7 / 12
7
しおりを挟む「ーーーというわけで、もう少しで葉桐くんは桜羽くんのこと好きになっちゃうんだよ」
そう言って締め括ったのだが、何故か彼は呆れたような目を向けてくる。
「でもそれ所詮フィクションでしょ?俺のこと、そんな理由で捨てたんだ」
「す、捨てるってそんなつもりじゃなくて、寧ろ今後の葉桐くんのために別れようって言ったんだよ?」
「全然先輩は俺のこと分かってない」
吐き捨てるように言われた言葉に怒りが込み上がった。
なんだよそれ。俺はこんなに考えてるのに。一人でずっと悩んでいたのに、そんな言い方無いじゃないか。
頭に血が上った俺は、勢いに任せて口を開いた。
「分かるわけない!だって葉桐くんは何も言わないじゃん!葉桐くんがそういう性格だって分かっていても、言葉や態度で示してくれなかったら伝わらないよ。俺、漫画の主人公じゃないし……」
段々と尻窄みになりながら言うと葉桐くんは突然俺の腕を掴み、力任せに引っ張った。いきなりのことで踏ん張りがきかず、彼の胸に飛び込むような形で倒れ込む。そして抱きしめられ、キスをされた。
はじめは啄むようなキスを何度も繰り返していたが、徐々に深くなり舌を入れてきた。息ができないくらい激しいものだ。
漸く解放された時には腰砕けになっていた。一方、彼は口の端から零れた唾液を舐めとって、低い声で囁いた。
「はぁ……先輩可愛い」
「なっ!?俺、今真面目な話してて」
「照れてるところもかわいい」
顔が段々と赤くなってきて、しまいには泣きそうになった。情けない顔を見られたくなくて両手で顔を隠すと無理やり手を取られ、またキスをされる。更に目尻に滲んできた涙まで舐め取られた。
「ひ、やめて。急になんで」
「先輩が態度で示せって言ってきたからだよ。確かに俺も先輩が大事で慎重になりすぎてた。不安にさせてごめん。もう、別れるなんて言わせないから」
愛してる、と囁いてもう一度キスをしてきた。今度は触れるだけの優しいものだった。
流石にここまでされて分からないほど馬鹿ではない。つまり彼は俺のことを好きでいてくれるんだ。
本当にそうなのかとまだ疑う気持ちも少しあるが、彼の表情や態度を見れば嘘じゃないことが一目瞭然である。しかし、じゃあ何故急に朝の登校も月一のお出かけも無くそうとしたんだろう。
「本当に?でも俺ともう登校したり出かけたりするのも、嫌じゃなかったの?」
「それは……変な顔を先輩に見せたくなかったから。普段肌の手入れは毎日してるけど、嫌われたと思ったらショックでやる気が起きなくて」
「そ、そんなことで?」
「そんなことって、先輩が俺を好きな理由、顔でしょ。この数日でニキビもできたしガサガサだし、こんなの見たら幻滅されると思った」
葉桐くんはそう言って顔を隠すように俯いた。
確かに俺は自分でも面食いだと自覚しているが、そこまで気にさせているとは思っていなかった。
そこまで俺の事を考えてくれていた葉桐くんが愛おしくて可愛いという気持ちと、葉桐くんの中の俺はそんなことで嫌いになる最低野郎だったのか、とモヤモヤする気持ちが混ざって変な顔になってしまったと思う。
俺は両手で彼の顔を持ち上げた。
「幻滅するわけないよ。大体葉桐くんの顔だけが好きだったら一年も付き合ってないよ。俺はね、葉桐くんの性格とか仕草とか全部引っ括めて大好きになったんだよ。ごめんね、俺もちゃんと言ってなくて、それに色々突っ走って」
言い終わると同時にぎゅっと抱きしめられた。耳元では小さな嗚咽が聞こえてくる。
暫く背中をさすっていると落ち着いたようで身体を離した。至近距離にある瞳は真っ赤になっていて瞼は腫れている。
思わず笑ってしまうと、頬を引っ張られる。痛いと訴えると口を尖らせたまま手を離してくれた。
「ふふ、葉桐くんが大好きだよ。もう別れるなんて言わない」
そう言って俺からちゅっと軽く唇を合わせると、葉桐くんは蕩けるように甘い笑顔を浮かべていた。
幸せだ。やっと心が通じ合えた気がした。
しかし、その幸福感は長く続かなかった。
「じゃあ、今からたくさん愛し合おう」
「え?」
「俺の想い、先輩に全部教えるから」
「え、でももう十分分かったよ?」
「だめ。また別れるなんて考えて欲しくないし、俺から離れないようにしないと」
な、なんだか不穏な空気を感じる。いつもの葉桐くんとはオーラが違う。ど、どうして?
怯えて体が震えてくる俺とは反対に葉桐くんは獲物を狙う獣のような目をしていた。これはマズイ。本能的に悟ったが時すでに遅し。彼は軽々俺を抱き上げて校舎裏から歩き出した。何処へ行くのかと聞くと、寮の部屋だと言われた。
「いっぱい身体で教えてあげるね」
やけに嬉しそうな声にさっきとは違う不安が浮かんできた。
87
お気に入りに追加
1,944
あなたにおすすめの小説
過保護な不良に狙われた俺
ぽぽ
BL
強面不良×平凡
異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。
頼む、俺に拒否権を下さい!!
━━━━━━━━━━━━━━━
王道学園に近い世界観です。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる