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13.勇者様、距離置きます!
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その日以降もジェイミー様はよく書店へ訪れ、昼食を共にしたり時々店の手伝いをしてもらったりもした。まあ、そんな幸せ過ぎる日々が平和に続くことは無い。
「ミル。ちゃんと答えて。この写真は本当なの?」
目の前にいるクレアは鬼のような目をして睨んでいる。彼女が持つ一枚の写真には、俺とジェイミー様が並んで歩いている所が写っていた。
ここ一ヶ月毎日のように一緒にいたからそりゃあ誰でも気付くだろう。最近一人で買い出しに行く時もチラチラ視線を感じていたし、不味いな……。
「付き合ってるの!?あんなに『ジェイミー様は恋人とかそういう次元じゃない。崇めるものだから』とか言ってたくせに嘘だったの?」
「違う違う違います!!」
「じゃあこの写真は何なのよ!しかもこれだけじゃなくてずっと一緒にいるらしいわね?一体どういう仲なの?」
問い詰めるクレア。徐々に俺に顔を近付けてくる。可愛らしいクレアの顔が今や魔王のようだ。
「じ、実はーーー」
一連の流れを伝えると、クレアは落ち着きを取り戻した。その代わり、大きなため息を吐いて光の無い目で俺を見た。
「成程ね。あの日の無謀な行動がまさかそんな結果になっているとは知らなかったわ」
「うん。ほんっっとにただの知り合い程度で大した仲じゃないから!」
「恋愛感情無いなら私は構わないけど、身分が釣り合ってないとか怒る女もいるからね?もう結構目つけられてるし夜道では背中に気を付けなさいよ」
「こわ……」
嫉妬怖い。だが俺は男だし流石にそこまで酷い事はされないだろう。それがフラグだとは知らずに、俺は呑気にクレアと再びいつもの推し語りを始めた。
「単刀直入に言います。貴方、何者ですか!」
目の前の美少女は腰まである黒髪を靡かせ、目尻を吊り上げて放った。怒り顔の彼女と一方、俺は彼女の黒に目を奪われていた。
この国では黒髪黒目なんて居ない。未知のものだが、俺は酷く彼女の容姿に既視感を感じていた。おおよそ前世が関係しているのだろう。何でこの子と俺の前世が関わるのか、と考え込んでいると彼女が突如カウンターを思いっきり叩いた。
「聞いてるんですけど!?」
「あっ、すみません!俺の名前はミルでここで働いてる人間です」
「それは見て分かりますが、私が聞きたい事は勇者様とのご関係です」
予想はしていたがジェイミー様関連らしい。本当に俺とジェイミー様はただのファンと推しみたいな関係だけど、どう伝えれば良いのか……。
「魔物が襲来した時に助けて頂いたのでそれ以来ちょくちょく会うくらいの仲です、かね」
「ちょくちょく?噂によると毎日のようにこの本屋に足繁く通っているらしいですが?」
彼女の鋭い発言に言葉が詰まった。彼女の発言は噂でもなんでもなく、事実だからだ。
何故かジェイミー様は毎日この店に来ては昼食を誘ってくる。
以前のような食堂には部外者が毎日通うのは流石に肩身狭いから、今はオリヴァーさんが貸してくれた空き部屋で食べているものの、街の人々はそれに薄々気が付いている。
この先、もしかしたら店にも影響を与えるかもしれない。客が増えて売上が上がるなら良いが彼女のようにクレームを言ってくる人が増えたらオリヴァーさんに迷惑が掛かるしどうにかして対処しないと。
「いいですか。勇者様はとてもお忙しい方なのです。ここは騎士寮からも遠いですし毎日勇者様に食物を強請らないで下さい!」
「ねだっ!ジェイミー様にそんな失礼な事考えませんよ!」
「じゃあ何で毎日勇者様に昼食を持って来させているんですか。別に勇者様が誰かと食事するのは自由だと思いますけど、財布扱いされていたら看過できません」
財布扱いなんてとんでもない事を言い出すな。俺が推しを財布?有り得ない有り得ない。寧ろ俺が貢ぎたいのに。
ジェイミー様が単に毎日持ってくるだけなのに酷い言い掛かりだ。だが、この子の気持ちも分からないことも無い。俺だって逆の立場だったら推しに貢がさせるなんて何様かと思う。
「少しは遠慮したらどうですか?勇者様の気持ちを考えてくださ」
「何を言ってる、聖女」
「ひゃっ勇者様!?」
彼女の後ろでジェイミー様は険しい顔をして立っていた。そういえばちょうど今が騎士の昼休憩の時間だ。勇者の登場に先程までツンツンしていた彼女もデレデレである。頬を紅潮させ白い歯を見せて笑う。
「勇者様、お久しぶりです!こんな所で会えるなんて嬉しいです」
「何を話してた?」
「つまらない話ですよ。それよりも勇者様、私今日こそ勇者様と一緒に食べたくて作ってきたんです。私の手作りなのでお口に合うかは不安ですけど」
「すまない。彼と食べる予定だから他を当たってくれ」
ジェイミー様は俺を見ていつもの部屋へ行こうとするが、当然彼女はブチ切れ寸前である。目尻に涙を溜めて俺を睨み付けている。それを気にせずジェイミー様は足を進める。
泣きそうだったしなんか可哀想だな……。しかも俺みたいなのがジェイミー様と食べるよりあっちの可愛い子の方が良いだろう。さっき考えた通り少し距離を置かないと。
