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四巻:美人司書と醜男の思考と嗜好

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「ああ、鞭もあるんだ…美人を捕らえて折檻をする、僕らみたいな趣向の間柄なら、当然だと思うけど…」
智博は、壁に展示してあるパドル鞭を手にしつつ、やや根暗な表情で呟く。
藍子も表情を微かに曇らせる。
(そうじゃないわ――――)
藍子が求めているもの、それはSM趣向ではないのだ。
が、そんな彼女の嗜みを、この男は理解している様子だった。

「でもさ、藍子さんは別に“鞭で打たれて快感でぇ~~~す”なんていう浅はかなマゾヒストじゃあないよね? 僕にはわかる…」
「どうわかるっていうのかしら?」
藍子は、手首と足首に食い込む、虜の証である拘束具の軽い痛みに酔いしれつつ問う。
大人の女の色香を覚える表情と声音に、智博はどきりとさせられた様子だ。
(可愛い…。こんな彼の手で虜の身、だなんて…)
藍子は心躍らせる。

「誰かに囚われている、その上で虐待を受ける、そんなスチュエーションに萌えるんだ…だろ?」
藍子が返答する前に智博が続ける。
「以前、説教節の“さんせう太夫”を書架で藍子さんが立ち読みしていただろ? その時ピンと来たんだ」
さんせう太夫…安寿と厨子王とも山椒大夫ともいわれる伝説の物語。
岩城の判官だった父の行方を追って、越後迄辿り着いた母と娘、その弟が一階にさらわれ、山椒太夫という富豪の奴隷にされ、苦難の末、父の汚名を晴らすという悲嘆の物語だ。
が、藍子は別の趣向でそれを読んでいた。
その時の心情を智博は代弁してくれる。
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