血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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①第一章 クリスマスに出会ったのは……サンタさん!?

1赤くて白いあの子

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 きょうはクリスマスです。
 おとうさんやおかあさんが「良い子にしてればきっと来てくれる」といっていたから、がんばっていいこになれるようにいろいろやりました。……いろいろ!

 祈るようにして両手を組み、窓から差し込む光へ視線を落とす。

「サンタさんサンタさん、ぼくのおねがいをきいてください」

 と、ここまで口にして少年は思った。
 ──あれ? いや、これだとプレゼントはこんでくれるサンタさんがこまっちゃう。
 そのことに気が付いた彼は慌てて言葉を付け足していく。……誰も聞いていないが、気にも留めず続けていく。

「あ、おねがいっていうのはプレゼントのことでのおねがいなので、だいじょうぶです。きっと、たぶん、サンタさんのおて? をわずらわ……せるものじゃない、です」

 一体誰に言い訳をしているのか、彼は本当に申し訳ない表情を浮かべながら己を省みた。しかし、その“お願い”というのは少年の切実な願いであり、決して生半可な気持ちで頼もうとしている訳ではない。
 差し詰め生まれて初めての「一生のお願い」といったところだろう。
 五年間特に何も強請ってこずに過ごした彼にとって、これは悩みでもある。
 何せどう強請ったらいいのか分からないのだ。

 こうなったのは今までやり方を知らず、育ってきてしまったが故だった。

「……きてくれるといいなあ、サンタさん……」

 窓を見て密かな期待を胸に寄せる。

 どうしてもほしい。ほしいなって、みんなをみてておもったんだ。ぼくだけにいない、〝おともだち”を。

 保育園に通っている少年は何故だか友達というのが誰一人といなかった。というより、人と関わるのが初めてだった彼にとって何もかもハードルが高すぎたのだ。
 初めての外通い──初めての送迎バス──そして初めて出来た、両親がいない〝自分自身で考え、行動しなければならない時間”。
 動揺するのも無理はなかった。それまで一緒にいて助言をしてくれた父親と母親がいない。
 その時間が十一時間もあるなんて──……最初の頃は「ぼくのことすてたの⁉」とそりゃもう大泣きして大人を困らせていた。
 が、他の子供にも同様の考えに及んだ園児がいたらしく、彼は自分だけでは無かったと安堵したという。

 おとなのひとをこまらせちゃったじてんで、いいこになれてない⁉

 少年は無駄なことに思考を目まぐるしく巡らせ、自己嫌悪に陥る。これではサンタさんが来てくれなくても仕方ないのでは──と窓から視線を外そうと思った時だった。
 急に窓が開き、向こう側から誰かが窓に降り立ったと思ったら、その誰かが少年の前へとでた。

 姿を見た途端、思わず「わぁ」と声を漏らす。
 見たことも存在するとも聞いたことが無い、白銀の髪に赤い瞳。少年はただ純粋に綺麗だと思った。
 形容しがたい程の彼女(?)の容姿端麗さは──彼以外が見るならば、化け物と罵るに違いない、この世の者とは思えぬ美しさであった。

 きれい……。って、いうんだよね? すごく、うん。そういうことばがにあうひとだ。

「──初めまして、そしてさようなら」

 にやりと口を歪ませ、少女はひび割れた口を動かす。

「私はブラビット。貴方を殺し、地獄へ送る迎えの者でございます」

 え、ころし……?
 意味が理解出来なかった彼への蔑みなのか、はたまた子供相手に言う言葉とは違ったかと思ったのか「おや」と少々残念そうな口ぶりで彼女は話す。

「まさかこのような子供が血魂を持っているとは……世も末、ということですかね。ああ、なんて可哀想なんでしょう!」

 可哀想、という割には楽し気な声で両手を上品に合わせる。それに対し少年はただきょとんと混迷の念を浮かべるばかりだ。

「かわいそう……?」
「意味が理解出来なくても結構。ま、子供の内が食べ頃ですかねぇ? では、失礼して」

 ……よもすえって? たべごろって? むむむ、きになる! あ~きになってしかたないよう! なんでそんなにむずかしいことばっかりいうの!

 いただきます、という言葉を言おうとした少女だったが、その言葉を遮るように急ぎ一言。
 純粋な疑問を口にする。

「それって、どういういみ?」

 予想外の反応に彼女は笑みを深める。面白いとでも思ったのか、「まあいいだろう」と言わんばかりに答えた。

「私は貴方を殺さねばならない、ということです。貴方の人生を今ここで断ち切る、その為に……簡単に言わなくては伝わりませんか。人間の子供ですものね。つまり、一言で言うなら貴方は死ぬということです」

 ──えっ、ぼく……しんじゃうの? しぬってそんなすぐくるものなのかな?

 意味を理解したものの、正直実感が湧かなかった。
 無理もない、いきなり“アレ”に似てる服を着た謎の少女が現れ「はい殺します」と言われているのだ。
 信じられなくて当たり前だ。

「うーん、よくわかんないけど……こうしてね、ぼく……おねがいしてたんだ! サンタさんがきますようにって。だから、きてくれたんでしょ? !」

 あどけない少年を前に「……さんた……」と知らない言葉に少女は動揺していた。
 一体何故自分が「」と呼ばれているのか、彼女には到底理解出来ないことであろう。
 だが、あながち間違ってはいないのだ。赤く、白くサンタ服を連想させる色に、クリスマスカラーの定番とも言える緑の色を纏った彼女は──失礼ながら世の子供達がサンタと連想するに造作ないのである。
 まだ認識も甘く、未成熟な彼等ならではの考えであった。

 そのことに薄々勘付き始めていたブラビットは、面倒だと否定もせず話を進める。

「……ええ、まあ来ましたとも。で、何です? その妙に期待を持った目は。聞いてやらなくもないですが」

 ──やった! サンタさんがおねがいをきいてくれる!

 聞いてくれることを確信した少年は、今だと一気に捲し立てる。

「あのね」

 緊張を隠すように大きく息を吸う。気恥ずかしさを隠すように精一杯笑顔を向け、勢い任せに息を吐く。

「ぼくのいっしょうにいちどのおねがいです──おともだちになってください!」

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