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②第一章 僕たちの関係はまだ、お友達のまま
1神様を心配しない者が「信仰」をする
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「ブラビット、ブラビット──」
近頃、僕の日常は至ってシンプルだ。
「ブラビット、ねえ……聞いてる?」
事あるごとに彼女の名前を呼ぶ。呼んでは愛しい宝を求めるように手招いて甘えるだけの日々。
好きな子が視界に入れば
「ブラビット!」
と言い寄り、他のところへ行こうとすれば
「ブラビット……どこ行くの?」
と優しく(といってもこれは僕の主観なのでひょっとしたら鬼のような形相だったかもしれない)問い掛け、隙あらば距離を縮めようと持てるだけの『勇気』を持って近くに居座る。
もはや依存なんて言葉では計り知れない。
いや、これは思春期たる僕だからこその発想でありそこまで変わっては……ない……はず。はずだ。
とはいえ彼女からすれば鬱陶しいと思っても仕方なく、困ったような反応を返されることが多くなっていた。
僕のことで困ってる姿も可愛くて承知の上でやっているなどそんなSっ気がある感じでは無い。
第一からかわれるのが嫌だったらただの嫌がらせになっちゃうし。でも、
悪戯心が芽生え始めているのは事実で、今正に少し困らせてやろうかと思っているのだが。
「ブーラビット」
「あ。はい、なんでしょう」
「別に? 呼んでみただけ」
「…………」
即座に笑顔から一転してしかめっ面になっていく。ジト目でも可愛い。
呼びすぎるようになってから気付いたのは、不快に感じたり呆れると彼女の笑顔が崩せるということ。
笑顔以外の貴重な表情が見れるのにやらない手は無く「わざと不快にさせてみよう」と継続してみているのだが、如何せん『憤怒』が見受けられない。
笑ったり困ったり悲しんだり、不機嫌になってしてもブラビットの怒った姿は見たことが無かった。
唯一、怒りに近かったのは小学生の頃お灸を据えられたあの時くらいだろうか。
でもあれだって「忠告」の意味でやっただけだったし、真の意味で怒ったことは一度として無いように思う。
気になったことを聞くべく身を乗り出して問い掛ける。
「ね、ブラビット。ブラビットって滅多に怒ったりとかしないみたいだけど、感情を表に出さないようにしてるだけなの?」
「……わざとでしたか。前にも言いませんでしたっけ? 怒ることに費やす労力は無い、と」
──それだけじゃないような気がするんだけどなぁ。
作り笑いをしながら言ってのける彼女はやはり何処か違和感があって、もう少し追及してみるかと問い続けると以下の収穫があった。
曰く、
「感情がよく分からない」
のと
「コミュニケーション能力が乏しい」
「触ったりしても感覚が無いから共感が全く出来ない」
かららしい。
……なんとなくこれだけ聞くと感覚とか感情に少なからず『憧れ』を抱いているか分からないことを気にしているような気がするんだけど。
怒ったりするにもこの二つは必要な感性ではある。
それは認める。
いずれにしても彼女自身が気にしているのであれば惚れているこちらとしては協力してあげたいというもの。
「感覚が無いって、実体は無いってこと? 今でも僕はこうやって君に触れられるけど……感覚だけ無いのはどういう理屈?」
「それはですね。空洞になっている状態なので表面だけが形を形成しているように見せている──透けている──皮だけの状態? 言葉にするのは難しいですね」
皮だけの……なるほど。中身が無い状態=実体が無い状態なんだね……ってそれ凄くエロい……!
なっ、中身が無い状態だなんて……!
しかも透けてる⁉
つまり今なら入れるのかな、物理的に。
違う待て、待て。
落ち着け黒兎赤。そうやってお前はすぐ卑しい(エグい方向)に考える。悪い癖だ。
気持ちを落ち着かせる為、テーブルの上にある煎餅を必死に頬張る。
「……っえっとじゃあ、実体化とか出来るなら……えっと外側だけじゃなくて中身も全部作れたら、感覚が持てたりしない? どうだろう」
「確かにそれならそれっぽくは出来るかもしれませんけれど、別に感覚が無いことを気にしたりなどしていませんからね?」
「へー。あ、この醤油煎餅美味しいな……」
気にしてないならどうしてそんなに煎餅見てるんですかねこのエリート死神様。
ちらっちらっと見てきて興味が無いと言い張るのは無理があると思うぞ、ほんとに。
以前から唐揚げ食べたそうにしてたしさ。
もーっしょうがないなぁ~。
「ブラビットと一緒に食事とか出来たら良いなって思ってたんだけど……やっぱり難しいよね……」
肩を落として気分を沈めればほら、少し慌て始めた。
眠気のせいか目頭に涙が浮かび泣いていると勘違いしたブラビットが観念したかのように
「そんなに言うのなら……」
と『実体化』をすることを約束してくれた。グッジョブ眠気。
ただ、実体化を実現させるに色々と試行錯誤しなければいけないとのことで、出来る段階だと確信を持てた際に知らせてくれるそうだ。
振り向いて貰う為の第一歩として「頼ってくれる関係」を目指すべきだと恋愛大全マスターに書いてあったのもあり、あの手この手を使ってでも引きずり出したい……ブラビットの悩みを……!
