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Ⅰ巻
一話 進むよ校則改定準備
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○
生徒会室に榊原が来て二日後。水曜日。
元々「準備室」という、通称「物置部屋」のような扱いを受けていた部屋は、二日で生まれ変わり、それまで埃だらけだった部屋は、磨き上げられ、荷物はすべて体育倉庫に運んだりゴミとしたりして片付けた。
そのおかげで今はすっかり片付いており、入り口前にあった「準備室」と書かれたプレートは「校則改定委員会」というものに変わっている。
――――――――――校則改定委員会とは、文字通り、校則を改定する委員会である。
その片付いた部屋の内部は、ぽつり、と机と椅子が置かれており、その椅子に腰掛けている者もまた、ぽつり、と居た。
黒い髪を後ろで二つに結っている、所謂ツインテールというやつだ。
因みに、この学校では「肩につく髪は結わなければならない」というのが常識となり、校則の「学生らしい頭髪」はそれに当たるのである。
ツインテールはしっかりとシワのない、リボンもちゃんと付けられた正しい制服の着こなしで、しかし、椅子に腰掛けている先にある脚は、右脚を上に組んでいた。
今は放課後。それぞれ部活動や委員会、勉強などに皆勤しんでいる。その中の一人であるのも、彼女。
榊原 芹菜だ。
彼女は一昨日、「現状の学校への不満・意見のアンケート」の手配を生徒会長に頼み、広報部から、全クラスへと広まり、昨日、アンケートを実施した。結果は昨日で分かったのだが、生憎この部屋の掃除があり、やっと今日見れるのだ。
彼女は脚を組みながら、手前においてある机に乗った箱から、全クラス分のアンケート一つ一つに目を通している。と、ふと、
「ま、まずい……」
彼女は「別に一人でもなんとかなる」と思っていたが、「全校(一クラス三十五人×全学年六クラス分)分のアンケートを一人でまとめる」事などしていれば、残り休みの日と今日を入れて五日にせまる総会に間に合わない。だから、
「まずは委員募集だ!」
〇
「ふぅ…これで、終わったかあ」
榊原は、「校則改定委員会の委員募集と総会での一般生徒会員を除いた生徒会への相対」を記した、委員募集の紙を、一~四階まで、廊下や階段など、すべてに貼りまくった。ここまでの時間、ジャスト三十分。
これらに使った紙は、全クラスにおいてある「古紙再生」といった、いらなくなった紙を集めているところから取った。
彼女は改定委員の部屋へと戻り、再びアンケートに目を通し、校則と照らし合わせてメモをしていた。その一部から、
「ええと、なんだ?「女子のスカートの丈が短いです。もう少し短くても良いのではないでしょうか」だと……。まあ、確かに校則では「膝丈」だからなあ。まあ、おそらくこんなことを書くのは男子だろう……、いや、もしかしたら「私美脚だからもっと見せつけたい」という意味で女子が書いたかもしれないか……。まあ、いい。しかし……短くしたところで、その結果に対する「明確な理由」がないなあ」
例えば、エアコンが欲しいというものだったら。
「お金ないから無理」
と言われることは分かっていても、一応その「必要とする明確な理由」を言うものだ。
それに対する理由は「涼しくなれば、快適で、生徒のストレスなく、授業に集中出来、学力向上につながるから」などといくらでも言えるのだ。
……しかし、「スカートの丈」に関しては、どうも明確な理由が無い。
そうだ、もしかすれば!と、アンケートの氏名を見ればいいのでは。という結論になった。しかし、
「あっ、細かいこと言えるように「秘密選挙」っぽくしたんだった」
つまり、氏名が書いていないのだ。
ならば、
「道行く人に、聞いてみるかあ」
ここで補足。
彼女、榊原芹菜は「結果を求めるためには、結構な傍若無人っぷり」なのである。
しかし、彼女は嬉々として、廊下の道行く人に質問をしていた。
〇
「済まない。そこの道行く女子よ。聞きたいことが有るのだ」
「何でしょうか」と呼び止められた女子生徒が振り向く。本を持っていて、黄色のラインの入った名札、一年だ。
榊原はクリップボードに集計用の白紙をはさみ、彼女へと問うた。
「うむ。では「女子の現在のスカート丈」が短くなった時に起こる利点を言ってくれ」
「は、」
目の前の彼女は、表情を変える間もなく硬直していた。
……えっ、ええ!?スカート丈が短くなった時の利点?!何それ!あるはずが………いや。
あったらしい。彼女は再起動し、こちらをみて、
「女子生徒がめくれないようそわそわすることで、意識して、落ち着いた行動がとれるのではないでしょうか」
言った。言ってやった。自分でも何を言っているのかわからないが、とりあえず言ったよ!
それに対して青いラインの名札の榊原は、
「いや。元々この学校は「女子生徒ならスカートの、男子生徒ならズボンの下に体育着の短パンを穿いている」筈だ。それを前提とすると、その意見は意味を持たない」
………何々何この人!聞いといて「意味を持たない」ってぇ!?
彼女は俯く。しかし榊原は、
「さあ、もっと意見を聞かせてほしい」
追い打ちをかけてきた。
だから、彼女は、顔を上げ、彼女と目を合わせながら、ゆっくりゆっくり後退しながら
「すいません、先輩。私、ちょっと図書委員で忙しいので……それでは!」
彼女は反対の方向へ、図書室へと走って向かう。
彼女の逃げは生半可なものではなく、全力だ。
榊原はそれを見て、
………まずいっ!このままでは貴重な生徒が逃げてしまう!
そう考えるより早く、体は動いていた。
「ふぇっ」
ガシっ、と掴まれたその先。そこには走り去ろうとした女子生徒が。
「いやあぁぁっ!」
必死の抵抗からくる叫び。まるでその姿は、殺人鬼から襲われ、逃げている時のような悲鳴。逃げようとする女子生徒の左腕を鷲掴みにするものだった。
女子生徒は必死に、榊原から手を引き抜こうとする。しかし、一向にその力が弱まる気配がないどころか次第に強くなってゆく。
「まあ、落ち着け」
「あぁっ!やめてっ!離してぇ!」
「だから――――――
と、榊原は彼女の手を、体を引き寄せ、左手で彼女の顎をつかむ。
………何故にアゴクイ!?
榊原は自分より身長の低い彼女の目線を、顎を掴んで、自分に合わせる。彼女たちの目と目があい、その榊原の強い眼光で、彼女は静まった。
「ふぅ……」
「―――っ、なんなんですかぁ」
今にも泣きそうな女子生徒。榊原は彼女の名札を見、名前で呼ぶ。
「才木」
「はぃ?」
「今から図書室へと私は向かう。どうやら貴様も図書室へ向かうようだ」
「え、え?あっはい」
訳も分からず彼女は榊原に押されながら図書室へと向かった。
その間の時間は「女子の現在のスカート丈」が短くなった時に起こる利点について尋問していたという。
〇
「ふむ……」
榊原は図書室へと来ている。
図書室に置かれた、自分よりも大きい本棚の壁。それは幾十、否、二階も入れれば幾百となるかもしれない。
この中学の図書室は他とは珍しく「別棟」にあるのだ。
そのため、とても大きく「市内の図書館」と言っても過言ではないくらいだった。
これはこの学校設立時の校長が「本が好きだったらしい」という噂からそうなったらしいと考えている。
図書室内には「メインフロア」のたくさんの大きい机と椅子が有る、主に勉強や読書などに使われる場所。「個人ブース」と呼ばれる仕切りが有って、個人用の小さなスペースもある。勿論、大量の本が有るため、検索するためのパソコンも数台置いてある(検索ブース)。
それらを二階、展望フロアから見渡す。改めて相当大きな図書室だ。
………これらを全部卒業までの三年間で読める猛者は居るのだろうか。
そんなことをふと思っていると、彼女はあることに気付く。
「ら、ラノベがないじゃないか!」
と、独り言のように聞こえる、隣の先程の女子生徒への言葉。それに対し、図書委員の彼女は、
「しょうがないんですよねー。ほら、ラノベって結構過激な描写とか多いじゃあないですか。そうなると、流石に中学レベルの図書室には……」
「っ、」
そう、意外に榊原はラノベが好きなのだ。
………まるで、ラノベが有害図書扱いじゃないかっ!
