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28.勇者様、噂が流れる

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 その後、クレイが店にやってくることが増えた。いつも嫌味ばかり言ってくるが、そんなに俺のことが嫌なら来なくていいのに、と常々思う。
 
「今日は勇者来てないんだ。だーいすきなジェイミー様が来てなくて残念だね。まあお前なんかに会うくらいなら他の人と会った方が良いよね。時間の無駄だし」
「もう、嫌味言うなら帰って」
「思ったこと言っただけなんだけど」
 
 は、腹立つ!
 昔はまだ優しかったのに、あの頃の天使はどこに行ったんだ。苛立つがクレイはなんだかんだ数冊本を買っていくし一応客だから文句を言えない。悔しい。俺が睨むと、クレイは鼻で笑って去っていった。


 
 
 
 
 
「クレイは素直じゃないからねー」
「クレアも一応お姉ちゃんなんだからもうちょっと文句言ってよ!」
  
 俺はクレイの姉、クレアに愚痴を零していた。久しぶりのクレアとのお茶会なのに、ジェイミー様よりも先にクレイの愚痴を言ってしまう。だけど、あの悪魔が余りにも酷すぎるのだ。毎日のように文句を言われるしジェイミー様の前でも俺の黒歴史を言われそうになるし散々だ。

「いや、私クレイとあんまり会わないから。それにあの子がまともに私の話を聞くと思う?」

 俺はその問いに黙り込んだ。
 クレアとクレイは仲が悪いわけではないが、お互い余り干渉せず、クレイが出ていってからは会話をしているところを見たことがない。
 
「クレアはクレイと全然会ってないけど寂しいとか思わないの?」
「まあ、ちょっとは思うけど、クレイはそういうの思うような性格じゃないでしょ?」
 
 コーヒーに口をつけながらそう言ったクレアの言葉には説得力があった。確かにクレイの性格上、家族に会いたいなんて言わないだろう。
でもやっぱりクレイだって普通の男の子なのだから、たまには会いたいとか思うんじゃないだろうか?

「でもさ、やっぱり家族だし……」
「まあまあ、それはまた今度話しましょう。それより最近どうなの?」
「えっと……どうとは?」
「決まってるじゃない。ジェイミー様との関係よ。デートをしていたって噂だけど本当なの?」
「でっ!?」

 突然出てきた言葉に動揺して持っていたカップを落としそうになる。危なかった。
 
「そんなわけない!」
「ええ?でも手を繋いで歩いている所を見たって聞いたけど」
「いや、その時クレイも一緒にいたから」
 
 そう言うとクレアは驚いた顔をする。
 デートなんて、またそんな噂をされていたのか。最悪な誤解だ。ジェイミー様に迷惑がかかるし、聖女様がまたうちの店に突撃してきたら困るな……。
 
「それなら良いけど」
「はあ、噂広がってるかな?広がってなきゃいいけど……」
「そんな気にしなくても皆直ぐに有り得ないって分かるわよ。世界を救った勇者様がそこら辺の男に落ちるわけないって」
 
 笑顔で辛辣な言葉を放つクレアに俺は顔が引き攣った。クレアは無自覚に毒を吐く所があるけど、そういうところがクレイと似ていると思う。やっぱり兄弟だな。

 それにしても、本当に俺とジェイミー様の噂が広まっていないといいけど。俺は少し不安になりながらお茶会の続きを楽しんだ。
 
「あっ、そうだ。良いものを見せてあげるわ。私の家に来て」

 お茶会が終わるとクレアがそう言って俺の手を引っ張ってきた。珍しい行動に首を傾げるが、クレアは妖しく笑うだけで何も教えてくれない。取り敢えずついていくことにする。
 

 クレアの家に着き、部屋に入ると彼女はクローゼットの奥の方から何かを取り出した。
何だろうと思って見てみると、それは小さな箱だった。クレアはその中から写真集を取りだした。ジェイミー様の写真集かと思ったら、アルバムだった。
 
「ジャジャーン。クレイのアルバム。なんか弱みでも掴めそうじゃない?」
「勝手に見て良いの?」
 
 俺はクレアの言葉を聞いて突っ込みを入れた。いくらなんでも人の弟のアルバムを見るのはまずいだろう。それにもし見つかったら俺が怒られる。
 
 しかしクレアは俺の話を無視してページを捲っていく。するとそこには赤ちゃんの頃の写真や、幼稚園児くらいの頃の写真などが沢山貼られていた。写真の中のクレイは可愛くて天使みたいだ。こんな頃からイケメンで将来有望であることが分かる。

「うーん、なんかどれもぶすっとした顔で面白くないわね」
「まあ、クレイだし」
「ふふ、見てこれ。こんな小さい頃からミルってばクレイから虫を見せられて逃げてるわよ」
 
 あまり幼少期のことは覚えてないが、可哀想に俺……。こんな小さい時から奴に虐められて哀れな少年だ。
 その後もページを捲って思い出を語り合っていると、ふと押し花のようなものが挟んであった。確かミーギロッタという名前の花である。白い花弁が可愛らしいが、山頂の方でしか咲かない珍しい花だ。
 
「何で挟んで……」
「勝手に触んな」
 
 茎に指が触れた途端、ピリッと静電気のような刺激が走った。そして、何故か目の前に突如クレイが姿を現した。
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