トクソウ最前線

蒲公英

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溶け込めるかな

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 虎太郎君と一緒に焼きそばを食べていた竹田さんが、粉を溶いている。
「ブタ玉、食う?」
 虎太郎君がゲームを始めたので、話に加わりたくなったらしい。
「榎本がさ、この前の清掃指導でプロって言葉使ったじゃん。俺、嬉しかったんだわ」
 色黒の目元が、赤くなっている。アルコールには強くないらしい。
「清掃業の中でも、俺たちの仕事って特にバカにされがちじゃん。便所だの側溝だのって、確かに一般の人も掃除する箇所だから、侮られるのは理解できるんだけどさ」
「え? 私、はじめてトクソウの仕事見たとき、感動したんですけど」
 和香は自分が用務員になってから、日常清掃が何故仕事として成立するか知った。学校にしろ公民館にしろ会社にしろ、大勢が使う場所はたとえ当番を決めて清掃したって、みんな真剣じゃないのだ。気になる汚れがあっても、他の人も掃除しているんだから誰かが綺麗にするだろうと、放っておく人は多い。それが一箇所ならば良いが、大勢が使っているのだから何箇所も発生するのだ。このトイレは汚いから清掃しよう、じゃなくて、隣のトイレは綺麗だからそっちを使えばいいや、って塩梅。放っておけば当然汚れは蓄積されるから、日常の管理が必要になってくる。そしてそれの一段階上のトクソウ部は、和香から見ればプロを育成までしちゃうプロだ。
「他人のやってることって、簡単に見えるからね」
 片岡さんが、微笑んだ。

「ところで佐久間サービスって、面接のときに派手な化粧とか爪とかは禁止って言われた気がしたんですけど、髪の色はいいんですか」
 場が和やかになっているからか、それとも二杯目のビールが効いているのか。和香がトクソウに入ってからずっと気になっていたことを、竹田にぶつけてみる。黒い肌に明るい茶の髪はいかにもチャラチャラして見えるから、公共施設の職員は彼をリーダーと認識していないような気がする。
 竹田が苦い顔をしたので、余計なことを訊いたと後悔すると、煙草に火をつけた植田さんが代わりに返事した。
「白に濃い茶色入れてんだよ。それ以上濃くなんないの」
 白が地色って、つまり総白髪だってこと?
「なんで?」
 びっくりして、声が出た。
「おまえ、何気に失礼だな。なんでったって、俺だって知らねえ。親父も若白髪だったし、俺はそれがストレスで一気に加速したんだろうって美容師が言ってた」
 よく見れば、確かに生え際付近がキラキラ光っている。知らなかったとは言え、気にしている(と思われる)事項をつついてしまったわけだ。ここで明るく謝るとか、逆に真剣に話をしてもらうとか、そういったスキルを和香は持っていない。思わず下を向き、ゴメンナサイと呟いた。

「竹田ちゃん、和香ちゃんが落ち込んじゃったよ」
「女の子には、言葉尻は気をつけなさいよ」
 片岡・菊池ペアが両方から言う。
「わーるいんだわるいんだー」
 話の内容も知らない虎太郎君が囃し、由美さんに頭を叩かれた。竹田さんは大きくひとつ、溜息を吐いた。
「あのねぇ!」
 呆れたような声だ。
「おまえ、何でも真剣に取りすぎ。俺は別に怒ってないから、とりあえずビール注げ」
 グラスを差し出されて、和香は慌ててビールを注ぐ。
「ぬるいぞ、これ。新しいの頼め」
 目線を上げた先では、竹田さんが笑っていた。
「鬱陶しいからいちいち落ち込むな。何話していいか、わかんなくなる」
 ついでのように頭を小突かれる。
「おまえ呼ばわりしないでください。あと、スイカじゃないんだから、叩かれたって良い音しないです」
 他のメンバーが笑いだし、和香もやっと笑顔になる。少しだけ、トクソウ部に馴染んだような気がする。
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