そうだ、図書委員はまるで分っていない。
ならば、教えてやるしかない。
「そこで待ってろっ、才木っ!」
「えっ、ああっ、ちょ。私そろそろ委員会の仕事がぁ!」
〇
「はあっ、はあっ。またせたなあ。っ」
彼女が走り去ってから三分後。彼女は荒い呼吸とともに帰ってきた。そして、彼女の手には二つの本が握られている。
その一つをこちらに渡してきた。
えーと、
「「からだのひみつ。~おとこのこ編~」って!なんてもの持って来てるんですかあ!?」
「いや、なんてものも何もない。ただ「からだのひみつ。~おとこのこ編~」だ」
しかし、彼女は、「ああ悪い」ともう一つをこちらに渡してきた。
それは、
「「からだのひみつ。~おんなのこ編~」………、って、どうせこんなオチだと思いましたよ!一冊目で「おとこのこ編」ときて察してましたよ、ええ!」
そうか。と榊原は何に対してか頷き、では、と説明を始めた。
「いいか?まず、貴様は何故この本を見たとき「なんてもの」なんて言ったんだ」
「え、いやあの、それはあ……」
………そんなこと言わせる気か!この人は!
どこまで私をからかえば気が済むのだろう。そう思って、早く終わらせるために、こちらも攻めにでる。
「それは、性的内容が……あって、ですね………」
「は、」
と榊原はむかつく顔とイラつく口調で、ただ、そう言った。
「何だ?貴様はこれを性的内容、ととらえるのか?まあ、そうだなあ、性的内容だなあ!」
「ちょっ、声大きいですよ」
ギャラリーが数人ばかり集まってきた。
「で、だ。中を見てみよう。ほら見ろ、「full chin」だ!full chinだぞ!修正が無いんだぞ?!」
「な、何言ってんですかぁ!あと、「full chin」って直訳で「いっぱいの顎」ですよ!?」
「馬鹿者!そのまま音として捉えるんだよ!ほら、please repeat after me「ふるちん」」
いよいよギャラリーが十を超えた。
「ままま、まってください。結局何を伝えたいのですか?!」
ここまで言ってわからないのか。鈍いぞ?と、
「要は、なんでこんな「エロ本亜種」が図書室にあるのに、「比較的安全な、ましてや通常の内容かもしれないラノベ」が置かれていないんだ、と、そういっているのだ」
だから、
「よし、決めた。私は月曜の生徒総会で「貴様」に相対する。勿論、内容は「ラノベの図書館への追加」だ」
いいな?
「来週の月曜までに、貴様はしっかりと対策をしておけ?さもなくば……」
言った。
「貴様の図書委員としての居場所は無くなり、私の物になる」
私は優しい、だから、
「これは、宣戦布告だ。受け取れ、」
そう言って、榊原はこの場から去った。
哀れにも残された「才木」と「からだのひみつ」、「張りつめた空気と余韻」、「解散してゆくギャラリー」が、ミスマッチにも、そこにあった。
〇
下校時刻、六時三十分。図書室検索ブース。
置かれたパソコンに、図書委員長「在間 冬華」か、「本日の検索件数」を紙に「正」を書き写していた――――――
―――――――その時だった。
彼女の視線の先には
「エロ本」
「えろほん」
「えろぼん」
「せいじんむけ」
「R-18」
という、不健全な履歴が残りまくっていた。
「なんじゃあ、こりゃあっ!」
〇
さかのぼって、榊原は図書室からでて、校改委員の部屋へ戻ってきていた。
また、先程と同じように「アンケート」に目を通す。次は、
「登校時の「五分前登校」は必要であるのか。かあ」
五分前登校:それはこの中学で毎朝行われているもので、登校時刻が最長「八時十五分」であり、その五分前の「八時十分」を五分前登校時刻とし、八時十分までに登校出来なかった場合「十分遅れ」という扱いになり、「遅刻まで行かない遅刻扱いみたい」になる制度である。
そして、最近、「遅刻と十分遅れした者には、四百字詰めの反省文を書かせる」というのが生活委員から発生している。
………確かに、これは忌々しき問題だ。このまま放っておけば次は「原稿用紙二枚!」とかになる恐れがある。
だからこれも、校改委員として相対をしたいものだ、と榊原は考えた――――――――――――その時、
「どうもぉ、櫻井ですぅ」
と、部屋に入ってくる者が。
「さ、櫻井?!どうした?」
「いや、どうしたも何も――――――――委員に志願したいんですぅ」
おお!、と自分で募集していたはずなのに、こんなに簡単に来るものだと驚くものだ、と榊原は思う。
櫻井 保坂。二年、榊原と同じクラス。
「よく来た。こちらも何しろ人出が足りなくてな」
「ああ、気にしなくていいですぅ」
だって、
「僕も多重役職者を目指していてねぇ。いやぁ、もっと早く気づけばよかったよぉ。生徒手帳なんてなかなか見ないからねぇ」
