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22.勇者様、異世界人

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「ちょっ、そそそそこの君、この薬、体にかかりました?」

 何故か急に焦り始める彼に対して取り敢えず頷くと頭を抱えた。

「うわぁぁぁ嘘でしょう。拙者のせいじゃありませんからね!?アレン氏のせいですぞ!」
「え、俺がなんかしたか?」
 
 魔法士さんは大慌て。俺とアレン様は一体何が大変なのか首を傾げる。
 
「それは口封じの薬。効果は短いですが希釈されてないから一日は話せなくなります……」

 そんな馬鹿な、と思ったが確かに「あー」「いー」と言葉を出そうとしても口からは何の音も鳴らない。声を出しているつもりなのに傍から見ればただ口を開閉しているように見える。不思議な感覚だ。
 声が出ないだけで他に不便は無いし不幸中の幸いだと思っておこう。午後からの仕事はオリヴァーさんにお客さんの対応をしてもらって俺は裏方で働けば良いだろう──。
 今日の予定を頭の中で整理していると不安げに瞳を揺らして彼が話しかけてきた。
 
「あ、あの、ミル氏?急に黙り込んで怒っちゃいました?ななな治す薬もありますけど高いから払ってもらう事になっちゃいますけど」
 
 俺の機嫌を窺う彼に、怒ってませんよ、と言おうとしたが声が出ない事を思い出す。そして笑顔で首を横に振り、大丈夫です!と言うつもりで親指を立てた。すると、彼の目がパチパチと瞬く。
 
「えっ、ミル氏ってもしや異世界人?」
 
 どういうこと?
 異世界って違う世界の人って意味、だよな?違います、と首を横に振ると彼は顎に手を置きまたブツブツと小声で呟き始めた。
 
「いやでも文献に載っていた異世界人でいう所おkって意味のポーズしたし何故にそれを理解した?そういや拙者の一人称にも全然動じてないし、えっ、所謂ラノベである異世界転生しちゃった系主人公では?」
「おーい、そろそろ良いか?俺ら仕事あるし早く帰んねえといけないからさ」
「こっちが仕事中なのに入ってきたくせにどの口が言ってんだか……」
 
 ケッとアレン様を睨みながら魔法士さんは裏に戻って行った。明らかにキレてる彼と一方アレン様は全く気にした様子は無く「声出ねえと話せねえから静かだなー」と笑いながら話しかけてきた。多分こういうところ含め魔法士さんはアレン様と気が合わないのだろう。
 そして裏から一つの小さな瓶を持ってきた。中には檸檬を搾ったような色の液体が入っていた。
 
「ありがとな。うし、早速じゃあ飲むか」
「飲んだらもう帰って下さい」
 
 そしてアレン様は液体を希釈し他の液体も混ぜて俺に渡した。急かされるままそれを飲み干そうとした時、また新たな声が突如入ってきた。
 
「グズ魔法士!いつまでサボってんの?」
「ヒョエッ、拙者のせいじゃないです!この巨人のせいで」
「アァ?騒がしいと思ったらまたゴリラか。他に当たれって言ったの忘れたわけ?」

 突如現れた人は魔法士さんとアレン様に交互に怒鳴りつける。聞き覚えのある声だった。
 ネイビーの髪が揺れてルビーレッドの瞳が俺に向けられる。そしてその目が見開いた。
 
「……ミル?何でこんなとこにいんの」

 クレイ。
 俺の親友クレアの弟であり、幼馴染だ。
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