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16.勇者様、お久しぶりです
しおりを挟む「ミル、今日は一緒に食べないの?」
「うん。オリヴァーさんになるべく栄養のある物を食べさせたいから」
「あら、それならこれをあげるといいわ。オマケしてあげる」
「ありがとう!」
クレアの厚意に甘えて受け取る。
さて、次はオリヴァーさんに健康に良いスープを作る為に野菜を買いに行こうっと。
「玉ねぎと人参一つずつください」
「はいよー」
そうして買い物が終わり家へ向かう途中、騎士の制服を見掛ける。横には美しい黒髪を持つ少女、ってあれは聖女様じゃないか。つまりは騎士の男もまさか、と目を移すとやはりジェイミー様だった。二人の姿は周囲の人々の目線を奪い、美術館に並ぶ肖像画に紛れ込んでも違和感の無いお似合いの美男美女だ。
俺も自然と見詰めていると店主が腕を組んでほぅ、と感嘆の声を漏らした。
「綺麗だなぁ。こんな所で見れるなんて相当珍しいぜ」
「よくデートとかしないんですか?」
「ああ。聖女様は基本教会から出歩かねぇし二人とも有名人だから気安く外出れねぇだろ。それにしてもマジで聖女様可愛いよなぁ」
強面な店主だと思っていたが、聖女様を見た顔はデレデレで鼻の下を伸ばしている。
確かに今の聖女様は、以前の威嚇してる表情と比べ、穏やかに大きな瞳を細めて可愛らしい笑みを浮かべている。彼女一人でも神々しいがジェイミー様がいることにより神々しさが増している。
拝んだらご利益あるかな、と手を合わせる。そして家に帰ろうとすると腕を掴まれた。店主かと思い振り返ると神が居た。
「久しいな」
聞き慣れていたはずの声が、何故か威圧を感じる。
「お、お久しぶりです」
「何をしている?」
「買い物です」
「重そうだな」
するとジェイミー様は俺の持っていた野菜やパンをひょいっと片手で持った。彼の行動に周囲の人々も目を丸くする。勿論俺も動揺する。
「えっ自分で持てますよ。だからお気にせず」
「私がしたいだけだ。行き先はいつもの本屋か?」
「そうですけど……」
そして彼はそのまま振り向きもせず早足で本屋へ向かう。
置いてかれた聖女様は彼の姿に呆然としていた。しかし、俺に視線を移した瞬間また睨んできた。
「私はまだ負けたと思っていませんからね!」
何に負けたと言ってるのか。疑問に思いながらも俺は取り敢えず聖女様に一度頭を下げてジェイミー様を追い掛けた。俺の野菜とパンが囮になっているからな……。
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