ふむ、と適当に榊原は頷き、
「分かった。その心意気、確かに受け取った。それでは――――早速だが作業に移ろうか」
生徒会室に榊原が来て二日後。水曜日。
元々「準備室」という、通称「物置部屋」のような扱いを受けていた部屋は、二日で生まれ変わり、それまで埃だらけだった部屋は、磨き上げられ、荷物はすべて体育倉庫に運んだりゴミとしたりして片付けた。
そのおかげで今はすっかり片付いており、入り口前にあった「準備室」と書かれたプレートは「校則改定委員会」というものに変わっている。
――――――――――校則改定委員会とは、文字通り、校則を改定する委員会である。
その片付いた部屋の内部は、ぽつり、と机と椅子が置かれており、その椅子に腰掛けている者もまた、ぽつり、と居た。
黒い髪を後ろで二つに結っている、所謂ツインテールというやつだ。
因みに、この学校では「肩につく髪は結わなければならない」というのが常識となり、校則の「学生らしい頭髪」はそれに当たるのである。
ツインテールはしっかりとシワのない、リボンもちゃんと付けられた正しい制服の着こなしで、しかし、椅子に腰掛けている先にある脚は、右脚を上に組んでいた。
今は放課後。それぞれ部活動や委員会、勉強などに皆勤しんでいる。その中の一人であるのも、彼女。
榊原 芹菜だ。
彼女は一昨日、「現状の学校への不満・意見のアンケート」の手配を生徒会長に頼み、広報部から、全クラスへと広まり、昨日、アンケートを実施した。結果は昨日で分かったのだが、生憎この部屋の掃除があり、やっと今日見れるのだ。
彼女は脚を組みながら、手前においてある机に乗った箱から、全クラス分のアンケート一つ一つに目を通している。と、ふと、
「ま、まずい……」
彼女は「別に一人でもなんとかなる」と思っていたが、「全校(一クラス三十五人×全学年六クラス分)分のアンケートを一人でまとめる」事などしていれば、残り休みの日と今日を入れて五日にせまる総会に間に合わない。だから、
「まずは委員募集だ!」
〇
「ふぅ…これで、終わったかあ」
榊原は、「校則改定委員会の委員募集と総会での一般生徒会員を除いた生徒会への相対」を記した、委員募集の紙を、一~四階まで、廊下や階段など、すべてに貼りまくった。ここまでの時間、ジャスト三十分。
これらに使った紙は、全クラスにおいてある「古紙再生」といった、いらなくなった紙を集めているところから取った。
彼女は改定委員の部屋へと戻り、再びアンケートに目を通し、校則と照らし合わせてメモをしていた。その一部から、
「ええと、なんだ?「女子のスカートの丈が短いです。もう少し短くても良いのではないでしょうか」だと……。まあ、確かに校則では「膝丈」だからなあ。まあ、おそらくこんなことを書くのは男子だろう……、いや、もしかしたら「私美脚だからもっと見せつけたい」という意味で女子が書いたかもしれないか……。まあ、いい。しかし……短くしたところで、その結果に対する「明確な理由」がないなあ」
例えば、エアコンが欲しいというものだったら。
「お金ないから無理」
と言われることは分かっていても、一応その「必要とする明確な理由」を言うものだ。
それに対する理由は「涼しくなれば、快適で、生徒のストレスなく、授業に集中出来、学力向上につながるから」などといくらでも言えるのだ。
……しかし、「スカートの丈」に関しては、どうも明確な理由が無い。
そうだ、もしかすれば!と、アンケートの氏名を見ればいいのでは。という結論になった。しかし、
「あっ、細かいこと言えるように「秘密選挙」っぽくしたんだった」
つまり、氏名が書いていないのだ。
ならば、
「道行く人に、聞いてみるかあ」
ここで補足。
彼女、榊原芹菜は「結果を求めるためには、結構な傍若無人っぷり」なのである。
しかし、彼女は嬉々として、廊下の道行く人に質問をしていた。
〇
「済まない。そこの道行く女子よ。聞きたいことが有るのだ」
「何でしょうか」と呼び止められた女子生徒が振り向く。本を持っていて、黄色のラインの入った名札、一年だ。
榊原はクリップボードに集計用の白紙をはさみ、彼女へと問うた。
「うむ。では「女子の現在のスカート丈」が短くなった時に起こる利点を言ってくれ」
「は、」
目の前の彼女は、表情を変える間もなく硬直していた。
……えっ、ええ!?スカート丈が短くなった時の利点?!何それ!あるはずが………いや。
あったらしい。彼女は再起動し、こちらをみて、
「女子生徒がめくれないようそわそわすることで、意識して、落ち着いた行動がとれるのではないでしょうか」
言った。言ってやった。自分でも何を言っているのかわからないが、とりあえず言ったよ!
