闇に蠢く

野村勇輔(ノムラユーリ)

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第3部 終章・友達

第2回

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 玲奈たちは授業が終わるまでバドミントンを続けていたが、相原も玲奈と同様運動神経は決して良い方とは言えないらしく、お互いまともにシャトルを打ち返すことができなかった。

 玲奈も相原も、桜の打ったシャトルを追いかけるので精いっぱい。それでも何とかラリーが成り立ったのは桜のおかげだろう。下手くそな玲奈たちに合わせてくれる桜に、玲奈は感心せずにはいられなかった。

 自分ももう少し運動した方が良いかなと思い始めたころ、授業の終わりを告げるチャイムが辺りに鳴り響いた。

 先生の号令と共に、再び玲奈たちは一堂に会す。挨拶が終わり、各自使った道具を体育倉庫に収めるよう指示されて解散した時、
「あ、私が収めてくるよ」
 相原が申し出てくれて、
「そ? じゃぁ、お願いね、相原さん!」
「ごめんね、ありがとう。じゃぁ、ここで待ってるね」
「ううん」と相原は道具を受け取ると手を振って、「すぐに追いつくと思うから、先に行ってて大丈夫だよ」
 玲奈と桜はその言葉に、相原に見送られるようにして教室へと歩き出した。

 その道中、桜が後ろを振り向きながら、
「なんか相原さん、雰囲気変わったね」

「そうだね。なんか、明るくなった感じ」
 玲奈も頷いてそう答えた。

「やっぱり木村のおかげかな」

「かも知れないね」

「ってことは、玲奈も誰かと付き合い始めたら変わっちゃうかもしれないのか」

「かもね」

 よくわかんないけど、と返す玲奈に、桜は珍しく頬を膨らませながら、
「そうなったらイヤだなぁ。あたしは玲奈を男なんぞに取られたくない」

「なにそれ。桜には村田くんがいるでしょ?」

「それはそれ、これはこれ! あたしの人生には玲奈のおっぱいが必要なんだよぉー!」

「ちょっ、やめて! 皆が見てるでしょ!」

 後ろから抱きついてくる桜に、玲奈が身をよじって逃げ出そうとした、その時だった。
 


 ――ギィッ、ガチャンッ
 


 背後から、そんな鈍い音が聞こえてきたのだ。

 玲奈は一瞬立ち止まり、後ろを振り向く。

「なに? どした?」

 桜には聞こえなかったのだろうか、キョトンとした表情で玲奈の胸を揉みながら聞いてくる。

 玲奈はあえてそれを無視して目を細めながら、音が聞こえてきた体育倉庫の方を注視した。

 ガンガンと扉を叩く音が聞こえてきて、玲奈は慌てて目を見開く。

「大変! 相原さんが閉じ込められちゃったかも!」

「えっ!」

 そこからの桜の動きは速かった。

 玲奈から手を離すと、あっという間に体育倉庫の方へ駆けていき、扉の取っ手に手をかける。

 玲奈も遅れて倉庫の前まで辿り着いたところで。

「きゃああああぁぁぁあああぁあああああぁあああああぁああぁあぁ――――っ!」

 倉庫の中ら、この世のものとは思えないほど大きな叫び声が聞こえてきた。

 相原の叫び声だ。

「相原さん!」
 玲奈は叫び、
「あ、開かない! なんでっ!?」
 桜が慌てる。

 玲奈も桜と一緒に扉に手をかけ、
「せーのっ!」
 ふたりの力を合わせて、力いっぱいスライドさせた。

 ギギギギッと重たい音が響き渡り、何とか扉を開け放つと、そこには膝をつき、呆然と天井を仰ぐ相原奈央の姿があった。

「相原さんっ!」

 玲奈と桜は相原に駆け寄り、茫然自失となった相原の体を大きく揺らした。

「……えっ、あ、あぁっ」

 相原は目を見開いたまま喉の奥から音のような声を漏らし、玲奈に顔を向けると、その瞳をじっと見つめる。

「あ、相原、さん……?」

 桜が相原の顔を覗き込んだ時、相原はパチリと瞬きをひとつして、
「……み、宮野首さん、矢野……さん」
 呟くように口にすると、辺りを見回し、
「わ、私、いったい、どうしたの?」

「どうしたのって、覚えてないの?」

 桜が訊ねて、相原は自身の頭を支えながらふらりと立ち上がると、
「……あ、ううん。そう、そうよ。バドミントンを収めてる途中でいきなり扉が閉まったから、私、焦っちゃって、慌てて……」
 それから大きなため息を吐いてから、
「ごめんね、心配させてしまって。もう、大丈夫だから」

 それに対して、桜もホッと息を吐くと、
「まあ、でも急に扉が閉まったらびっくりしちゃうよね。おまけにやたらと重くてなかなか開かなかったし」

「うん。ありがとう、助けに来てくれて」

「とにかく、無事で良かった」

 言って玲奈が胸を撫で下ろすと、桜が校舎を指差しながら、
「ほら、行こう。早く教室に戻らないと」

「あ、うん」

 桜はひとり先頭に立って歩き出し、それに続いて相原、玲奈と体育倉庫をあとにした。

 玲奈はガチャリと倉庫の扉を閉めて、そして気付いた。

 ……あれ? すんなり扉が閉まった?

 開ける時は、あんなに重かったのに。

 不思議に思っていると、
「どうしたの? 宮野首さん」
 相原が小首を傾げてきいてくる。

「う、ううん、なんでもない」と玲奈は答えると、「さあ、行こう。桜を追いかけないと」

「そうだね」
 それから一歩踏み出したところで、
「ねぇ、宮野首さん。私たち、友達、だよね?」

「え?」
 不意に訊ねられて、玲奈は驚く。それと同時に、相原さんが少しでも心を開いてくれたのだと思うとそれが嬉しくて、
「うん、もちろん!」
 思わず笑顔で答えていた。

 そんな玲奈に、相原はわずかに首を垂れると、
「……良かった」
 呟くようにそう口にして、すっと頭をもたげながら、
「……これからよろしくね。宮野首さん?」

「……えっ、あ、うん」

 ニヤリと笑んだその相原の顔に、玲奈はゾクリと、言い知れぬ寒気を感じたのだった。



……第3部、了。 第4部へつづく。
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