっと、その発言は謝って! 全国の勉強苦手な子達に!」
失礼でしょ!
叱られているはずなのに見た目が年下に見えるからか、全く怖くなかった。
「……ごめんなさい」
「分かればよし。ね、冬規君は何かやりたいことないの?」
名前を呼ばれて違和感を感じる。
──あれ、名前教えてないのになんで?
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