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2 フルーツ味の豆腐⑧
しおりを挟む「仮想世界の癌化、でしょうね」
久しぶりに会った主治医もとい生体技師はそう結論づけた。
「癌化?」
「はい。あなたの時代と違って仮想世界ならびにAIは本人の生体パーツと密接な相互リンクに成り立っています。しかし、何らかの要因で生体パーツ側に不具合が生じると仮想世界がまるで癌になったかのように多様性が失われるのです。多くの場合は、オリジナルの脳の劣化や脳神経系の混線などが原因なのですが」
「その不具合とやらは治るの?」
ニアが尋ねると生体技師の顔が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「うーん、あなたの場合は極めて特殊なケースだから―――」
彼はプロジェクトメンバーの一人ではあったものの、その役割はあくまでアフターフォローであり、蘇生技術の大半はランドルフ博士に秘匿されていた。
「普通の人間であれば、補助脳をつけるなりして劣化した部分を補うなり、神経回路を修正すればいい。けれど、あなたの場合は―――」
沈黙。
表情こそ心痛しているように見えるが、「生きていること自体が奇跡なのだから、その程度の不具合ぐらい我慢しろ」と言外に言っているのはミエミエである。
「はは、よほどその女の子との出会いが強烈だったんだね」
余計なお世話だ。そして、くたばってしまえ。
とはいえ、これで通常の方法で治す可能性は潰えた。なにせニアは世界中の研究者と研究機関にとって世にも稀なモルモットである。そのデータは瞬く間に共有されているに違いない。
「はあ? というか、そもそもの話、ニアが変なスケベ心を出したせいで脳がトチ狂っちゃったんじゃね?」
「まあ、そうなんだけどさー」
人間、困ったときに頼るのは家族か友達である。ニアの場合はどちらもいないので専従サポートAIのAKIに相談してみた。そして、開口一番、正論の暴力である。
「アタシ、言ったよね? ニアは普通の身体じゃないって? 仮想体験がどれだけ影響があるかわからないって? ALDH2*2の人がアルコールを摂取するぐらいヤベー行為だってマジで言ったよね? というか、ログ聞いちゃいます?」
「いえ、結構です…………」
それから3時間AKIの説教(土下座)は続いた。よほど腹に据えかねていたのだろう。そもそもニアの異常にサポートAIのAKIが気がつかないわけがない。しかし、アシモフの第1、第2原則によってニアからの相談がない限り口を挟めなかったのである。
「まったくもう! マジであり得ないんですけど! 激おこぷんぷん丸だよ!」
「面目ありません…………」
しかし、見た目は近寄りがたいギャルであっても、AKIはやはり人間のために尽くすAIであった。控えめに言って天使であった。
対策方法を調べると言って常時接続を切断してから96時間35分後、
「解決方法を見つけてきたんですけどー、アタシってマジ有能?」
そう言ってAKIはMRグラス上に表示したのは、奇しくも温泉施設であった。とある新興宗教法人が経営母体となっている奥多摩の施設で、月並みな施設紹介や温泉の効能の記載とともに、奇妙な一文が記載されていた。
―――あなたの不都合な記憶、消去できます。
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