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①第一章 クリスマスに出会ったのは……サンタさん!?
2予想外の出来事 ※残酷描写あり
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「……おともだち……」
又しても知らない言葉だ、と少し遠い目をし始めた少女は一応、どんなものなのか一通り考えた。
食べ物だろうか?
だとしてもわざわざ「食べてくれ」と言う人間なんているんだろうか? 謎は深まるばかりだった。
自分で考えてもキリがないことに気付き、溜め息を吐くようにブラビットは少年に聞く。
「なんですか、その“お友達”とやらは。ゴミと同じものですか?」
「えっ。いやいやいや! いっしょにあそんだり、いっしょに……おはなししたりしてほしいなって……ぼく、そういうこがひとりもいないの。みんなにはいるんだよ?」
そういう子が一人もいない……つまり『寂しい』って感情か。なるほど、と納得する。
「つまり、天涯孤独だからそのお友達になって欲しいということでしょうか」
何気ない子供の切実な願いだが、この少年は恐らくその発言の意味を深くは理解していないだろう──理解出来るとも思えない、そう思ったようだったが少女は確認はすべきだろうと言葉を続ける。
あまりにもふざけた願いだったのだ。通常の死神、であればすぐ断るような──
「黒兎赤さん、自分の発言やそのご意志に、覚悟というものはおありですか?」
「あれ?」と赤と呼ばれた少年は首を傾げる。まだ一度も自分の名前を名乗っていないからだが、目の前にいるこのサンタさんは、最初に『ブラビット』と名乗っていた。
まさかこの少年が「つまり、サンタさんのほんみょうかな!?」などという思考に至っているとは彼女自身、微塵も思っていなかったであろう。
「なんでぼくのなまえ──それにかくごって、なに?」
「私は人間ではなく、死神です。貴方たち人間とは全くと言っていい程別次元の存在です。
ですから我々は貴方たちの名前など調べればすぐ分かりますし、魂でどういった人物か判別出来ます。
ですがそれ故、私たちにはある決まり事が定められているのです。無駄な面倒事を起こさぬようにね」
これでも分かりやすく言っているようだったが、赤にはなんとなくでしか伝わっていなかった。少女は数秒の間を置いた後、まるで言い直すかのように唇に指を置く。
「詰まる所貴方のその願いは、私たち死神にとってその面倒事に含まれる……そういうことでございます」
辛うじて意味を汲み取り終わると、彼は焦ったまま言葉を発した。
「えっと、じゃあ、つまりだめってこと……ですか!?」
サンタさんならもしかして。などと淡い期待を胸にクリスマスまで待ち、わざわざ来るまで正座して待っていた赤は、この願いを最後の望みとして賭けていた。
自分でも思わなかったのだ、まさかここまで友達を作るのが下手だとは──今更思い悩んでも仕方ない。次はもう少し考えよう──と思った矢先の考えだった。
「そうだ、サンタさんに友達になって貰おう」どうしてこの発想に至ったのか、きっと焦りすぎて気が動転したのだろう、と今では少し気付き始めたものの……目の前の彼女に興味を持ち始めているのも事実だ。
がっくりと項垂れそうになった赤の様子を見て、視線を軽く泳がす。少し悩んだのだろう、少女は目を閉じて自答の末に頷いた。
「ま。本来ならば駄目でしょうが、ふふふ! 面白そうな提案ですし、覚悟さえおありなら……是非。このエリート死神である私を選ぶなんて、お目が高いですこと」
やったぁ! と嬉しさのあまり燥ぐ。エリート死神……そうか、きっと凄い人なんだ! やっぱりサンタさんは凄い!
そう思うのも、年頃の思考であるが故だろう。
「ありがとう、サンタさん!」
年相応の子供のように喜ぶ赤を宥めるかの如く「ただし」と、彼女は強めの口調で言い放つ。
──上手い話には裏があるということを、この子供は理解しているのだろうか?
人間ではない彼女から心配される程、彼は無知なのだが、まだ5歳である本人に分かれという方が無茶なのだ。
これは交渉ではなく一種の“契約”であると、ブラビットは理解しているつもりだった。
「条件がございます。……私の手伝いをするというねぇ。それもながぁーく、なるべく大量に! このたった一つだけです、簡単でしょう?」
「おてつだい? するよ、する! おともだちのやくにたてるならよろこんで!」
「お、言いましたね? では、交渉成立ということで──貴方の片目をいただきます」
「えっ」
かため? それってめ、のことだよね? だれの?
