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マオ、お説教される?.97
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ストローグは困惑していた。
一冒険者のたかだか昇格試験に駆り出されただけでも疑問に思うのに、自分が相手をしているのは14、5歳程の少年なのだ。これで疑問に思わない方がおかしいというもの。
しかし、疑問はそれだけでは無い。
ストローグはこの世界には見た目とはそぐわない強さを持つ種族が多々いるのを知っているし、ナーシャが泣きそうになりながら自分に頭を下げたのだから、警戒すべき人物には違いないとは思ってはいる。思ってはいる…のだが。
「それでは挑戦者マオと…」
「えっ、もう!?ちょ、ちょっと待ってくださっ、け、剣は先に構えておいた方がいいんですかっ、て痛い!指切った、剣で指切った。こっ、この剣って鞘とかないんですか?丸裸のままなの凄く危なっ…って!剣に血がついてしまってる!?ごごごごごめんなさいあのこれって弁償とかしないといけなかったりいけなくなかったりしたり…」
本当にこの少年は強いのだろうか?にわかには信じがたい。
目の前の年相応な少年に、一体どんな力が隠されているのか。長年冒険者をしていたストローグさえも見破れなかった。
というよりも、どこからどう見てもビビリな子供だ。
言動からして剣を持つのも初めてなのではないだろうか。今から戦う相手に、警戒より心配をしたのは初めてである。
しかし、とストローグは首を横に振る。
この少年の従者の戦いぶりは、周りで見ていた冒険者やナーシャから聞いている。圧倒的な力でボブやディカーイを負かしたのだと。
その従者が両手を上げて主を戦いへと見送ったのだ。少年が只者でないことは明らか。だとすると、今行われている言動は全て演技である可能性が高い。
「(俺の警戒を緩めようってか?見た目によらず姑息な手を使うな…)」
「あれ、そもそも剣ってどうやって構えるのが正解ですか?こんな危ない物人に向けても大丈夫なんですか?どうやって戦えば…?」
「マオ様、そろそろ始めてよろしいですか?」
「え!?あのっ、はい!大丈夫じゃないんですけど時間ないし大丈夫って言わないと駄目なんですよねっていうかまだ心の準備が出来てないって言うか深呼吸する時間とかくれたりしないかななんて思ってたり」
「では挑戦者マオとギルド長ストローグとの昇格試験……始め!」
「ガン無視っ…!!!」
始まりを合図に、ストローグはまず様子見とばかりにマオに軽く蹴りを入れた。睨み合ったところでマオには隙しかなく、時間の無駄だと思ったからだ。
迫り来る脚を目にしたマオは、もう絶対に逃げられない現状に腹を括った。残された道は一つしかないのである。
「(降参したいけど!皆見てるし!応援してくれてるし!戦わずして負けるより戦って負けた方が幻滅度も低くなってくれる!はず!)」
目の前に迫ってきたストローグに、マオは体を固くさせる。ストローグの右足がマオの腹めがけて近づくが、危機一髪のところで横に逸れた。
「(怖い!!今の絶対殺りに来てる絶対!)」
「(これくらいは避けるか、だが甘い!)」
マオが避けた方向へ体をひねり、逆の足でストローグは再度攻撃を仕掛けた。そこから更に両手を加えて攻撃に励む。
剣を持つマオ相手に、ストローグは未だ剣を鞘に収めたまま腰にぶら下げている状態だ。
マオはそれにほんの少し安堵し、涙目になりつつも攻撃を全て見事に避けきった。
その様子をストローグはじっくりと観察する。
「(動体視力と反射神経。あとは身体能力だけで俺の攻撃を避けているな。それに無意識か、俺が攻撃の隙を作る度に剣を強く握りしめている。とんでもない逸材だ)」
「(あれ、避けられてる…僕避けられてる!?凄い!なんで!?でも、これじゃあいつまでも終わらない)」
何故自分がこんなにも動けているのかはひとまず置いておき、マオは現状をどうにかしようと頭をフル回転させた。
「(攻撃しようにもいつどこにどうやってやればいいのか分からないし、もし万が一刺し殺しなんてしたら…僕はなんで剣なんて武器に選んだんだ!もっと棒とか危なくなさそうな物だったら色々出来たのに!!多分!)」
しかし考えれば考えるほどマオの頭には後悔の念しか浮かんでこない。今はやっとの思いでストローグの攻撃を避けてはいるが、この状況がいつまでも続くはずもなかった。ストローグが攻撃を止めたのだ。
「少年の実力はよく分かった」
「え?」