お願いしてくれるようになったら上目遣いで潤んだ瞳、ぷっくりとした頬に赤みがさして
「君がいなきゃ生きていけない」
と言ってくれるに違いない!
さぞ可愛かろう、ぐへ、ぐへへへへへ──おっといけない、涎が。
だらしない顔ばかり晒していないか心配だがとやかく言う輩はあいつらだけで十分だ。
そう言えばあの二人は不良みたいだからかやたら学ラン似合ってたな……。
そんな僕はというと、学ランを初めて着た当初の第一声が
「サイズでかすぎない?」
なんて、驚愕の念を込めた声で。
それはそう、両親が僕の身長が伸びること(最低172センチ)を期待して大きめのサイズを買ってきたことが始まりだった──……!
中学の間にめきめきと伸びる男子は多い。
一般的な小学生男子は一日単位で何センチ、何メートルと急激にソノリカの高校生レベルにまで登り詰め、天井を易々と突き破……らないが何か月で化けるものとされている。
だからって4サイズ上を買われてしまった僕としてはプレッシャー効果が絶大だ。
好きなあの子は170センチ。
であるからして目標身長は175だが毎日牛乳飲んで伸びるもんでも無いって知ってる、小学生低学年時に試した(黒歴史)からな。むしろフロフティとニロの組み合わせの方が良いんじゃないか。
ハノボーはお菓子としても微妙だしビスケット類の方が健康には良さそうという圧倒的偏見を持ち合わせている僕は、結果的に「祈る」ことにした。
「伸びると良いなって祈ろうと思う」
「神様に? まぁ素敵! きっと主は貴方の願いを叶えてくださるわ、善行を積み重ねていればね」
この国は信仰心が強い。小さい頃から何かと言われていた
「常に誰に対しても優しくするんだぞ、神は何時でもお前を見守ってくださっているからな」
という言葉。
その当時、意味は理解出来なかったが疑問だったことがある。
「神様が一人しかいなかったら一人一人を見守ることなんて出来るだろうか?」
って。
大勢の人が口を揃えてこういうだろう。
「神は全知全能であらせられる。我々人類に不可能なことなど、いとも簡単に可能にしてしまわれるだろう」
本当にそうだろうか?
人外達の話を聞くと、とてもじゃないがそうは思えない。
死神だって死を司る神様だろう。でも僕には「死を扱っている人外」に他ならないのだ。
楽に力を使えそうな死神でさえ、残業やらストレスやら抱えているのに神様だけが苦労をしてない訳が無い。
……心の何処かで可能性として考えているのもある。
近頃、僕の日常は至ってシンプルだ。
「ブラビット、ねえ……聞いてる?」
事あるごとに彼女の名前を呼ぶ。呼んでは愛しい宝を求めるように手招いて甘えるだけの日々。
好きな子が視界に入れば
「ブラビット!」
と言い寄り、他のところへ行こうとすれば
「ブラビット……どこ行くの?」
と優しく(といってもこれは僕の主観なのでひょっとしたら鬼のような形相だったかもしれない)問い掛け、隙あらば距離を縮めようと持てるだけの『勇気』を持って近くに居座る。
もはや依存なんて言葉では計り知れない。
いや、これは思春期たる僕だからこその発想でありそこまで変わっては……ない……はず。はずだ。
とはいえ彼女からすれば鬱陶しいと思っても仕方なく、困ったような反応を返されることが多くなっていた。
僕のことで困ってる姿も可愛くて承知の上でやっているなどそんなSっ気がある感じでは無い。
第一からかわれるのが嫌だったらただの嫌がらせになっちゃうし。でも、
悪戯心が芽生え始めているのは事実で、今正に少し困らせてやろうかと思っているのだが。
「ブーラビット」
「あ。はい、なんでしょう」
「別に? 呼んでみただけ」
「…………」
即座に笑顔から一転してしかめっ面になっていく。ジト目でも可愛い。
呼びすぎるようになってから気付いたのは、不快に感じたり呆れると彼女の笑顔が崩せるということ。
笑顔以外の貴重な表情が見れるのにやらない手は無く「わざと不快にさせてみよう」と継続してみているのだが、如何せん『憤怒』が見受けられない。
笑ったり困ったり悲しんだり、不機嫌になってしてもブラビットの怒った姿は見たことが無かった。
唯一、怒りに近かったのは小学生の頃お灸を据えられたあの時くらいだろうか。
でもあれだって「忠告」の意味でやっただけだったし、真の意味で怒ったことは一度として無いように思う。
気になったことを聞くべく身を乗り出して問い掛ける。
「ね、ブラビット。ブラビットって滅多に怒ったりとかしないみたいだけど、感情を表に出さないようにしてるだけなの?」
「……わざとでしたか。前にも言いませんでしたっけ? 怒ることに費やす労力は無い、と」
──それだけじゃないような気がするんだけどなぁ。
作り笑いをしながら言ってのける彼女はやはり何処か違和感があって、もう少し追及してみるかと問い続けると以下の収穫があった。
曰く、
「感情がよく分からない」
のと
「コミュニケーション能力が乏しい」
「触ったりしても感覚が無いから共感が全く出来ない」
かららしい。
……なんとなくこれだけ聞くと感覚とか感情に少なからず『憧れ』を抱いているか分からないことを気にしているような気がするんだけど。
怒ったりするにもこの二つは必要な感性ではある。
それは認める。
いずれにしても彼女自身が気にしているのであれば惚れているこちらとしては協力してあげたいというもの。
「感覚が無いって、実体は無いってこと? 今でも僕はこうやって君に触れられるけど……感覚だけ無いのはどういう理屈?」
「それはですね。空洞になっている状態なので表面だけが形を形成しているように見せている──透けている──皮だけの状態? 言葉にするのは難しいですね」
皮だけの……なるほど。中身が無い状態=実体が無い状態なんだね……ってそれ凄くエロい……!
