英雄(ヒーロー)の奥様は魑魅魍魎の輩に惚れこまれ…

奇談エバンジェリスト

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大怪盗殿のエグぅ~~い戦術に警視夫妻は翻弄され始め…

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その秘の夕暮れ時―――。
極亜日報の号外には、亜細亜愚連隊の凶行が写真入りで克明に記されていた。
『帝都警視庁 守屋誠夫人 誘拐さる 嗚呼哀れ…生命の危険も!?』
なかなかセンセーショナルなタイトルとともに、なんと小型ヘリに吊るされた星型の拘束台に逆さ磔刑に処された都子の写真が、でかでかと掲載されているではないか。
軍師占部の令夫人誘拐プランに沿って、ジゴロは都子を連行する際に、わざわざ帝都警視庁の真上を旋回し、エース警視の妻を略奪したことをまざまざと見せつける様にして、宣戦布告を行ったのだ。
『憎き仇、守屋誠に告ぐ! 貴様の愛する女房は今、我が組織の手中に堕ちた‼ 都子の無事を願うなら、あまり我らの崇高なお仕事の邪魔をしないことだ。場合によっては都子の処刑を執行することもありうるゾーイ』
妙に浮かれ気分の声音が拡声器から漏れ、市中に響き渡ったのはつい5時間ほど前のことだ。
帝都警視庁幹部の妻が、みすみす目の前で悪の組織に連行されてゆくその光景を帝都民、そして帝都警視庁の面々は見上げているほかなかったのだった――――。

エプロン姿の淑女、守屋聡子逆磔絵図を目の当たりにした誠の衝撃は驚くほどのものだった。
声を限りに妻の名を叫んで、秘密結社のヘリコプターを追わんとしたが、ソレが無駄とわかるや、今度は失語状態でその場にへたり込み呆然自失。
誰もが尊敬の眼差しを向ける警視の面影は、すでにそこになかった――――。

そして帝都警視庁の幹部たちの対応も実に冷淡なものだった。
ソコは御役所である。
失意の誠を呼び出した警視総監、堀井幸之助らは、部下の隙の多さと慢心、そして妻の無様な攫われっぷりを詰るばかり。
「治安を守る我らは家族に対しても、注意喚起を怠らず、日々の生活でも身の安全を考え、帝警組織にめい枠を架けぬ努力が必要だろう? だのに君の妻ときたら、攫われただけでなく無様に逆さ磔にまで処され、おまけにギャグ(猿轡)まで嵌められ、まるでSM嬢よろしく痴態を帝警の上空で晒し、あまつさえマスコミにそれを撮影までされたのだぞ」
と、SM好きと密かに噂の堀井は好色的な声音を押し殺しつつ、部下を責める。
が、帝都の役人などスケベで変態チックな輩が多いようで、敵に捕まった部下の妻が今頃、あーんな目やこーんな目に遭っているのでは、とあらぬ妄想を膨らませているのが実情だ。
そんな上司のサドっぽい叱責など、今の誠の耳には届かない。
帝都の英雄といえど、糟糠の妻を奪われるとこうも脆いモノなのか、と同僚たちも密かに同情を禁じ得ない。
兎にも角にも、すべてはこの悪の組織の戦術に、守屋一家は完全に嵌まり始めていた――――。
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