「能力は高いし、才能も充分もあるだろう…見ていてイライラする程にな」
「あ、ありがとうござ……ん?」
優しそうなおじさんから一転、雷親父のように目じりを釣りあげ、ストローグは漏れ出す怒りを隠そうともせず言葉を続けた。
「君はそれを何一つとして使いこなせていない。攻撃をするタイミングが分かっているにもかかわらず攻撃するための技術も知識もない」
「え、あの、」
「どんなに相手の攻撃を避けれても無駄な動きが多すぎて体力を大きく削る」
「は、はあ…」
「これがもし戦いとは無関係な生活を送ろうとしている農民や商人であるならば俺だってなんの文句もない。無駄なことを学ぶ必要はもちろんないし好きに生きればいいと言うさ。たが!それが他ならない冒険者になろうとしているお前ならば!!俺は文句を言うぞ!!」
「え、えぇ」
「俺はお前が全くもって羨ましい!強くなるために必要な物を全て持っているお前がとても羨ましい!なのになんだ!てんで使いこなせていないじゃないか!その年になるまで一体何をしていたんだ!!俺が嫌いな人種はな、努力しない奴だ!才能に自惚れた不真面目な奴も、他人の力を自分の物のように自慢するやつも!!!とにかくとんでもなく宝の持ち腐れなお前が今とても嫌いだ!」
「(私情含まれてないですか、それ)」
マオだけでなく野次馬達やナーシャまでも氷のように固まってしまっている。ストローグは試合をほっぽって未だ何かグチグチ言っているが、突然の事で困惑しているマオにはほとんど聞こえていなかった。
「そしてマオ!」
「は、はい!」
「これからお前は冒険者としてどう活動していくんだ!」
「(え!?どうって…できるだけ死なないように心掛けようって思ってたんだけど、それじゃあ絶対納得しないよね…)」
とりあえず何か言わないと、とマオが唯一聞いていたストローグの言葉から出した結論は。
「あの、す、ストローグさんに好かれるような人になれるよう努力…します」
「うん。そうだな」
「「「「(それでいいんかい)」」」」
大きく頷くストローグに、試験会場満員一致でつっこんだ。
たまらずナーシャが声をかける。
「あ、あの。ギルド長?」
「ん?ああ。すまない。今は試験中だったな。少年もすまない」
「いいえ…大丈夫です」
「それでは、気を取り直して試験開始だな」
「(え、この状況で?)」
マオの戦いはまだまだ続くーーーーー✩.*˚
一冒険者のたかだか昇格試験に駆り出されただけでも疑問に思うのに、自分が相手をしているのは14、5歳程の少年なのだ。これで疑問に思わない方がおかしいというもの。
しかし、疑問はそれだけでは無い。
ストローグはこの世界には見た目とはそぐわない強さを持つ種族が多々いるのを知っているし、ナーシャが泣きそうになりながら自分に頭を下げたのだから、警戒すべき人物には違いないとは思ってはいる。思ってはいる…のだが。
「それでは挑戦者マオと…」
「えっ、もう!?ちょ、ちょっと待ってくださっ、け、剣は先に構えておいた方がいいんですかっ、て痛い!指切った、剣で指切った。こっ、この剣って鞘とかないんですか?丸裸のままなの凄く危なっ…って!剣に血がついてしまってる!?ごごごごごめんなさいあのこれって弁償とかしないといけなかったりいけなくなかったりしたり…」
本当にこの少年は強いのだろうか?にわかには信じがたい。
目の前の年相応な少年に、一体どんな力が隠されているのか。長年冒険者をしていたストローグさえも見破れなかった。
というよりも、どこからどう見てもビビリな子供だ。
言動からして剣を持つのも初めてなのではないだろうか。今から戦う相手に、警戒より心配をしたのは初めてである。
しかし、とストローグは首を横に振る。
この少年の従者の戦いぶりは、周りで見ていた冒険者やナーシャから聞いている。圧倒的な力でボブやディカーイを負かしたのだと。
その従者が両手を上げて主を戦いへと見送ったのだ。少年が只者でないことは明らか。だとすると、今行われている言動は全て演技である可能性が高い。
「(俺の警戒を緩めようってか?見た目によらず姑息な手を使うな…)」
「あれ、そもそも剣ってどうやって構えるのが正解ですか?こんな危ない物人に向けても大丈夫なんですか?どうやって戦えば…?」
「マオ様、そろそろ始めてよろしいですか?」
「え!?あのっ、はい!大丈夫じゃないんですけど時間ないし大丈夫って言わないと駄目なんですよねっていうかまだ心の準備が出来てないって言うか深呼吸する時間とかくれたりしないかななんて思ってたり」
「では挑戦者マオとギルド長ストローグとの昇格試験……始め!」
