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【番外編】6(夜鳥side)
しおりを挟む夜鳥岳。容姿端麗、物腰柔らかで成績も上位を常にキープしている。しかし謙遜は忘れない。眼鏡の奥に潜む優しげな瞳が素敵だと評判の非の打ち所の無い男。
それが俺。
本当はこの黒髪も金に染めたいし折角買ったピアスも付けられない優等生くんになんてなりたい訳が無い。伊達の眼鏡もウザったいだけだが、俺がこんな面倒な事を我慢しているのには理由がある。
「あっ、夜鳥!」
俺を見て女神のように微笑む男。猫宮の為だ。
彼と出会ったのは入試の時だ。
受験票を忘れた俺はどこかに落ちていないかウロウロと会場の周りを歩き回っていた。いつもは女の子が心配して助けてくれるが流石にこんな時に手を差し伸べる奴はいない。今後の人生に関わる時にそんな余裕は無い。もう諦めかけていたその時、女神はいた。
「あの、大丈夫?」
足元から目を離し見上げると黒髪の平凡な男が心配そうに俺を見ていた。
「あー、受験票落としちまってさ。馬鹿だよなぁ、はは」
「マジで?どこら辺?」
「多分ここだけど見つかんねえしほっといていいから」
そうして背を向けたが、彼は何故か隣に並んで屈んで草を掻き分けて探し始めた。コイツも何か落としたのかと思いきや、風で飛んだりした?とかどの位時間経った?とあからさまに俺の事ばかりを聞いてくる。
え、マジでこんな時に人の事心配してるのか?俺は男の顔を睨み付けて放った。
「もう探さなくていいって。他人のせいで落ちたらお前も最悪だろ」
「はぁ?それ言ったら俺も今手伝わなくて、お前が入学式居なかったらちょっと罪悪感あるし」
口を尖らせて言う彼の様子に何故か心が浮ついた。そしてそれを隠すようにそっぽ向いて「そう」とだけ呟いた。
そして再び探し始めたが彼はかなり能天気なようで「見て見て、桜の花びら」なんて見せてきたりした。正直落ちてる桜の花びらなんて全く興味も湧かないが嬉しそうにしている彼の表情を見るのは悪く思わなかった。
数十分探していると、やっと奥に落ちていた受験票を見つけた。そして彼にも声を掛ける。
「見つけた!マジサンキュ」
「うわっ、良かった……。入学したらなんか奢れよ!」
「はは、分かったよ」
そう言うと花が咲くような笑みを浮かべた。
かっわ。
思わず出てしまいそうな言葉を飲み込む。うーん、これが健気ってやつなんだな。今までは下心がある男や女としか関わっていなかったから新鮮だ。どうしよう。思ってた以上に可愛いなコレ。連絡先を聞こうとしたが、それを遮るように彼は焦った様子で会場へ走り去ってしまった。
「時間やばっ!!ごめん、またな!」
「あぁ、また……」
そそくさと走る彼を呆然と見つめた後、自分も同じく急がなくてはいけないことに気付き、後を追った。
そして、試験も無事に終えたが彼の姿は見当たらなかった。名前も連絡先も知らない。しかし俺の中には強烈に記憶に残った。
可愛かったな。ノンケだろうし付き合うのは難しいかもしれないが、あーいうのと付き合ったら幸せかもな。ぼんやりと空を見上げながら彼とデートをする妄想をする。
その後、俺は勝手に足が美容院へ向かい、黒髪に戻していた。そしてその日から誰かに遊びに誘われても断った。彼に見合う人間になりたいからだ。穢れを知らない純粋な笑みを見せる彼に見合うように。優しく近寄りやすい雰囲気にする為に真面目くんなんて装って眼鏡まで掛けた。
真逆の高校デビューを遂げた俺は早速彼を見つけて声を掛けた。
「入学おめでとう」
「ん?え、おめでと」
動揺したように言葉を返し、そそくさと行ってしまった。高校デビューをした俺に愕然としているのかと思ったが、多分変わり過ぎて気付かれなかったのだと思う。それに、あんな短い間しか会ってなかったし覚えられてもいなかったのかもな。まあ、それでも良い。少しずつ近付けば良いのだ。同じ寮に申請して互いの好みを知って距離を縮めて付き合って、そんな普通の恋人になれる日は遠くないだろう。
そう思っていたが、計算外だった。
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