上 下
11 / 12

11

しおりを挟む
「このシフォンケーキ、すっげー美味い!お店出せるんじゃないか?」

 目の前ではシフォンケーキを美味しそうに頬張る桜羽くん。そして正面には肩を縮ませて座る男、俺。

 久東には散々迷惑をかけたし言われたからには頑張ろう、と勇気を出して桜羽くんに話しかけたが罪悪感で胸が苦しい。タダでは着いてきてくれないかもしれないと思い、シフォンケーキを焼いてきたが、ここまで純粋に喜ばれるとまるで自分が幼児をお菓子で釣る不審者になった気分だ。 
 胸が痛むが、平然を装い俺は微笑んだ。
 
「良かった。美味しそうに食べて貰えて」
「俺こそこんな美味いのタダで食べていいのか?なんかお礼とか、大したことは出来ないけどさ」

 よし、きた!ここで生徒会に近付くのを控えてくれって注意すれば上手くいく!
 このビッグチャンスに胸を馳せていたが、突然爆弾を落とされた。
 
「颯汰のことか?」
「えっ、な、なんで」
「颯汰と付き合ってるんだろ?」
 
 ここでも知られていた。
 俺があんなに必死に隠そうとしていた努力は一体……。確か三谷情報では王道転校生は鈍感で世間知らずだと言っていたが、嘘だったのか?
 
「最近喧嘩したんだろ?」
「え、あ、うん。でも、仲直りしたから」
「良かったな!颯汰も一時期死人みたいな顔してたけど今じゃスキップまでしてるよ」
 
 スキップをする颯汰くん!?見たい、凄く気になる。ていうかこの子俺達の仲をどこまで知ってるんだろう。
 そういえば、颯汰くんはこの子が転校してくるまで滅多に人と関わりが無かったし、学校生活も一人で過ごしていたはずだ。桜羽くんと颯汰くんってどんな会話をして仲良くなったんだろう。
 
 やばい。色んなことが気になってきてしまう。でも今は風紀委員として聞かなくては。
 
「颯汰くんのことじゃなくて、他の生徒会役員のことなんだけどさ、ちょっとお願いしたいことがあって」
「なんだ?」
「実は親衛隊が最近桜羽くんに嫌がらせしてるって聞いて。だから生徒会と関わる機会を減らして欲しいんだ」
「嫌だ」
 
 即答で断られた。やっぱり簡単にいかせてもらえないか。どうしよう。どうやって説得すればいいんだ。

「なんでそんなこと言うんだよ」
「え?」
「お前だって颯太と一緒に居たら楽しいじゃん。それなのになんで邪魔するんだよ!」
「そ、それは……」

 反論が出来なかった。俺だって颯汰くんと別れろ、と急に言われたら嫌に決まってる。
 
「その、でも、親衛隊に嫌がらせをされたら困るよね。もしかしたらエスカレートしてもっと酷いことになるかも」
「別にいい。あんな奴ら俺ががぶっ飛ばしてやるよ」
 
 頼もしすぎる。流石主人公、言うことも格好良い。
 でも正直言うと彼が強いようには見えない。小さくて華奢だから力も弱そうだ。
 親衛隊の子達も可愛らしい子ウサギのような容姿をしているが、ゴリラのようなマッチョを使って襲わせることもある。実際、そういう被害を受けた子達を見てきた。だから親衛隊を見くびってはならない。いくら転校生でも一人では勝てないだろう。

「大人数で襲われたりしたらどうするの?危ないよ」
「大丈夫。俺強いし」
「でも、何かあったら……」

 その時、扉が開いた音がした。誰か来たのかと思い後ろを振り向いたが誰もいない。
 すると下から声が聞こえたので目線を下げた。そこには一匹の小さな猫がいたのだ。

「黒猫?」
「ほんとだ!よしよーし、こっちこーい」
 
 桜羽くんが話しかけるが、黒猫はそっぽ向いて扉の方へ歩いていった。その様子を見て分かりやすく肩を下ろして落胆する桜羽くん。
 
「猫、好きなの?」
「好き!」

 無邪気に歯を見せて笑う。こういう素直で真っ直ぐなところに生徒会は惹かれたのか、と考えていると、突如彼の口から似合わない言葉が出てきた。
 
「そういえば、隼人ってネコ?」
「猫?人間だよ?」
「違う違う。知らなかった?あー、えっと、ヤる時のことなんだけど、上か下かって言ったらわかる?」
 
 どういう意味が理解した瞬間、顔が燃えるように熱くなる。
 な、何故急にそんな下ネタを言うんだ!純粋そうな顔をしてるのに衝撃である。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。 総受けです。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

帰宅

papiko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

処理中です...