「ガン無視っ…!!!」
始まりを合図に、ストローグはまず様子見とばかりにマオに軽く蹴りを入れた。睨み合ったところでマオには隙しかなく、時間の無駄だと思ったからだ。
迫り来る脚を目にしたマオは、もう絶対に逃げられない現状に腹を括った。残された道は一つしかないのである。
「(降参したいけど!皆見てるし!応援してくれてるし!戦わずして負けるより戦って負けた方が幻滅度も低くなってくれる!はず!)」
目の前に迫ってきたストローグに、マオは体を固くさせる。ストローグの右足がマオの腹めがけて近づくが、危機一髪のところで横に逸れた。
「(怖い!!今の絶対殺りに来てる絶対!)」
「(これくらいは避けるか、だが甘い!)」
マオが避けた方向へ体をひねり、逆の足でストローグは再度攻撃を仕掛けた。そこから更に両手を加えて攻撃に励む。
剣を持つマオ相手に、ストローグは未だ剣を鞘に収めたまま腰にぶら下げている状態だ。
マオはそれにほんの少し安堵し、涙目になりつつも攻撃を全て見事に避けきった。
その様子をストローグはじっくりと観察する。
「(動体視力と反射神経。あとは身体能力だけで俺の攻撃を避けているな。それに無意識か、俺が攻撃の隙を作る度に剣を強く握りしめている。とんでもない逸材だ)」
「(あれ、避けられてる…僕避けられてる!?凄い!なんで!?でも、これじゃあいつまでも終わらない)」
何故自分がこんなにも動けているのかはひとまず置いておき、マオは現状をどうにかしようと頭をフル回転させた。
「(攻撃しようにもいつどこにどうやってやればいいのか分からないし、もし万が一刺し殺しなんてしたら…僕はなんで剣なんて武器に選んだんだ!もっと棒とか危なくなさそうな物だったら色々出来たのに!!多分!)」
しかし考えれば考えるほどマオの頭には後悔の念しか浮かんでこない。今はやっとの思いでストローグの攻撃を避けてはいるが、この状況がいつまでも続くはずもなかった。ストローグが攻撃を止めたのだ。
「少年の実力はよく分かった」
「え?」
「能力は高いし、才能も充分もあるだろう…見ていてイライラする程にな」
「あ、ありがとうござ……ん?」
優しそうなおじさんから一転、雷親父のように目じりを釣りあげ、ストローグは漏れ出す怒りを隠そうともせず言葉を続けた。
「君はそれを何一つとして使いこなせていない。攻撃をするタイミングが分かっているにもかかわらず攻撃するための技術も知識もない」
「え、あの、」
「どんなに相手の攻撃を避けれても無駄な動きが多すぎて体力を大きく削る」
「は、はあ…」
「これがもし戦いとは無関係な生活を送ろうとしている農民や商人であるならば俺だってなんの文句もない。無駄なことを学ぶ必要はもちろんないし好きに生きればいいと言うさ。たが!それが他ならない冒険者になろうとしているお前ならば!!俺は文句を言うぞ!!」
「え、えぇ」
「俺はお前が全くもって羨ましい!強くなるために必要な物を全て持っているお前がとても羨ましい!なのになんだ!てんで使いこなせていないじゃないか!その年になるまで一体何をしていたんだ!!俺が嫌いな人種はな、努力しない奴だ!才能に自惚れた不真面目な奴も、他人の力を自分の物のように自慢するやつも!!!とにかくとんでもなく宝の持ち腐れなお前が今とても嫌いだ!」
「(私情含まれてないですか、それ)」
マオだけでなく野次馬達やナーシャまでも氷のように固まってしまっている。ストローグは試合をほっぽって未だ何かグチグチ言っているが、突然の事で困惑しているマオにはほとんど聞こえていなかった。
「そしてマオ!」
「は、はい!」
「これからお前は冒険者としてどう活動していくんだ!」
「(え!?どうって…できるだけ死なないように心掛けようって思ってたんだけど、それじゃあ絶対納得しないよね…)」
とりあえず何か言わないと、とマオが唯一聞いていたストローグの言葉から出した結論は。
「あの、す、ストローグさんに好かれるような人になれるよう努力…します」
「うん。そうだな」
「「「「(それでいいんかい)」」」」
大きく頷くストローグに、試験会場満員一致でつっこんだ。
たまらずナーシャが声をかける。
「あ、あの。ギルド長?」
「ん?ああ。すまない。今は試験中だったな。少年もすまない」
「いいえ…大丈夫です」
「それでは、気を取り直して試験開始だな」
「(え、この状況で?)」
マオの戦いはまだまだ続くーーーーー✩.*˚
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