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第十戦:小熟女ヒロインは悪の組織の陰謀を知りうしろめたさを覚える?

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ハイクオリティが手掛ける防弾アクリル・スーツをいたく賞賛し、市の中核事業にまで押し上げんとする越後家にとってはありがたい御仁なのだが、これにも様々なからくりがある。
ちなみに、ビューティ・マダムのコスチュームにもその特殊素材が用いられていることは、その開発に当たった柏森以外知らぬことだ。
その纏ったものを超人(と、言うほど御大層なパワーは持たないが)に変えるアプリの開発は、政府が関わっているようだ。
が、その辺の事情はよく知らず引き受けてしまうあたりも、天真爛漫な郁子らしい。

『よう、どうだい、郁子。僕とやり直す気になった?』
と、電話の相手はなかなかの軽口を叩いてくる。
「んもう、隼人ったら何言ってるのよ! …なあに、ご用は?」
と、郁子も少々甘い声を出す。
『この前は反社会同盟相手に大奮戦も、もうちょっとで拉致られる寸前だった様子じゃないか? 美しい人妻ヒロイン、最大に危機というのもなんだかソソラレるねえ』
「もう、あなたまでつまんないこといわないでよ。人の苦労も知らないで」
と、ぷんとむくれて見せる郁子。
「で、なぁに、ご用の向きは?」
再度、問い返す郁子。

「うむ、反社会同盟の動きが妙で、さ…。コレまでは、主に危険薬品や感染性産廃物を密輸出することに力を注いでいたわけだが、それに一定のめどがついた様子で…」
「そういう犯罪ってめどがつくモノなの?」
「突っ込みはしなさんな」
と、隼人。
『実は市の調査チームが調べたんだが、連中の最終的な目的というのが日本の伝統的な“家制度”の破壊だ。今、嵐難市でも“男女同権企画推進委員会”っていうのを開いているだろ? 実はあれ、政府がとある機関の圧力に屈して全国に広めているプロジェクトなんだ。その期間のバックにいるのがアジアを牛耳る謎の人物、つまりは反社会同盟の親玉だ』 
「別に危険な思想にも見えないけどなあ」
と、郁子は呑気な声を出す。
『表向き男女同権を柱とした新鮮味のないプロジェクトだが、 その中でも一つの破壊工作として恐れられているのが、セクシャルマイノリティ、つまりセクマイ、性的趣向の自由化と解放なんだ』
「…どういう意味、それ?」
と郁子はきょとんとした声を出す。

『まぁ、つまりは逸脱した性的欲求を持つ者を選び出し、そいつを使って世の中に、その性癖を広め、ノーマルなものだという認識を浸透させていく、ソレが狙いだ』
「ふーん」
と、郁子には今もって危機感が薄い。
『油断するなよ、郁子。嵐難市のご当地タレント、“あるちん”はその手先らしい』
「あるちん…さんって単なるオネエタレントでしょ、まっさかあ」
と、郁子。
別段、その地方タレントが好きでもないが、オカマに偏見もない郁子にはにわかに信じられない話だった。
『兎にも角にも、あるちんには気をつけろ。市もイメージ・キャラクターとして契約している以上、奴を追放は出来ない。いずれ彼らと闘う日が来るだろう。注意することだ、じゃあな』
「あ、切っちゃった…。もう、あいつぅ」
ちなみに、読者は御察しであろうが、宿敵アルチンゲールの正体こそ、ご当地タレント、あるちんであるわけだが、郁子はそのことに全く気が付いてはいなかった。
(逸脱した性的欲求…って、もしかして私の事とかも含まれてたりして…やだ、もうッ)
むしろ、別の事にお察し状態の郁子は、うしろめたさに美貌を火照らすのだった―――。
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