血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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①第三章 大事なものを一つだけ選ぶなら?

8ヴィオラをゲットしたぞ!

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 四年生に上がり、順調にテストの点数が減少している僕だが、至って平和だった。
 テストの点数が減少した理由としては「学校の求めている答え」が書けなかったからで、別のやり方で正解へと導いたことが駄目だったらしい。答えは合っているものの、バツ印が付けられたのだ。
 そのことに気付いた両親は学校側へ掛け合って飛び級をした方が合っているのではと言いに行きそうだったので、全力で止めた。

 折角友達が出来たのに、飛び級なんかしたらまた一からやり直しじゃんか!
 その嘆きは受け入れられ、自分に合ってない学年に僕はいる……ということ。
 だとしても、だ。
 別のやり方で解いたら駄目なんておかしいはずなのに、学校というのはそういうものだからと片付けられてしまった。
『大学』では自由な発想で勉強が出来ると聞いたので、この頃は大学に興味を持ち始めている。

 友達が出来てからは誕生日に色んな子達から祝って貰えたり、プレゼントを貰えるようになったのだが、今年は仁夏君からもプレゼントを貰えた。
 彼からは野球グローブで、メッセージカードには「漢になれよ」と書かれていた。

 仁夏君は野球が好きというのは聞いていたが、これは今度キャッチボールしようぜということだろうか。

 ブラビットは画伯を自覚してしまったのかあれ以来絵をプレゼントしてくれないので、今年は何かなと思って貰った箱を開けてみると壊してしまったばっかりの目覚まし時計だった。
 煩いからってすーぐ投げて壊しちゃうからな、手裏剣投げみたいに投げてるせいだろうけど。
 無いと無いで困るから、これは助かる。

 今回は狼君が一番最後にプレゼントを持ってきて、まさかの弦楽器が来たもんだから無意識のうちに目が点になった。

 あれ、君、貧乏だったんじゃ……? 

 言いたいことを引っ込めて狼君の言葉を待つと、使い方を教えるから無料開放されている音楽教室へ行こうというので、徒歩で向かい、着いた先の教室へ入った。
 教室内にはピアノやメトロノームなどが置いてあり、壁や床はやや古い木造ではあるものの、無料開放しているというのは本当らしい。他の部屋から別の子達が練習している音が壁越しに響き渡ってきた。

「これヴィオラって言うんだけどね、要らない奴で捨てるに勿体無いし赤君にあげようかなーって」

 ヴィオラ……? え、あ、バイオリンじゃないんだねこれ。
 バイオリンかと思ったと素直に述べると、大抵皆そういうらしく、見分けられない人が多いそう。

 人気なのはバイオリンで、狼君が好きなのもそっちらしく、無駄に重くて微妙な音の低さが気に食わないんだとかなんとか。弦楽器の中で一番不人気らしい。
 へえ、お洒落だけどなあ……これ……なんて酷い言われようすぎるヴィオラを見つめる。

「というか、よく持ってたね。これって高いでしょ?」
「ん? ああ、前はお金のあるコレクター家系だったらしいんだけど、騙されて財産没収されちゃったんだって。これ壊れてるから売っても安いしってことで無事だったみたいなんだけどさー。僕は要らないし……赤君なら勿体無い精神に理解あるし貰ってくれるかなーって」

 なるほど、それで持っていたのか。ということはブラビットが見に行ったのは前のお家だったり……?

 ボーっと考え込んでいると後ろで「つまり要らない不良品を押し付けに来たってことですかね」という彼女の言葉が聞こえたが、無視を決め込んだ。

 だって……何か……可哀想じゃんヴィオラが‼ こんなに格好いいのに!

 なるほどー、ありがとうとお礼を言うと「どういたしまして、一応ちゃんと音は出るから安心してね。壊れてるのはチューニング部分のだよ」と言われて「いや、チューニングは大事じゃないか?」なんて思ったけど気にしないことにした。
 そうこうしている内に、早速チューニングをしようと狼君が良い、チューナーを貸してくれようとした。
 が、一つしか持っていないように見えたのでそれなら自力でやると答えた。

「えっと、ピアノの音に合わせれば大体合ってるんだよね?」
「え? いや、そうだけど自力でチューニングは難しいよ? 一応ヴィオラの音階は四弦からドソレラだけど──」

 ドソレラね、ドソレラ。はいはい。

 なんとなく見れば上の奴回して刺す感じだろうなーっと分かったのでピアノのドソレラを思い出して四弦……縦にして多分左側の弦から音を確認する。
 指で弾いて出た最初の音は……ドレミファソラシドの中のミだった。
 それから音を確認し、回していってチューニングもどきが終わった。確かにぐぐぐっと力を入れないと止まらなかった為、そこはちょっと難点ではあったものの十分使える範囲だったので、良かった。

「多分これで合ってると思うんだけど……どうしたの?」

 二人共、と言いかけて止めた。何故ブラビットも狼君もそんなに驚いているんだ。

 言っておくけど音楽を愛する気持ちだけは負けないぞ! 楽器は好きなんだ! 

 するとそれまでにこやかだった狼君が悔しそうな表情に変わっていった。
 え? いや、だってピアノの音覚えてればそれとなく出来る気がするし、普通だと思ったんだ。
 ほんとだよ。

「間違っても『え、だってピアノ聞いてれば分かるもん』とか言っては駄目ですよ。なんとなく私でも悲しくなります」

 正にそれを言おうとしていた。
 ありがとう、今君が言わなかったら誕生日に友達傷付けましたパーティーに変わるところだった。
 小声で呟かれた「僕だってまだチューナー使わないと出来ないのに……」というのを聞いてしまって、地雷を踏んだことにやっと気付いた。
 そっか……狼君も音楽好きっていう愛があるんだな! それじゃあ仕方ない、一緒に頑張ろうね!
 とか思いながら一緒に練習しようというと「……うん」と影が差した笑みを返されていた。何故だ。

 今のは多分ですけど貴方が悪いと思います、とブラビットからも言われて余計に混乱した。

 え、そんな、だって音楽好きなら一緒に頑張ったって良いと思うんだ。ええ……?

 一通りやり方を教えてくれたのを覚え終わると「毎年弦楽器コンテストっていうのがあるんだけど、良ければ赤君も出場目指してみない? 僕も出るんだ」と帰り際にチラシを貰った。
 それまでに普通の演奏が出来ない限り出場はしないかなあ、と曖昧な返事を返したのだが「一緒に練習をしたいなら丁度良いと思ったんだけどな」なんて落ち込む姿を見ては断るに断れないので不安を抱きつつも了承した。
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