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①第六章 誰が誰を悪いと決めるのか
7ネット始めました。
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あの日を境に、仁夏は更に僕への怒りが増したらしく
「死なない程度のいじめ」
だったのが
「運が悪くなければ死なない程度のいじめ」
に変わっていくにそう時間はかからなかった。
恐らく好き好き度で僕に負けたからですね!
え、違う? そう……でも本当にこの世で一番ブラビットを愛しているのは僕だと自負しているので。
譲れない譲らない。
例え何されたってそこは黒兎赤だと何度でも言おう。
そこで世間を囲い込む為に考えました。
小学六年生の誕生日にプレゼントとして貰ったこの──ちみっとフォン、通称ちみほ……要は携帯電話。
これを機にSNSとネットを始めて良いとのことだったので土日は父さんのパソコンを借りて本格的に創作をすることにしたのだ。
そう、目指すは同人……成人したら同人誌を出すのだ──……赤ブラの!
黒兎赤×ブラビットの!
僕と彼女をモデルにした創作CPのいちゃこら同人誌を……!
ま、別に世界的に広まるとは思ってないので少数でもこの国で認めてくれる人が増えたら「ほら見てブラビット! 僕達公認カップルだよ!」とか言えるかなって。
何より僕の心の癒しの為に自給自足、大事。
という訳ではじめましたソーシャル・ネットワーク・サービスことSNS『Mazotter』。
ユーザー名は深く考えずしろぱんだ。彼女の白と僕の黒……髪の色を取ったらモノクロだなあと思っていたらいつの間にかアカウント設立しちゃったので仕方ないね。
地味に一か月後にはネット上のお友達がじわじわ出来てきた。
アビューザー……繋がってくれた中で一番仲良いのは大翔さんと野良猫ろん君の二人だ。
多分三百人と繋がってても僕三人くらいと仲良しとかそんな感じになる気がする。
色々あって、少数が一番良いなって思えるようになったからだろう。
ちみほを持って嫌なことも勿論増えた。ライソという通話兼チャットアプリ……どういうことかここのグループトークに追加されてしまったのだ、狼と仁夏の。嫌だよなんで仁夏携帯電話持ってるんだよと思ったが「仕事に使うから持っとけって知り合いがくれた」とか言うし仕事ってなんだよ怖えよ!
と突っ込み切れないこともしばしば。
小学六年生にもなると、髪も肩より長くなっていて遅かった僕の声変わりも遂にやってきた。
「あー……風邪っぽい声ようやっと治った」
男性にしてはどの道高めのしゃがれた声。それでいて野太くしっかりとした感じ。
「まあー及第点でしょう! 僕にしては女々しくない、それだけでも僕は満足──」
「え、可愛くなくなっちゃった……」
聞き捨てならない言葉を耳で拾い、ぎこちなく振り向く。
「前の声の方が好きだった……」
がっくりと項垂れるブラビットなんて初めてじゃないか?
今までに見せたことの無い程のこの落ち込みようを見せられ
がーん、
と漫画の一コマのように膝から崩れ落ちた僕のショックの大きさは尋常じゃなかった。
くそっ、くそ──……今から声帯を戻せないか!?
戻れ、僕の声!
あーくそっ戻らないッ!
あーっ!
くそう。君の好みが可愛い声だと分かっていれば気付けていれば可愛い声を頑張って意地してお届け……出来なかったかもしれないけど抗ったのに!