それに対して青いラインの名札の榊原は、
「いや。元々この学校は「女子生徒ならスカートの、男子生徒ならズボンの下に体育着の短パンを穿いている」筈だ。それを前提とすると、その意見は意味を持たない」
………何々何この人!聞いといて「意味を持たない」ってぇ!?
彼女は俯く。しかし榊原は、
「さあ、もっと意見を聞かせてほしい」
追い打ちをかけてきた。
だから、彼女は、顔を上げ、彼女と目を合わせながら、ゆっくりゆっくり後退しながら
「すいません、先輩。私、ちょっと図書委員で忙しいので……それでは!」
彼女は反対の方向へ、図書室へと走って向かう。
彼女の逃げは生半可なものではなく、全力だ。
榊原はそれを見て、
………まずいっ!このままでは貴重な生徒が逃げてしまう!
そう考えるより早く、体は動いていた。
「ふぇっ」
ガシっ、と掴まれたその先。そこには走り去ろうとした女子生徒が。
「いやあぁぁっ!」
必死の抵抗からくる叫び。まるでその姿は、殺人鬼から襲われ、逃げている時のような悲鳴。逃げようとする女子生徒の左腕を鷲掴みにするものだった。
女子生徒は必死に、榊原から手を引き抜こうとする。しかし、一向にその力が弱まる気配がないどころか次第に強くなってゆく。
「まあ、落ち着け」
「あぁっ!やめてっ!離してぇ!」
「だから――――――
と、榊原は彼女の手を、体を引き寄せ、左手で彼女の顎をつかむ。
………何故にアゴクイ!?
榊原は自分より身長の低い彼女の目線を、顎を掴んで、自分に合わせる。彼女たちの目と目があい、その榊原の強い眼光で、彼女は静まった。
「ふぅ……」
「―――っ、なんなんですかぁ」
今にも泣きそうな女子生徒。榊原は彼女の名札を見、名前で呼ぶ。
「才木」
「はぃ?」
「今から図書室へと私は向かう。どうやら貴様も図書室へ向かうようだ」
「え、え?あっはい」
訳も分からず彼女は榊原に押されながら図書室へと向かった。
その間の時間は「女子の現在のスカート丈」が短くなった時に起こる利点について尋問していたという。
〇
「ふむ……」
榊原は図書室へと来ている。
図書室に置かれた、自分よりも大きい本棚の壁。それは幾十、否、二階も入れれば幾百となるかもしれない。
この中学の図書室は他とは珍しく「別棟」にあるのだ。
そのため、とても大きく「市内の図書館」と言っても過言ではないくらいだった。
これはこの学校設立時の校長が「本が好きだったらしい」という噂からそうなったらしいと考えている。
図書室内には「メインフロア」のたくさんの大きい机と椅子が有る、主に勉強や読書などに使われる場所。「個人ブース」と呼ばれる仕切りが有って、個人用の小さなスペースもある。勿論、大量の本が有るため、検索するためのパソコンも数台置いてある(検索ブース)。
それらを二階、展望フロアから見渡す。改めて相当大きな図書室だ。
………これらを全部卒業までの三年間で読める猛者は居るのだろうか。
そんなことをふと思っていると、彼女はあることに気付く。
「ら、ラノベがないじゃないか!」
と、独り言のように聞こえる、隣の先程の女子生徒への言葉。それに対し、図書委員の彼女は、
「しょうがないんですよねー。ほら、ラノベって結構過激な描写とか多いじゃあないですか。そうなると、流石に中学レベルの図書室には……」
「っ、」
そう、意外に榊原はラノベが好きなのだ。
………まるで、ラノベが有害図書扱いじゃないかっ!
そうだ、図書委員はまるで分っていない。
ならば、教えてやるしかない。
「そこで待ってろっ、才木っ!」
「えっ、ああっ、ちょ。私そろそろ委員会の仕事がぁ!」
〇
「はあっ、はあっ。またせたなあ。っ」
彼女が走り去ってから三分後。彼女は荒い呼吸とともに帰ってきた。そして、彼女の手には二つの本が握られている。
その一つをこちらに渡してきた。
えーと、
「「からだのひみつ。~おとこのこ編~」って!なんてもの持って来てるんですかあ!?」
「いや、なんてものも何もない。ただ「からだのひみつ。~おとこのこ編~」だ」
しかし、彼女は、「ああ悪い」ともう一つをこちらに渡してきた。
それは、
「「からだのひみつ。~おんなのこ編~」………、って、どうせこんなオチだと思いましたよ!一冊目で「おとこのこ編」ときて察してましたよ、ええ!」
そうか。と榊原は何に対してか頷き、では、と説明を始めた。
「いいか?まず、貴様は何故この本を見たとき「なんてもの」なんて言ったんだ」
「え、いやあの、それはあ……」
………そんなこと言わせる気か!この人は!
