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現在、俺は婚約者の部屋に不法侵入し、クローゼットから服を漁ってます。決して盗みたいとか浮気を疑ってるとかそんなものでは無い。
元はと言えば婚約者が原因である。
俺はベータで婚約者はアルファ。男同士で第二の性も違い、普通なら付き合う事は無かった俺たちだが、生まれる前から許嫁だと決められていたため仕方なく付き合ってる。まあ、仕方なくと言っても俺は普通に恋をしてるが。ベータのくせに。
最初は許嫁だとしてもアルファの男が相手とか冗談じゃないと思っていた。だが、相手の男は俺の価値観を覆すくらい良い男だった。ベータの俺を見下すことも無くいつも優しい笑顔で話を聞いてくれる。可愛いのかの字もない俺を「可愛い」「可愛い」と愛を囁いてくれる。嫌な事があった時も何も言わずに抱き締めてくれるだけで、それが凄く嬉しくて。
もう俺は婚約者の沼にずぶずぶと堕ちた。もう上がれる気がしない。
だが、相手はどうだろうか。顔は可愛くないし身長も平均並みで正に漫画のモブのような男。性格も可愛げは無いし、素直になれず「格好良い」の一言もいつも言えない。
嫌われてもしょうがない。
「このままだと本当に婚約破棄……」
「不穏な言葉だね」
「うぎゃっ、ゆ、夕夜。急に話しかけてくんなよ」
「婚約者が婚約破棄なんて言ってたら黙っていられないよ」
宝石のような瞳を細めるのは夕夜こと俺の婚約者である。同じ学ランを着ているのに彼が着れば何だかとても高そうに見える。そう、彼は俺に合わせて公立の高校に通っているのだ。夕夜の成績なら余裕でもっと良い高校に入れただろうし、アルファばかりの名門校に通える事も可能だった。それなのに、俺なんかに合わせて平凡な学校に通っているのだ。
朝もわざわざ俺の部屋まで迎えに来てくれる。それも俺が起きる前から。優し過ぎる。おかしいって。こんな俺の相手にするべきじゃないって。夕夜の親も俺なんかを相手に選んでよかったのかと疑問だが、いつも夕夜と同じ花弁が開くような笑顔で迎えてくれる。
「瑛太、聞こえてる?」
「ごっ、ごめん。聞いてなかった」
「婚約破棄って?」
「あー、それは漫画の話。いちいち気にしなくて良いよ。そんなの」
「気になるよ。大事な婚約者の言葉なら」
わーもう、朝からキラキラした顔で口説いてくんな!変な気持ちになるだろ!
俺は顔が火照っていることに気付かれないようにそっぽ向いた。そんな様子の俺を気にせず夕夜はニコニコと笑みを浮かべて話し始めた。朝ご飯は美味しかったか、とか、今日の授業は何、とか。普通の会話である。
世間のアルファはお高く気取ってるのが大半で、朝ご飯の話なんてしない。家にシェフがいるのは当たり前だし歩いて登校なんて考えられない!と言うだろう。それなのに少し庶民的な夕夜がまた好きだ。本当は夕夜ならもっと良い暮らしが出来るのに俺に合わせてくれるとこも優しくて好きだ。でも、優しいを超えて申し訳ない思いが勝ってしまうが。
本当に俺なんかが相手で良いのかと悩み、彼に別れを切り出したがピシャリと断られた。そして誰かに何か言われたのかと迫られ、余りの気迫に正直に自分が相手で不安だと話すと、夕夜はくすくすと笑った。
『瑛太ったら可愛いな。瑛太以上に良い人なんてこの世に存在しないよ。どうして卑下するの?僕は瑛太に捨てられたら生きていけない。だからそんな事言わないで』
と、甘い声で言われてキュン死するかと思った。それから何度も夕夜と釣り合わないから別れようと思ったが、その度にあの言葉を言われ、結局今もズブズブと婚約者の沼に沈んでいる。
「瑛太は僕との将来について悩んでるのかな」
「へっ!?な、悩んでないから」
「そっか。まあ僕は婚約破棄なんてするつもり絶対無いからね」
「分かったから!もうちょっとで学校着くし言わないで」
俺達の関係は家族以外誰にも言っていない。当たり前だ。アルファとベータの婚約者なんて聞いた事が無いし何を言われるか分からない。きっとこの極上のαの相手が平凡地味βだと知られたらブーイングの嵐。俺はオメガや女子に虐げられ、夕夜は直ぐに転校である。
「僕はバレても良いけど」
「お前はな!俺は駄目なの!最悪死ぬから」
「大丈夫。その時は僕も一緒に死ぬよ」
「怖いこと言うな!」
時々夕夜は変わった冗談を言う。アメリカンジョークならぬアルファジョークとか?余り面白くないし怖いだけなんだけど。もし俺を追って夕夜が死んだら俺の家族にまでブーイングを受けることになるだろう。お、恐ろしい。考えたくもない。
そんな話を繰り広げている間に、いつの間にか俺達は学校に着いていた。夕夜と俺は隣のクラスだが階段を挟んでいるため少し遠い。
「じゃあまたね、瑛太。寂しくなったらいつでも来てね」
「寂しくならねーよ!」
夕夜は笑いながら自分のクラスへ向かうが、夕夜の背中を見るとちょっと寂しい気持ちもある。同じクラスだったら良かったのに。まあ婚約者なことは秘密だし家でいる時以上話せないけど。
