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①第三章 大事なものを一つだけ選ぶなら?
1人と繋がると嫌なところが見えてくる
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あれから一班の生徒とも仲良くなり、あいだ君とらいまちゃんも話しかけてくれるようになった。
話しかけてくれると言っても、らいまちゃんは未だに開眼しないし、あいだ君は「おまえやっぱりあくだな!? ボールをかわいそうともおもわないなんて!」とか些細なことで僕への印象を二転三転としたりするので気は抜けないのだが。でも、一班の中で受け入れ始めたことは大きかったのか、他の子たちも次第に雑談が出来る程には会話をしてくれていた。
会話をする内に「あ、いがいとこわくない?」なんて思った女子が噂を広めたり、男子との時はノリを良くするようにと心掛けていたらいつの間にか全員と話せるようになり、僕自身にあった「怖い子」というレッテルは消えたようだ。
代わりに手に入れたのはろう君と同じ「人気者」という評判。
けど、それだって元を正せばろう君のおかげなので、僕自身は誇っていいものか悩んでいたのだが、ブラビットは「誇りたければ誇ればいいでしょう、傲慢になりすぎない程度にね」と言ってくれた為、少しだけ胸を張っていくことにした。
……ただ、毎日誰かに話しかけられるようになってから別の悩みが増えているのも、これ又事実であった。
昼休みになる度に真っ先に皆、僕かろう君のところへ来る。
気分によって変えている子もいるみたいだったけど、はぁ、人気者になってから初めて分かったこの辛さ。
何人でも同時に会話が出来る人にでもならない限り、なーに言ってるか碌に聞き取れやしない。
何せ各々好きなタイミングで一斉に喋るのだ、「待って、落ち着こう」って声を掛けるまでわーきゃーしているって何。いや、まあ子供の内は良いんだろうけどこれさ、大人になってもこのまんまだったら申し訳ないけど結構痛手なんじゃないかな?
なんて思う僕の悲しみは一先ず虚無にお帰り願うとして。
そんな十五人くらいに囲まれる毎日を過ごしていた僕は、はい。
……なんとなく五人までは同時に喋られても聴き取れるようになりました。慣れって恐ろしいね。
でも悲しいかな、クラスメイト全員と話せる最初の内は良かったんだけど、次第に「それってどうなの?」と思う場面がちらほらと出て来てしまった。
今だってそう。昼休みにあいだ君に話しかけられ、「らいまのやつっていっつもめ、あけねーじゃん? きになるだろ、なにしたらあけるのかためしてみよーぜ!」とか言って、二人で虫でも見せて、頭に乗せてやろうって半ば半強制的にやることになってしまったのだ。
女子は虫嫌い多いから止めた方が良いと思うよってちゃんと忠告したからね?
確かに本気の時にしか開眼しないのかは気になるけど、この確かめ方は意地悪だろう……なんて僕の意見は基より聞き入れるつもりもない彼は、教室前にある窓を目を閉じながら見ている(と思われる)らいまちゃんの目の前に虫をゆっくりと見せつけた。しかも足がある方。
知らないぞ、僕は後ろで待機するだけだからな!(虫さんに失礼だろ!)
「らいまー。これなーんだ?」
虫を認識したのか、わさわさと蠢く(恐らく)足を見て硬直する彼女。
「い」
開眼するのか──……!?