どこまで私をからかえば気が済むのだろう。そう思って、早く終わらせるために、こちらも攻めにでる。
「それは、性的内容が……あって、ですね………」
「は、」
と榊原はむかつく顔とイラつく口調で、ただ、そう言った。
「何だ?貴様はこれを性的内容、ととらえるのか?まあ、そうだなあ、性的内容だなあ!」
「ちょっ、声大きいですよ」
ギャラリーが数人ばかり集まってきた。
「で、だ。中を見てみよう。ほら見ろ、「full chin」だ!full chinだぞ!修正が無いんだぞ?!」
「な、何言ってんですかぁ!あと、「full chin」って直訳で「いっぱいの顎」ですよ!?」
「馬鹿者!そのまま音として捉えるんだよ!ほら、please repeat after me「ふるちん」」
いよいよギャラリーが十を超えた。
「ままま、まってください。結局何を伝えたいのですか?!」
ここまで言ってわからないのか。鈍いぞ?と、
「要は、なんでこんな「エロ本亜種」が図書室にあるのに、「比較的安全な、ましてや通常の内容かもしれないラノベ」が置かれていないんだ、と、そういっているのだ」
だから、
「よし、決めた。私は月曜の生徒総会で「貴様」に相対する。勿論、内容は「ラノベの図書館への追加」だ」
いいな?
「来週の月曜までに、貴様はしっかりと対策をしておけ?さもなくば……」
言った。
「貴様の図書委員としての居場所は無くなり、私の物になる」
私は優しい、だから、
「これは、宣戦布告だ。受け取れ、」
そう言って、榊原はこの場から去った。
哀れにも残された「才木」と「からだのひみつ」、「張りつめた空気と余韻」、「解散してゆくギャラリー」が、ミスマッチにも、そこにあった。
〇
下校時刻、六時三十分。図書室検索ブース。
置かれたパソコンに、図書委員長「在間 冬華」か、「本日の検索件数」を紙に「正」を書き写していた――――――
―――――――その時だった。
彼女の視線の先には
「エロ本」
「えろほん」
「えろぼん」
「せいじんむけ」
「R-18」
という、不健全な履歴が残りまくっていた。
「なんじゃあ、こりゃあっ!」
〇
さかのぼって、榊原は図書室からでて、校改委員の部屋へ戻ってきていた。
また、先程と同じように「アンケート」に目を通す。次は、
「登校時の「五分前登校」は必要であるのか。かあ」
五分前登校:それはこの中学で毎朝行われているもので、登校時刻が最長「八時十五分」であり、その五分前の「八時十分」を五分前登校時刻とし、八時十分までに登校出来なかった場合「十分遅れ」という扱いになり、「遅刻まで行かない遅刻扱いみたい」になる制度である。
そして、最近、「遅刻と十分遅れした者には、四百字詰めの反省文を書かせる」というのが生活委員から発生している。
………確かに、これは忌々しき問題だ。このまま放っておけば次は「原稿用紙二枚!」とかになる恐れがある。
だからこれも、校改委員として相対をしたいものだ、と榊原は考えた――――――――――――その時、
「どうもぉ、櫻井ですぅ」
と、部屋に入ってくる者が。
「さ、櫻井?!どうした?」
「いや、どうしたも何も――――――――委員に志願したいんですぅ」
おお!、と自分で募集していたはずなのに、こんなに簡単に来るものだと驚くものだ、と榊原は思う。
櫻井 保坂。二年、榊原と同じクラス。
「よく来た。こちらも何しろ人出が足りなくてな」
「ああ、気にしなくていいですぅ」
だって、
「僕も多重役職者を目指していてねぇ。いやぁ、もっと早く気づけばよかったよぉ。生徒手帳なんてなかなか見ないからねぇ」
ふむ、と適当に榊原は頷き、
「分かった。その心意気、確かに受け取った。それでは――――早速だが作業に移ろうか」
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この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
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