87 / 247
第1部 終章 悪霊
第2回
しおりを挟む
宮野首や矢野と授業が終わるまでバドミントンを続けた奈央だったが、普段殆ど運動をしないせいかまるで体が追いつかなかった。宮野首も運動神経はよくないらしく、矢野の放ったシャトルを追い掛けるだけでも精一杯、打ち返すには更なる技術を必要とした。それでも何とかラリーが成り立ったのは、恐らく矢野のお陰だろう。彼女は下手くそな自分達に合わせるように、的確にシャトルを打ち返してくれた。
もう少し運動した方が良いかな、と思い始めた頃に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教諭の号令と共に再び奈央たちは一同に会す。挨拶が終わり、各自使った道具を体育倉庫に収めるように指示されると一斉に解散した。
「あ、私が収めてくるよ」
そう言って奈央は矢野や宮野首からラケットとシャトルを受け取り、二人が先に教室へ戻って行くのを見届けてから体育倉庫へ向かった。他のクラスメイト達がボールやラケットを収めていくのを見届けてから、最後に中に入る。薄暗い体育倉庫の中はカビ臭くて埃っぽく、あまり長居したいような場所ではないから好きではない。奈央はさっと道具を収めると扉に体を向けた。すでにクラスメイト達の姿はなく、遠く校舎に歩く小さな背中が見えるだけだった。
急いで教室に帰ろう、そう思いながら倉庫を出ようとして。
ギィ、ガシャンッ、と胸の先数センチの所で突然倉庫の扉が閉ざされた。
「……えっ!」
奈央は驚き、もう一度扉を開けようと引いたり押したりしてみたけれど、鍵が掛かっているのか誰かが外から押さえているのか、全く開く気配がなかった。
どうしよう、閉じ込められちゃった…… 何とかしないと、次の授業に遅れちゃう。
そう、思った時だった。
「……フフフフフッ」
どこからともなく笑い声が聞こえ、奈央は眉間に皺を寄せた。
きっと私を閉じ込めた誰かの笑い声だ。私が困っているのを見て、楽しんでいるのだ。何て奴。
「誰っ? 早く出して! あとで先生に言いつけるからね!」
叫んだ次の瞬間、ぴちょんっと聞き覚えのある水の滴る音に、奈央は思わず目を見張った。途端に呼吸が荒くなり、胸を押さえる。
そんな、そんな、そんな……!
「……フフフッ 」
すぐ耳元で女の笑い声が聞こえ、奈央はばっと振り向いた。けれどそこにはただ薄暗い闇が広がっているだけで。
「……あんなので、私から逃げられると思っていたの?」
その声に、奈央は息を飲んだ。辺りを見回し、気配を探る。
闇の中に蠢く何かを目にした気がして凝視したが、
「私は常に貴女の傍に居る。貴女の身体は私のもの……フフフッ」
また別の場所からの声に奈央はふらふらと後退った。
辺りに女の嗤い声がこだまし、恐怖が募る。
どこ……? いったい、どこに……!
しかし、どこにも女の姿は見えない。声ばかりが聞こえ、けれど確かにすぐ傍に気配を感じる。
やがてトンッと背中が壁にぶち当たり、奈央はびくりと身体を震わせた。荒い息を整える暇もないまま、再び女が語りかけてくる。
「どこに逃げても無駄。だって私は、ここに居るから」
すっと奈央の首に女の両手が伸び、
「……フフッ、捕まえたぁ」
「…………っ!」
そして――絶叫。
闇に蠢く 第一部・了
もう少し運動した方が良いかな、と思い始めた頃に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教諭の号令と共に再び奈央たちは一同に会す。挨拶が終わり、各自使った道具を体育倉庫に収めるように指示されると一斉に解散した。
「あ、私が収めてくるよ」
そう言って奈央は矢野や宮野首からラケットとシャトルを受け取り、二人が先に教室へ戻って行くのを見届けてから体育倉庫へ向かった。他のクラスメイト達がボールやラケットを収めていくのを見届けてから、最後に中に入る。薄暗い体育倉庫の中はカビ臭くて埃っぽく、あまり長居したいような場所ではないから好きではない。奈央はさっと道具を収めると扉に体を向けた。すでにクラスメイト達の姿はなく、遠く校舎に歩く小さな背中が見えるだけだった。
急いで教室に帰ろう、そう思いながら倉庫を出ようとして。
ギィ、ガシャンッ、と胸の先数センチの所で突然倉庫の扉が閉ざされた。
「……えっ!」
奈央は驚き、もう一度扉を開けようと引いたり押したりしてみたけれど、鍵が掛かっているのか誰かが外から押さえているのか、全く開く気配がなかった。
どうしよう、閉じ込められちゃった…… 何とかしないと、次の授業に遅れちゃう。
そう、思った時だった。
「……フフフフフッ」
どこからともなく笑い声が聞こえ、奈央は眉間に皺を寄せた。
きっと私を閉じ込めた誰かの笑い声だ。私が困っているのを見て、楽しんでいるのだ。何て奴。
「誰っ? 早く出して! あとで先生に言いつけるからね!」
叫んだ次の瞬間、ぴちょんっと聞き覚えのある水の滴る音に、奈央は思わず目を見張った。途端に呼吸が荒くなり、胸を押さえる。
そんな、そんな、そんな……!
「……フフフッ 」
すぐ耳元で女の笑い声が聞こえ、奈央はばっと振り向いた。けれどそこにはただ薄暗い闇が広がっているだけで。
「……あんなので、私から逃げられると思っていたの?」
その声に、奈央は息を飲んだ。辺りを見回し、気配を探る。
闇の中に蠢く何かを目にした気がして凝視したが、
「私は常に貴女の傍に居る。貴女の身体は私のもの……フフフッ」
また別の場所からの声に奈央はふらふらと後退った。
辺りに女の嗤い声がこだまし、恐怖が募る。
どこ……? いったい、どこに……!
しかし、どこにも女の姿は見えない。声ばかりが聞こえ、けれど確かにすぐ傍に気配を感じる。
やがてトンッと背中が壁にぶち当たり、奈央はびくりと身体を震わせた。荒い息を整える暇もないまま、再び女が語りかけてくる。
「どこに逃げても無駄。だって私は、ここに居るから」
すっと奈央の首に女の両手が伸び、
「……フフッ、捕まえたぁ」
「…………っ!」
そして――絶叫。
闇に蠢く 第一部・了
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる