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しおりを挟む「ーーーというわけで、もう少しで葉桐くんは桜羽くんのこと好きになっちゃうんだよ」
そう言って締め括ったのだが、何故か彼は呆れたような目を向けてくる。
「でもそれ所詮フィクションでしょ?俺のこと、そんな理由で捨てたんだ」
「す、捨てるってそんなつもりじゃなくて、寧ろ今後の葉桐くんのために別れようって言ったんだよ?」
「全然先輩は俺のこと分かってない」
吐き捨てるように言われた言葉に怒りが込み上がった。
なんだよそれ。俺はこんなに考えてるのに。一人でずっと悩んでいたのに、そんな言い方無いじゃないか。
頭に血が上った俺は、勢いに任せて口を開いた。
「分かるわけない!だって葉桐くんは何も言わないじゃん!葉桐くんがそういう性格だって分かっていても、言葉や態度で示してくれなかったら伝わらないよ。俺、漫画の主人公じゃないし……」
段々と尻窄みになりながら言うと葉桐くんは突然俺の腕を掴み、力任せに引っ張った。いきなりのことで踏ん張りがきかず、彼の胸に飛び込むような形で倒れ込む。そして抱きしめられ、キスをされた。
はじめは啄むようなキスを何度も繰り返していたが、徐々に深くなり舌を入れてきた。息ができないくらい激しいものだ。
漸く解放された時には腰砕けになっていた。一方、彼は口の端から零れた唾液を舐めとって、低い声で囁いた。
「はぁ……先輩可愛い」
「なっ!?俺、今真面目な話してて」
「照れてるところもかわいい」
顔が段々と赤くなってきて、しまいには泣きそうになった。情けない顔を見られたくなくて両手で顔を隠すと無理やり手を取られ、またキスをされる。更に目尻に滲んできた涙まで舐め取られた。
「ひ、やめて。急になんで」
「先輩が態度で示せって言ってきたからだよ。確かに俺も先輩が大事で慎重になりすぎてた。不安にさせてごめん。もう、別れるなんて言わせないから」
愛してる、と囁いてもう一度キスをしてきた。今度は触れるだけの優しいものだった。
流石にここまでされて分からないほど馬鹿ではない。つまり彼は俺のことを好きでいてくれるんだ。
本当にそうなのかとまだ疑う気持ちも少しあるが、彼の表情や態度を見れば嘘じゃないことが一目瞭然である。しかし、じゃあ何故急に朝の登校も月一のお出かけも無くそうとしたんだろう。
「本当に?でも俺ともう登校したり出かけたりするのも、嫌じゃなかったの?」
「それは……変な顔を先輩に見せたくなかったから。普段肌の手入れは毎日してるけど、嫌われたと思ったらショックでやる気が起きなくて」
「そ、そんなことで?」
「そんなことって、先輩が俺を好きな理由、顔でしょ。この数日でニキビもできたしガサガサだし、こんなの見たら幻滅されると思った」
葉桐くんはそう言って顔を隠すように俯いた。
確かに俺は自分でも面食いだと自覚しているが、そこまで気にさせているとは思っていなかった。
そこまで俺の事を考えてくれていた葉桐くんが愛おしくて可愛いという気持ちと、葉桐くんの中の俺はそんなことで嫌いになる最低野郎だったのか、とモヤモヤする気持ちが混ざって変な顔になってしまったと思う。
俺は両手で彼の顔を持ち上げた。
「幻滅するわけないよ。大体葉桐くんの顔だけが好きだったら一年も付き合ってないよ。俺はね、葉桐くんの性格とか仕草とか全部引っ括めて大好きになったんだよ。ごめんね、俺もちゃんと言ってなくて、それに色々突っ走って」
言い終わると同時にぎゅっと抱きしめられた。耳元では小さな嗚咽が聞こえてくる。
暫く背中をさすっていると落ち着いたようで身体を離した。至近距離にある瞳は真っ赤になっていて瞼は腫れている。
思わず笑ってしまうと、頬を引っ張られる。痛いと訴えると口を尖らせたまま手を離してくれた。
「ふふ、葉桐くんが大好きだよ。もう別れるなんて言わない」
そう言って俺からちゅっと軽く唇を合わせると、葉桐くんは蕩けるように甘い笑顔を浮かべていた。
幸せだ。やっと心が通じ合えた気がした。
しかし、その幸福感は長く続かなかった。
「じゃあ、今からたくさん愛し合おう」
「え?」
「俺の想い、先輩に全部教えるから」
「え、でももう十分分かったよ?」
「だめ。また別れるなんて考えて欲しくないし、俺から離れないようにしないと」
な、なんだか不穏な空気を感じる。いつもの葉桐くんとはオーラが違う。ど、どうして?
怯えて体が震えてくる俺とは反対に葉桐くんは獲物を狙う獣のような目をしていた。これはマズイ。本能的に悟ったが時すでに遅し。彼は軽々俺を抱き上げて校舎裏から歩き出した。何処へ行くのかと聞くと、寮の部屋だと言われた。
「いっぱい身体で教えてあげるね」
やけに嬉しそうな声にさっきとは違う不安が浮かんできた。
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