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しおりを挟むいつもの柔らかい笑顔を浮かべているが、髪も服も汗でぐしゃぐしゃだ。手から袋を離してチョコレートを落とした。元の形も見えないほどぐちゃぐちゃだ。これなら元々ハート型のチョコなんて気付かないだろう。
しかし、彼はチョコを拾ってそれを口に含んだ。
「ちょっ!!汚いですよ!吐き出してください!ぺっ、ほら!ぺってして!」
焦る俺とは反対に彼はしたり顔で大きく口を開けた。口内には何も入っていない。つまり、食べてしまったということだ。
「何で……」
「創が作ったものだからな」
「お、おおお俺が作ったなんて分からないですよ。買ったものです!それは、昨日買ったものでたまたま落として!」
「いいや、創だな。見てみろ、リボンが何度も結び直した跡がある。不器用な創がしたに違いない」
「し、失礼ですよ!ちょっと失敗しただけで、はっ!」
余計な事を言ってしまったことに気付き、口を抑えると湊は口元を震わせながら笑いを堪えていた。
湊はそのまま袋の中を漁る。湊の腕を止めようと必死に抑えるが、彼の力に負けて俺の腕は簡単に離される。そして彼がメモ帳を発見してしまった時、俺はその場でへたり込んだ。
「なんだこれ?『いつも笑顔なところ』『頭撫でてくれるところ』『大人っぽいところ』『思いやりのあるところ』」
「ぎゃぁあああやめてください!読み上げないでください!!」
「こ、これってもしかして」
湊の頬がみるみる紅潮する。耳まで真っ赤だ。
メモ帳には百個もの付箋が貼ってある。それは昨日俺が湊の好きなところを書いたものだ。本当はちゃんとチョコを渡して家に帰ってから見てくれ、と頼むはずだったのにこんな形で見られるなんて。
も、もう消えてしまいたい。誰か俺を地球の外に放り投げてくれ。こんな醜態ばかり晒して自分が更に情けなくなった。そしてこんな気持ち悪い俺に付き合わせてる湊に謝りたくなった。
「……ご、ごめんなさい。すみませんでした」
頭を深く下げる。
湊はそんな俺にきょとんとした。
「どうして謝るんだ?」
「全部っ、俺が、悪いんです。本当は前渡したチョコも妹が作ったものなんです。俺っ、本当は湊のこと好きじゃなくて、でも嘘ついて、騙してごめんなさい。それと、好きになってごめんなさい」
ずっと迷惑かけてごめんなさい。
そう謝ると、大きな手が俺の両手を包んだ。見上げると湊が眉を下げて笑っていた。
「知ってたよ」
……え?
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