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①第四章 見ようとしなければ見えない、何事も
8表向きと事実(ブラビット視点) ※残酷描写あり
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赤と別れ一見お坊ちゃん風の少年の様子を見ているブラビットは、今持っている情報を整理するべく思考を彷徨わせた。
(陸堂仁夏……確か、良い子ちゃんや周囲の者には金持ちで両親は偉いとか言ってましたよねぇ。あ、ご両親にはモンペ疑惑もあったな)
ちぐはぐとした情報に歪な何かを感じてはいるものの、その正体が何なのかまでは分からなかったらしい。
お手上げといったポーズで手を軽く上げて、追いかけることに専念する。
「──しっかし変な名前だよな、ブラビットっていうの」
あ?
不意に呟かれた発言へ苛立ちを覚えた少女は珍しくも眉間にしわを寄せていた。
そんなことはつゆ知らず、嘘の話だと考えている仁夏はぶつぶつと続けていった。
「狼も赤も、嘘吐くならもう少しマシな作り話言えよっつー……──な、何か今、急に寒気がしたな。まだ冬でもねえのに」
自然と目を細めて睨み付けていたようで、その視線を感じ取った少年は数秒間震えることとなった。
六月だから、汗を掻いても寒気など起こり得るはずもないことなど彼にも分かっていたのであろう。
後を追う内に段々と人の多い住宅街から、寂れた空き地へ、路地裏へと続いたもので、ブラビットの中で大まかな予想が出来上がっていく。
辿り着いたお世辞にも手入れが行き届いているとは言えない一軒家を見て、その予想はあまり外れていないことを確信した。
彼の家は裕福ではなく逆だったのだ。
+
「……ただいま」
玄関を開けてまず目に入るゴミの山。
それを気にも留めることなく帰ってきたことだけを告げる彼の目に、光はあまり入ってないようだ。
この笑顔の消えた表情を見れば、少年の家庭環境が悪いのはよく分かる。
テレビに集中し、荷物を置く息子を「お帰りなさい」の一言もなく無視する母親の姿が見えた。
(母親には見向きもされていない。ということはあの子供自慢でもしそうな態度自体が嘘、か。それに何とも酷い部屋が見えますけれど……おお、なんと汚らわしい……! どなたの部屋なのかは、確認しておきたいところですね)
ブラビットが驚いたのは一つの部屋だけに集中しているゴミの数だった。
四部屋ある内の一つが、腐った食べ物の残骸や零した飲み物など、汚らわしいもの達がまき散らされていたのだ。
荷物を置き終わった少年が、父親らしき人物の元へ紙を持っていく。
恐らく、この時期なら授業参観のプリントではないか、と少女は考えた。
予想は合っているらしく紙には『授業参観のお知らせ』という字が朧気に見える。
ノックを数回して扉を開けて部屋の中に入る。
入った瞬間灰色の煙が揺らいでいた。
煙草だ。
鼻につく程の煙草の臭いが部屋中に広がっていて、灰皿には大量の吸い殻が置いてあった。
ブラビットには嗅覚が無い為分からないようだが、仁夏は煙を吸い込んでしまい、けほけほと息苦しさで顔を歪ませていく。
「親父? あのさ──」
来てほしいと頼みたかっただけだろうに、俯きながらやや掠れたような声で言う。
しかし、そんなことはお構いなく父親は彼を突然殴りつけた。
「うるせぇんだよ、勝手に入るんじゃねぇクソガキがッ!」
倒れ込んだ息子を見てしてやったりとでも思ったような父親は、何度も何度も腹や腕を殴ったり蹴ったりを繰り返していった。意図的に痣になっている箇所を狙ってやってのことだ。
呻き声を上げる少年の頭を物のように鷲掴み、あのやたらと汚い部屋に投げ込んだ。
すぐ起き上がれない我が子を見て満足そうに笑う様は下素という言葉が実に相応しい。
「ふんっ、暫くそこで大人しくしてるんだな」
扉が閉まっていくと徐々に部屋から光が消えていく。がちゃりと音を立てて以降ぴくりともしない。
鍵を閉められてしまったことは明白だったが、その事実は息を整え立ち上がったばかりの少年には受け入れ難いことであった。
「……ッはぁ!? ちょ……出せよ! ここから出してくれよ、聞こえてんだろ、親父!」
暗闇の中に取り残された灰色の瞳と赤と黄土色の瞳。
この部屋に居るのは、その二人だけだった。
(陸堂仁夏……確か、良い子ちゃんや周囲の者には金持ちで両親は偉いとか言ってましたよねぇ。あ、ご両親にはモンペ疑惑もあったな)
ちぐはぐとした情報に歪な何かを感じてはいるものの、その正体が何なのかまでは分からなかったらしい。
お手上げといったポーズで手を軽く上げて、追いかけることに専念する。
「──しっかし変な名前だよな、ブラビットっていうの」
あ?
