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7.二歳児な不良
しおりを挟むそして啓吾がクラスに来なくなった代わりに山野が俺を監視するようになった。
授業中、先生に「山野くん、聞いてますか」と聞かれても問題を当てられても完全無視。体育でも走りながら俺を見ている。もう怖いって。マジでやめてよ。
俺にもう助けは無いのか。あんなに仲が良かった光ですら今は近寄ろうともして来ない。あの薄情者め。
睨み付けていると噂の山野が俺に近付いてきた。
「佐藤さん。アイツになんか用ッスか?」
「え?別に無いよ」
「俺、シメときましょうか」
「駄目駄目駄目!!」
何故、見ている=シメるって思考になるのか。山野の前では他との接触は控えないとな。まあ控えると言っても誰も近寄ってこないんですけどね。アハ。ハハハ。
「……アイツとは、どういう仲なんだ」
アイツって誰?
日課になってしまった屋上での食事。いつにも増して静かな啓吾が口を開いて出した言葉がこの一言。
アイツとは……?彼と俺の共通する人物は正にあの男しかいない。
「や、山野とはそんなに話してないけど良い人だと思ってるよ」
「山野じゃない。アイツだ。田中」
田中……?ああ、光のことか。
「ただのダチじゃないのか」
過去は友達だったが今はもう友達ですら無い。きっと俺達があの時のようにふざけ合う日は来ないかもしれない。
結構胸が痛み俯きながら首を横に振ると、啓吾は息を飲んだ。
「……お前がアイツをどう思おうと俺はお前を離す気は無い」
何故急に脅迫を?今傷心中なのに追い込まなくても良いだろう。
無意識に口を尖らせると、突如啓吾は顔を近付け唇を近付けてきた。前回と同じように咄嗟に手で壁を作ると手の甲に啄むような口付けをされる。え、何でこいつまたキスしようとしてんの?つか擽ったいから手の甲にチュッチュするのはやめて欲しい。
ドン引きしていると、彼はハッとして突然地面に頭を落とす様に土下座をした。
「悪い!!また耐えられなかった!幾らでも俺を殴っていい。だが、お前がアイツを愛してるのは分かっても、俺はお前を離せない」
は?え、色々ツッコミどころ満載でどこからツッコめばいいんだ?
兎に角、一番誤解して欲しくない所を否定しておこう。
「俺、光のこと愛してるとか無いんだけど」
「嘘なんかつく必要ない。お前がアイツをどう思おうと俺が振り向かせるだけだ」
「いやいやいや嘘じゃない!ただの友達!まあ今は友達じゃないかもだけど」
「じゃあ付き合ってんのか」
だから何で俺と光をそんなにくっつけようとするんだよ!男同士だし有り得ないだろ。しかし、この学園には以前言った通り同性愛者が異常に多い。彼もその思考の一人だったから変な誤解をしているのだろう。
何度も否定すると啓吾も流石に納得したのか硬い表情を解いた。
「分かった。付き合ってないんだな」
「うん。絶対に無いよ」
「その、本当に俺が一番か」
何の一番かは分からないが取り敢えず頷く。多分距離が近いランキングかな。
啓吾の口元が綻ぶ。なんかよく知らないけど喜んで良かった。殺されるかと思った。
「俺もお前が一番だ」
「あ、ありがとう」
ニコニコとご機嫌な啓吾。普段の彼からは想像つかない緩みっぷりだ。
そして、彼はまた俺の弁当が食べたいと言い、食べさせると更に機嫌は良くなった。
何だか二歳の従兄弟にそっくりだ。遊んでやらないと泣いて怒るし、俺が可愛いねーと言ったら喜びキャッキャと笑う。まぁこんな怖くは無いが。
「あっ佐藤さん。アイツ恋人かと思ったッスけど違ったんスね」
お前かぁあああ!啓吾に変なことを吹き込んだのは!
帰りに言ってきた山野の一言に俺の膝がそのまま崩れ落ちそうになった。
「いやぁ要らないこと言っちまったッス。指三本で許してくれませんか」
「はい?」
「佐藤さんに迷惑掛けたから詫びろ!って獄堂さんに言われたんで、俺の指三本切り落とすので許してくれないッスか?駄目なら六本でも九本でもいいっスけど」
いや何それ怖っ!!
お前の思考、ヤバすぎだろ……。
指切り落とすとかもっと自分の体大切にして欲しいし、落とした所でその指どうすればいいの?いらないんだけど。
「何もしなくていいよ」
「は!?困るッスよ!何かしねえと」
何で鬼気迫る表情をしているんだ。何もしなくていいんだよ、本当に。
もしいつか啓吾から嫌われた時に「そういやあの指、返してもらうッスね」とか言って俺の指を切り落とされたりしそうで怖い。なるべく恨みは買いたくないのだ。
しかし、山野は俺に土下座をして懇願してきた。
「頼むッス!俺を躾けてくれないと困るッス!一生のお願いッス!」
「ちょ、落ち着いて……」
廊下のど真ん中でスキンヘッドが土下座しながらそんなこと言ってたら他の生徒にあらぬ誤解をされるだろう。俺とお前の中が調教師と奴隷とか思われたらどうするんだ。
もしかしたら山野はMなのかもしれない。そういえば啓吾を好いているのもそういう性癖があるからとか?俺じゃなくて啓吾に発散してもらってくれよ……。
取り敢えず俺は意を決して告げた。
「じゃ、じゃあいくよ」
「はい!思いっきりどうぞ!」
それを聞くと同時に俺は彼の背中を踏み付けた。
うわぁ、自分が不良を土下座させて踏みつける日が来るとは。デコピンと迷ったが「甘いッス!!」とか怒られたら困るしこれくらいで良いだろう。
「よし、もう教室戻ろう。授業始まっちゃうし」
「…………」
「ど、どうした?」
「佐藤さんの重みを噛み締めてるッス。俺、一生の思い出にするッス!」
お、おう……。どうやらドM説は本当に有り得るようだ。
若干引きながらも二人で教室に戻った。
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