20 / 31
20.勇者様、カツ
しおりを挟む
ミルは悩んだ。鍛えると宣言したが何から始めれば良いか分からないからだ。取り敢えず大量の本を持ち上げたり朝は近くの広場まで走ったりしている。しかし体は相変わらずもやしのようにヒョロいままだ。だけどめげない。これもジェイミー様に相応しい男になるため!
そして今日も前が見えないくらいに積んだ本を運ぶが突如視界に本ではなく逞しい筋肉が見えた。そう、それはミルが求めている完璧な筋肉だ。
「よー、チビ」
そう言って目の前の彼は手を振った。少し跳ねている鮮やかな赤髪、蜂蜜色の瞳、そして何よりも胸元のボタンが飛んでしまいそうな大胸筋、戦士のアレン様だ。
まさかの人物に呆気に取られたが直ぐに意識を取り戻し俺も笑みを返した。
「こんにちは。お久しぶりですね」
「元気そうだな。だけど無理すんなよ、また前みたいになると治療師達が悲鳴あげるぜ」
セミの鳴き声のような裏声で大袈裟にキャーと言う。大柄な人がか弱い女性のような仕草をするアンバランスさが可笑しくてつい吹き出してしまった。
「ふふ、もう怪我はしないように最低限気を付けてます。でもこれは筋肉をつけるためで」
「筋肉?」
「前言いましたよね?マッチョになりたいって。だからちょっと多めに本持ったりして頑張ってるんです」
そう言うと、彼は拍子抜けしたと言わんばかりに目を大きく開いて固まったが直ぐに大きな声で笑い始めた。
そんな笑わなくてもいいじゃないですかとむくれるが、彼は未だ豪快に笑いながら滲む涙を拭った。
「いやなぁそんな簡単に筋肉が出来るわけねえだろ」
「うっ、でもどうすればいいか分からないんですよ。だからせめても何かしようかなって思ったんです」
「はあー、駄目だ駄目だ。先ずその体じゃ無理。最初は体質から変えねえと」
体質を変える、と言われてもそれこそそんな簡単に出来ないだろう。急に筋肉質になりました、なんて聞いたことが無い。
彼はニヤッと口の右端を上げて笑った。
「休憩時間に店の前で待ってろ。俺のオススメをやるよ」
アレン様の残した言葉を信じ、仕事を終えた後に店の前で外の様子を見ていた。
流石に立ち尽くしているのは怪しいから箒を手に取り掃除をしているように見せて待っていると、俺の名前を呼ぶ大きな声が聞こえて顔を上げた。
「んじゃ行こうぜ」
俺の腕を掴み何処かへ向かった。強引な姿に戸惑うが俺も早足で追い掛けた。掴んでいる手が少し痛いが我慢だ我慢。俺は強い男だから。それにしても、手が凄い大きいな。俺の腕を包んでもまだ余るくらいだ。俺もこんな風になりたいな。
かなりの距離を歩くと何故か着いたのは騎士団詰所。少し待ってくれと言われその場で立っていると彼は馬を連れて現れた。
「こいつに乗って行くぞ」
「えっ馬に乗ったこと一度もないんですけど大丈夫ですか?」
「まーなんとかなるだろ」
適当過ぎる……。下手な乗り方をして馬が怪我でもしたら可哀想だ。アレン様と似て大きな馬だが黒い瞳がつぶらで可愛らしく見えてきた。
「この子の名前は何ですか?」
「カツ!」
「え?」
「願掛けみたいなもんだけどカツって名前のやつと一緒にいればなんか勝つ感じするだろ?イケてる名前じゃね?」
イケてるのか?自慢げに何故か笑っているのも謎である。しかし名前はどうであれ、こんな可愛い子に乗るのは、と躊躇する俺の両脇にアレン様は手を入れて簡単に持ち上げて馬の上に置く。
ひぃ、どこにも掴まるところないし早速落ちてしまいそうなんですけど。小刻みに震えている俺の前にアレン様は座った。
「よしっ落っこちそうだったら俺の体にしがみついてろよー。行くぞ!」
「うぎゃっ、しししししぬ」
そして今日も前が見えないくらいに積んだ本を運ぶが突如視界に本ではなく逞しい筋肉が見えた。そう、それはミルが求めている完璧な筋肉だ。
「よー、チビ」
そう言って目の前の彼は手を振った。少し跳ねている鮮やかな赤髪、蜂蜜色の瞳、そして何よりも胸元のボタンが飛んでしまいそうな大胸筋、戦士のアレン様だ。