不意に呟かれた発言へ苛立ちを覚えた少女は珍しくも眉間にしわを寄せていた。
そんなことはつゆ知らず、嘘の話だと考えている仁夏はぶつぶつと続けていった。
「狼も赤も、嘘吐くならもう少しマシな作り話言えよっつー……──な、何か今、急に寒気がしたな。まだ冬でもねえのに」
自然と目を細めて睨み付けていたようで、その視線を感じ取った少年は数秒間震えることとなった。
六月だから、汗を掻いても寒気など起こり得るはずもないことなど彼にも分かっていたのであろう。
後を追う内に段々と人の多い住宅街から、寂れた空き地へ、路地裏へと続いたもので、ブラビットの中で大まかな予想が出来上がっていく。
辿り着いたお世辞にも手入れが行き届いているとは言えない一軒家を見て、その予想はあまり外れていないことを確信した。
彼の家は裕福ではなく逆だったのだ。
+
「……ただいま」
玄関を開けてまず目に入るゴミの山。
それを気にも留めることなく帰ってきたことだけを告げる彼の目に、光はあまり入ってないようだ。
この笑顔の消えた表情を見れば、少年の家庭環境が悪いのはよく分かる。
テレビに集中し、荷物を置く息子を「お帰りなさい」の一言もなく無視する母親の姿が見えた。
(母親には見向きもされていない。ということはあの子供自慢でもしそうな態度自体が嘘、か。それに何とも酷い部屋が見えますけれど……おお、なんと汚らわしい……! どなたの部屋なのかは、確認しておきたいところですね)
ブラビットが驚いたのは一つの部屋だけに集中しているゴミの数だった。
四部屋ある内の一つが、腐った食べ物の残骸や零した飲み物など、汚らわしいもの達がまき散らされていたのだ。
荷物を置き終わった少年が、父親らしき人物の元へ紙を持っていく。
恐らく、この時期なら授業参観のプリントではないか、と少女は考えた。
予想は合っているらしく紙には『授業参観のお知らせ』という字が朧気に見える。
ノックを数回して扉を開けて部屋の中に入る。
入った瞬間灰色の煙が揺らいでいた。
煙草だ。
鼻につく程の煙草の臭いが部屋中に広がっていて、灰皿には大量の吸い殻が置いてあった。
ブラビットには嗅覚が無い為分からないようだが、仁夏は煙を吸い込んでしまい、けほけほと息苦しさで顔を歪ませていく。
「親父? あのさ──」
来てほしいと頼みたかっただけだろうに、俯きながらやや掠れたような声で言う。
しかし、そんなことはお構いなく父親は彼を突然殴りつけた。
「うるせぇんだよ、勝手に入るんじゃねぇクソガキがッ!」
倒れ込んだ息子を見てしてやったりとでも思ったような父親は、何度も何度も腹や腕を殴ったり蹴ったりを繰り返していった。意図的に痣になっている箇所を狙ってやってのことだ。
呻き声を上げる少年の頭を物のように鷲掴み、あのやたらと汚い部屋に投げ込んだ。
すぐ起き上がれない我が子を見て満足そうに笑う様は下素という言葉が実に相応しい。
「ふんっ、暫くそこで大人しくしてるんだな」
扉が閉まっていくと徐々に部屋から光が消えていく。がちゃりと音を立てて以降ぴくりともしない。
鍵を閉められてしまったことは明白だったが、その事実は息を整え立ち上がったばかりの少年には受け入れ難いことであった。
「……ッはぁ!? ちょ……出せよ! ここから出してくれよ、聞こえてんだろ、親父!」
暗闇の中に取り残された灰色の瞳と赤と黄土色の瞳。
この部屋に居るのは、その二人だけだった。
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