「あ、でもポニーテールは似合ってるね! 凄く可愛い……ですね」
良いんだよ? もうそろそろ敬語外してくれても。
もう九月だし結構長い付き合いでしょ、と思って言うと
「……考えてはみます」
と言ってくれたので来世に期待しよう。
あ、いや違ったこれからに期待しよう。
ポニーテールはお気に召して貰えたならこれからはこれでいこうかな。
「リボン似合いそう」
「リボン探してくる」
即座に行動に移して上着を羽織る僕に少し慌てた様子でブラビットは言う。
「そんなすぐでなくとも……」
「いや、今探したい気分になったんだ。気にしないで」
優しく笑いかけて母さんに「ヘアゴムを買いたいからアクセサリーとか売ってるとこに連れてって」とお願いし外へ出る。
リボンか……赤色が良いな、でも白も欲しい……あーでもあの感じだと斜めに白線が入った結構大きな赤リボン……女性向けのじゃないとそのサイズは売ってないな。
「母さん、女性もののヘアゴム売ってるとこが良いんだけど」
「ん? ああ可愛いデザインのを探してるの?」
「これっくらいのサイズの赤いリボンヘアゴム……だとやっぱりそうじゃない?」
両手で理想の幅を示す。
確かにそうね、と理解してくれた母はお洒落なイヤリングや可愛いカチューシャが売られている南有利にある雑貨店に連れて行ってくれた。
一人で外出するのは中学生からでないとお許しが出なかった為、ブラビットとデートするのはまだ出来ない。
早く来年にならないかな、そうしたら中学生なのに。
南有利のショッピングモールには様々な店があって、服屋を始めフードコートにスポーツ用品店、楽器店、雑貨店などがあるのだ。
ここへ行けば大体の生活必需品は揃うと思っていい。
杜介駅へのアクセスも良くて利便性も高い為、柳下より人気の町とされている。
……治安は柳下の方が良いけど、それ以外僕の地元の取り柄は無い。
エスカレーターを使って二階へ上がった先の右手側にある雑貨店『パラレル・ミラー』。
何日二年から全国に十数店舗が展開されている今でも人気のある店は、店内の飾り付けが常にイルミネーションと鏡で彩られているのが特徴だ。
平日でも客足が途絶えることはなくそれなりに広い広さを持っている。
大手企業の雑貨店だと男性向けになってしまうので、女性向けで唯一店舗数の多いパラレル・ミラーは今回の目的としてはうってつけであった。
いらっしゃいませー、と店員の声を聞き流しながらヘアゴムの場所を探す。
髪に着ける装飾品であれば大抵は手前に置いてあるはず……と視界を気に留めながら店内を歩き回っていく。
「うーん」
やっぱりキラキラしたラメ入りレースとかフリルが施されてる物が多いな、シュシュの方が女性には需要が高いのかな? ヘアゴムの品揃えは少ない気がする。
他の店を見た方が良いかと悩んでいると母さんが
「赤、赤。あっちにそれっぽいのがあったわよ!」
と案内してくれた。
案内された先にあったヘアゴムは丁度イメージに近い赤い特大リボンが付いている。
白い斜めストライプが入った方と無地の二種類が置かれていた。
(無地でも似合う気はするんだけど……やっぱり白色は欲しいなあ……)
念の為予備用に二つ買うことにし、母さんに頼んで買って貰った。
いつもありがとう、中学からはお小遣いくれる約束があるしその時は自分で買います。
家に帰って早速ゴムを変えて結んでみた。
「おお……」
「あ、良いねそれ! 似合う似合……ってますよ」
「良かったー。じゃあ明日からこれにする」
──一々訂正して敬語に直さなくていいんだよ、ブラビット。
なんて思いつつ丁度良いのが見つかって良かったと一息つく。
めんどくさがりな面も持ち合わせているので、ひょっとしたら結んだまま寝ることもあるかもしれないが。
読み終わってなかった本があったことを思い出した僕は、休日を使って部屋で読みふけることにした。
ラブ・コメディージャンルの漫画で、内容は幼馴染みに片想いしていた女性主人公が告白する場面から始まる。
周りからも両片想いと思われていた二人だったが、幼馴染みは主人公の告白を受け入れず見事に散る。
散った後彼女は公園で泣いているところをイケメン男子に慰められ、徐々に二人は惹かれ合っていく……というものなのだが少女漫画あるあるのライバル枠に位置しているのはなんと最初に振ってきた幼馴染み。
実は彼はずっと主人公のことが好きで、とんでもねえ性格をしているが故に彼女を振ったのである。
所謂『ヤンデレ』なのだ。
つまり、この漫画におけるラスボスキャラは彼で悪役。
そして今読んでいる場面で僕は苛ついている。冒頭に主人公を振った理由が明かされる場面。
「くそっ、屑すぎんだろ理由がーっ! なんだよ『両想いだと分かってたから傷付いても俺のことで思い詰めた顔が見れると思ったんだ、可愛く傷ついてくれるんだろうなって……』って! 自分勝手極まりないなお前!」
「どんなキャラなんですか。なんかやん……とか何とか言っていましたよね、それですか」
「そう、ヤンデレ……えーっとヤンデレっていうのは要約すると恋は盲目の悪化版で、『君のことが好きすぎて狂う』っていう……歪んだ愛のことだよ。害悪で大抵犯罪者。不法侵入、監視、盗聴、窃盗あたりはお約束かな? 後詐欺罪とかにあたるのが多い気がする、偽名とかもあるし」
「恋愛でそこまでするもん……?」
この世の珍獣を見るような目つきで覗き込んでくる。
気になるなら読む?
