未来世界のモノノケガール

希依

文字の大きさ
上 下
16 / 50

3 人間嫌い③

しおりを挟む

 ―――面倒なことになる前にいっそ殺してしまおうか。

  ニアは身体のリミッターを解除することで常人には叶わないような怪力を出すことができる。借り物だらけの生体パーツゆえの裏技だが、変態から身を守る手段ぐらいにはなる。もっともパーツへの耐久性が落ちるので(金銭的にも)切り札なのだが。
 しかし、今は100キロ近いスピードで走行中で、ヘッドライトに照らされたガードレールは瘡蓋のように張り付いているだけでその先は谷底。下手なことはできない。

「君は世界で一番人を殺した殺人鬼は何人殺したか知っているかい?」

 そして、時山もまた下手なことをする気はないようだ。小気味いい音をたててシフトレバーが動いていく。本当に運転が好きなようだ。
 ニアの脳裏に様々な陰惨な事件が思い浮かんだ。あれらよりももっと惨たらしいことがこの81年間の間に起きていたに違いない。だから、何も答えなかった。

「…………正解だ。アルフレッド・ノーベル、ライト兄弟、オッペンハイマー、彼らの遺した偉業が後世でどれだけの大量殺戮に繋がったか、その正確な数は誰にもわからない。まあ、僕なんかでは彼ら天才たちと比べるのはおこがましいにも程があるけどね」
「あなたも科学者?」
「そんな上等なものじゃない。僕は無人兵器の技術者エンジニアさ」

 トキヤマは山本似愛の時代にも知られていた兵器関連企業に在籍しているという。無人兵器の技術はすっかり進み、あとは機械に自我が目覚めるのを待つだけなのだが、最近の流行トレンドは有人操作なのだという。

「遠隔操作のロボット兵器を個人が購入して、それを紛争地帯で義勇兵として運用するのさ。紛争の当事者は資金も兵器も出してくれて大助かり、兵器で”遊ぶ”金持ちも虚栄心と正義心を満たせるし、何より合法的に人が殺せる」

 聞かなければよかった、とニアは後悔した。

「これほど胸糞の悪い話はない。給料は抜群にいいが、まともな神経なら三日も持たない。匿名のアイコンがミスショットした弾丸が、画面の向こうに映る子供を殺すんだ」
「…………それで記憶を?」
「ああ。半年に一度のペースで記憶を消してもらっている。どうやら僕には殺人鬼の才能はないらしい。本当の殺人鬼は爆撃のニュースで心を痛めながらモーニングコーヒーを飲める連中のことを言うのさ」

 …………本当に聞かなければよかった。疲労感を感じてシートに身体をもたれかかると、時山がくつくつと笑いをこらえるように笑っていた。高い鼻が上下に震えている。

「な・に・が、そんなに可笑しいんですか? 他人に話してみたから、意外と大したことがなかったことがわかったんですか? 良かったですね」
「ふふふ、本当に君は不思議な人だね」
「よく言われます」

 車のエンジン音が小さくなり、後ろに引っ張られる加重も心なしか弱くなった。どうやら上り坂は終わり、これからは下り坂が続くらしい。

「あれが『神の貌』の総本部、通称『顔なしの郷』だ」

 谷の向こうに橙色の灯火の群れがちらちらと揺れているのが見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ラスト・オブ・文豪

相澤愛美(@アイアイ)
SF
技術の進歩により、AIが小説を書く時代になった。芥川、夏目、川端モデルが開発され、電脳文豪(サイバライター)が小説を出版する様になる。小説好きの菊池栄太郎はある男と出会い、AI小説の危険性を聞き、AIとの小説対決をする事になる。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

AIRIS

フューク
SF
AIが禁止され、代わりに魔法という技術が開発された2084年 天才的な青年により人間と変わらない見た目を持ち、思考し、行動するロボットが作られた その名はアイリス 法を破った青年と完璧なAIアイリスは何処へ向かっていくのか

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

トライアルズアンドエラーズ

中谷干
SF
「シンギュラリティ」という言葉が陳腐になるほどにはAIが進化した、遠からぬ未来。 特別な頭脳を持つ少女ナオは、アンドロイド破壊事件の調査をきっかけに、様々な人の願いや試行に巻き込まれていく。 未来社会で起こる多様な事件に、彼女はどう対峙し、何に挑み、どこへ向かうのか―― ※少々残酷なシーンがありますので苦手な方はご注意ください。 ※この小説は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、novelup、novel days、nola novelで同時公開されています。

処理中です...