と思われた彼の期待は虚しく、そのまま目を閉じたまま「いやぁーっ!!」と悲鳴を上げるらいまちゃん。
今まで恐怖で微動だにせずにいた彼女は、必死の思いで足を動かして距離を取る。目のところには涙が見えた。
「あいだくんなんかきらい! にどとかおもみたくないっ!」
「えっ」
嫌い……嫌い……嫌い……というエコーが掛かっているらしい傷付いた表情の彼を見ながら、思った。
──かお、みえてたんだ……。
まあある程度予想通りの展開だったので、これでこの一班の班長(笑)も少しは反省するだろう……と教室に戻ろうとしたところ。
「おまえひでーやつだな!? らいまをなかせるなんて! さいってーだぞ、みそこなった!」
なんて言うものだからいや、君でしょ? 泣かせたの君だよね、今僕は持ってたてんとう虫さん逃がしてるとこだよ……。
窓を開けて空に放ちながら呆れかえっていた。
ぶーん、と羽音を鳴らしながら元気に飛び立っていく姿を見て安心した。力加減は間違っていなかったようだ。
虫はすぐ死んでしまうから、力は極限まで下げなければいけないと教わり、自分なりに気を付けてはいるのだがそれでも気付かずに蟻さんを踏みつけてしまった時の絶望感は凄まじい。
ほんとごめんなさい不可抗力で踏ん付けてしまって。
「くろとがらいまなかせたー!」
あー、ほんと何言ってんだろあいだ君ってば。はは。
とりあえず彼のこういった部分はどうしようもないので現実逃避をするに限る。どうせらいまちゃんが証言するだろうし。
「え、ほんと? まりちゃん」
「あいだくんがむし。もってきたんですわ~……あんなのみせて、ひどい……!」
「うっ」
あちこちから飛び交う女子の「あいだくんさいてー」という声。虫の種類はなんとカミキリムシだった。
選んだその種類も(苦手な人はほんと苦手だろうという程)最悪だったので、この批判は自業自得である。というからいまちゃんの顔に噛みついたらどうするつもりだったんだ、彼は。
「でもせきくんもむし、もってたよね? なにもってたの?」
鈴崎ちゃんの何気ない一言は注目が集まりやすいので、そこで僕に注目を集めるのは止さないか。
いや、まあ良いけどね。
「ぼくがてんとうむしさんで、あいだくんがカミキリムシ」
裏切り者ォ! とか聞こえたような気がするけど君だって聞かれたら答えるだろうし、嘘言ってもらいまちゃんが否定するんじゃないかな。という僕の心の言葉は胸の奥に仕舞い込んでおく。
「てんとうむしはかわいいよね」
女子にも受けが良いよね、あの小さい虫さんね。
なんて相槌を打ちながら遠目に観察していると、やはり女子からのブーイングが増していた。
君はそろそろ反省した方が良い……という僕の願いも虚しく、彼は誰かのせいにしようと他にそういった虫を捕まえそうな男子から渡されただの責任転嫁を頑張っていた。
いや、そこで頑張らないで? 反省して?
らいまちゃんはらいまちゃんで、虫嫌いに拍車が掛かり「むしなんてぜんめつすればいいのに」とか言いながら家から持ってきたであろう殺虫剤を蟻の巣目掛けてばら撒くわで「それはちょっと」と思われる部分が見え隠れしていた。
だってただの八つ当たりじゃんね。
でも、これに関してはあいだくんが悪いのでは……? 彼のせいで悪化したのでは……と思わなくもない。
そうでなくとも、彼女は掃除に邪魔なものはとことん嫌うタイプな為、どうかと思う部分はなんやかんやあるのだが。
鈴崎ちゃんは一班の中でKYということ以外は比較的普通だと思う。
究極のKYではあるけれど。
ろう君に至っては未だに後光が差してる程の聖人君子ぶりを発揮していた。神か。
話しかけてくれると言っても、らいまちゃんは未だに開眼しないし、あいだ君は「おまえやっぱりあくだな!? ボールをかわいそうともおもわないなんて!」とか些細なことで僕への印象を二転三転としたりするので気は抜けないのだが。でも、一班の中で受け入れ始めたことは大きかったのか、他の子たちも次第に雑談が出来る程には会話をしてくれていた。
会話をする内に「あ、いがいとこわくない?」なんて思った女子が噂を広めたり、男子との時はノリを良くするようにと心掛けていたらいつの間にか全員と話せるようになり、僕自身にあった「怖い子」というレッテルは消えたようだ。
代わりに手に入れたのはろう君と同じ「人気者」という評判。
けど、それだって元を正せばろう君のおかげなので、僕自身は誇っていいものか悩んでいたのだが、ブラビットは「誇りたければ誇ればいいでしょう、傲慢になりすぎない程度にね」と言ってくれた為、少しだけ胸を張っていくことにした。
……ただ、毎日誰かに話しかけられるようになってから別の悩みが増えているのも、これ又事実であった。
昼休みになる度に真っ先に皆、僕かろう君のところへ来る。
気分によって変えている子もいるみたいだったけど、はぁ、人気者になってから初めて分かったこの辛さ。
何人でも同時に会話が出来る人にでもならない限り、なーに言ってるか碌に聞き取れやしない。
何せ各々好きなタイミングで一斉に喋るのだ、「待って、落ち着こう」って声を掛けるまでわーきゃーしているって何。いや、まあ子供の内は良いんだろうけどこれさ、大人になってもこのまんまだったら申し訳ないけど結構痛手なんじゃないかな?
なんて思う僕の悲しみは一先ず虚無にお帰り願うとして。
そんな十五人くらいに囲まれる毎日を過ごしていた僕は、はい。
……なんとなく五人までは同時に喋られても聴き取れるようになりました。慣れって恐ろしいね。
でも悲しいかな、クラスメイト全員と話せる最初の内は良かったんだけど、次第に「それってどうなの?」と思う場面がちらほらと出て来てしまった。
今だってそう。昼休みにあいだ君に話しかけられ、「らいまのやつっていっつもめ、あけねーじゃん? きになるだろ、なにしたらあけるのかためしてみよーぜ!」とか言って、二人で虫でも見せて、頭に乗せてやろうって半ば半強制的にやることになってしまったのだ。
女子は虫嫌い多いから止めた方が良いと思うよってちゃんと忠告したからね?