といってヤンデレものを貸してみたら思いの外熱中して読み込んでいた。
「……なるほど……」
「まあ大体そんな感じかな。あ、ブラビット。いーい? リアルでのヤンデレなんて害悪でしかないから関わらないようにね。あれは関わっちゃいけない人種だから」
というか現実でいたら十中八九血魂持ちなんじゃないのかなと思いながら言うと、「はーい」と二つ返事で彼女が頷く。
「この『君の為ならこいつを殺すよ? 君を傷付ける奴は全部消した方が世の為になる』っていうの凄いですね、自分で罪人になる宣言してるんですもの」
「ね、凄いよねー僕そういうの無理なんだわー。世の為になるってお前が決めることじゃねえだろ! ってマジで言いたい」
作り手側としては動かすの楽しいのかもなあ、とノリノリな台詞を見てると思うけど。
でもやっぱ現実のヤンデレは嫌だなあ。
二次元は面白いから除外しておこう。
この世で最も魅力的な存在がブラビット(少なくとも僕はそう考えている)であることを考えると、流れでヤンデレに好かれてしまった、なんてことは十二分に考えられる。
仮にそうなってしまったら僕が牽制すればいい話なのだが……大丈夫だろうか。
もし、もし……彼女がそういった輩に好かれてしまったら──不安すぎて夜も眠れなくなりそうだ。
「死なない程度のいじめ」
だったのが
「運が悪くなければ死なない程度のいじめ」
に変わっていくにそう時間はかからなかった。
恐らく好き好き度で僕に負けたからですね!
え、違う? そう……でも本当にこの世で一番ブラビットを愛しているのは僕だと自負しているので。
譲れない譲らない。
例え何されたってそこは黒兎赤だと何度でも言おう。
そこで世間を囲い込む為に考えました。
小学六年生の誕生日にプレゼントとして貰ったこの──ちみっとフォン、通称ちみほ……要は携帯電話。
これを機にSNSとネットを始めて良いとのことだったので土日は父さんのパソコンを借りて本格的に創作をすることにしたのだ。
そう、目指すは同人……成人したら同人誌を出すのだ──……赤ブラの!
黒兎赤×ブラビットの!
僕と彼女をモデルにした創作CPのいちゃこら同人誌を……!
ま、別に世界的に広まるとは思ってないので少数でもこの国で認めてくれる人が増えたら「ほら見てブラビット! 僕達公認カップルだよ!」とか言えるかなって。
何より僕の心の癒しの為に自給自足、大事。
という訳ではじめましたソーシャル・ネットワーク・サービスことSNS『Mazotter』。
ユーザー名は深く考えずしろぱんだ。彼女の白と僕の黒……髪の色を取ったらモノクロだなあと思っていたらいつの間にかアカウント設立しちゃったので仕方ないね。
地味に一か月後にはネット上のお友達がじわじわ出来てきた。
アビューザー……繋がってくれた中で一番仲良いのは大翔さんと野良猫ろん君の二人だ。
多分三百人と繋がってても僕三人くらいと仲良しとかそんな感じになる気がする。
色々あって、少数が一番良いなって思えるようになったからだろう。
ちみほを持って嫌なことも勿論増えた。ライソという通話兼チャットアプリ……どういうことかここのグループトークに追加されてしまったのだ、狼と仁夏の。嫌だよなんで仁夏携帯電話持ってるんだよと思ったが「仕事に使うから持っとけって知り合いがくれた」とか言うし仕事ってなんだよ怖えよ!