誰の目を、と理解し始めた頃には目の前には血色の瞳が差し迫っていた。頭が真っ白になる感覚、そして全身が動きを止め、警告を促すこれは──一種の恐怖だ。
高笑いをする少女は、まだ笑い足りないのか込み上げてくるものを抑えながら言う。
「だから言ったでしょうに、覚悟はおありですか? と」
無慈悲にも視界に映り込む彼女の手。伸ばされるその手に、思わず後退っても遠ざかることは無かった。
「う、あ。ま、まって」
「では、いただきますね。貴方のその黄土色の目」
ぶちり、と繰り返し音を立てる自分の目。あったはずのものが無くなっていく感覚が、気持ち悪くて痛くて。
苦痛に喘がる声が響けど響けどお構いなしに、目の前は勢いよく赤く黒く染まっていく。
「うああああああぁぁッ!」
いたい、いたい、いたい、いたい。ただそれだけしか考えられなかった。他のことなど考える隙も与えぬと言わんばかりに、抜き取られた眼球が入っていた箇所や繋がっていたであろうモノから、どくどくと脈を打ち、血が溢れるのだ。
苦痛を訴えることしか出来なくなった赤は、か細く声を漏らした。
「いっ、いた……、いた、い……っ」
この光景を哀れだと思っているのか、滑稽だと思っているのか、知りたくても……彼女の顔を見る余裕などなく、ただ嗚咽を幾度となく繰り返す。
目を押さえ、痛みに耐える赤を見下ろしながら、誰に言うでもなく彼女は呟いた。
「貴方は知らねばなりません、誰かを疑うことを。そしてまた同様に知らねばなりません、この世は時として残酷であることを」
悲鳴を聞いて駆け付けたのか、僕の父親がただ事ではない様子を心配する。
「……赤? おい、赤! どうした、何かあったのか!?」
扉を開けて真っ先に飛び込んでくるのは、目を押さえて苦しそうに悶える息子の姿だった。そりゃ驚くだろう、寝ていたはずの息子が何故か血塗れになって目を失っているんだから。
目を押さえる両の手は、赤い液体が光の反射で輝いている。後ろから共に来た母親は目を怪我したのだろうと気付き、悲痛な声を上げた。
「赤、どうしたのその目! あなた、すぐ病院へ運ばないと!」
「だがしかし、これは、どう説明すべきなんだ……?」
「ああもうっ! 貴方はそこで見てて、私が電話しますから!」
救急車のサイレンが絶え間なく鳴り響き、運ばれていく中……ブラビットは思い出したかのように笑い、僕にだけ聞こえるような声量で語った。
「ああ、約束通り今暫くは殺さないでおいてあげます──だって、私達はもう〝お友達〟ですものねぇ?」
ぷつり、と意識が暗転した。
又しても知らない言葉だ、と少し遠い目をし始めた少女は一応、どんなものなのか一通り考えた。
食べ物だろうか?
だとしてもわざわざ「食べてくれ」と言う人間なんているんだろうか? 謎は深まるばかりだった。
自分で考えてもキリがないことに気付き、溜め息を吐くようにブラビットは少年に聞く。
「なんですか、その“お友達”とやらは。ゴミと同じものですか?」
「えっ。いやいやいや! いっしょにあそんだり、いっしょに……おはなししたりしてほしいなって……ぼく、そういうこがひとりもいないの。みんなにはいるんだよ?」
そういう子が一人もいない……つまり『寂しい』って感情か。なるほど、と納得する。
「つまり、天涯孤独だからそのお友達になって欲しいということでしょうか」
何気ない子供の切実な願いだが、この少年は恐らくその発言の意味を深くは理解していないだろう──理解出来るとも思えない、そう思ったようだったが少女は確認はすべきだろうと言葉を続ける。
あまりにもふざけた願いだったのだ。通常の死神、であればすぐ断るような──
「黒兎赤さん、自分の発言やそのご意志に、覚悟というものはおありですか?」
「あれ?」と赤と呼ばれた少年は首を傾げる。まだ一度も自分の名前を名乗っていないからだが、目の前にいるこのサンタさんは、最初に『ブラビット』と名乗っていた。
まさかこの少年が「つまり、サンタさんのほんみょうかな!?」などという思考に至っているとは彼女自身、微塵も思っていなかったであろう。
「なんでぼくのなまえ──それにかくごって、なに?」
「私は人間ではなく、死神です。貴方たち人間とは全くと言っていい程別次元の存在です。
ですから我々は貴方たちの名前など調べればすぐ分かりますし、魂でどういった人物か判別出来ます。
ですがそれ故、私たちにはある決まり事が定められているのです。無駄な面倒事を起こさぬようにね」
これでも分かりやすく言っているようだったが、赤にはなんとなくでしか伝わっていなかった。少女は数秒の間を置いた後、まるで言い直すかのように唇に指を置く。
「詰まる所貴方のその願いは、私たち死神にとってその面倒事に含まれる……そういうことでございます」
辛うじて意味を汲み取り終わると、彼は焦ったまま言葉を発した。
「えっと、じゃあ、つまりだめってこと……ですか!?」
サンタさんならもしかして。などと淡い期待を胸にクリスマスまで待ち、わざわざ来るまで正座して待っていた赤は、この願いを最後の望みとして賭けていた。
自分でも思わなかったのだ、まさかここまで友達を作るのが下手だとは──今更思い悩んでも仕方ない。次はもう少し考えよう──と思った矢先の考えだった。
「そうだ、サンタさんに友達になって貰おう」どうしてこの発想に至ったのか、きっと焦りすぎて気が動転したのだろう、と今では少し気付き始めたものの……目の前の彼女に興味を持ち始めているのも事実だ。
がっくりと項垂れそうになった赤の様子を見て、視線を軽く泳がす。少し悩んだのだろう、少女は目を閉じて自答の末に頷いた。
「ま。本来ならば駄目でしょうが、ふふふ! 面白そうな提案ですし、覚悟さえおありなら……是非。このエリート死神である私を選ぶなんて、お目が高いですこと」
やったぁ! と嬉しさのあまり燥ぐ。エリート死神……そうか、きっと凄い人なんだ! やっぱりサンタさんは凄い!