確かに本気の時にしか開眼しないのかは気になるけど、この確かめ方は意地悪だろう……なんて僕の意見は基より聞き入れるつもりもない彼は、教室前にある窓を目を閉じながら見ている(と思われる)らいまちゃんの目の前に虫をゆっくりと見せつけた。しかも足がある方。
知らないぞ、僕は後ろで待機するだけだからな!(虫さんに失礼だろ!)
「らいまー。これなーんだ?」
虫を認識したのか、わさわさと蠢く(恐らく)足を見て硬直する彼女。
「い」
開眼するのか──……!?
と思われた彼の期待は虚しく、そのまま目を閉じたまま「いやぁーっ!!」と悲鳴を上げるらいまちゃん。
今まで恐怖で微動だにせずにいた彼女は、必死の思いで足を動かして距離を取る。目のところには涙が見えた。
「あいだくんなんかきらい! にどとかおもみたくないっ!」
「えっ」
嫌い……嫌い……嫌い……というエコーが掛かっているらしい傷付いた表情の彼を見ながら、思った。
──かお、みえてたんだ……。
まあある程度予想通りの展開だったので、これでこの一班の班長(笑)も少しは反省するだろう……と教室に戻ろうとしたところ。
「おまえひでーやつだな!? らいまをなかせるなんて! さいってーだぞ、みそこなった!」
なんて言うものだからいや、君でしょ? 泣かせたの君だよね、今僕は持ってたてんとう虫さん逃がしてるとこだよ……。
窓を開けて空に放ちながら呆れかえっていた。
ぶーん、と羽音を鳴らしながら元気に飛び立っていく姿を見て安心した。力加減は間違っていなかったようだ。
虫はすぐ死んでしまうから、力は極限まで下げなければいけないと教わり、自分なりに気を付けてはいるのだがそれでも気付かずに蟻さんを踏みつけてしまった時の絶望感は凄まじい。
ほんとごめんなさい不可抗力で踏ん付けてしまって。
「くろとがらいまなかせたー!」
あー、ほんと何言ってんだろあいだ君ってば。はは。
とりあえず彼のこういった部分はどうしようもないので現実逃避をするに限る。どうせらいまちゃんが証言するだろうし。
「え、ほんと? まりちゃん」
「あいだくんがむし。もってきたんですわ~……あんなのみせて、ひどい……!」
「うっ」
あちこちから飛び交う女子の「あいだくんさいてー」という声。虫の種類はなんとカミキリムシだった。
選んだその種類も(苦手な人はほんと苦手だろうという程)最悪だったので、この批判は自業自得である。というからいまちゃんの顔に噛みついたらどうするつもりだったんだ、彼は。
「でもせきくんもむし、もってたよね? なにもってたの?」
鈴崎ちゃんの何気ない一言は注目が集まりやすいので、そこで僕に注目を集めるのは止さないか。
いや、まあ良いけどね。
「ぼくがてんとうむしさんで、あいだくんがカミキリムシ」
裏切り者ォ! とか聞こえたような気がするけど君だって聞かれたら答えるだろうし、嘘言ってもらいまちゃんが否定するんじゃないかな。という僕の心の言葉は胸の奥に仕舞い込んでおく。
「てんとうむしはかわいいよね」
女子にも受けが良いよね、あの小さい虫さんね。
なんて相槌を打ちながら遠目に観察していると、やはり女子からのブーイングが増していた。
君はそろそろ反省した方が良い……という僕の願いも虚しく、彼は誰かのせいにしようと他にそういった虫を捕まえそうな男子から渡されただの責任転嫁を頑張っていた。
いや、そこで頑張らないで? 反省して?
らいまちゃんはらいまちゃんで、虫嫌いに拍車が掛かり「むしなんてぜんめつすればいいのに」とか言いながら家から持ってきたであろう殺虫剤を蟻の巣目掛けてばら撒くわで「それはちょっと」と思われる部分が見え隠れしていた。
だってただの八つ当たりじゃんね。
でも、これに関してはあいだくんが悪いのでは……? 彼のせいで悪化したのでは……と思わなくもない。
そうでなくとも、彼女は掃除に邪魔なものはとことん嫌うタイプな為、どうかと思う部分はなんやかんやあるのだが。
鈴崎ちゃんは一班の中でKYということ以外は比較的普通だと思う。
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