血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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①第二章 初めての学校に、初めての人間のお友達!

10印象を変えよう

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 教室へ着くなり、扉の前の向こうから「花瓶の水を入れ替えるなんて面倒で嫌だ」と聞こえて立ち止まる。
 それを聞いて、「言いたいことがあるなら言った方が良いですよ」と言ってくれるブラビットの言葉通り、ここで言わなかったらまた何も変わらないだろう。
 ゲームとか、『シナリオ』とか、『作品』とか知って、ある程度のことは予想がつくようになってきた。
 大方、このままだとろう君が言うのだろう。

「そんなこといっちゃだめだよ、がっこうっておべんきょうするばでしょ? だったらこれもべんきょうのうちなんじゃない」って。

 これが不人気の物が言えば忽ち「うそつくな」とか信じて貰えない確率の方が高い。
 が、彼みたいな人気者が言うなら話は別だ。
 放っておけば彼の評判は上がる。僕の評判は変わらない。
 でも、少しでも追い付かないと、僕はお友達を作ることが出来ないだろうし、彼の友達だと胸を張って言えない。

 今度こそ、努力をするんだ。今から。

 意を決して扉を開け、教室へ入ると静まり返った空気が張り付いた。
「あ」と声を上げようとするクラスメイトを見て次の言葉が手に取るように分かった。

「あ、そうだ! くろとくんにやってもらえばいいじゃん!」それで、他の皆も賛同する。

 気まずい思いをする僕が出来た後にろう君が心配して声を上げれば、ほら。また彼の評判が上がる。
 けど、そうはさせない。今日ばっかりは僕の独壇場にしてやる。

「それ、ぼくがきのうまでみずいれかえてたの。やっぱり、きれいなほうがおちつくし、ここはだもん。じぶんのいえとはちがうし」

 学校という言葉を強調しながら、一歩前へ出る。

「みんなでつかうばしょって、こうえんもそーだけど、きれいにするものでしょ? ほら、だからおとなのひとたちがまいかいまいっかいそーじ、してるよね。ってことはせいちょうしたら、どのみちだれもがやらなきゃいけないってことでしょ。ならいまやっちゃおうとおもったんだけど……の?」

 これは彼女の入れ知恵なのだが、不人気な者が正論に説得力を持たせるには、大衆のやり方や考えを用いることが有用なのだそうだ。

 皆がこうなんだから、こうだよね?
 と言えば僕がこう思ったからこうだと思う、よりは信じてくれる可能性があるのだと。
 例を具体的に上げ、最後の締め括りはこう。「皆は違うの?」これは、思わないの? より恐怖を煽る。

 違う、と答えれば自分は大衆とは違うのだと言っているようなもので、ある一種の疎外感を得ることがある。

 思わないの? だとこのことに気付かずに言うのだと……彼女の考えはそういうものだ。

 それと、毎朝この教室にある花瓶の水を入れ替えていたのは事実で、花を枯らすのは花に失礼だと思っていたからだった。このことが幸いして説得力へ一翼を担っている。
 実際にやっている上で言うのと、やってもいないのに言うのとでは重みが異なるのだ。
 後は、何の嫌味もなく笑ってやること。笑うというのは、そういった場面でも使えるのだと言うブラビットの説得力は、いつも彼女が笑顔しか浮かべていないことによるものであった。

 証拠は? と言う子が出れば危ういだろうが、恐らく彼女は見ていたのではないか……?

 静寂が続く中、案の定、なんてことなさそうに彼女は言ってのけた。

「あ。だからそのかびん、よくもってってじゃぐちのとこいってたんだ」

 彼女は、手をぽんっと手の上に置いて納得したように頷いた。
 りんざきちゃん……。
 やっぱり見てたんだね……と彼女の登校時間を考えるとどう考えたっているはずなのに居なかった現象に答えが出た。……さては遠巻きに見てな、この子。

「なら、いっぱんでやる? あたしはべつにかまわないし。らいまちゃんはそーじ、すきだよ」

 思いがけぬ提案をされ、目をぱちくりとさせ見開いてしまう。
 けど他の二人は嫌がるんじゃ──と思って見てみると、あれ、どうしてだろう。そんなに嫌そうな顔をしていない。

 ブラビットが言うには「ひょっとして、鈴崎さんと一緒に遠巻きにして見てたんじゃないですか? 毎日花瓶の水入れ替えてたり、残ったゴミを片付けてたの」ということだった。

 いや、まさかと思いつつ反応を見ると本当にそうらしい、僕は思わずあんぐりと口を開ける。

(それならはやくいってよぉ~っ!)

 その後聞いてみたのだがどうやら、りんざきちゃんが僕とろう君が友達になった辺りで興味を持っていたらしく、朝に掃除しているのに気付いたらしい。興味本位で見ていたら、次第にあいだ君とらいまちゃんも遠巻きに見始めたのだと言う。
 きっかけは、あいだ君が「あいつっていっつもなにもしないよな」って言ったのに対し彼女が「え、まいにちそうじしてるよ」と返したことだそうで……え、僕がいない間にそんなエピソードが? いつの間に? なんて驚きながら、毎日見てたらしい一班の子達と明日から一緒に朝の掃除をやることになった。

 僕が不貞寝している時に「見てる人がいるかもしれませんよ?」とブラビットが言っていたこともあったが、こういうことか。
 話しかけてくれなかった理由を各自に言って貰ったら、

 りんざきちゃんは「くうきとはなすのかきになって」で、

 あいだ君が「はなしかけようとはおもってた」で、

 らいまちゃんが「そうじずきなのかみきわめたかった」だった。

 いや、女子二人、どんな理由だよ。特にりんざきちゃん。
 事の発端を聞いていると、その根元にはやはりろう君がいて、彼が友達になってくれたから出来たことだろうなぁと感じている自分がいた。
 結果的にはこれで良かったのかもしれないが、果たしてブラビットが喜んでくれる類のものなんだろうか。疑問に思っていると、その日帰るなり、ブラビットが「おめでとうございます」と僕を祝う。

「え、あれ、なんで!? だってだって、こんかいのもぼくじしんがつくったわけじゃないし……」

 動転しながら口に出すと、彼女はこう返した。

「今回のは貴方がちまちまと続けてきた一見無駄に見える行いによる結果でしょう? 言っている意味がよく分かりませんが、私、別に貴方自身の手で作れとか言ってないですよね。一体何を勘違いされたので?」

 ──えぇ!? じゃ、じゃあぼくのはやとちりってことー!?

 それを聞いて、僕は取り越し苦労をした気分になった。
 まあ……結果的にお友達……になれそうな状況になったのだし、恐らく作り笑いでない祝い言葉を貰えたのだし、終わり良ければ総て良し……なのかな? 何だか決意した時に限って毎回締まらない自分ってかっこ悪いなと感じながらベッドへ転がり込み、目を閉じる。

 翌日、教室へ向かうとやっぱり何を考えているか分からないりんざきちゃんとあいだ君達が出迎えた。

「おはよ」

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