まさかの人物に呆気に取られたが直ぐに意識を取り戻し俺も笑みを返した。
「こんにちは。お久しぶりですね」
「元気そうだな。だけど無理すんなよ、また前みたいになると治療師達が悲鳴あげるぜ」
セミの鳴き声のような裏声で大袈裟にキャーと言う。大柄な人がか弱い女性のような仕草をするアンバランスさが可笑しくてつい吹き出してしまった。
「ふふ、もう怪我はしないように最低限気を付けてます。でもこれは筋肉をつけるためで」
「筋肉?」
「前言いましたよね?マッチョになりたいって。だからちょっと多めに本持ったりして頑張ってるんです」
そう言うと、彼は拍子抜けしたと言わんばかりに目を大きく開いて固まったが直ぐに大きな声で笑い始めた。
そんな笑わなくてもいいじゃないですかとむくれるが、彼は未だ豪快に笑いながら滲む涙を拭った。
「いやなぁそんな簡単に筋肉が出来るわけねえだろ」
「うっ、でもどうすればいいか分からないんですよ。だからせめても何かしようかなって思ったんです」
「はあー、駄目だ駄目だ。先ずその体じゃ無理。最初は体質から変えねえと」
体質を変える、と言われてもそれこそそんな簡単に出来ないだろう。急に筋肉質になりました、なんて聞いたことが無い。
彼はニヤッと口の右端を上げて笑った。
「休憩時間に店の前で待ってろ。俺のオススメをやるよ」
アレン様の残した言葉を信じ、仕事を終えた後に店の前で外の様子を見ていた。
流石に立ち尽くしているのは怪しいから箒を手に取り掃除をしているように見せて待っていると、俺の名前を呼ぶ大きな声が聞こえて顔を上げた。
「んじゃ行こうぜ」
俺の腕を掴み何処かへ向かった。強引な姿に戸惑うが俺も早足で追い掛けた。掴んでいる手が少し痛いが我慢だ我慢。俺は強い男だから。それにしても、手が凄い大きいな。俺の腕を包んでもまだ余るくらいだ。俺もこんな風になりたいな。
かなりの距離を歩くと何故か着いたのは騎士団詰所。少し待ってくれと言われその場で立っていると彼は馬を連れて現れた。
「こいつに乗って行くぞ」
「えっ馬に乗ったこと一度もないんですけど大丈夫ですか?」
「まーなんとかなるだろ」
適当過ぎる……。下手な乗り方をして馬が怪我でもしたら可哀想だ。アレン様と似て大きな馬だが黒い瞳がつぶらで可愛らしく見えてきた。
「この子の名前は何ですか?」
「カツ!」
「え?」
「願掛けみたいなもんだけどカツって名前のやつと一緒にいればなんか勝つ感じするだろ?イケてる名前じゃね?」
イケてるのか?自慢げに何故か笑っているのも謎である。しかし名前はどうであれ、こんな可愛い子に乗るのは、と躊躇する俺の両脇にアレン様は手を入れて簡単に持ち上げて馬の上に置く。
ひぃ、どこにも掴まるところないし早速落ちてしまいそうなんですけど。小刻みに震えている俺の前にアレン様は座った。
「よしっ落っこちそうだったら俺の体にしがみついてろよー。行くぞ!」
「うぎゃっ、しししししぬ」
14
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【BL】Christmas tree〜僕たちの偽りの顔〜
樺純
BL
トモヤはある日、同じBARに勤めるユキトにあるお願いをされる。それは女装し自分の彼女のフリをしてほしいとのこと。トモヤは絶対に嫌だと断るが金欠だったこともあり、謝礼欲しさにそのユキトのお願いを受けてしまう。初めての女装に戸惑いながらも周りが思わず振り返るほどの美女に変身したトモヤ。そんな時、偶然にもトモヤは女装姿のまま有名なホストのジョウと出会ってしまう。女慣れしたジョウに不快感を露わにするトモヤ。しかし、ジョウはトモヤが男だとも知らず、女装姿のトモヤに惹かれてしまうのだが…
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる