187 / 247
第3部 終章・友達
第1回
しおりを挟む
1
あれから一週間が経過した。
期末テストが終わり、明日からは夏休みが始まろうとしている。
玲奈と桜はグラウンドに立ち、夏休み前最後の授業である体育の途中、ふと空を見上げた。
梅雨の明けた空はどこまでも青く晴れ渡り、強い日差しが力の限り地に降り注いでいる。
一学期最後の授業ということもあって、担当教諭からは各々好きな球技を自由にしなさい、との指示が出されただけで、当の先生は日陰で何か書き仕事をしている。
玲奈と桜は暑い日差しの中、バドミントンに興じていた。
周囲にはバレーボールやテニスをしているクラスメイト達の姿もあったが、中には日陰に入って談笑している子たちの姿もあって、完全に自由時間のようになっていた。
玲奈は桜と笑いあいながら、下手くそなりにシャトルを打ち合う。
あれ以来、例の死霊たちはぱったりと姿を現すことはなくなった。
梅雨の間に学校で見かけた死霊たちの数もめっきり減り、何事もなかったかのような日常がここ一週間続いている。
悩まされることのない日常の、なんと喜ばしいことだろう。
なにかとセクハラまがいの言動をしてくる桜を除けば、平穏無事な日々。
こんな日がずっと続いてくれればいいのに、と玲奈は願わずにはいられなかった。
そんなことを考えていると、
「あっ!」
桜の打ったシャトルを打ち返せず、ころころとシャトルが日陰の方へ転がっていく。
そこにはぼんやりと立ち尽くした相原奈央の姿があって、
「ごめーん! 相原さん!」
桜が相原に声を張り上げた。
それに対して、相原も軽く手を振って、
「だいじょーぶ!」
大声で答えて、足元のシャトルを拾い上げる。
玲奈はそんな相原に駆け寄ると、
「ごめんね。ありがとう、相原さん」
ううん、と相原は首を横に振り、初めて見るような優しい微笑みでシャトルを手渡してくれた。
この一週間、明らかに相原の雰囲気は変わっていた。
具体的に何がどう変わったのかまでは判らないのだけれど、まとっていた空気が柔らかくなったような気がする。
木村大樹によると、ふたりはなんと付き合い始めたというではないか。
もしかしたら、これもそのおかげかも知れないと玲奈は思った。
それと同時に、玲奈はこの相原奈央という女の子に興味がわいた。
もっともっと、相原のことを知りたいと思った。
だから玲奈も、相原のその微笑みににっこりと笑い返して、
「ねぇ、相原さんも一緒にやらない?」
その途端、相原も「えっ」と眼を見張り、驚きの表情を見せる。
「私と……?」
「うん」と玲奈は頷いて、「一番席が近いのに、今まであまり話した事なかったでしょう? 私、相原さんともっと仲良くなりたいから……」
そう口にして、玲奈は「迷惑かな?」とわずかにうつむく。
ちょっといきなり過ぎただろうか? もう少し仲良くなってから誘うべきだっただろうか?
そんなふうに思っていると、
「――うん!」
相原が、深く深く、頷くのが見えた。
玲奈はそれが嬉しくて嬉しくて、思わず満面の笑みが零れる。
それから相原は「あっ」と何かを思い出したように、
「ねぇ、宮野首さん」
「なぁに?」
「お婆さんに、お礼を言っておいて貰えない? 御守り、ありがとうございましたって」
「おばあちゃんに……?」
玲奈は、どういう意味だろう、と首を傾げた。
何故なら、玲奈の祖母――香澄はすでに肉体を失った死者である。
普通の人ならその姿すら視ることができないはずなのに、その祖母から御守りを貰った……?
「でも、おばあちゃんは、もう……あっ」
もしかして、相原さんも視える人間なのだろうか。
そもそも一週間以上前、玲奈の席の後ろで死霊たちに襲われる相原の姿を玲奈は見ている。
或いは、もしかして、だけど――?
