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5.眠れない不良
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「啓吾くんは明と一緒の学園に通ってるの?」
「はい」
「ちょっと明ったら、こんなイケメンくんがいるなら教えなさいよ!」
母さんが肘をつついてくる。頼むから食事中位は黙って食わせてくれ。
結局母さんは夕飯を食べていくように言い、彼は二つ返事で受けた挙句、更には泊まっていくことにまでなってしまった。
つまり、今日一日中啓吾と一緒ということだ。言い出しっぺは俺とはいえ、俺の安息地はどこですか。
「凄く綺麗な金髪ね。地毛?」
「いえ、染めてます。でも卒業を機に黒に戻そうと思ってます」
「私はどっちも素敵だと思うわ」
初情報を思いがけない場面で聞いた。
アイデンティティとして金髪のままで今後も生きていくのかと思っていたが、意外だ。まあ確かに黒髪の方が元の端正な顔立ちが映えるだろう。変えるつもりならもう今から戻した方が良いんじゃないか?
「……ど、どうした?」
「へ?」
「やけにこっちを見ていたから」
「あ、すっすみません!その、黒も似合うだろうなぁって思って」
たどたどしい言い訳であるが、嘘ではなく一応本当の事である。
すると、彼は少し照れ臭そうに頭を掻きながら「そ、そうか」とぎこちなく返した。
それを聞いた母さんが今度は俺の方に目線を向け話し始めた。
「明も啓吾くんとお揃いで金色に染めたら?垢抜けるんじゃない?」
金髪に染めるなんて、俺には勇気がない。というか自分の息子が普通の地味な高校生だと分かっていないのか?
「ごめん。俺のベッド一人用だから狭くて」
「あ、あああ、全然大丈夫だ」
何故か彼は顔を真っ赤にして、首が取れるのではないかと心配になる程横に振る。
本当は彼と同じベッドで寝る予定ではなかった。俺がリビングでソファーで寝ようとしたのに彼が頑なにそれを許してくれなかったのだ。
すると、それを見兼ねた母さんが「じゃあ二人で寝ればいいじゃない」と言ってきた結果、こうなってしまった。
何故か俺の部屋の扉を閉める前に母さんは「後は若いお二人でごゆっくり」とニヤニヤ笑みを浮かべていたし何なんだ?俺がヤンキーと寝るのがそんなに面白いか?
俺の部屋に入ってから啓吾も様子が変だ。
顔がずっと沸騰してるみたいに真っ赤だし目も泳いでいる。正に挙動不審である。
そんなに俺と寝るのが嫌なのか?俺だって一人で寝たいのに、自分だけそんなあからさまな態度を取られると腹立つんですけど。
「あー、やっぱり俺床で寝るよ」
「駄目だ!風邪を引くだろう」
「平気だよ。それに啓吾はお客さんだしそんな狭い所で寝させられないよ」
「だ、大丈夫だ。ただ、俺の心の準備が間に合ってなくて……」
寝るのに心の準備なんているのか?
よく分からないが下手に口を出して彼の逆鱗に触れたら怖いし彼の意思に従おう。
そして、照明を消してベッドの上に横になる。彼も俺に連れておずおずと布団の中に入ってきた。
すぐ隣に不良がいるなんて怖くて寝れそうにないな……。まあ良い人だから寝ている間に息の根を止める事なんてしないと願いたい。
不安で眠れないと心配していたが、俺は意外にも神経が図太いのか直ぐに寝息を立てていた。
窓から差し込む朝日が眩しい。瞼を閉じているのに光って見える。
本当はまだ布団の中でぬくぬくしていたいが、朝に洗濯物を手伝わないと母さんからの怒声が煩いし仕方なく体を起こした。
「おはよう……」
「おはよう、明」
「んぇ?」
返ってきた声は柔らかな母の声ではなく芯のある男の声。目を擦りながら見上げると、そこには笑みを浮かべた啓吾が居た。
わ、忘れてた……。そういえば啓吾が泊まりに来てたんだ。というかいつの間に起きたのか?全然気配がしなくて気付かなかった。
すると啓吾の後ろからひょっこり顔を出した母さんが声を弾ませて話しかけてきた。
「おはよう。あんたの代わりに啓吾くんが手伝ってくれたのよ。力持ちで助かるわー。本当にありがとね」
「いえ!夜ご飯も頂きましたしこちらこそお世話になりました」
「本当に良い子!明ったら見る目あるじゃない」
何故俺の目が啓吾の良さに関係する?
まあ、確かにここ数日啓吾と過ごしていたが、彼は噂とは違い普通に良い奴だ。確かに喧嘩になると恐怖だが、普段は穏やかで優しい。
ここまでくると、今まで怖い怖いと恐れていた俺が馬鹿みたいだ。彼と話した事も無かったのに偏見で怖がって、風の噂でしかないのに非道な不良だと決めつけて、本当に最低だ。
今、こうして屈託の無い笑顔を向けてくれる彼に目を合わせられなかった。
「じゃあお義母さん、またいつか」
「ええ、また来てね!」
彼のバイクの後ろに乗り母さんに手を振る。何だか非現実的な一日だった。俺がこんな学園の有名人とゲーセンで遊んで一緒に寝るなんてな。
既に空は青色で来た時と同じスピードで学園に着いた。いつも通り、啓吾は俺を寮の部屋まで手を握り送ってくれた。そして彼は手を離して去ろうとしたが、俺は何故か引き留めていた。
「あの!」
俺の声に直ぐに反応し、踵を返す啓吾。そして何も発さず俺の言葉を待つ。
や、やばい。言うこと考えてないのに引き留めてしまった。
頭の中の言葉を必死に掻き集め、言葉を紡いだ。
「ありがとう。その、バイク乗るのも楽しかったし、ぬいぐるみも嬉しかった。また遊ぼ」
面映ゆい気持ちになり、へらりとはにかむ。
彼はそんな俺を見て、真剣な顔をして俺の腰に手を回した。異変を感じるが彼に身を任せる。すると、前に体を引き寄せられ、鼻が彼にくっつくくらい距離が縮まる。そして、彼は俺に薄い唇を徐々に近付けてきた。
咄嗟に俺は片手で彼の唇を受け止めた。彼の顔と俺の間に片手が入る距離があって助かった。そうじゃなきゃチューしてただろう。
すると、彼は耳まで真っ赤にして謝った。
「す、すまない!まだ早いよな」
……え?
「またな!」
逃げる様に彼は去ってしまった。茫然と俺は立ち尽くした。な、なんだったんだ。今のは……。
折角一人で穏やかに過ごせる休日だったが頭から啓吾の事が離れなかった。
「はい」
「ちょっと明ったら、こんなイケメンくんがいるなら教えなさいよ!」
母さんが肘をつついてくる。頼むから食事中位は黙って食わせてくれ。
結局母さんは夕飯を食べていくように言い、彼は二つ返事で受けた挙句、更には泊まっていくことにまでなってしまった。
つまり、今日一日中啓吾と一緒ということだ。言い出しっぺは俺とはいえ、俺の安息地はどこですか。
「凄く綺麗な金髪ね。地毛?」
「いえ、染めてます。でも卒業を機に黒に戻そうと思ってます」
「私はどっちも素敵だと思うわ」
初情報を思いがけない場面で聞いた。
アイデンティティとして金髪のままで今後も生きていくのかと思っていたが、意外だ。まあ確かに黒髪の方が元の端正な顔立ちが映えるだろう。変えるつもりならもう今から戻した方が良いんじゃないか?
「……ど、どうした?」
「へ?」
「やけにこっちを見ていたから」
「あ、すっすみません!その、黒も似合うだろうなぁって思って」
たどたどしい言い訳であるが、嘘ではなく一応本当の事である。
すると、彼は少し照れ臭そうに頭を掻きながら「そ、そうか」とぎこちなく返した。
それを聞いた母さんが今度は俺の方に目線を向け話し始めた。
「明も啓吾くんとお揃いで金色に染めたら?垢抜けるんじゃない?」
金髪に染めるなんて、俺には勇気がない。というか自分の息子が普通の地味な高校生だと分かっていないのか?
「ごめん。俺のベッド一人用だから狭くて」
「あ、あああ、全然大丈夫だ」
何故か彼は顔を真っ赤にして、首が取れるのではないかと心配になる程横に振る。
本当は彼と同じベッドで寝る予定ではなかった。俺がリビングでソファーで寝ようとしたのに彼が頑なにそれを許してくれなかったのだ。
すると、それを見兼ねた母さんが「じゃあ二人で寝ればいいじゃない」と言ってきた結果、こうなってしまった。
何故か俺の部屋の扉を閉める前に母さんは「後は若いお二人でごゆっくり」とニヤニヤ笑みを浮かべていたし何なんだ?俺がヤンキーと寝るのがそんなに面白いか?
俺の部屋に入ってから啓吾も様子が変だ。
顔がずっと沸騰してるみたいに真っ赤だし目も泳いでいる。正に挙動不審である。
そんなに俺と寝るのが嫌なのか?俺だって一人で寝たいのに、自分だけそんなあからさまな態度を取られると腹立つんですけど。
「あー、やっぱり俺床で寝るよ」
「駄目だ!風邪を引くだろう」
「平気だよ。それに啓吾はお客さんだしそんな狭い所で寝させられないよ」
「だ、大丈夫だ。ただ、俺の心の準備が間に合ってなくて……」
寝るのに心の準備なんているのか?
よく分からないが下手に口を出して彼の逆鱗に触れたら怖いし彼の意思に従おう。
そして、照明を消してベッドの上に横になる。彼も俺に連れておずおずと布団の中に入ってきた。
すぐ隣に不良がいるなんて怖くて寝れそうにないな……。まあ良い人だから寝ている間に息の根を止める事なんてしないと願いたい。
不安で眠れないと心配していたが、俺は意外にも神経が図太いのか直ぐに寝息を立てていた。
窓から差し込む朝日が眩しい。瞼を閉じているのに光って見える。
本当はまだ布団の中でぬくぬくしていたいが、朝に洗濯物を手伝わないと母さんからの怒声が煩いし仕方なく体を起こした。
「おはよう……」
「おはよう、明」
「んぇ?」
返ってきた声は柔らかな母の声ではなく芯のある男の声。目を擦りながら見上げると、そこには笑みを浮かべた啓吾が居た。
わ、忘れてた……。そういえば啓吾が泊まりに来てたんだ。というかいつの間に起きたのか?全然気配がしなくて気付かなかった。
すると啓吾の後ろからひょっこり顔を出した母さんが声を弾ませて話しかけてきた。
「おはよう。あんたの代わりに啓吾くんが手伝ってくれたのよ。力持ちで助かるわー。本当にありがとね」
「いえ!夜ご飯も頂きましたしこちらこそお世話になりました」
「本当に良い子!明ったら見る目あるじゃない」
何故俺の目が啓吾の良さに関係する?
まあ、確かにここ数日啓吾と過ごしていたが、彼は噂とは違い普通に良い奴だ。確かに喧嘩になると恐怖だが、普段は穏やかで優しい。
ここまでくると、今まで怖い怖いと恐れていた俺が馬鹿みたいだ。彼と話した事も無かったのに偏見で怖がって、風の噂でしかないのに非道な不良だと決めつけて、本当に最低だ。
今、こうして屈託の無い笑顔を向けてくれる彼に目を合わせられなかった。
「じゃあお義母さん、またいつか」
「ええ、また来てね!」
彼のバイクの後ろに乗り母さんに手を振る。何だか非現実的な一日だった。俺がこんな学園の有名人とゲーセンで遊んで一緒に寝るなんてな。
既に空は青色で来た時と同じスピードで学園に着いた。いつも通り、啓吾は俺を寮の部屋まで手を握り送ってくれた。そして彼は手を離して去ろうとしたが、俺は何故か引き留めていた。
「あの!」
俺の声に直ぐに反応し、踵を返す啓吾。そして何も発さず俺の言葉を待つ。
や、やばい。言うこと考えてないのに引き留めてしまった。
頭の中の言葉を必死に掻き集め、言葉を紡いだ。
「ありがとう。その、バイク乗るのも楽しかったし、ぬいぐるみも嬉しかった。また遊ぼ」
面映ゆい気持ちになり、へらりとはにかむ。
彼はそんな俺を見て、真剣な顔をして俺の腰に手を回した。異変を感じるが彼に身を任せる。すると、前に体を引き寄せられ、鼻が彼にくっつくくらい距離が縮まる。そして、彼は俺に薄い唇を徐々に近付けてきた。
咄嗟に俺は片手で彼の唇を受け止めた。彼の顔と俺の間に片手が入る距離があって助かった。そうじゃなきゃチューしてただろう。
すると、彼は耳まで真っ赤にして謝った。
「す、すまない!まだ早いよな」
……え?
「またな!」
逃げる様に彼は去ってしまった。茫然と俺は立ち尽くした。な、なんだったんだ。今のは……。
折角一人で穏やかに過ごせる休日だったが頭から啓吾の事が離れなかった。
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