と突っ込み切れないこともしばしば。
小学六年生にもなると、髪も肩より長くなっていて遅かった僕の声変わりも遂にやってきた。
「あー……風邪っぽい声ようやっと治った」
男性にしてはどの道高めのしゃがれた声。それでいて野太くしっかりとした感じ。
「まあー及第点でしょう! 僕にしては女々しくない、それだけでも僕は満足──」
「え、可愛くなくなっちゃった……」
聞き捨てならない言葉を耳で拾い、ぎこちなく振り向く。
「前の声の方が好きだった……」
がっくりと項垂れるブラビットなんて初めてじゃないか?
今までに見せたことの無い程のこの落ち込みようを見せられ
がーん、
と漫画の一コマのように膝から崩れ落ちた僕のショックの大きさは尋常じゃなかった。
くそっ、くそ──……今から声帯を戻せないか!?
戻れ、僕の声!
あーくそっ戻らないッ!
あーっ!
くそう。君の好みが可愛い声だと分かっていれば気付けていれば可愛い声を頑張って意地してお届け……出来なかったかもしれないけど抗ったのに!
「あ、でもポニーテールは似合ってるね! 凄く可愛い……ですね」
良いんだよ? もうそろそろ敬語外してくれても。
もう九月だし結構長い付き合いでしょ、と思って言うと
「……考えてはみます」
と言ってくれたので来世に期待しよう。
あ、いや違ったこれからに期待しよう。
ポニーテールはお気に召して貰えたならこれからはこれでいこうかな。
「リボン似合いそう」
「リボン探してくる」
即座に行動に移して上着を羽織る僕に少し慌てた様子でブラビットは言う。
「そんなすぐでなくとも……」
「いや、今探したい気分になったんだ。気にしないで」
優しく笑いかけて母さんに「ヘアゴムを買いたいからアクセサリーとか売ってるとこに連れてって」とお願いし外へ出る。
リボンか……赤色が良いな、でも白も欲しい……あーでもあの感じだと斜めに白線が入った結構大きな赤リボン……女性向けのじゃないとそのサイズは売ってないな。
「母さん、女性もののヘアゴム売ってるとこが良いんだけど」
「ん? ああ可愛いデザインのを探してるの?」
「これっくらいのサイズの赤いリボンヘアゴム……だとやっぱりそうじゃない?」
両手で理想の幅を示す。
確かにそうね、と理解してくれた母はお洒落なイヤリングや可愛いカチューシャが売られている南有利にある雑貨店に連れて行ってくれた。
一人で外出するのは中学生からでないとお許しが出なかった為、ブラビットとデートするのはまだ出来ない。
早く来年にならないかな、そうしたら中学生なのに。
南有利のショッピングモールには様々な店があって、服屋を始めフードコートにスポーツ用品店、楽器店、雑貨店などがあるのだ。
ここへ行けば大体の生活必需品は揃うと思っていい。
杜介駅へのアクセスも良くて利便性も高い為、柳下より人気の町とされている。
……治安は柳下の方が良いけど、それ以外僕の地元の取り柄は無い。
エスカレーターを使って二階へ上がった先の右手側にある雑貨店『パラレル・ミラー』。
何日二年から全国に十数店舗が展開されている今でも人気のある店は、店内の飾り付けが常にイルミネーションと鏡で彩られているのが特徴だ。
平日でも客足が途絶えることはなくそれなりに広い広さを持っている。
大手企業の雑貨店だと男性向けになってしまうので、女性向けで唯一店舗数の多いパラレル・ミラーは今回の目的としてはうってつけであった。
いらっしゃいませー、と店員の声を聞き流しながらヘアゴムの場所を探す。
髪に着ける装飾品であれば大抵は手前に置いてあるはず……と視界を気に留めながら店内を歩き回っていく。
「うーん」
やっぱりキラキラしたラメ入りレースとかフリルが施されてる物が多いな、シュシュの方が女性には需要が高いのかな? ヘアゴムの品揃えは少ない気がする。
他の店を見た方が良いかと悩んでいると母さんが
「赤、赤。あっちにそれっぽいのがあったわよ!」
