血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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①第一章 クリスマスに出会ったのは……サンタさん!?

5僕のお友達は感覚が無いらしい

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 それから家に着くと予想通り、時計の針は九時を指し示していた。
 夕食の支度が終わり、お母さんがテーブルの上に料理を置いた後、お父さんが僕を持ち上げて子供用の椅子に座らせる。

「じゃ、食べようか。いただきます」

 両親の後に続いて「いただきます!」と元気よく手を叩く。目の前に並べられているマカロニサラダ、トマトスープ、エビチリ、唐揚げ……のどれから食べるべきか悩んでいるとふと、ブラビットがある一点に視線を定めていた。

「……なんか、茶色い」

 隣に浮かびながら待機していた彼女が最初に発した言葉はそれだったのだが、茶色いというならば唐揚げしかないので、そういうことだろう。気になるなら食べる? と聞こうと思ったが、味が分からないということを思い出した。

(これは、からあげっていうとりにく? をつかったりょーりなんだよ!)

「なるほど、これが例の母君が言っていた。ほう」

 目を凝らしてじっと見つめるその様は、「気になって仕方ない」と言っているとしか思えなかった。

 ──でも、たべられないんじゃあ、どうしよう?

 どうにかして味を伝える方法が無いか唸る。

「んー……」

「ああ、別に気にしていませんからお気になさらないでください。ご両親が貴方の為に用意してくれた物でしょう? 貴方が食べなくてどうするのですか」
「う……(でも、お友達が困ってるなら)」

 困ってるならどうにかしたいのだ──と言い終える前に口に指を押し当てられる。
 目を軽く見開いて彼女を見やると、彼女は又しても笑ってみせた。
 何だかはぐらかされた気分がして、妙にもやもやした気分になるのだが、これ以上言っても無駄だということだけは分かってしまう。
 かといって諦めた訳ではないので、ひとまず保留にして今は食事に集中することにした。
 食事をし終え、歯を磨き、居間から階段を上がった先にある自分の部屋に行くと、お母さんがノックを二回してから「絵本はどうする? 今日はもうお休みする?」と聞いてきたので丁重に断った。
 折角、これからはブラビットというお友達がいてくれるのだから、部屋にある物を見せてあげたい……そう思った。
 実は食事を終えた後も、彼女は終始視線を泳がせ、伸ばす手が空を切っていたのだ。
 あれは恐らく、知らない物ばかりが視界に映り好奇心が擽られた結果の行動だろうと考えられた。
 目を奪われた際には恐怖を感じた相手だったが、意外と愛おしい面もあるものだ、と僕は無意識に顔をにやつかせてしまう。

「ブラビット、ぼくのへやにあるもの、なにかきになるのあったらもってきて。わかるものだけだけど、おしえてあげられるとおもう」
「そうですか? そうですか……ええっと、ならばこの……」

 一瞬の間だったが、手に取ろうとしたものを変えたように見えた。

「なんでもいーよ?」

 僕の発言が聞こえた上で、彼女は無視したのだろう。「こちらで」と素早く置いて距離を取る。
 気のせいだったのかな? と僕は思い直し、手に置かれたリモコンを持ち上げる。

「これはね、リモコンっていうんだよ。テレビっていうのをつけるものなの……ほら」

 ぴっと何処かでセンサーが反応し、左側の奥に置かれているテレビが付く。
 画面に映るは何段もある段差の上に立つ大人の人達。バラエティー番組だ。
 テレビを付けた瞬間、ブラビットの耳がぴょんっと真っ直ぐに伸びたような気がするが……動くんだな、あれ。本物なのかな、ちょっと気になる……とまじまじと見ていたら、その視線が気に食わなかったようで、すぐにいつものたれ耳に戻ってしまった。

「この映像は一つだけを映すんですか?」
「ううん、なんチャンネルかあるよ。えっとねー十四チャンネルまであるの」
「十四も!? すげえなテレビ」

 なんだか男の人の声が聞こえた気がする。

「ふふっ、ほかにもある? ねるまででよければ、だけど。おともだちだから、すこしでもきみのちからになれればうれしいな」

 お友達だから~の下りが気になったようで、彼女は純粋な疑問を口にするような素直な声色で言った。

「ああ、そうだ。お友達というのは、結局どのようなものなのか……分かる書物か、何かありますか? 媒体はなんでも良いのですけれど。貴方が言うには支え合うもので……雑談をして……笑い合う? もののようですけれど」
「それでいいとおもうけど……ご、ごめんね! ぼくもおともだち、はじめてだから、ちょっとわかんないかも……しょもつ? ばいたい? って?」
「書物は、まあ本です。媒体は本やこういった映像、伝えたい物の伝達手段を指します。なので、簡単にお聞きすると──こういった目か耳を通して分かるの、何かありません?」

 へえ。そんな意味なんだ……と理解したと同時に、聞かれた質問に答えようとした。が、友達について分かる手段ってなんだ……? と、本気と書いてマジでパッと思いつかなかった。え、なんだろう。
 そんな僕の混乱を察したのか、彼女は「自分で調べてみます」と呆れたような様子でやれやれと両手を広げ呟いた。
 無理もない、友達になってくれと頼んだ本人が一番分かっていないのだ。これじゃ呆れられるのも当然だった。
 せめて何か調べる方法を──と考えようとしたタイミングで眠気に襲われた。

 ……眠気さん、眠気さん。もう少し、もう少し。空気を読んでぇ~……っ!

 なんて思考が哀しくも反響しながら、意識は次第に遠退いて行った。

 それから五日間、僕はブラビットの知らないことを教えてあげられるよう勉強というものを頑張ろうと両親にしつこく聞いた。

「どうしてこれはそういうの?」

「どうしてあれは作られたの?」

「どうして──」

 聞いているだけなら気にすることもないようなことまで、隅々まで質問するものだから、困り果てた両親が僕の部屋に大きめの本棚を買って、そこに色々な辞典や図鑑を置いてくれることになったり……まあ……親孝行するどころか最近では困らせてしまった気はしている。
 けれど悲しいかな、僕自身は勉強が嫌いなようなのだ。本を見続けるにも明確な目的が無いとどうものめり込めないし、集中して読むにしても精々二時間が限度なのだと繰り返し読む中で気付いた。
 子供向けのひらがなばかりの本だけを揃えてくれたというのに、こんなところで自分の得手不得手が明確化されるとは予想だにしていなかった。
 漢字のある図鑑などはブラビットに読んでもらったりもしたのだが、それはそれで眠くなって彼女に「ぐっすりでしたね」と見下されるのがオチだった。
 このことをきっかけに、彼女に馬鹿にされたのが悔しかった。
 というのを建前に『全く歯が立たない知識というのに勝ちたい』……などと考えるようになるが、おかげで寝不足気味な日々を送っていった。
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