ただ愛してほしい

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そこからはあっという間に日にちが過ぎていった。

かえは毎日リハビリやカウンセリングを受けながら、普段の生活に戻れるようにしていた。

一方、高岡はかえを迎え入れるため、弁護士に相談したり、諸々の手続きを急ピッチに進めていた。

─────────────
退院日、一緒に見た桜は既にほとんどが葉となっていた。
気持ちのいい風が吹き、天気も快晴だった。

「さ、忘れ物は無いですか?そろそろ行きましょうか。」
「はい。多分もうないと思います。」
1ヶ月弱、病院にいたが、かえの持ち物はそんなに多くない。
ほとんどレンタルで済ませていたため、中くらいのカバン1つあれば十分だった。

「このまま少し出掛けますよ。体調は大丈夫そうですか?」
「大丈夫ですけど、このまま行くんですか?」
かえが着ている服は、入院してきた時に着ていた服で少しみすぼらしい。
部屋着、外着関係なく着ていたもので、買ってもらってから3年以上は着ていた。
その為、このまま出かけることには抵抗があった。
「色々買い揃えたいものもありますから。では、行きましょうか。」
そう言って高岡は荷物を持ち歩き出した。その後ろをかえはヒヨコのようについて行った。

(どこに行くんだろう・・・。)
車は動き出し、他愛のない話はするものの、どこに行くのかは伝えられていなかった。
「あの、先生、今どこに向かっているんですか?」
会話が途切れたタイミングで切り出した。
「あぁ、言っていませんでしたね。ここから20分くらい行くと大きなショッピングモールがあるでしょう?そこに向かっているんですよ。君は行ったことがありますか?」
「そうですか。私、そこ行ったことないです。」
数年前にオープンしたそこは、映画館やアミューズメントパーク、多種多様なショップが入っており、現在でも休日になると人がごった返す。
かえは、オープンしたことは知っていたが、母親と買い物にでる機会などなかったため、オープンから数年経った今でも一度も足を踏み入れたことがなかった。

「そこで、君に必要となるものを買おうと思っています。」
かえは言われた言葉にはっとした。
「あ、あの、私、お金ほとんど持ってないんです。」
入院当初に母親が数枚の衣服と、いつもかえが持ち歩いているバッグは持ってきていたが、その中に入っているお金はたかだか数千円だ。
入院費に関しても、高岡が「もう済んでいるからいいですよ」と言い、かえ自身は一銭も払っていない。
自宅にいる頃、ほとんど小遣いというものは貰っておらず、母親から渡されるのは食費ぐらいだった。その食費だって必要最低限しか渡してくれない母親が、入院費を払ったとは思えなかった。
自分でお金を払えないというがとても心苦しく、これ以上金銭的な負担をかけることはしたくないと思っていた。

「何を考えているかなんとなくわかりますが、君は心配しなくていいんです。これから先は僕が君の生活を守ると言ったでしょう。それはお金のことも含まれているんですよ。」
「で、でも、そんなに迷惑をかけるわけには・・「迷惑じゃないと言ったでしょう。さ、そんな暗い顔をせず、何が必要か、どんな物を買いたいかを考えましょう。」
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