と案内してくれた。
案内された先にあったヘアゴムは丁度イメージに近い赤い特大リボンが付いている。
白い斜めストライプが入った方と無地の二種類が置かれていた。
(無地でも似合う気はするんだけど……やっぱり白色は欲しいなあ……)
念の為予備用に二つ買うことにし、母さんに頼んで買って貰った。
いつもありがとう、中学からはお小遣いくれる約束があるしその時は自分で買います。
家に帰って早速ゴムを変えて結んでみた。
「おお……」
「あ、良いねそれ! 似合う似合……ってますよ」
「良かったー。じゃあ明日からこれにする」
──一々訂正して敬語に直さなくていいんだよ、ブラビット。
なんて思いつつ丁度良いのが見つかって良かったと一息つく。
めんどくさがりな面も持ち合わせているので、ひょっとしたら結んだまま寝ることもあるかもしれないが。
読み終わってなかった本があったことを思い出した僕は、休日を使って部屋で読みふけることにした。
ラブ・コメディージャンルの漫画で、内容は幼馴染みに片想いしていた女性主人公が告白する場面から始まる。
周りからも両片想いと思われていた二人だったが、幼馴染みは主人公の告白を受け入れず見事に散る。
散った後彼女は公園で泣いているところをイケメン男子に慰められ、徐々に二人は惹かれ合っていく……というものなのだが少女漫画あるあるのライバル枠に位置しているのはなんと最初に振ってきた幼馴染み。
実は彼はずっと主人公のことが好きで、とんでもねえ性格をしているが故に彼女を振ったのである。
所謂『ヤンデレ』なのだ。
つまり、この漫画におけるラスボスキャラは彼で悪役。
そして今読んでいる場面で僕は苛ついている。冒頭に主人公を振った理由が明かされる場面。
「くそっ、屑すぎんだろ理由がーっ! なんだよ『両想いだと分かってたから傷付いても俺のことで思い詰めた顔が見れると思ったんだ、可愛く傷ついてくれるんだろうなって……』って! 自分勝手極まりないなお前!」
「どんなキャラなんですか。なんかやん……とか何とか言っていましたよね、それですか」
「そう、ヤンデレ……えーっとヤンデレっていうのは要約すると恋は盲目の悪化版で、『君のことが好きすぎて狂う』っていう……歪んだ愛のことだよ。害悪で大抵犯罪者。不法侵入、監視、盗聴、窃盗あたりはお約束かな? 後詐欺罪とかにあたるのが多い気がする、偽名とかもあるし」
「恋愛でそこまでするもん……?」
この世の珍獣を見るような目つきで覗き込んでくる。
気になるなら読む?
といってヤンデレものを貸してみたら思いの外熱中して読み込んでいた。
「……なるほど……」
「まあ大体そんな感じかな。あ、ブラビット。いーい? リアルでのヤンデレなんて害悪でしかないから関わらないようにね。あれは関わっちゃいけない人種だから」
というか現実でいたら十中八九血魂持ちなんじゃないのかなと思いながら言うと、「はーい」と二つ返事で彼女が頷く。
「この『君の為ならこいつを殺すよ? 君を傷付ける奴は全部消した方が世の為になる』っていうの凄いですね、自分で罪人になる宣言してるんですもの」
「ね、凄いよねー僕そういうの無理なんだわー。世の為になるってお前が決めることじゃねえだろ! ってマジで言いたい」
作り手側としては動かすの楽しいのかもなあ、とノリノリな台詞を見てると思うけど。
でもやっぱ現実のヤンデレは嫌だなあ。
二次元は面白いから除外しておこう。
この世で最も魅力的な存在がブラビット(少なくとも僕はそう考えている)であることを考えると、流れでヤンデレに好かれてしまった、なんてことは十二分に考えられる。
仮にそうなってしまったら僕が牽制すればいい話なのだが……大丈夫だろうか。
もし、もし……彼女がそういった輩に好かれてしまったら──不安すぎて夜も眠れなくなりそうだ。
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