なっ、中身が無い状態だなんて……!
しかも透けてる⁉
つまり今なら入れるのかな、物理的に。
違う待て、待て。
落ち着け黒兎赤。そうやってお前はすぐ卑しい(エグい方向)に考える。悪い癖だ。
気持ちを落ち着かせる為、テーブルの上にある煎餅を必死に頬張る。
「……っえっとじゃあ、実体化とか出来るなら……えっと外側だけじゃなくて中身も全部作れたら、感覚が持てたりしない? どうだろう」
「確かにそれならそれっぽくは出来るかもしれませんけれど、別に感覚が無いことを気にしたりなどしていませんからね?」
「へー。あ、この醤油煎餅美味しいな……」
気にしてないならどうしてそんなに煎餅見てるんですかねこのエリート死神様。
ちらっちらっと見てきて興味が無いと言い張るのは無理があると思うぞ、ほんとに。
以前から唐揚げ食べたそうにしてたしさ。
もーっしょうがないなぁ~。
「ブラビットと一緒に食事とか出来たら良いなって思ってたんだけど……やっぱり難しいよね……」
肩を落として気分を沈めればほら、少し慌て始めた。
眠気のせいか目頭に涙が浮かび泣いていると勘違いしたブラビットが観念したかのように
「そんなに言うのなら……」
と『実体化』をすることを約束してくれた。グッジョブ眠気。
ただ、実体化を実現させるに色々と試行錯誤しなければいけないとのことで、出来る段階だと確信を持てた際に知らせてくれるそうだ。
振り向いて貰う為の第一歩として「頼ってくれる関係」を目指すべきだと恋愛大全マスターに書いてあったのもあり、あの手この手を使ってでも引きずり出したい……ブラビットの悩みを……!
お願いしてくれるようになったら上目遣いで潤んだ瞳、ぷっくりとした頬に赤みがさして
「君がいなきゃ生きていけない」
と言ってくれるに違いない!
さぞ可愛かろう、ぐへ、ぐへへへへへ──おっといけない、涎が。
だらしない顔ばかり晒していないか心配だがとやかく言う輩はあいつらだけで十分だ。
そう言えばあの二人は不良みたいだからかやたら学ラン似合ってたな……。
そんな僕はというと、学ランを初めて着た当初の第一声が
「サイズでかすぎない?」
なんて、驚愕の念を込めた声で。
それはそう、両親が僕の身長が伸びること(最低172センチ)を期待して大きめのサイズを買ってきたことが始まりだった──……!
中学の間にめきめきと伸びる男子は多い。
一般的な小学生男子は一日単位で何センチ、何メートルと急激にソノリカの高校生レベルにまで登り詰め、天井を易々と突き破……らないが何か月で化けるものとされている。
だからって4サイズ上を買われてしまった僕としてはプレッシャー効果が絶大だ。
好きなあの子は170センチ。
であるからして目標身長は175だが毎日牛乳飲んで伸びるもんでも無いって知ってる、小学生低学年時に試した(黒歴史)からな。むしろフロフティとニロの組み合わせの方が良いんじゃないか。
ハノボーはお菓子としても微妙だしビスケット類の方が健康には良さそうという圧倒的偏見を持ち合わせている僕は、結果的に「祈る」ことにした。
「伸びると良いなって祈ろうと思う」
「神様に? まぁ素敵! きっと主は貴方の願いを叶えてくださるわ、善行を積み重ねていればね」
この国は信仰心が強い。小さい頃から何かと言われていた
「常に誰に対しても優しくするんだぞ、神は何時でもお前を見守ってくださっているからな」
という言葉。
その当時、意味は理解出来なかったが疑問だったことがある。
「神様が一人しかいなかったら一人一人を見守ることなんて出来るだろうか?」
って。
大勢の人が口を揃えてこういうだろう。
「神は全知全能であらせられる。我々人類に不可能なことなど、いとも簡単に可能にしてしまわれるだろう」
本当にそうだろうか?
人外達の話を聞くと、とてもじゃないがそうは思えない。
死神だって死を司る神様だろう。でも僕には「死を扱っている人外」に他ならないのだ。
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