そう思うのも、年頃の思考であるが故だろう。
「ありがとう、サンタさん!」
年相応の子供のように喜ぶ赤を宥めるかの如く「ただし」と、彼女は強めの口調で言い放つ。
──上手い話には裏があるということを、この子供は理解しているのだろうか?
人間ではない彼女から心配される程、彼は無知なのだが、まだ5歳である本人に分かれという方が無茶なのだ。
これは交渉ではなく一種の“契約”であると、ブラビットは理解しているつもりだった。
「条件がございます。……私の手伝いをするというねぇ。それもながぁーく、なるべく大量に! このたった一つだけです、簡単でしょう?」
「おてつだい? するよ、する! おともだちのやくにたてるならよろこんで!」
「お、言いましたね? では、交渉成立ということで──貴方の片目をいただきます」
「えっ」
かため? それってめ、のことだよね? だれの?
誰の目を、と理解し始めた頃には目の前には血色の瞳が差し迫っていた。頭が真っ白になる感覚、そして全身が動きを止め、警告を促すこれは──一種の恐怖だ。
高笑いをする少女は、まだ笑い足りないのか込み上げてくるものを抑えながら言う。
「だから言ったでしょうに、覚悟はおありですか? と」
無慈悲にも視界に映り込む彼女の手。伸ばされるその手に、思わず後退っても遠ざかることは無かった。
「う、あ。ま、まって」
「では、いただきますね。貴方のその黄土色の目」
ぶちり、と繰り返し音を立てる自分の目。あったはずのものが無くなっていく感覚が、気持ち悪くて痛くて。
苦痛に喘がる声が響けど響けどお構いなしに、目の前は勢いよく赤く黒く染まっていく。
「うああああああぁぁッ!」
いたい、いたい、いたい、いたい。ただそれだけしか考えられなかった。他のことなど考える隙も与えぬと言わんばかりに、抜き取られた眼球が入っていた箇所や繋がっていたであろうモノから、どくどくと脈を打ち、血が溢れるのだ。
苦痛を訴えることしか出来なくなった赤は、か細く声を漏らした。
「いっ、いた……、いた、い……っ」
この光景を哀れだと思っているのか、滑稽だと思っているのか、知りたくても……彼女の顔を見る余裕などなく、ただ嗚咽を幾度となく繰り返す。
目を押さえ、痛みに耐える赤を見下ろしながら、誰に言うでもなく彼女は呟いた。
「貴方は知らねばなりません、誰かを疑うことを。そしてまた同様に知らねばなりません、この世は時として残酷であることを」
悲鳴を聞いて駆け付けたのか、僕の父親がただ事ではない様子を心配する。
「……赤? おい、赤! どうした、何かあったのか!?」
扉を開けて真っ先に飛び込んでくるのは、目を押さえて苦しそうに悶える息子の姿だった。そりゃ驚くだろう、寝ていたはずの息子が何故か血塗れになって目を失っているんだから。
目を押さえる両の手は、赤い液体が光の反射で輝いている。後ろから共に来た母親は目を怪我したのだろうと気付き、悲痛な声を上げた。
「赤、どうしたのその目! あなた、すぐ病院へ運ばないと!」
「だがしかし、これは、どう説明すべきなんだ……?」
「ああもうっ! 貴方はそこで見てて、私が電話しますから!」
救急車のサイレンが絶え間なく鳴り響き、運ばれていく中……ブラビットは思い出したかのように笑い、僕にだけ聞こえるような声量で語った。
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