元はと言えば婚約者が原因である。
俺はベータで婚約者はアルファ。男同士で第二の性も違い、普通なら付き合う事は無かった俺たちだが、生まれる前から許嫁だと決められていたため仕方なく付き合ってる。まあ、仕方なくと言っても俺は普通に恋をしてるが。ベータのくせに。
最初は許嫁だとしてもアルファの男が相手とか冗談じゃないと思っていた。だが、相手の男は俺の価値観を覆すくらい良い男だった。ベータの俺を見下すことも無くいつも優しい笑顔で話を聞いてくれる。可愛いのかの字もない俺を「可愛い」「可愛い」と愛を囁いてくれる。嫌な事があった時も何も言わずに抱き締めてくれるだけで、それが凄く嬉しくて。
もう俺は婚約者の沼にずぶずぶと堕ちた。もう上がれる気がしない。
だが、相手はどうだろうか。顔は可愛くないし身長も平均並みで正に漫画のモブのような男。性格も可愛げは無いし、素直になれず「格好良い」の一言もいつも言えない。
嫌われてもしょうがない。
「このままだと本当に婚約破棄……」
「不穏な言葉だね」
「うぎゃっ、ゆ、夕夜。急に話しかけてくんなよ」
「婚約者が婚約破棄なんて言ってたら黙っていられないよ」
宝石のような瞳を細めるのは夕夜こと俺の婚約者である。同じ学ランを着ているのに彼が着れば何だかとても高そうに見える。そう、彼は俺に合わせて公立の高校に通っているのだ。夕夜の成績なら余裕でもっと良い高校に入れただろうし、アルファばかりの名門校に通える事も可能だった。それなのに、俺なんかに合わせて平凡な学校に通っているのだ。
朝もわざわざ俺の部屋まで迎えに来てくれる。それも俺が起きる前から。優し過ぎる。おかしいって。こんな俺の相手にするべきじゃないって。夕夜の親も俺なんかを相手に選んでよかったのかと疑問だが、いつも夕夜と同じ花弁が開くような笑顔で迎えてくれる。
「瑛太、聞こえてる?」
「ごっ、ごめん。聞いてなかった」
「婚約破棄って?」
「あー、それは漫画の話。いちいち気にしなくて良いよ。そんなの」
「気になるよ。大事な婚約者の言葉なら」
わーもう、朝からキラキラした顔で口説いてくんな!変な気持ちになるだろ!
俺は顔が火照っていることに気付かれないようにそっぽ向いた。そんな様子の俺を気にせず夕夜はニコニコと笑みを浮かべて話し始めた。朝ご飯は美味しかったか、とか、今日の授業は何、とか。普通の会話である。
世間のアルファはお高く気取ってるのが大半で、朝ご飯の話なんてしない。家にシェフがいるのは当たり前だし歩いて登校なんて考えられない!と言うだろう。それなのに少し庶民的な夕夜がまた好きだ。本当は夕夜ならもっと良い暮らしが出来るのに俺に合わせてくれるとこも優しくて好きだ。でも、優しいを超えて申し訳ない思いが勝ってしまうが。
本当に俺なんかが相手で良いのかと悩み、彼に別れを切り出したがピシャリと断られた。そして誰かに何か言われたのかと迫られ、余りの気迫に正直に自分が相手で不安だと話すと、夕夜はくすくすと笑った。
『瑛太ったら可愛いな。瑛太以上に良い人なんてこの世に存在しないよ。どうして卑下するの?僕は瑛太に捨てられたら生きていけない。だからそんな事言わないで』
と、甘い声で言われてキュン死するかと思った。それから何度も夕夜と釣り合わないから別れようと思ったが、その度にあの言葉を言われ、結局今もズブズブと婚約者の沼に沈んでいる。
「瑛太は僕との将来について悩んでるのかな」
「へっ!?な、悩んでないから」
「そっか。まあ僕は婚約破棄なんてするつもり絶対無いからね」
「分かったから!もうちょっとで学校着くし言わないで」
俺達の関係は家族以外誰にも言っていない。当たり前だ。アルファとベータの婚約者なんて聞いた事が無いし何を言われるか分からない。きっとこの極上のαの相手が平凡地味βだと知られたらブーイングの嵐。俺はオメガや女子に虐げられ、夕夜は直ぐに転校である。
「僕はバレても良いけど」
「お前はな!俺は駄目なの!最悪死ぬから」
「大丈夫。その時は僕も一緒に死ぬよ」
「怖いこと言うな!」
時々夕夜は変わった冗談を言う。アメリカンジョークならぬアルファジョークとか?余り面白くないし怖いだけなんだけど。もし俺を追って夕夜が死んだら俺の家族にまでブーイングを受けることになるだろう。お、恐ろしい。考えたくもない。
そんな話を繰り広げている間に、いつの間にか俺達は学校に着いていた。夕夜と俺は隣のクラスだが階段を挟んでいるため少し遠い。
「じゃあまたね、瑛太。寂しくなったらいつでも来てね」
「寂しくならねーよ!」
夕夜は笑いながら自分のクラスへ向かうが、夕夜の背中を見るとちょっと寂しい気持ちもある。同じクラスだったら良かったのに。まあ婚約者なことは秘密だし家でいる時以上話せないけど。
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