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第4部 序章・大樹
第4回
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翌朝。大樹は校門から駐輪場に向かう途中、昨日と変わらない様子の相原の姿を見かけ、ほっと安堵しながら、「相原さん!」と思わず笑顔で声を掛けた。
振り向いた相原の額にはうっすらと汗が浮いており、軽く息が切れているらしく、少し苦しそうに大樹には見えた。ただ、それだけ見れば他の生徒や自分も同じことだし、そこまで気にするようなことでもないだろう。むしろその姿にどこか色気を感じ、大樹は胸がどきどきしてしまうのを必死に抑える。ただでさえ大人っぽい雰囲気のある相原の魅力が、さらに増したようだった。
大樹は自転車を引きながら小走りで駆け寄り、
「おはよう」
「あ、うん、おはよう……」
ぼそりと返事する相原と、大樹は並んで駐輪場へ向かう。
ただ隣にいるだけなのに、相原からは何とも言えない甘い香りが漂っていた。大樹はついつい相原に近づき過ぎていたことに気が付き、少しばかり距離を開ける。
あんまり近づき過ぎて気持ち悪がられてしまったら、しばらく僕は立ち直れないかもしれない。
ふと相原の方に視線を向けると、相原は眉間に皺を寄せていた。まさか、もうすでに僕のことを気持ち悪いと思っているんじゃないだろうか。気安く話しかけすぎて、ウザがられているんじゃないだろうか。
内心不安に思いながら、大樹はそれでもその不安を振り払うように、
「どうしたの? なんか難しい顔してるけど」
あえてそう聞いてみた。
もしこれで「木村くんが気持ち悪いからだよ」なんて言われでもしたら、大樹は即刻家まで引き返すか、このままどこか遠くへ姿をくらますことを考えなければならない。
相原はそんなことを考えている大樹に、けれど首を横に振って、
「……なんでもない」
その言い方はどこか刺々しく、大樹の胸に突き刺さった。思った以上のダメージに、大樹はそのまま卒倒してしまいそうだったけれど、何とか心を持ち直した。もし本当に僕のことが嫌なんだったら、きっと今頃、僕の事なんて気にしないで先へ先へ行ってしまっていたはずだ。こうして並んで駐輪場まで歩いてくれていると思えない――と大樹は思いたかった。
昨日の相原の様子と比べれば、きっと自分には言い難い、別の何かが昨日あったに違いない。
それはもしかしたら、件の不審者とか、喪服の少女だとか、そんな感じの。或いは家族と喧嘩してしまったとか、そういうことが原因かもしれないじゃないか。
「――本当に?」
何だか色々なことが不安で、心配で、大樹は気付くと相原の眼をじっと見つめていた。
その瞬間、相原は立ち止まると大きく目を見張り、息を飲むようにして、大樹を見つめ返してきた。その表情から、大樹は何かを探ろうと試みたのだけれど、結局何も解らなかった。
大樹と相原はしばらく見つめあっていたが、やがて相原は大樹から視線を逸らせて、
「ほ、本当に大丈夫だから……」
その声は、先ほどとは打って変わって、少しばかり柔らかいものになっていた。
「相原さんが大丈夫っていうんなら別にいいけど」と大樹は先を歩く相原の背中を追いかけながら、「でも、本当に何かあったら言ってよ?」
もし自分のせいで相原が嫌な思いをしているのだとしたら、もう話しかけたりなんかしないから、と心の中で思いながら。
相原は小さく頷くと「……うん、そうだね」と返事した。
それからそそくさと自転車を駐輪場に止めると、
「ありがとう。じゃぁ、またね」
そう言って、相原はまるで逃げるように、校舎へ駆けていったのだった。
そんな相原の後ろ姿に、大樹は「え?」と思わず変な声を漏らした。
「あ、うん、また……」
我ながら、何とも情けない声だった。
翌朝。大樹は校門から駐輪場に向かう途中、昨日と変わらない様子の相原の姿を見かけ、ほっと安堵しながら、「相原さん!」と思わず笑顔で声を掛けた。
振り向いた相原の額にはうっすらと汗が浮いており、軽く息が切れているらしく、少し苦しそうに大樹には見えた。ただ、それだけ見れば他の生徒や自分も同じことだし、そこまで気にするようなことでもないだろう。むしろその姿にどこか色気を感じ、大樹は胸がどきどきしてしまうのを必死に抑える。ただでさえ大人っぽい雰囲気のある相原の魅力が、さらに増したようだった。
大樹は自転車を引きながら小走りで駆け寄り、
「おはよう」
「あ、うん、おはよう……」
ぼそりと返事する相原と、大樹は並んで駐輪場へ向かう。
ただ隣にいるだけなのに、相原からは何とも言えない甘い香りが漂っていた。大樹はついつい相原に近づき過ぎていたことに気が付き、少しばかり距離を開ける。
あんまり近づき過ぎて気持ち悪がられてしまったら、しばらく僕は立ち直れないかもしれない。
ふと相原の方に視線を向けると、相原は眉間に皺を寄せていた。まさか、もうすでに僕のことを気持ち悪いと思っているんじゃないだろうか。気安く話しかけすぎて、ウザがられているんじゃないだろうか。
内心不安に思いながら、大樹はそれでもその不安を振り払うように、
「どうしたの? なんか難しい顔してるけど」
あえてそう聞いてみた。
もしこれで「木村くんが気持ち悪いからだよ」なんて言われでもしたら、大樹は即刻家まで引き返すか、このままどこか遠くへ姿をくらますことを考えなければならない。
相原はそんなことを考えている大樹に、けれど首を横に振って、
「……なんでもない」
その言い方はどこか刺々しく、大樹の胸に突き刺さった。思った以上のダメージに、大樹はそのまま卒倒してしまいそうだったけれど、何とか心を持ち直した。もし本当に僕のことが嫌なんだったら、きっと今頃、僕の事なんて気にしないで先へ先へ行ってしまっていたはずだ。こうして並んで駐輪場まで歩いてくれていると思えない――と大樹は思いたかった。
昨日の相原の様子と比べれば、きっと自分には言い難い、別の何かが昨日あったに違いない。
それはもしかしたら、件の不審者とか、喪服の少女だとか、そんな感じの。或いは家族と喧嘩してしまったとか、そういうことが原因かもしれないじゃないか。
「――本当に?」
何だか色々なことが不安で、心配で、大樹は気付くと相原の眼をじっと見つめていた。
その瞬間、相原は立ち止まると大きく目を見張り、息を飲むようにして、大樹を見つめ返してきた。その表情から、大樹は何かを探ろうと試みたのだけれど、結局何も解らなかった。
大樹と相原はしばらく見つめあっていたが、やがて相原は大樹から視線を逸らせて、
「ほ、本当に大丈夫だから……」
その声は、先ほどとは打って変わって、少しばかり柔らかいものになっていた。
「相原さんが大丈夫っていうんなら別にいいけど」と大樹は先を歩く相原の背中を追いかけながら、「でも、本当に何かあったら言ってよ?」
もし自分のせいで相原が嫌な思いをしているのだとしたら、もう話しかけたりなんかしないから、と心の中で思いながら。
相原は小さく頷くと「……うん、そうだね」と返事した。
それからそそくさと自転車を駐輪場に止めると、
「ありがとう。じゃぁ、またね」
そう言って、相原はまるで逃げるように、校舎へ駆けていったのだった。
そんな相原の後ろ姿に、大樹は「え?」と思わず変な声を漏らした。
「あ、うん、また……」
我ながら、何とも情けない声だった。
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