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 こくりと頷くと桜羽くんは「あー、ぽい!」と笑顔で返した。
 
「てか、颯汰ともうヤったのか?」
「ええっ!?えっと、そ、そのー、はぃ……」

 は、恥ずかしすぎる。なんで俺は大して親しくもない後輩に性事情を言わないといけないんだ。顔を下に向けて隠そうとすると、桜羽くんはまるでおもちゃを見つけたように爛々と目を輝かせて近付いてくる。
 しかし、それを阻むように俺の前に猫を抱えた颯太くんが入ってきた。
 
「やめろ、桜羽」
「おっ、颯汰!それと猫!」
「隼人で遊ぶな」
 
 そう言って颯汰くんは俺をぎゅっと抱き締めた。颯汰くんの優しさが嬉しくて思わず笑みを浮かべた。
 颯汰くんはそのまま桜羽くんに向かって冷たい声で告げた。
 
「この部屋で隼人と何してた?まさか顔を見せた?」
「見せてない!別に心配しなくていいだろ」
「顔に何かあるの?」
 
 俺が聞くと、颯汰くんは眉間にシワを寄せて険しい表情になった。
 
「……桜羽は、顔が凄く良いから。惚れないと思うけど隼人は面食いだから」
「いや、前も言ったけど俺は顔じゃなくて颯汰くんの全部が好きなんだよ?」
「そうだけど……」
 
 颯汰くんは少し不満そうに口を尖らせた。俺が浮気しないように嫉妬してくれてるんだろうか。可愛いなぁ。

「颯汰、マジで隼人のことが絡んだら俺にワーワー怒ってきて大変なんだよ!前も話したいって言っただけで睨んできてさ、他にも」
「煩い。兎に角なんで二人だけで話してんの」

 まるで浮気を問い詰めるような颯太くんの態度に、俺は大人しく事情を説明した。すると、それを聞いた颯太くんは直ぐに桜羽くんに告げた。
 
「わかった。桜羽、生徒会から離れろ」
「ええっ、お前まで隼人の味方すんのかよ!俺ら友達じゃなかったのかよ!」
「黙れ。あと隼人のこと名前で呼ぶな」
 
 いつもよりも語気が強い颯太くんに動揺する。
 いつもの穏やかな颯太くんらしくない。まさか三谷の言葉も正しかったのか……?と、とりあえず二人とも落ち着いてもらわないと。
 
「そ、颯太くんもシフォンケーキ食べる?良かったら一緒に食べよう!」
「……分かった」
 
 なんとか説得に成功したようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
 しかし、ここでまた新たな問題が浮上してきた。

「あれ、シフォンケーキが無い!」
「あ、ごめん。俺食べた」
「桜羽……殺す」
「やめて!ほほほほら、これとかあげるから」
 
 多分飴とか入ってるだろう、とポケットから物を取りだしたが、なんと干し梅だった。それを見た颯太くんは硬直し、砂のように消えてしまった。
 
「そ、颯太くん!!ごめん!もうあげないから!」
「ははっ颯太って梅嫌いなのか?子供だな!俺は中学から食えるようになったぜ!」
 
 謎にドヤる桜羽くん。俺はその姿を見て鳥肌が立った。お、恐ろしい子だ。この狂った颯太くんの姿を見ても笑顔でいられるって。というか、普段は平和な俺達を一瞬で狂わせてカオス状態にするなんて……。
 これは手強い。俺にこの子を説得なんて出来るだろうか。無理だ。じゃあ俺に出来るのはこれしか……。

「桜羽くん。お願いします。お菓子一生無料で提供するから生徒会からは離れて下さい!」
「ええ、土下座っ!?そこまでかよ!」
「駄目かな?もう少し条件を加えたら」
「いやいや、別にお菓子は欲しいけど。うーん。やっぱり駄目だ。俺は生徒会のみんなと仲良くしたいし、そういう取引もしたくない」
 
 キッパリと断られてしまった。そこまで生徒会のみんなが好きなんだ。でも、このままじゃ生徒会の親衛隊が暴れる。
 せめて、桜羽くんのお付き合いする人が決まったら落ち着くと思うんだけど。
 
「桜羽くんは、生徒会のみんなのことが友達として好きなの?恋愛として誰か考えてない?もし、後者ならその人とだけ関わるとかじゃ駄目かな?」
「友達だったらだめなのか?」
「駄目っていうか、この学園って普通は生徒会と一般生徒が関わったら駄目っていう暗黙の了解があるんだよ。だから下手に生徒会と関わられたら学園の秩序が」
「それだと生徒会の奴らが可哀想だろ。友達が出来ないじゃないか」
 
 単なる友達関係なら良いけど、君の場合は明らかに生徒会のみんなが好意を寄せていることがバレバレなんだよ……!!
 生徒会長なんて公開キス、副会長からは普通に告白されたり、庶務からはハグ。それなのに誰か一人に絞らないから親衛隊が怒っているのだ。

 すると、消えていた颯太くんが生き返り、爆弾を落とした。
 
「コイツ、理事長と付き合ってるから恋愛関係はないよ」
「ええっ!?」
「おいっ、内緒って言ったじゃん!」
「桜羽だって隼人と付き合ってること本人に言った」
「本人だからいいじゃん。あー、叔父さんに口止めされてたのにどうしよう」
 
 二人が何か言い合っているが俺の耳には一つも届かなかった。
 うちの理事長はイケメンだと生徒から評判だが、まさか付き合っているなんて……。確か四十歳くらいだったけど未成年と恋愛って良いのか?え、そうなると生徒会全員、失恋するってこと?
 
「桜羽はさっさと理事長と付き合ってることアイツらに話して振ればいいだけ」
「えー、でもアイツら俺が好きって必死で可愛いもん。振ったらもう見れないし友達みたいに話せないじゃん」
「屑。理事長にチクるから」
「だめだめ!でも昨日も叔父さんと会ったんだけどめっちゃ可愛かったんだよ。俺が律にキスされたのまだ根に持っててさ、自分から誘ってきてーーー」
 
 それから桜羽くんはずっと理事長の惚気を語っていた。衝撃過ぎて最初は頭に入らなかったが、余りにも話し続けるものだから徐々に冷静さを取り戻した。颯太くんによると、いつも二人で恋人の惚気を話し合ってるらしい。

「桜羽くん。そんなに理事長のことが好きなら理事長のこと、生徒会のみんなに言って欲しいな」
「えー……。分かったよ。今度言ってくる」
 
 これにて一件落着、と思ったがまだ終わらなかった。
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みんなの感想(20件)

るん
2024.04.12 るん

嫌なキャラがいないので楽しくキュンキュン読めて好きです笑

続き待ってます!

ぽぽ
2024.04.13 ぽぽ

感想ありがとうございます!
ちょっと嫌な人もいるかも?と心配してたキャラもいたのでそう言って頂けて安心しました☺️とても嬉しいです。
更新が遅くて申し訳ないです。気長に待っていただけると有難いです🙏

解除
nico
2023.02.26 nico
ネタバレ含む
ぽぽ
2023.02.26 ぽぽ

琴森くんの前ではほわほわしてますけど他の前では番犬のような顔をしてます笑
結構独占欲強めの腹黒ですが必死に隠してます🤫でもまさかここで気付かれるとは考えてなかったでしょうね……。

解除
こここ
2023.02.23 こここ

番外編も楽しみです!

ぽぽ
2023.02.23 ぽぽ

嬉しいお言葉ありがとうございます😆
毎日投稿は難しいですが、随時更新していくつもりですので今後もよろしくお願いします!

解除
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