「ええと、すみません。用意して頂いたのに申し訳ないですが、今日から他で食べるので御二人で食べて下さい。そ、それでは失礼します!」
勇気を振り絞って言い、俺は逃げる様に店を出た。
「ミル。ちゃんと答えて。この写真は本当なの?」
目の前にいるクレアは鬼のような目をして睨んでいる。彼女が持つ一枚の写真には、俺とジェイミー様が並んで歩いている所が写っていた。
ここ一ヶ月毎日のように一緒にいたからそりゃあ誰でも気付くだろう。最近一人で買い出しに行く時もチラチラ視線を感じていたし、不味いな……。
「付き合ってるの!?あんなに『ジェイミー様は恋人とかそういう次元じゃない。崇めるものだから』とか言ってたくせに嘘だったの?」
「違う違う違います!!」
「じゃあこの写真は何なのよ!しかもこれだけじゃなくてずっと一緒にいるらしいわね?一体どういう仲なの?」
問い詰めるクレア。徐々に俺に顔を近付けてくる。可愛らしいクレアの顔が今や魔王のようだ。
「じ、実はーーー」
一連の流れを伝えると、クレアは落ち着きを取り戻した。その代わり、大きなため息を吐いて光の無い目で俺を見た。
「成程ね。あの日の無謀な行動がまさかそんな結果になっているとは知らなかったわ」
「うん。ほんっっとにただの知り合い程度で大した仲じゃないから!」
「恋愛感情無いなら私は構わないけど、身分が釣り合ってないとか怒る女もいるからね?もう結構目つけられてるし夜道では背中に気を付けなさいよ」
「こわ……」
嫉妬怖い。だが俺は男だし流石にそこまで酷い事はされないだろう。それがフラグだとは知らずに、俺は呑気にクレアと再びいつもの推し語りを始めた。
「単刀直入に言います。貴方、何者ですか!」
目の前の美少女は腰まである黒髪を靡かせ、目尻を吊り上げて放った。怒り顔の彼女と一方、俺は彼女の黒に目を奪われていた。
この国では黒髪黒目なんて居ない。未知のものだが、俺は酷く彼女の容姿に既視感を感じていた。おおよそ前世が関係しているのだろう。何でこの子と俺の前世が関わるのか、と考え込んでいると彼女が突如カウンターを思いっきり叩いた。
「聞いてるんですけど!?」
「あっ、すみません!俺の名前はミルでここで働いてる人間です」
「それは見て分かりますが、私が聞きたい事は勇者様とのご関係です」
予想はしていたがジェイミー様関連らしい。本当に俺とジェイミー様はただのファンと推しみたいな関係だけど、どう伝えれば良いのか……。
「魔物が襲来した時に助けて頂いたのでそれ以来ちょくちょく会うくらいの仲です、かね」
「ちょくちょく?噂によると毎日のようにこの本屋に足繁く通っているらしいですが?」
彼女の鋭い発言に言葉が詰まった。彼女の発言は噂でもなんでもなく、事実だからだ。
何故かジェイミー様は毎日この店に来ては昼食を誘ってくる。
以前のような食堂には部外者が毎日通うのは流石に肩身狭いから、今はオリヴァーさんが貸してくれた空き部屋で食べているものの、街の人々はそれに薄々気が付いている。
この先、もしかしたら店にも影響を与えるかもしれない。客が増えて売上が上がるなら良いが彼女のようにクレームを言ってくる人が増えたらオリヴァーさんに迷惑が掛かるしどうにかして対処しないと。
「いいですか。勇者様はとてもお忙しい方なのです。ここは騎士寮からも遠いですし毎日勇者様に食物を強請らないで下さい!」
「ねだっ!ジェイミー様にそんな失礼な事考えませんよ!」
「じゃあ何で毎日勇者様に昼食を持って来させているんですか。別に勇者様が誰かと食事するのは自由だと思いますけど、財布扱いされていたら看過できません」
財布扱いなんてとんでもない事を言い出すな。俺が推しを財布?有り得ない有り得ない。寧ろ俺が貢ぎたいのに。
ジェイミー様が単に毎日持ってくるだけなのに酷い言い掛かりだ。だが、この子の気持ちも分からないことも無い。俺だって逆の立場だったら推しに貢がさせるなんて何様かと思う。
「少しは遠慮したらどうですか?勇者様の気持ちを考えてくださ」
「何を言ってる、聖女」
「ひゃっ勇者様!?」
彼女の後ろでジェイミー様は険しい顔をして立っていた。そういえばちょうど今が騎士の昼休憩の時間だ。勇者の登場に先程までツンツンしていた彼女もデレデレである。頬を紅潮させ白い歯を見せて笑う。
「勇者様、お久しぶりです!こんな所で会えるなんて嬉しいです」
「何を話してた?」
「つまらない話ですよ。それよりも勇者様、私今日こそ勇者様と一緒に食べたくて作ってきたんです。私の手作りなのでお口に合うかは不安ですけど」
「すまない。彼と食べる予定だから他を当たってくれ」
ジェイミー様は俺を見ていつもの部屋へ行こうとするが、当然彼女はブチ切れ寸前である。目尻に涙を溜めて俺を睨み付けている。それを気にせずジェイミー様は足を進める。
泣きそうだったしなんか可哀想だな……。しかも俺みたいなのがジェイミー様と食べるよりあっちの可愛い子の方が良いだろう。さっき考えた通り少し距離を置かないと。
「ええと、すみません。用意して頂いたのに申し訳ないですが、今日から他で食べるので御二人で食べて下さい。そ、それでは失礼します!」
勇気を振り絞って言い、俺は逃げる様に店を出た。
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