血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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①第六章 誰が誰を悪いと決めるのか

4人間として扱ってください ※残酷描写あり

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 翌日、飽きてきたのだろう生徒達は新しい『遊び』を提案し始めていた。

「最近普通の遊びにも飽きちゃったしさー新しいことしたいよね!」

「分かる分かるっ何かこー思い切った感じの?」
「普通のボールは飽きてきたなー」

 ……まだ続いてたのかボール人気。
 むしろそっちに驚いてしまった。

 不覚にも少しにやけてしまっていたらしい、それを見て苛ついたであろう仁夏が「じゃあこいつで遊んでやろうぜ、最近寂しがってみてーだし?」と提案した。
 悪ノリをするように賛成、と満場一致の挙手。嫌な予感がして思わず嫌だと反抗する。

「えっ、いや、僕は遠慮しておく……!」
「じゃあどうせならしようよ。それなら良いでしょ、赤君?」

 掃除……? まあ、掃除だけならいいよ……と了承したのがいけなかった。
 かなんて一言も言ってなかったんだから。

「い、っだ、」

 あっはははは!
 と笑い声の飛び交う教室、外からはきっと「楽しそうに遊んでいる」と考えられていることだろう。

 でも実際は。

 僕がモップ扱いにして床に押し付けられることで教室の掃除している、立派ないじめだった。
 ひんやりとした床に叩きつけられてどうしたことかと顔を上げようとすれば上から押し付けられ「そーれ!」って楽しそうに押して床を滑らせていく。
 何度立ち上がろうとしても複数人に押さえられて上手くいかない。

 木の床の隙間が、僕の顔を何度も摩擦する。
 前へ押し潰されると思ったら今度は逆方向に思い切り引かれる。

 雑巾にでもなった気分だった。

 髪を無理矢理引っ張られた状態なのもあり、頭からも痛みが走った。
 目を開けていられなくて必然的に床より上の片目だけを開ける形になる。
 開けた視界の端にうっすら見えたのは

「どうしてそんなことするの」

 と悲しそうに呟く彼女。

 彼等の目的は変わらず勿論、ブラビットだ。
 だから、心配をかける訳にはいかないのに、その日以降昼休みは必ずといっていい程掃除……人間モップにされた。

 いいよ、と言ったのがいけなかった。

 あの時点でになってしまったんだ。
 仁夏だけならまだしも、狼がサポート役に徹している今の状態は、正直言ってキツい。
 僕の自滅を誘って、学校内での立場がどんどん不利に、下になっていくばかり。

 怪我を治して貰って会う度に「化け物!」と呼ばれるのはもう慣れた。

 暴力を振るわれて「早く降参しろよ」って言われるのももう慣れた。

 惨めな姿にされる度に指されて罵倒されるのも、もう

 慣れた。

 でも、その度にブラビットが「酷い」ってえらく高い声で心配してくれるのにはまだ慣れない。
 心配される度に思ってしまうんだ。

 ──ブラビットが悲しんでくれてる!

 、噓偽りない顔で悲しんで!

 それが酷く愛おしく思えて、嬉しくて。
 こんなに彼女が心配してくれるなら一生居てくれるかな、なんて、変な気分になる。
 僕の悲しみが君への鎖になるのなら、って。
 なんだか駄目な思考なんじゃないかと思えて何度も否定するのだけど、何度も同じ考えに至ってしまう。
 確かに傷が入りつつある僕の心は彼女がいる限り保たれるのだろう。
 歪んだ形であっても心が無事なら生きていける。

 ……まだ、夢は終わっていないし。

 彼女の好きな物探しだって満足に出来ていない、ヴィオラの練習だって教わりながら頑張ってはいる、人外のことだってもっと知りたい、まだ……

 両想いに、なれていない。

「大人しく差し出せば良いのによーお前ってほんと馬鹿だな」
「……ッ、物扱い……しないで」

 奪われてたまるか、彼女だけは、彼女だけは、彼女だけは!
 彼女だけは絶対にっ。
 絶対に僕と結ばれるんだ。僕は彼女と、がってる。

 信じなきゃ、やってられないだろ?

 こんなの。

 その態度に腹が立ったのかもしれない。気に障ることでも言ったのかもしれない。
 更に悪化した。いや、悪化していくしかもう道が残されていなかった、という方が正しいのか。
 給食の時間、僕はもっと惨めにされた。

 給食の食べ残しを片付ける丁度良いゴミ箱として、僕が使われたのだ。

 穴という穴に詰められ押し込まれ、服を脱がされて。
 先生も一緒に加害者として加わって日頃の鬱憤を晴らすべく僕にあてつけている。
 第一印象なんて当てにならないな、一番最初の頃は良い先生に見えたのに。

 痛い、痛いと何度言っても伝わらないのだ。

 ここまでくると諦めるよりも虚しさが勝る。

「ちょっと美味しそう」とか言うブラビットには再三びっくりしたがこれ以降、彼女はゴミ箱扱いされた時一緒にゴミを取ってくれるようになった。
 何度も吐いて、吐いて零してそれでも止めて貰えなかった。
 それでも君は僕のこと支えてくれる。天使みたいな死神様。

 僕にとっての最愛の子。

 冷えて熱くなって冷えて火照って大変だ。
 家でぼんやりとした意識の中、ベッドで添い寝してくれているブラビットに覆い被さって、あろうことか僕はしてしまった。
 彼女はただ純粋にを心配してくれているだけなのに。
 これはいけない、と正気を取り戻し熱のこもった身体を落ち着かせて

「添い寝はもう卒業する!」

 と顔を真っ赤にして不貞寝し、そのまま眠りについていった……。

 その結果、僕は今あの真っ暗闇な夢の中にいる。
 またもや自分は悪夢を見る魂であることをすっかり忘れていたのだ。

「あー……やらかしたー……」

 でも、ああ。
 少し触れた彼女の頬はとてもいい触り心地だった。
 触ってもきょとんとした顔でを真っ直ぐ見つめて、目に映っていなかった。

 あの至近距離ならば僕の顔もよく映ったことだろう。

 それが溜まらなく嬉しかった。

「ふふ、っへへへへ」

 欲しいなあ欲しいなあ、あの子が欲しいなあ。
 目もお揃いなんだから、今度は中のものをお揃いにしたっていい。

 内臓?

 それとも腕や足?

 なんだっていい、もっともっとお互いにになればいい──……!
 交換こをまたしたいってお願いしたらきっと彼女ならやってくれるよね。
 優しい優しいあの子ならやってくれる。

 うん、そうに違いない。

 ならもっと、彼女に『』しなきゃだ。
 僕が弱ってて君がいなきゃ駄目なんだって教えてあげたら、君は傍に居てくれるでしょう?
 そしたら君の全部全部頂戴な。

 僕に全部。

 不気味に乾いた笑い声を響かせながら自分の欲に酔いきっていると、いつの間にか好きなあの子の身体がそこにあって、吸い寄せられるように何度も何度も這いずって求めて、指して切り取ってくっつけて裂いていって。次第にこの夢がどんな夢なのかが分かった。

 ……僕の『願望』、『欲望』を全てそっくりそのまま詰め込んだ

 それが、今の僕が見れる夢だった。
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