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26.勇者様、供給過多
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ジェイミー様からのお誘いに脳内で悲鳴を上げた。
突然過ぎじゃないか?無理無理無理。心の準備が出来ていないが、ジェイミー様は俺を連れて外に出た。現状を理解できないまま強引に腕を引っ張られる。
外には人が居らず、まだ早朝だからか静けさが漂っている。ジェイミー様は俺の手を握ったまま、真っ直ぐ前を向いて歩いていた。
「あの、何処へ行くんですか?」
「武器屋だ。君は危機感が足りない。武器を一つは買っておくべきだ」
武器なんて買っても扱える気がしないんだけど……。
やはりおかしい。ジェイミー様はこんな人じゃない。今まで見ていたジェイミー様は冷静で落ち着いていたのに何故?これが公式との解釈違いってやつか?でも、こういういつもの完璧な面とのギャップも推せる。
相も変わらず推しについて考えてはニヤついていると、突如ジェイミー様に掴まれていない方の腕が引っ張られた。
「おい!」
「わ、クレイだ」
「お前さ、何も持たずにどこ行く気?ほら、上着!」
クレイが俺に上着を被せる。息を切らしている様子から走って来たことが分かる。
「ありがとう」
「ったく、ほんとにお前って僕がいないと駄目だよね」
鼻で笑うクレイにカチンとくる。クレイの方が年下だし、昔はどっちかって言うと俺の方がお世話していた、はず。
ムッとなりまた言い返そうとしたが、その前にジェイミー様が言葉を発した。
「仲が良いな」
どこをどう見てそれを思ったのか。
クレイは淡々と答えた。
「仲良くなんかないですけど。ま、幼なじみみたいなものです。こいつが危なっかしいので昔から面倒見てきたんですよ」
「クレイ、ジェイミー様に余計な事言うなって……」
「事実でしょ?」
うっ、言い返せない。
ジェイミー様を見ると、俺とクレイのやり取りをじっと眺めていた。少しだけ、眉間にシワを寄せているような気がする。ジェイミー様はそのまま何も言わずに歩を進めた。
あれ、何か怒らせた? ジェイミー様の後を追うと、彼は足を止めてこちらを振り向かずに言った。
「私も、君のことをよく知りたいと思っている」
「…………え?」
「君ともっと話がしたい」
突然の告白に、胸が高鳴る。
顔は見えないが、耳がいつもより赤く染まっていた。
「俺も、ジェイミー様のこと、もっともっと知りたいです」
彼に釣られて、いつもは畏れ多くて言えないような言葉が口から出ていた。すると、ジェイミー様は振り向き、愕然とした面持ちを見せた。
図々しかったかと不安になったが、瞬く間にその不安は吹っ飛んだ。
ジェイミー様が相好を崩したからだ。
「嬉しい」
優しく微笑んでそう呟く。
俺は推しの供給過多に耐えきれず、心臓を抑えて蹲った。常に無表情なジェイミー様の笑顔ほど破壊力のあるものは無い。
幸せすぎてどうしよう。俺、今日死ぬのかな?なんか視界も曇ってるし頭がくらくらしているし死んじゃうのかも。でもいいや。ジェイミー様の笑顔を見れたから。我が人生に悔い無し。ありがとう、世界……。
ジェイミー様の笑顔はいつの間にか消えて今度は慌てた様子だ。クレイも驚いて叫んでいるが、俺には何も聞こえない。余りの衝撃にキャパオーバーしてしまったのだ。
そうしてミルは意識を失った。大量の鼻血を流しながら。
突然過ぎじゃないか?無理無理無理。心の準備が出来ていないが、ジェイミー様は俺を連れて外に出た。現状を理解できないまま強引に腕を引っ張られる。
外には人が居らず、まだ早朝だからか静けさが漂っている。ジェイミー様は俺の手を握ったまま、真っ直ぐ前を向いて歩いていた。
「あの、何処へ行くんですか?」
「武器屋だ。君は危機感が足りない。武器を一つは買っておくべきだ」
武器なんて買っても扱える気がしないんだけど……。
やはりおかしい。ジェイミー様はこんな人じゃない。今まで見ていたジェイミー様は冷静で落ち着いていたのに何故?これが公式との解釈違いってやつか?でも、こういういつもの完璧な面とのギャップも推せる。
相も変わらず推しについて考えてはニヤついていると、突如ジェイミー様に掴まれていない方の腕が引っ張られた。
「おい!」
「わ、クレイだ」
「お前さ、何も持たずにどこ行く気?ほら、上着!」
クレイが俺に上着を被せる。息を切らしている様子から走って来たことが分かる。
「ありがとう」
「ったく、ほんとにお前って僕がいないと駄目だよね」
鼻で笑うクレイにカチンとくる。クレイの方が年下だし、昔はどっちかって言うと俺の方がお世話していた、はず。
ムッとなりまた言い返そうとしたが、その前にジェイミー様が言葉を発した。
「仲が良いな」
どこをどう見てそれを思ったのか。
クレイは淡々と答えた。
「仲良くなんかないですけど。ま、幼なじみみたいなものです。こいつが危なっかしいので昔から面倒見てきたんですよ」
「クレイ、ジェイミー様に余計な事言うなって……」
「事実でしょ?」
うっ、言い返せない。
ジェイミー様を見ると、俺とクレイのやり取りをじっと眺めていた。少しだけ、眉間にシワを寄せているような気がする。ジェイミー様はそのまま何も言わずに歩を進めた。
あれ、何か怒らせた? ジェイミー様の後を追うと、彼は足を止めてこちらを振り向かずに言った。
「私も、君のことをよく知りたいと思っている」
「…………え?」
「君ともっと話がしたい」
突然の告白に、胸が高鳴る。
顔は見えないが、耳がいつもより赤く染まっていた。
「俺も、ジェイミー様のこと、もっともっと知りたいです」
彼に釣られて、いつもは畏れ多くて言えないような言葉が口から出ていた。すると、ジェイミー様は振り向き、愕然とした面持ちを見せた。
図々しかったかと不安になったが、瞬く間にその不安は吹っ飛んだ。
ジェイミー様が相好を崩したからだ。
「嬉しい」
優しく微笑んでそう呟く。
俺は推しの供給過多に耐えきれず、心臓を抑えて蹲った。常に無表情なジェイミー様の笑顔ほど破壊力のあるものは無い。
幸せすぎてどうしよう。俺、今日死ぬのかな?なんか視界も曇ってるし頭がくらくらしているし死んじゃうのかも。でもいいや。ジェイミー様の笑顔を見れたから。我が人生に悔い無し。ありがとう、世界……。
ジェイミー様の笑顔はいつの間にか消えて今度は慌てた様子だ。クレイも驚いて叫んでいるが、俺には何も聞こえない。余りの衝撃にキャパオーバーしてしまったのだ。
そうしてミルは意識を失った。大量の鼻血を流しながら。
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