「……えっ? それって、もしかして」
戸惑うような表情の相原に、玲奈は慌てたように手を振って、
「あ、うん! 伝えとくね!」
誤魔化すように、玲奈は笑顔で頷いた。
実際、相原が視える質なのか視えない質なのかはよく判らない。
判らない状態で、変に不安にさせる必要なんて、ない。
そんな玲奈の言葉に安堵したのか、奈央はほっと胸を撫でおろすように、「お願いね」と小さく笑った。
そんなふたりに、「おーい! まだー?」と桜が痺れを切らし、両手を大きく降って呼び寄せる。
「行こ、相原さん」
「……うん!」
玲奈は相原と共に、シャトルを待つ桜のもとへと駆け出した。
あれから一週間が経過した。
期末テストが終わり、明日からは夏休みが始まろうとしている。
玲奈と桜はグラウンドに立ち、夏休み前最後の授業である体育の途中、ふと空を見上げた。
梅雨の明けた空はどこまでも青く晴れ渡り、強い日差しが力の限り地に降り注いでいる。
一学期最後の授業ということもあって、担当教諭からは各々好きな球技を自由にしなさい、との指示が出されただけで、当の先生は日陰で何か書き仕事をしている。
玲奈と桜は暑い日差しの中、バドミントンに興じていた。
周囲にはバレーボールやテニスをしているクラスメイト達の姿もあったが、中には日陰に入って談笑している子たちの姿もあって、完全に自由時間のようになっていた。
玲奈は桜と笑いあいながら、下手くそなりにシャトルを打ち合う。
あれ以来、例の死霊たちはぱったりと姿を現すことはなくなった。
梅雨の間に学校で見かけた死霊たちの数もめっきり減り、何事もなかったかのような日常がここ一週間続いている。
悩まされることのない日常の、なんと喜ばしいことだろう。
なにかとセクハラまがいの言動をしてくる桜を除けば、平穏無事な日々。
こんな日がずっと続いてくれればいいのに、と玲奈は願わずにはいられなかった。
そんなことを考えていると、
「あっ!」
桜の打ったシャトルを打ち返せず、ころころとシャトルが日陰の方へ転がっていく。
そこにはぼんやりと立ち尽くした相原奈央の姿があって、
「ごめーん! 相原さん!」
桜が相原に声を張り上げた。
それに対して、相原も軽く手を振って、
「だいじょーぶ!」
大声で答えて、足元のシャトルを拾い上げる。
玲奈はそんな相原に駆け寄ると、
「ごめんね。ありがとう、相原さん」
ううん、と相原は首を横に振り、初めて見るような優しい微笑みでシャトルを手渡してくれた。
この一週間、明らかに相原の雰囲気は変わっていた。
具体的に何がどう変わったのかまでは判らないのだけれど、まとっていた空気が柔らかくなったような気がする。
木村大樹によると、ふたりはなんと付き合い始めたというではないか。
もしかしたら、これもそのおかげかも知れないと玲奈は思った。
それと同時に、玲奈はこの相原奈央という女の子に興味がわいた。
もっともっと、相原のことを知りたいと思った。
だから玲奈も、相原のその微笑みににっこりと笑い返して、
「ねぇ、相原さんも一緒にやらない?」
その途端、相原も「えっ」と眼を見張り、驚きの表情を見せる。
「私と……?」
「うん」と玲奈は頷いて、「一番席が近いのに、今まであまり話した事なかったでしょう? 私、相原さんともっと仲良くなりたいから……」
そう口にして、玲奈は「迷惑かな?」とわずかにうつむく。
ちょっといきなり過ぎただろうか? もう少し仲良くなってから誘うべきだっただろうか?
そんなふうに思っていると、
「――うん!」
相原が、深く深く、頷くのが見えた。
玲奈はそれが嬉しくて嬉しくて、思わず満面の笑みが零れる。
それから相原は「あっ」と何かを思い出したように、
「ねぇ、宮野首さん」
「なぁに?」
「お婆さんに、お礼を言っておいて貰えない? 御守り、ありがとうございましたって」
「おばあちゃんに……?」
玲奈は、どういう意味だろう、と首を傾げた。
何故なら、玲奈の祖母――香澄はすでに肉体を失った死者である。
普通の人ならその姿すら視ることができないはずなのに、その祖母から御守りを貰った……?
「でも、おばあちゃんは、もう……あっ」
もしかして、相原さんも視える人間なのだろうか。
そもそも一週間以上前、玲奈の席の後ろで死霊たちに襲われる相原の姿を玲奈は見ている。
或いは、もしかして、だけど――?
「……えっ? それって、もしかして」
戸惑うような表情の相原に、玲奈は慌てたように手を振って、
「あ、うん! 伝えとくね!」
誤魔化すように、玲奈は笑顔で頷いた。
実際、相原が視える質なのか視えない質なのかはよく判らない。
判らない状態で、変に不安にさせる必要なんて、ない。
そんな玲奈の言葉に安堵したのか、奈央はほっと胸を撫でおろすように、「お願いね」と小さく笑った。
そんなふたりに、「おーい! まだー?」と桜が痺れを切らし、両手を大きく降って呼び寄せる。
「行こ、相原さん」
「……うん!」
玲奈は相原と共に、シャトルを待つ桜のもとへと駆け出した。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる